108 スライムさんと靴下
「さいきん、おさむいですね?」
スライムさんは、私が待つカウンターの前でそう言った。
「そんなあなたに、このくつした!」
「ふうん?」
私が言うと、スライムさんはにっこりした。
「さむさは、あしもとから。このくつしたはなんと! はいているだけで、あたたかくなります!」
「これが新商品?」
「さわってみてください!」
私は、カウンターに置かれた黒い靴下をさわってみた。
分厚くて、もこもこしていて、中になにか入っている気がする。
「ふつうだよ」
「もっとたくさんさわってください! ぐにぐにしてください!」
「ぐにぐに」
言われたとおり、しばらく靴下をさわっていたら、あたたかくなってきた。手の温度ではない。
「あったかくなってきた」
「でしょう! このくつした、ほしくないですか? えいむさん!」
「ほしい」
「でしょう!」
スライムさんは、ぴょん、とはねる。
「いまならこのくつした! むりょうでさしあげます!」
「だめー!」
私が言うと、スライムさんはぴたりと止まった。
「どうしたんですか、えいむさん」
「スライムさん、無料であげたらだめでしょ」
「ふっふっふ。わかってませんね、えいむさん」
「え?」
「これは、いちどつかってもらって、きにいってもらったら、かいにきてもらう、という、さくせんです!」
「おお……」
「スライムさん、商売上手だよ」
「そうでしょう! ぼくも、しょうばいを、かんがえてみました!」
「一回使ってもらえば、良さがわかるね!」
「はい!」
「これ、ずっとあったかいの?」
「ずっとではないです! いちにちくらいです!」
「あ、そうなんだ……」
私は一回、靴下をカウンターに置いた。
「どうかしましたか?」
「ずっとじゃないなら、毎回買わないといけないの?」
「そうですね! しょうばいです!」
「そっか。じゃあ、ちょっと話がちがうかもしれない」
「どうしてですか!?」
「毎回買うのは大変だし、前に買った分がたまっちゃうし……。それにこれ、ちょっと、もこもこしすぎてて、靴がはけなくなっちゃうかも」
「! それはいけませんね! くつしたなのに、くつがはけなくなってしまったら、くつしたではない……! しょうばいは、むずかしい……」
スライムさんが、ぴたりと止まった。
「どうしたの?」
「……くつしたって、くつのしたにはかないのに、どうして、くつした、っていうんですか?」
「……」
靴下。
「ということは、靴下は、靴上だった……?」
「!! えいむさん!」
「どう思う?」
「えいむさんの、いうとおりです! これは、きょういてきな、はっけんです!」
「そうだね……! みんな、靴上のことを、靴下だと思ってるもんね……!」
「はい!」
「そうだ、スライムさん。これさ」
私は、スライムさんが用意した靴上を持った。
「なんですか?」
「これ、靴上じゃなくて、ポケットに入れておいたら、あったかいんじゃないかな!」
「!」
「はきにくいなら、はかなければいいもんね」
「!! えいむさん! きょうのえいむさんは、さえてますね!」
「そう?」
「くつうえを、くつうえとしてではなく、ただの、あたたかいものとしてあつかう! はっそうのてんかん! ああ、ああ……!」
スライムさんはぷるぷる震えていた。
「……ところでスライムさん」
私はさらに言う。
「なんですか!」
「靴上は、靴下で正しいのかもしれない」
「! ど、どういうことですか……!」
「ほら、下着って、中に着るものでしょう? だから、靴下も、靴の中にはくもの、っていう意味の、下、かもしれないなって」
「!!! ああああ、ああああ……!!」
スライムさんがぶるぶる震えていた。
「えいむさん……! もう、きょうのえいむさんには、てが、つけられません……!!!」
「そう?」
「そうです! はっそうの、てんさいです!」
「そ、そうかなあ」
「はい!」
「そう?」
「はい!!」
スライムさんは、キラキラした目で私を見ていた。
「そうかなあ」
「そうです!」
「そうかなあ?」
「そうです!!」
「そうかなあー?」
「そうです!!!」
そこまで言われると、そんな気もしてくる。
「きょうのえいむさんなら、ぼくの、ほかのぎもんにも、こたえられますか!?」
「え? うーん、もしかしたら? 今日の私なら? そんなことも? できちゃうかもしれないなあー?」
私はちょっと髪をかきあげながら言ってみた。
「えっと、じゃあ、じゃあ……」
スライムさんは、ちょっと考えて言った。
「したって、なんなんですか!」
「下?」
「したなのに、しただったり、なかだったりする、したって、どういうことなんですか!」
「ん……。えっと……」
「なかなら、したぎじゃなくて、なかぎとか、くつなか、っていえばいいじゃないですか! おしえてください!」
スライムさんは、キラキラした目で見ていた。
「……スライムさん。残念なお話があります」
「なんですか?」
「私の発想がすごいのは、もう終わりました」
「なんと!?」
「もう、ふつうのエイムです」
「そうですか……」
「ごめんね」
「いいんですよ! ぼくは、ふつうのえいむさんのほうがいいです!」
「そう?」
「すごいえいむさんは、すごすぎて、ちかよりにくいです!」
「そっか。よかった」
「はっ」
スライムさんは、なにかに気づいたようだった。
「でも、ぼくはすごいので、えいむさんは、ちかよりにくい……?」
「平気だよ」
「ほんとうですか?」
「だって、いつも平気でしょ?」
「! そうですね!」
スライムさんは、安心したように笑っていた。




