109 スライムさんと石版
よろず屋に入っていくと、カウンターの上に、なにやら、板のようなものがふたつあった。
「こんにちは」
「えいむさん、いらっしゃいませ!」
「それなに?」
「ふっふっふ。このせきばんに、じを、かいてみてください」
「え?」
「なんでもいいですよ!」
「なんでもいいの?」
「はい!」
「この棒?」
石版の横には、それぞれ、ペンのような棒が置いてあった。
「はい! それなら、いんくがなくても、かけます!」
「へえ」
「そういうせきばんです!」
「そういう石版なんだね」
私は、片方の石版に、ついていた棒で字を書いてみた。
「……スライムさん、と」
「えいむさん、みてください!」
見れば、スライムさんの前にある石版にも、スライムさん、と私の字で書いてあった。
「おおー」
「すごいでしょう!」
「うん。字は消えるの?」
「こすると、きえます」
私が指でちょちょっ、とこすってみたら、かんたんに消えた。
「これがあったら、連絡とか取れそうだね」
「れんらくですか?」
「ほら。冒険とかしてる人なら、離れたところで連絡取れたらうれしいんじゃない?」
「そうですね!」
「遠くで書いてもできるの?」
「できます!」
「なら、ちょっとお高くても売れそうだね」
「おたかくても!? えいむさんから、おたかくてもいいという、おことばが!?」
「うん」
「これは、うれてしまう……?」
スライムさんが、そわそわと、カウンターの上をうろうろしていた。
「たくさんあるの?」
「ふたつしかありません!」
「そっか。じゃあ、ふたつ売れちゃうね」
「かんばいです!」
そのときだった。
石版に、文字が浮かんだ。
『私メリーさん。いま電車おりたところ』
私とスライムさんは、一緒に文字を読んだ。
「私たち、書いてないよね」
「……もしかすると、ほかのひとがかいたら、じが、でてしまうのかもしれませんね……!」
「ええ? 三枚目、四枚目の石版があるの?」
「もっとあるかもしれません!」
「それは、あんまりよくないよね」
「どうしてですか?」
「だって、遠くで他の人が書いても、出てきちゃうんでしょう? 連絡を取ろうとしても、他の人の連絡が混ざっちゃうかもしれない」
「! そうですね!」
「ちょっと不便だね」
「むむむ……!」
気づくと、文字は消えていた。
「そういえば、電車ってなに?」
私は、雷が落ちてビリビリになっている荷車を想像した。
「わかりませんねえ」
「メリーさんっていう人は?」
「しりません! ……いや、しっている……? いや、どうでもいい……?」
スライムさんが、体をかたむけた。
昔のことを思い出しているような顔をしていた。
「知ってる人?」
「しっているような、しらないような……。こわいような、こわくないような……」
「そういえば、スライムさんが、メリーさん、ってなんだか言ってたような気がする」
「うーん」
スライムさんはピンと来ていないようだ。
誰なんだろう。
気づくと、文字は消えていた。
「あれ? スライムさん、消した?」
「いいえ」
「そっか。じゃあ、書いた人が消したのかな」
『私メリーさん。スーパーの前にいるの』
またメリーさんだ。
「スーパー?」
「よくわかりませんね」
「待ち合わせをしてるのかな」
「そうかもしれませんね!」
「じゃあ、勝手に字を消しちゃいけないね」
「そうですね!」
私は棒をカウンターに置いた。
「石版って、いっぱいあるの?」
「ふっふっふ。くわしいことは、しりません!」
「そっか」
私たちが話していたら、また字が消えた。
そして、出る。
『私メリーさん。いま、あなたの家の前にいるの』
「あ、家についたみたいだよ」
「よかったですね!」
「家の前まで来て、連絡しなくてもいいのにね」
「なかよしかもしれません」
「仲良し?」
「なかよしは、いらないれんらくも、とりたくなってしまうものです!」
「なるほど」
また消えた。
そして、出る。
『私メリーさん。いま、あなたのうしろにいるの!』
「えいむさん! なかよしですよ!」
「そうだね。仲良しだから、後ろから連絡して、びっくりさせようとしてるんだね」
「ぼくたちも、あとでやってみますか?」
「そうだね。あ、メリーさん、っていう人も、さそってみる?」
「いいですね!」
「えっと」
『メリーさん、お話しませんか?』
書いてみたけど、返事はなかった。
「あ。メリーさんは、私たちに見られてるって、気づかなかったのかな。だったら、恥ずかしくて、返事ができないのかも」
「そうですね!」
「悪いことしちゃった」
「あやまりましょう!」
「うん」
『勝手に見ちゃってごめんなさい。こっちの石版にも、字が見えてました』
書いたけど、やっぱり返事はなかった。
「怒っちゃったのかな」
「もう、みてないのかもしれませんよ!」
「そっか。そうだね」
仲良しの相手と会えたら、どうでもいいことだ。
私はふと、振り返ってみた。
もちろん誰もいない。
「どうかしましたか?」
「ううん。なんでもない」




