103 八頭身のスライムさん
私は、昨日預かった魔法のびんを持ってよろず屋に走った。
あたたかい部屋からあまり温度が変わらないように、厚い布で巻いて、手さげに入れていた。これならきっと、魔法のびんの中は同じ温度のはず。
急いでよろず屋の中に入ろうとした。
でも、入り口のドアが開かない。
「あれ?」
中で、なにかごそごそ音がする。
「きました! はやく!」
「ぐもー!」
話し声のようなものも聞こえた。
なんだろう。
「どうぞ!」
そして、ドアが開いた。
「おはようスライムさん! わあ!」
黒い服で、頭に黒いフードをかぶった人が立っていた。
よく見ると、フードの中にはスライムさんの顔があって、そこからしゃべっていたみたいだ。
まるで、スライムさんが大人の人になったみたいになっている。
「どうしましたか、えいむさん!」
「えっと、スライムさん、どうしたの、それ」
「ふっふっふ。ぼくは、せいちょうしたのです!」
そう言っているスライムさんの、手がちらりと見えた。
毛むくじゃらだ。
「すらいむをこえた、すらいむですよ!」
そういえば昨日、常連さんの魔物さん、が来たからと、私は早めに帰ったんだった。
その人、いや魔物が、こんな服を着ていた。
もしかして、その魔物に協力してもらっているんだろうか。
「ただし、きょうだけの、とくべつなせいちょう、ですけどね!」
「明日からはもどるの?」
「ちょっと、つかれますので! えいむさん、きょうはどんなごようですか?」
「えっと……。昨日、魔法のびんで、冷たい水を入れて、あたたかいところに保存したらどうなるのか、っていう話したよね」
魔法のびんは、中にあたたかいものを入れて、しばらく置いておいても、あたたかいままだというふしぎな筒の入れ物だ。
「しましたね!」
「昨日はベッドに入れたし、今日も朝からあったかいところに置いておいたから、どうなってるかなと思って。いっしょに飲んで見る?」
「そうしましょう!」
私はカウンターの上に魔法のびん、を置いた。
「こっぷをふたつ、よういしましょう!」
スライムさんは言った。
でも体は動かない。
「どうしたの?」
「こっぷをふたつ、よういしましょう!」
スライムさんは言った。
「おくへ、あるいてください」
スライムさんが、体に向けて、ひそひそと言った。
スライムさんが奥へと歩き始める。
でも奥に行ったと思ったら、ガシャン、ガシャン、ガシャシャン! と大きな音が続けてした。
「だいじょうぶ?」
カウンターを入って様子を見にいくと、スライムさんが床に倒れていた。
体とスライムさんが離れている。
「だいじょうぶです! はっ」
気づいたスライムさんは、体の上にもどった。
「どうかしたの?」
「うっかりころんだだけですよ! あんしんしてください!」
「わかった」
もどってカウンターで待っていると、両手に一個ずつコップを持ったスライムさんがもどってきた。
「ぼくが、いれてあげますね!」
スライムさんは、魔法のびんを開ける。
「うう……」
スライムさんの奥から声が聞こえる。
「もうちょっと、まえです……!」
体とスライムさんが話している。
「もうちょっとまわしてください、そうです……!」
魔法のびんを開けたスライムさんは、慎重に、コップに水を注いだ。二人分。
「ふう……、できました!」
「ありがとう」
「のんでみましょう!」
コップに入っている水を飲んでみると、目がすっきりさめるほど冷たかった。
「すごい、つめたいね!」
「こおりみたいです!」
「魔法のびんは、冷たいものも、冷たいままなんだね」
「そうですね!」
すると、コップを持つスライムさんの手が、スライムさんをよけて、フードの奥の方にぐいぐい入っていった。
「ぼくはこっちですよ!」
スライムさんがひそひそ言う。
「うう、うう……」
「いまはだめですよ!」
それでも手は奥にいった。
ちょっと、魔物の顔が見えた。
毛むくじゃらで、目がくりくりしていた。
水を飲む。
「うひゃっ」
冷たかったんだろうか。変な声を出していた。
「スライムさん」
「え、な、なんですか、なにか、みえましたか! ぼくのひとりごとが、どうかしましたか!?」
「ううん。やっぱり、最近寒いから、あったかい飲み物のほうが、ほっとするな、と思って」
「は、はい! そうですね! ふう、あぶなかった……」
「そういえば、昨日来た魔物って、もう帰ったの?」
「え? まだ、むらにいますよ! あしたかえります!」
「そうなんだね」
「じゃあ、おちゃをいれます!」
また、スライムさんがふらふらと歩きはじめる。
「私がやろうか?」
「だ、だいじょうぶです……!」
「うう……」
魔物が首を振っているのか、フードの中でもこもこ動いている。
「私、ちょっと、自分でやりたくなっちゃった。やってもいい?」
「そうですか? じゃあ、しょうがないですね」
スライムさんはうれしそうだった。
「三人分でいい?」
「はい! ……んん!?」
スライムさんが変な顔をした。




