115 スライムさんとウミガメのスープ
よろず屋に向かって歩いてると、お店の前の道に、スライムさんがいるのが見えてきた。
私が近づいていっても、ぴくりとも動かず、じっと、道の先とはちがう方を向いて止まっていた。
「スライムさん?」
私が呼びかけると、スライムさんはその場で飛んで、くるっ、まわって私に向き直った。
かっ! と目を開く。
「えいむさん! まってましたよ!」
「え? どうしたの?」
私は一歩さがった。
「うみがめのすーぷ、ってしってますか!」
スライムさんは元気に言った。
「知らないけど」
「やりました! それは、こわくて、おもしろいもの、らしいです」
「え?」
「では、もんだいです」
「え? え?」
「あるひ……」
スライムさんが言ったのは、こういう問題だった。
ある日、男がレストランでウミガメのスープを飲んだ。
そのあと男は、シェフに、これは本当にウミガメのスープかたしかめ、まちがいないことを確認したら、すぐ自分で死んでしまった。
どうしてでしょう。
「というもんだいです!」
「ふうん……?」
「これが、おもしろいらしいので、えいむさんをまってました!」
「私を?」
「わすれそうだったので、ひっしでしたよ!」
「おもしろいの? 人が死んじゃったのに」
私が言うと、スライムさんは、まばたきをした。
「ええとですね! これは、もんだいじょうの、つごうで、しんじゃっただけなのです! ほんとうは、だれも、しんでません!」
「そっか。じゃあ、いいのかな?」
「しんじゃったひとは、いなかったんです! あんしんです!」
私は、もう一度問題を思い返した。
「でも、それだけじゃわからないよ」
「そこが、このもんだいの、おもしろいところです!」
スライムさんは言った。
「こたえるひとは、しつもんしても、いいんです!」
「質問?」
「はい!」
「この男の人が、どうして死んじゃったのか、とか?」
「それはだめです! はい、いいえ、のどっちかで、いえるものだけです!」
「ふうん。男の人が、ウミガメのスープを嫌いだったんですか? とか?」
「そうです!」
「嫌いだったの?」
「えっと……、ああ……」
スライムさんは、うなだれてしまった。
「どうしたの?」
「わすれてしまいました……。せっかく、えいむさんに、おしえようとおもって、わすれないように、うごかないで、おぼえていようとしたのに……」
スライムさんは、ゆっくりと、つぶれたようになってしまった。
「全部忘れちゃったの?」
「はい……。おとこが、ふなのりだったことしか、おぼえてません……。ぼくは、だめな、すらいむです……」
「……そんなにお気に入りの問題だったの?」
「……ぼくは、そんなに、いまいちなかんじで、すきじゃないですけど……」
「じゃあどうして?」
「わだいで、おもしろい、らしいので……。えいむさんも、よろこぶかと……」
「私、人が死んじゃった問題なんて、あんまりやりたくないよ」
「えっ」
つぶれていったスライムさんが、しゅんっ、と元にもどった。
「きょうみ、ないですか?」
「質問しながら問題を解くのはおもしろいかもしれないけど、さっきの問題は、あんまり……」
私が言うと、スライムさんは、しゃきっとした。
「ぼくも、さっきのもんだいは、あんまりだったんですけど! わだい、っていってたので! りゅうこうに、のっただけなので!」
「そうなんだ」
「じゃあ、えいむさんも、きょうみなかったんですね! よかったよかった!」
スライムさんが、ぴょんぴょんと、はねる。
「私もほっとした」
「よかった、もんだいをきたいしていたえいむさんは、いなかったんだ……」
「スライムさん?」
「ごしんぱいを、おかけしました! もうだいじょうぶです!」
「じゃあ、いちおう、さっきの問題の答えだけはきいておこうかな」
「それはわすれましたので、やくそうでも、たべますか? おみせにどうぞ!」
スライムさんは、よろず屋に向かって、ぴょこぴょこ進みだした。
「そうだスライムさん」
「なんですか?」
「私たちで、問題をつくってみたらいいんじゃない?」
「どういうことですか?」
スライムさんは止まった。
「たとえば、そうだなあ……。スライムさんは、薬草を食べました。おいしかったのに、がっかりしてしまいました。どうしてでしょう、とか。こんな感じでしょ?」
「! なんですか、それは!」
「えっとね」
「あ! だめです! こたえはいわないでください! ぼくがときます!」
「でも、大したことない答えだから、そんなに期待されるとがっかりするよ」
「そのやくそうは、おいしかったですか!」
「え? はい」
「そのやくそうは、ほんとうにやくそうですか!」
「はい」
スライムさんが、私に質問をする。
なるほど、こういうふうにやっていくんだ。
「おいしいのに、がっかりしたんですね!」
「はい」
「えいむさんも、がっかりしますか!」
「うん、たぶん。でも、食べてて気づかない可能性もあるかなあ」
「えいむさん、ひんとがおおいですよ!」
「あ、はい」
ちなみにこの問題の答えは、薬草が虫に食われてたことに気づいたから、という答えを用意しているんだけど。
よく考えたら、質問なんてなくても、思いつきそうな気もする。
スライムさんがそんなにやる気になっていると、なんだか、悪いような気もしてきた。
私は質問に返事をしながら、次の問題も考えることにした。
「そのやくそうは、ぼくいがいにも、だれかたべましたか!」
「えーと、あ、いい質問! はい、だよ」
「ええ!? どういうことですか?」
スライムさんは、体をぐにゃー、と傾けた。




