119 スライムさんと買い占め
「こんにちは」
「いらっしゃいませ!」
スライムさんが、ぴょん、とカウンターに乗った。
「今日は、薬草ください」
「やくそう、ですか……」
なぜかスライムさんの声が小さくなっていった。
「どうかした?」
「いえ……」
「あれ?」
カウンターを見ると、いつも薬草がある場所に、ひとつしか置いていなかった。
「ひとつしかないの?」
「はい……。きょうは、なんだか、うれにうれているので……」
「じゃあひとつでいいや。これください」
私が言うと、スライムさんは、きっ、と私を見た。
「えいむさん、かいしめですか!」
「え?」
「やくそうの、かいしめをするんですか?」
スライムさんは、きっ、と私を見ていた。
「買い占め?」
「そうです! やくそうをぜんぶかってしまうのは、やくそうのかいしめですよ!」
「ふうん……?」
私はすこし考えた。
「かいしめは、ほかのひとがかえなくなるので、だめです!」
「でも、私はひとつしか買わないよ。ひとつでも買い占めなの?」
「う……」
スライムさんは、自信なさそうに、ちょっとつぶれた。
でも、きっ、と私を見ると、ぴっ、と体の張りがもどった。
「だ、だって、もう、やくそうがなくなってしまうんですよ? かいしめですよ!」
「今日、薬草が売れてるんでしょ? だったら、たくさん買った人が買い占めなんじゃない?」
「ひとりで、すごく、たくさんかったひとはいません! だからかいしめのひとはいません!」
「そうなんだ」
「だから、きょうの、かいしめのひとは、えいむさんです!」
スライムさんは、きっ、と私を見た。
「あきらめなさい! えいむさんは、かいしめのひとです!」
「でも、私はひとつしか買わないよ」
「じしんがなくなるので、ひとつしかかわない、というけんについては、もういわないでください!」
スライムさんは、きっ、と私を見た。
「じゃあ、やめておく」
「いいことです!」
「そうかあ……。私は、薬草を、買えないんだ……」
「……」
「私は、薬草を、ひとつも、買えないんだ……」
「……、……」
そのとき、ふと思った。
「そうだ。薬草だったら、裏庭から持ってくればいいんじゃなかった?」
すくなくなったら、たくさん生えている薬草を持ってくれば、すぐ品ぞろえが元通りになるはずだ。
「ええまあ……」
スライムさんは、遠くを見た。
「スライムさん?」
「うらにわから、しゅうかく……」
「うん、そう」
「…………めんどうですよね?」
「うん?」
スライムさんは、きっ、と私を見た。
「なにもしたくないきぶんなのに、しなければならなくなった! そういうとき、ありますよね!?」
「スライムさん?」
「ほんとうは、おみせをひらくのも、めんどうなのに、がんばってやくそうをうっていた! そうしたら、うりきれてしまった! かいしめないでほしい! そういうひ、ありますよね!!」
「スライムさん!?」
「きょうは、そういう、ひです!」
スライムさんは、カウンターにぴょーん、と乗ると、つぶれた。
「あー、ぼくも、かいしめられたいー! なんでぼくは、かいしめてもらえないんですか!!」
「スライムさん、落ち着いて」
「ぼくはおちついてますよ! かんぜんに!」
「じゃあ、私がとってこようか?」
スライムさんの体が元にもどった。
「いいんですか?」
「いいよ」
「あー、たすかりますー、えいむさん、たすかりますー。……かいしめなんて、なかったんですね……」
スライムさんが、ふるふるふるえている。
「じゃ、行ってくるね」
「はい! おねがいします!」
「すごいスライムさんなら、一緒に来てくれると思うけど、私ひとりで行ってくるね」
「む……?」
「あー、すごいスライムさんだったら、来てくれるのになー。じゃあ、行ってくるね」
よろず屋を出ると、透明な、青い影が追いかけてきた。
「…………まってください、ぼくもいきまーす!」




