121 スライムさんと花見
「ここでするの?」
私は言った。
今日はスライムさんに連れられて、よろず屋の裏からすこし歩いたところに来ていた。
川の近くだ。
「あ、花が咲いてるよ」
花をつけている草花があった。
これで、花見、ができるんじゃないだろうか。
私が立ち止まってしゃがもうとしたら、スライムさんが私の背中を押した。
「わっ」
転びそうになって、あわてて立ち上がって何歩か進む。
「スライムさん、危ないよ」
振り返ろうとしたら、スライムさんがさらに私を押す。
「はなみは、たちどまってはいけません!」
「え?」
「はなみは、はなに、きづかれてはいけません!」
スライムさんが私の横にならんだ。
言われたとおり、花を見ないようにしながら一緒に歩く。
「花に気づかれる……?」
「はい!」
「どういうこと?」
「こちらがはなをみているとき、はなもまた、こちらをみているのです……」
「……? なるほど?」
「だからです……」
「……」
「……」
どういうこと?
「でも私、ふだん、花を見ることあるよ? 立ち止まって、よく見たり。家の花びんにかざることもあるよ?」
「それはいいんです。はなみじゃないので」
「花見じゃなければ、見てもいいの?」
「そうです!」
スライムさんは言った。
「だから、はなみは、きづかれないように、すどおり、するのです……」
「へえ……。花見で、花を見ちゃったらどうなるの?」
「はなに、みられてしまいます……」
「見られたら、まずいの?」
「いつまでもみられていると……」
「見られていると……?」
「はなになってしまう、というせつがあります」
「花になるの?」
「そういう、せつです」
「それは大変だ」
「でも、あんしんしてください! あぶないのは、はなみのときだけです! ふつうのときは、いくらみても、へいきです!」
「花見って、深いんだね」
「はい!」
私たちはそのまま川沿いを歩いた。
「だったら、なんのために花見をするの? いいことなさそうだけど」
「はなみは、はなをみないようにしながら、おいしいものをたべたりのんだりします!」
「へえ?」
「はなのちかくで、はなをみないように、たべたりのんだりするのが、たのしいところです!」
「でも、今日はそんなの持ってこなかったよね?」
「そうです!」
「どうして?」
「なにもたべないのが、じょうきゅうしゃの、はなみです!」
スライムさんは、きりっ、と私を見た。
「たべても、のんでもいないなら、はなにみられても、いまは、はなみをしていない、といいわけすることができます!」
「おお……」
「はなみなのに、はなをみてもへいきです!」
「やるね、スライムさん!」
「はい! はなにされたら、こまりますからね!」
私は、ちらっ、と花を見た。
「あ、えいむさん!」
「私は、散歩してるだけでーす」
「お、えいむさん! さっそく、はなをだましていますね! はなみにきたのに!」
「知らなーい。私は、花見してないもーん」
「ぼくも、こうしちゃいられない!」
スライムさんも、ちらっ、と花を見た。
「スライムさんは、花見をしています」
私は花に言った。
「あ! えいむさん! だめですよ!」
「これを、上手にとぼけるのが、スライムさんの腕の見せどころじゃない?」
「むむ! わかりました! ……ふんふんふーん。ぼくは、さんぽちゅうのすらいむですよー」
「スライムさん、いいよいいよ」
「ふっふっふ。かんぜんに、さんぽちゅうの、すらいむです」
「花見に来たなんて、全然見えないよ」
「いっちゃだめですよ、えいむさん!」
「ほら、ごまかさないと!」
「ふんふーん! さんぽしてるだけでーすよー!」
私たちは、川沿いの花を、ちらちら見ながら散歩した。




