116 スライムさんと冬眠
「あれ?」
よろず屋の入り口は閉まっていて、とうみん、という看板が出ていた。
「なんだ、おやすみか……、ん?」
冬眠?
私は、ドアをノックしてみた。
「こんにちは……」
返事はない。
やっぱり、おやすみということなんだろうか。
「すー」
「ん?」
かすかに声が聞こえた。
「すやすやー」
中から、スライムさんの声が聞こえた気がした。
「入っていいんですかー?」
「いいですやすやー」
「おじゃましまーす」
ドアには、鍵などはかかっていなかった。
中に入ると、スライムさんがいた。
スライムさんは、スライムさんの体がぴったりおさまる大きさの箱に入っていた。
箱の上は開いているからスライムさんがぴったりおさまっているのがよく見える。
「スライムさん?」
「すやすやー」
「寝てるの?」
「ねてますややー」
「どうしたの?」
「とうみんですややー」
「冬眠?」
「さむいときには、ねるのですややー」
「冬眠ってなんだっけ。私も、夜は寝るけど。昼寝とはちがうんだよね?」
「とうみんですや」
「さむいときにねるんだっけ?」
「そうですや! よけいな、つかれを、かんじないためですや!」
「なるほど」
そういえば、森の生き物などは、本格的な冬に入る前に、たくさんものを食べて眠るらしい。
そうすることで、食べ物がすくなくなっても安心して生きられる、という話を聞いたことがある。
「じゃあ、帰ろうかな」
「すや?」
「スライムさんは寝てるんでしょ? じゃあ、ここにいてもなあ……」
「すや。すや、すややや、すやや」
「私だけじゃつまんないしなあ……」
「すややー。すや、すややや、すやーや」
「私だけ? スライムさんは食べないの?」
「すや、すやすや、すややや、すやや」
「ふうん。じゃあ、スライムさんは、暖かくなるまで食べないの?」
「すや」
「薬草、ひとつも?」
「すや」
私は、カウンターを見た。
「じゃあ、カウンターにならんでる薬草は、全部私のぶん?」
「す、すや!?」
「だって、寒い時期、いつまでも同じのを置いておくわけにはいかないもんね?」
「す、すや……! すやや……。すや、すやや、すやすやすや……!」
「あ、そうか。売り物なら、食べちゃだめだよね」
「すや!」
「でも、全部食べちゃっても、きっと、スライムさんは、気づかないだろうなあ……」
「すや!?」
「私、この誘惑に負けてしまうかもしれない。スライムさんは、ひとつだったら食べてもいいって思ってるみたいだから、食べたのはひとつだけだって、言っておこうかなあ……。そうしておけば気づかれないだろうし。ふっふっふ。そうしよう、そうしよう」
私が言ったら、スライムさんの体がぷるぷると、ふるえ始めた。
「……だめです!」
スライムさんが、箱の中からすぽーん! と飛び出した。
「わっ!」
「えいむさん! いけませんよ!」
しゅたっ! と着地したスライムさんが、そう言った。
「それはどろぼうです! あくの、みちですよ!」
「悪の道……?」
「いまえいむさんは、ぼくがとうみんしているからと、やくそうを、ぜんぶたべようとしましたね! それは、どろぼうです! あくです!」
「悪……! 私は、悪だったのか……!」
「ちがいます。あくに、なりかけです」
「なりかけ?」
「まだ、あくでは、ありません……」
スライムさんは、重々しく言った。
「ぎりぎり、あくではないので、あくにならないかもしれません……」
「どうすれば、悪にならないですむの?」
「それは、むねをはって、いきることです……」
スライムさんは、まっすぐに立った。
「したをみず、ただ、まえをむいて……。そうすれば、あくには、なりません」
「なるほど! わかった!」
「わかってくれましたか……」
「う……!」
私は頭をおさえて、しゃがんだ。
「どうしましたか!」
「スライムさんの言ったことを無視して、薬草を全部、食べたくなってきた……」
「それはあくです!」
「悪になりそう……」
「えいむさん! あくを、たおしてください!」
「がんばる……」
「がんばってください!」
「あと、質問……」
「なんですか!」
「冬眠って、もういいの……? 眠ってないといけないんじゃ……?」
「……、……とうみんは、おきてもいいんです!」
「そうなの?」
「ねたり、おきたり、する。とうみんは、それが、ゆるされています! とうみんとは、ねたり、おきたりするのです! だって、おなかがすくことも、ありますから!」
「そうだったのか……!」
そうだったのか!
「それに、そろそろ、おきるじきです! あたたかくなる、けはいが、あります!」
「スライムさん、いままで冬眠してたの?」
「してました! たびたび! そう、たびたびね!」
「そうだったのか……!」
そうだったのか!
「あれ、えいむさん、もう、あくは、なくなりましたか!」
「スライムさんの、おかげだよ……」
「えいむさん! やりました!」
「う……」
「どうしましたか!」
「スライムさんと遊んでないと、また、悪になりそう……」
「いけません! あそびましょう! さあ、はやく!」




