63. 魔法陣ダンジョン
そして僕たちは暫くその勝利の余韻に浸っていたが、タミルさんが帰って来たことで状況が変わることになった。
「タミル君。 そちら側はどうだった?」
サトリさんがタミルさんに報告を求めた。
「大分奥まで行ったのだ。 だけど魔物は居なかったのだ」
「ここより開けた場所は奥に有ったかい? ここに留まるのは危険かもしれないから移動したいのだが」
「ここから歩けば30分ぐらいで広間があったのだ。 自動車で行けば5分ぐらいの距離なのだ。 だけどその自動車では通れない狭い場所があるのだ」
「了解した。 ではその通れない場所まで自動車で行ってから、徒歩で広間へ出よう。 そこで結界を張り直して今後の事を考えよう」
「シャナエ様に野宿させるのは良くないのだ」
「タミル、わたくしの事は良いのです。 このような危険な場所では護衛の判断に従いましょう」
「御意なのだ」
それから僕らは自動車で移動を開始し、何事もなく広間までやって来た。
ちなみに自動車はアスナの巨大空間倉庫にも入りきらなかったので途中で乗り捨てることになった。
「サトリお兄ちゃん。 セーフハウスを使いますか?」
そこでアスナがサトリさんに提案した。
「ああ、そういえばアスナちゃんは大型の組み立て式セーフハウスを持っていたんだったね。 フィアちゃん、一時的にそこの壁沿いに結界を張ってほしい。 ガイアとスマイルちゃんは、アスナちゃんのセーフハウスの組み立てをお願いするよ。 そしてカイン君、君はステータスが上がったと言ったね? とうことは火水魔法Lv3は使えるようになったのかい?」
「あ! そうでした。 僕も使えるようになったはずです。 さっきは混乱していて気づきませんでした」
「そうか、使えそうか。 ……それなら、あのメガアシエラプトルでも苦戦しないで勝てるようになるかもだね。 カイン君、君がいてくれて本当に助かるよ」
「火水魔法を使うと言う事ですよね? すみません、ちょっと魔法の発動回路を専用に組みますので少々お時間をください。 というか実験はどうしましょう? いきなり実戦で使うのはちょっと怖いです」
「君の攻撃は、水生成魔法と火水魔法の連続魔法だったよね。 水生成の方を手加減して実験してみるのはどうだろう?」
「すみません。 魔法の回路を使った連続魔法では手加減はできないです。 単独魔法であらば回路を使った発動でも手加減はできるんですが……」
「ふむ、わかった。 ここで大きな音を出して魔物を引き寄せては良くないから、とりあえずその連続魔法の回路?を作っておいてくれたまえ。 それさえあれば、あのような強敵が来ても十分戦えるからね」
「はい、わかりました」
そんな経緯で僕は連続魔法の回路を組んだ。
水蒸気破裂セット、つまり水生成Lv1と 火水魔法Lv3を、約0.03秒で連続発動させる回路だ。
すでに組んであった水蒸気攻撃セットをコピペして、ちょっと変更するだけなので思った通り簡単だった。 でも予め実験は必要だ。
ところで新たに追加された未知のボードを少し見ただけで、48ビットの発動回路も見つけてしまっていた。 それで僕はレベル6の上位魔法まで使えるようなっていたのだが、上位魔法は48ビットなので回路を組み直す必要があり、さらに使える魔法の種類も急激に多くなってしまう。
それでも以前、48ビット魔法についても暇に任せて基本的な回路は作ってあったので、今回は発動テストを行うだけだ。
発動テストした回路は以下である。
治療Lv6
状態回復Lv6
HP回復Lv6
土操作Lv5 (Lv6は存在しているか不明)
自己強化セット6 : STR強化Lv6、 VIT強化Lv6、 AGI強化Lv6、 DEX強化Lv6
付与強化セット2 : 防御付与Lv2、速度付与Lv2、耐性付与Lv1
自己強化付与セット2 : 自己強化セット6、付与強化セット2
回復セット6: 治療Lv6 、 状態回復Lv6、 HP回復Lv6
消費MPは一番大きく消費する自己強化付与強化セット2でも440程度であり、今のところ全く気にする必要はない。
次に作成する回路の候補としては、以下を考えているのだが対応は後回しにした。
結界魔法Lv2
回復セット3: 治療Lv3 、 状態回復Lv3、 HP回復Lv3
回復セット4: 治療Lv4 、 状態回復Lv4、 HP回復Lv4
回復セット5: 治療Lv5 、 状態回復Lv5、 HP回復Lv5
隷属解除魔法
空気操作Lv5 (Lv6は存在しているか不明)
水操作Lv5 (Lv6は存在しているか不明)
そして気づいてしまった。
アイテムボックスの魔法はどうなっているだろうか?
僕はあの投石キャットから得たアイテムボックス魔法Lv2 とアイテムボックス魔法Lv3を手動で試してみた。
それらを使った結果分かったのは、今までアイテムボックスとは別に、アイテムボックスの容量が100リットル、と1立米(1000リットル)、つまり合計3つのアイテムボックスが僕の感覚の中に現れていた。
ついでだから、アイテムボックスを操作するために以下の魔法発動回路も作ってみた。
アイテムボックス1 10リットル用
アイテムボックス2 100リットル用
アイテムボックス3 1立米用
半時間ほど起きたまま寝ているような状態で、僕はこれら回路を作ったり、方針を考えたりした。
そうこうしているうちに、10人用のセーフハウスが組みあがった。
セーフハウスの大きさは先ほどまで乗っていた自動車よりも少し大きいぐらいだ。
セーフハウスには結界魔法Lv2相当の仕掛けが有るのだが、フィリアさんが結界魔法Lv4を使えるのでそのこと自体にあまり意味は無かった。
それでもセーフハウスは野営用のテントよりも大分快適な空間である。
セーフハウス内で一息ついた僕らは改めて状況整理をすることになった。
まず最初に僕らはセーフハウス内に設置されているベッドに座り、シャナエ様のお言葉を待った。
シャナエ様は一瞬だけ困った顔をしたが、直ぐに気を取り直して話し始めた。
「みなさん、先程は本当に見事な活躍でした。 わたくし達がこうして無事で居られるのが到底信じられないくらいです。 今回は恐らく転移石を用いたテロだと思われるのですが、サトリ殿の意見を聞かせてください」
「シャナエ様、自動車に転移石が仕掛けられていたというお考えですか? それにしては外が騒がしかったようです。 自動車や転移された場所に何等かの痕跡があればわかりやすいのですが」
「スマイルちゃんは、あの前に自動車に向かって走って来た老人を見たよ~。 すごい速度だったの~」
「ええっ? それでは自爆テロの可能性が高いな。 もしかして乗り捨ててきた自動車の側にそれらしき痕跡があるかもだね?」
「僕が調べに行った方がいいのだ?」
「タミル、お願いします。 何かが有ったら証拠も持ち帰って貰えないかしら。 わたくしを狙ったテロなら無事に帰還した時に役立つはずなのです」
「御意」
そう言うやいなやタミルさんは飛び出していった。
「さてテロの件はこれでいいとして、これからのことなのだが、先ずはここが何処なのかを知りたいね。 カイン君、アスナちゃん、君らが記録している各種ダンジョンの構造図から、ここが何処のダンジョンなのか分かったりするかい?」
「いえ、今まで通って来た道は一本道なので構造図を見てもわからないです」
「お兄様。 わたしも分からないです」
「サトリン。 壁面に魔法陣のような模様が刻まれている場所があったわよ。 これって魔法陣ダンジョンじゃないかしら」
「フィアちゃん。 その刻まれている場所は何処の?」
「直ぐ近く、この結界の中よ。 今、見に行く?」
「ああ、お願いするよ」
僕らはセーフハウスを出てすぐの場所でダンジョンの壁に刻まれた模様を発見した。
ダンジョンの光る壁に浅く刻まれたその模様は、一見しただけでは見過ごしてしまうような浅いものだった。
薄く光っているダンジョンの壁は非常に強固なので、浅いとはいえ人間ではこのような模様を彫ることは不可能だ。
「これは魔法陣だろうか? 魔力を流してみればハッキリとわかるんだが、どんな効果の魔法陣かわからないから迂闊なことはできないな。 ガイア、頼めるかい?」
「お、おう。 いいぞ俺に任せて置け」
「すみません、お兄様。 その前にちょっと私に見せてもらえますか? 魔法陣全集を記録しているのである程度照合できるかもしれないです」
「分かった。 アスナちゃん、お願いするよ」
アスナはガイアさんに魔法陣が観察できる位置まで持ち上げてもらい調べ始めた。
「お兄様。 これは水生成魔法Lv3の魔法陣に酷似しています」
「アスナちゃん、ありがとう。 ではガイア、それに魔力を流してみてくれ。 僕らはちょっと離れた位置に退避することにするよ」
「なるほど、水生成魔法なら最も安全な部類だな。 まぁ任せて置け、じゃ魔力を流すぞ」
ガイアさんは、そのダンジョンの薄く光る壁に刻印された魔法陣に手を当てて魔力を流した。
するとアスナの予想通り、ガイアさんの頭上に水の塊が発生し、ガイアさんに降りかかった。
「ふっ、冷て~な。 こりゃ水生成の魔法陣で間違いねーな」
「これでここが魔法陣ダンジョンであることが判明したね。 魔法陣ダンジョンは今のところアラウミ王国の海岸近くに1つだけしか発見されていないんだったね」
「魔法陣ダンジョンならば、わたくしがよく知っておりますわ。 一本道のダンジョンで、ところどころに魔法陣がありますの。 そしてダンジョンの中から外へ微風が吹いていますわ。 そしてダンジョン攻略は、メガラプトルの大群がいる大広間のところで止まっていて、その奥がどうなっているかは不明な状態なのです」
「スマイルちゃんは、あっちが風上だと思うの~」
スマイルさんは、僕らが先ほどメガアシエラプトルと遭遇した場所の反対側の通路を指し示した。
「わたくしたちは転移石によって大広間より奥側へ飛ばされたということなのですね、……そうですか、それなら転移石を使った者たちがたまに戻って来れないことも理解できますわ。 言い忘れましたが、魔法陣ダンジョンでは転移石がたびたび見つかるのです。 しかしそれを使った人物は、たまに失踪したままになってしまうのです。 あのメガアシエラプトルの大群に阻まれて帰って来れないと考えれば納得できます」
「シャナエ様のおっしゃる通りならば、我々がアラウミ王国側へ帰還するのは困難を極めると見てよいでしょう。 う~ん、この先に進むにしてもどんな強敵がいるかもしれないし、これは困ったことになってしまったよ」
「……」
「まあ、これ以上悩んでいても仕方が無さそうだ。 とりあえずは先に進んで状況を確認しよう。 それからどうするかを判断してもいいね。 当分の間は僕たちの手持ちの食料も十分だしね」
そこへタミルさんが目にも止まらぬ速度で帰って来た。
「お待たせなのだ」
そう言って、変わり果てた姿の人間と特異な形状の石を、空間倉庫から出して地面に置いたのだった。
「……」
僕たちは暫くの間、声が出せなかった。
その人間の死に様が余りにも酷かったからである。
「これは腐食毒を服用したようだね。 こんな毒を使うなんて自分の意思じゃ無理だね」
「では、わたくしを狙ったのは、隷属組織ということになるのかしら」
「……」
「分かりましたわ。 とりあえず、襲撃の解明はこれで一旦保留にしましょう。 今はこの状況を打開することに注力することが大事ですわね」
シャナエ様はその様に言って、事件の解明については後回しにすることを指示した。
あれっ? 腐食毒って移るんじゃ?
僕は治療Lv1をタミルさんへちょっと掛けて、ステータスを覗いてみた。
タミル
HP 42%
状態 腐食毒
「ヤバイです。 タミルさんは腐食毒に冒されてます」
「ええっ! 本当だ。 気を付けたのに冒されていたのだ」
僕は覚えたての、治療Lv6 、状態回復Lv6、HP回復Lv6 をタミルさんに使った。
タミルさんは薄い光に包まれた
タミル
HP 100%
状態 -
「ふぅ、タミルさんは治りました」
「あれっ! 本当なのだ。 どういうことなのだ? HPも回復して状態異常も消えたのだ」
「皆、自分のステータスに変化があるかを確認してくれたまえ。 恐らく大丈夫かとは思うのだがもし感染していると大変だ」
その時スマイルさんが警告を発した。
「魔物が3体来てるぅ~。 あっちから~」
スマイルさんが指し示した方向は、メガアシエラプトルの大群がいると思われる大広間側だった。
つまり、確認に行ったタミルさんが連れてきてしまったのかもしれない。
「カイン君、アスナちゃん、こっちへ来てくれ!」
僕とアスナは、サトリさんの指示で、僕らが現在いる広間の前の洞窟の出口に待機した。
「カインちゃん。 奴らはもうすぐ見えるはずなのぉ~」
「カイン君、射程に入ったらとりあえず奴らを寝かせてくれ、それから例の魔法で攻撃してみてくれたまえ。 そしてアスナちゃんは危なくなったらスタンを使って補助してほしい。 スタンのタイミングは僕が合図するよ」
「 「 はい 」 」
そして待つこと2分程度、メガアシエラプトル3体が現れた。
ソイツ等はかなり早く迫ってきており、その様相にはかなり迫力があった。
僕はともかく、アスナはビビッているかもしれないな。
そんなことを考えながらも、3匹とも射程に入ったところで睡眠魔法を使用した。
ドサドサドサッ
3匹は無事に同時に寝て倒れてくれた。
「ではカイン君、分かっているね? 試して見てくれ」
「はい」
僕は、水蒸気破裂セット を一番手前に倒れているメガアシエラプトルの口の中に使った。
ドォォン!!
一匹目のメガアシエラプトルの顎が吹っ飛んだ。
ほっとしたことに無事に倒せたようだ。
「よし! 成功だね。 スマイルちゃん。 寝ているのを一匹だけ引き受けてくれ。 もう一匹はカイン君に任せることにしよう」
「わかった~。 任せるの~」
スマイルさんは先ほどのSTR強化の効果は持続中で、さらにDEX強化もしていたので、クリティカルを発生させて、たった4撃で倒してしまった。
そして残る一匹も僕の水蒸気破裂攻撃なんなく倒せてしまったのだった。




