60. スリ
事の顛末は、フィリアさんがサトリさんに説明してくれた。
サトリさんはここでは誰にも空間小袋の売却の話はしていなかったそうなので、先ほど僕らを訪問した人は本当に怪しい人だったということなのだ。
「参ったねそれは。 これは我々に鎌をかけて、空間小袋を持っていることを引き出したということなんだろうね。 空間小袋の件についてはバレたと見て間違いなさそうだ」
「じゃあ、昨日ガイアさんは空間小袋について、何も口を滑らせていなかったということなのでしょうか?」
「うん。 昨日はみんな大分飲んだようだけど、もっぱらアシエラプトルやオークとの戦いの話で盛り上がっただけだよ。 例の投石キャットの話もでなかったね」
「そうでしたか~。 残念」
「ゴラ、カイン。 色々と俺に言いたい放題だったな。 お前、覚悟は有るんだろうな?」
「えっ? 覚悟ですか? そ、そうですね~。 どうしましょう。 ……でも、よく考えると、僕は悪い事してないですよ?」
「おまえ、俺のせいにしただろ。 それだけで十分な悪さだろう。 俺は無実だってのに」
「う、いやそれは、……元々ガイアさんのせいにしたのは、ここを訪ねてきた人です。 僕はその人に騙されたんです」
「いや、カイン、今度こそは逃がさねーぞ!」
あっ! と思った時にはガイアさんに腕を捕まれていた。
今の僕のステータスではガイアさんから逃れることはできない。
「今度こそって何ですか、ガイアさん放して、い、痛い、痛い、サ、サトリさん 助けて~」
「お前、この前も俺のアソコへちょっかいを出して逃げ回りやがって~~」
「ちょっかいって、それこそガイアさんの勘違いじゃないですか」
サトリさんはニコリとして僕にウインクしてみせた。
「カイン君、君ならどうとでもできるのではないか?」
「あ~そうか!」
なるほど、僕には禁じられている魔法という手段が残されている。 もちろん使う気はないがこういう場合の脅しには十分使えるはずだ。
「ちょっ、サトリ、それはダメだ。 卑怯だぞ!」
「ふー、ガイアさん。 僕の怖さを忘れていましたね?」
「お、おまえ~。 この卑怯者~、裏切者~!」
「あぁぁ~~~~ うるさいぃぃ~~~!! 貴方達、問題はそこじゃないでしょ? カインちゃんもいいかげん真剣に考えて頂戴!」
僕たちの他愛ものないじゃれ合いに、少しばかりイラついた様子でフィリアさんが切れる寸前になっていた。
「……」
「フィアちゃんありがとう。 ガイアもやっと落ち着いたみたいだね。 それでこれからどうするかなんだけどね」
「……」
さすがはサトリさんだ。 今後どうすべきか直ぐに方針を示してくれるのだろう。
「いや、注目されても困るんだが。 結局のところ、カイン君たちが取った方法が正解だったと思うのだよ」
「ほら、ガイアさん。 僕が正しかったでしょ?」
「カインお兄ちゃん。 そんなにガイアさんを意識しなくてもいいんじゃない? もうちょっと大人な対応をしましょうね」
年下のアスナに窘められてしまい、居心地が悪くなってしまった。 ガイアさんはガイアさんで微妙な表情をしている。
「うぐっ、アスナ……わかったよ」
「ガハハハハ、ざまあ~」
訂正しよう、アスナの言い様に全く意に介していないようだ。
「ガイアもね! 貴方こそ、もう大人なんだからどうにかできないのかしら?」
「ね~ スマイルちゃんは? スマイルちゃんはどうなのぉ~~?」
「あ~。 スマイルちゃんはそのままでいいのよ。 ダイジョブよ」
「……」
「それで、サトリさん。 サトリさんの空間倉庫はどうします? 僕があずかりましょうか?」
「う~んどうしようかな。 ……ではお願いするよ。 それでね、この際空間小袋を少し放出しようと思うんだ。 そうなるといくつ位ギルドに渡すかが悩みどころだね。 カイン君どう思う?」
「えっ? 僕に聞くんですか? フィリアさん、どうしよう」
「えっ、わたし? えっと~ アスナちゃん、どう思う?」
「えっ? お姉さん、私は、……スマイル姉ちゃんの勘に頼るのがいいと思います」
「スマイルちゃんはねぇ~ ガイア!」
「俺はな……」
「わ、わかった、わかった。 僕が決めるよ。 カイン君、4つだ。 4つ渡すことにするよ。 アイテムボックス?から出してくれるかい?」
「わかりました。 ちょっと待ってください。 ……はいどうぞ」
僕は空間小袋をランダムに選んでサトリさんに手渡した。
「ん? カイン君。 これはどう見ても2つなんだけど、どういうことなんだい?」
「えっと、サトリさんの分が1つと、僕が持っていた分が1つです。 あとは皆から貰ってください。
それでみんな1つづ空間小袋をもっていることになるはずです」
「あ、ああ。 そういうことか。 なら皆1つづつ僕に渡してくれ」
「……」
「ありがとう。 えっと 10リットルと、15、20、30か。 ……随分小ぶりの空間小袋ばかりだね」
「そりゃそうだ。 大きいほうを自分用に残しておくのはあたりまえだぞ?」
「なるほどそうだね。 カイン君、この15リットルのを100リットルクラスのに変えてもらえないか?」
「はい、わかりました。 この120リットルでいいですか? これ以上のは200以上のしかないです」
「ああ、それでいいよ。 ありがとう」
「では、皆で冒険者ギルドへ行こうか」
「ええ~ スマイルちゃんも~?」
「ああ、何となくだが危険な気がするからね。 ガイア、カイン君とアスナちゃんを守ってくれ」
「ああ、わかったよ。 カインなんか本当は俺より強いけどな!」
「そうですね! 隷属化して毒を飲ませれば簡単に倒せますからね!」
「お兄ちゃん?」
「そうだよカイン君。 隷属魔法は禁止だからね」
「わ、わかってますとも」
ということで、僕らは空間小袋を冒険者ギルドへ売却するために宿を出た。
ギルドまでは結構距離がある。 イベントで混雑しているので、そうゆう宿しか取れなかったというのが理由だ。
僕とアスナは4人のAランク冒険者に囲まれる形でギルドまでの路を移動をしていたのだが、いきなり物陰から出てきた何かが僕にぶつかってきた。
ぐわっ!
僕はフッとばざれてしまった。
そのフッとばされた僕をガイアさんが動いてキャッチしてくれた。
「このやろ~!!」
ガイアさんがぶつかって来た奴の方へ向かって大声で怒鳴りつけたが、奴は既に角を曲がりそこから消え去っていた。
「ぐっ、僕は大丈夫です。 HPはそれほど減ってません。 ガイアさん、ありがとうございます」
「お、おう」
「お兄ちゃん、あれって何だったの?」
「あれは、スリかもだね。 それにしても、カイン君はフィアちゃん並みのステータスなのに、HPを減らすなんて、……全く子供に対してなんてことするんだ」
「まあ、僕たちには幼少加護があるので、HPがゼロにはならないんですが、それでもアスナじゃなくてよかったです」
「それで、カインちゃん。 何か取られた?」
「いえ、空間小袋もアイテムボックスの中だったので何も取られてないです。 それよりも皆はどうですか」
そんな僕の問い掛けに皆がわさわさと懐やら何やらを確認しはじめた。
「ああ! やられた。 僕が預かっていた20リットルの空間小袋が無くなっている! み、皆は?」
「私は大丈夫みたい」
「お兄さん。 わたしも大丈夫」
「スマイルちゃんは、……あれっ? ウサギの縫いぐるみが無い!!」
「俺は、……うん。 何も盗られてないな」
「スマイルちゃん。 縫いぐるみはカインちゃんに預けたんじゃ?」
「ええ~?? あ! そうかも。 カインちゃんに空間倉庫ごと預けてあったんだった!」
「……」
「結局、サトリさんだけが被害に合ったってことですね。 まさか、僕らが行動に移すことも計算されていた?」
「う~ん。 さすがにそこまでは、……そうだね。 そうかもしれないね。 幸い盗られたのは、小さい小袋だから、このままギルドへ向かおう。 数個売却して全て売ったと言えば、もう狙われることも無いはずだ」
「サトリン、そうしましょう」
ということで、僕らは急いでこの町の冒険者ギルドへとやってきた。
サトリさんはそのまま受付へと向かい、僕らは警戒しながら待っていたが、しばらくして小会議室へと招き入れられた。
そこには、くたびれた感じの服を着た鋭い顔をしたイケメン男性と、小ぎれいなで中年位のフツメン男性が待っていた。
「ああ、サトリ君待っていたよ」
小ぎれい男性がサトリさんに話しかけている。
「はい、サブマスター。 今日はお願いがありまして参りました」
サトリさんは、丁寧な対応をしている。
「で、そこにいる方々が今回の依頼を引き受けてもらえるパーティのメンバーなのかね?」
「サブマスター、そうなのですが、お願いは別件でして、そのちょっと困ったことになったのでギルドに買い取ってもらいたいものがあるのです」
「ふむ、サトリ君、買い取りの件は分かったが、ギルドからの依頼を引き受けてもらえるパーティメンバーで間違いないのだね?」
「ええ、まあそうです」
「それなら、こっちの依頼の件から始めよう。 まずは紹介からだ。 サマンサ卿、こちらが我々側のパーティリーダのサトリです。 Aランク冒険者を4人擁するするパーティです。 それからサトリ君、こちらはアラウミ王国側の護衛リーダのサマンサ卿です」
「私はサトエリア王国側のサトリです。 今回はよろしくお願いします」
「ああ、私はサマンサだ。 今回はある要人の護衛リーダを拝命されている。 こちらこそよろしく頼む」
「サマンサ卿、それでは先ず我々のパーティメンバーを紹介します。 まずはフィリア、治療師Aランクです。 そしてガイア、ディフェンダーAランクです。 スマイル、アタッカーAランクです。 我々4人はサトリニア共和国の攻略組織に所属しています。 それから、……カイン君、10才ですが魔力タンクと特殊な才能持ちでEランクです。 そして、アスナ君、8才ですが<ダブルギフト>持ちで同じくEランクです」
「ほほ~、サトリ君と言ったかね。 Aランク4名に特殊才能持ちのEランク冒険者の子供たちですか。 中々ユニークなパーティですね。 ああ、私はスピードマスターのBランク資格を持っています。 実際にはこちら側からタミルというスピードマスターでAランク資格を持つ者に護衛の実務を任せるつもりですがね」
「それでは、サトリ君。 早速任務に就いてほしいところなんだが、その前にお願いとは何なんだね?」
「サブマスター、私たちは実はここへ来る前にある新生ダンジョンの発見に関わりまして、それこ空間小袋を少し得ていたんです」
サマンサ卿の目がキラリと光った。 サトリさんはわざとリークしたに違いない。 この件については全部売却したことを皆に知ってもらう必要がある。
「ほー、新生ダンジョンですか。 そこで空間小袋を得たとはラッキーですな。 それで買い取ってほしいというのだね?」
「それが、その、どうやらこちら側で我々のことに気づいた盗賊グループがいるらしくて、危なくなったので余剰の空間小袋を3点ギルドで引き取ってもらいたいのです。 そしてこの町で競売に掛けてもらいたいのです。 我々は余計なトラブルに巻き込まれたくないので」
「おお~。 それは大変ですな。 もちろん空間小袋は買い取りさせてもらいますし競売の件も承知しました。 現物はここに?」
サトリさんは空間小袋をサブマスターに渡し、直ぐに競売に掛けてもらうようお願いしたのだった。
僕らは要件が済んだので宿へ帰ろうとしたが、今回の護衛任務のタミルとかいうメンバーに引き合わせるということで、そのまま小会議室で待つことになった。
そのまま待機していると、サマンサ卿がいつも笑っているような顔をした男性を連れて来た。 この人がタミルさんなのだろう。
「じゃ護衛担当のタミルを紹介しよう。 スピードマスターAランク、つまりAGI特化型でレベルは107だったな」
「タミルなのだ。 スピードには自身があるのだ」
「こういう奴で、ちょっと変わった喋り方をするが、腕は確かなのでよろしく頼む。 それで任務に入る前に少し聞きたいことがあるのだが、サトリさん、いいかな?」
「何でしょう?」
「君たちAランク冒険者については、情報があるのだが、そのEランクの子供らの実力を知りたいのだよ。 本当に今回の任務でその子らの力が必要なのかね?」
「はあ、そうですよ。 ……まあ、秘密を厳守いただけるならお教えしましょう」
「えっ? こんな子供に秘密が? ……わかった。 私サマンサ卿が護衛リーダの名誉にかけて秘密厳守をお約束しましょう」
「ありがとうございます。 ……それでまずは、このカイン君ですが、我々の中でも最恐のメンバーと言えます」
「ちょっとサトリさん。 そんなわけないですよ」
「本人はそう言ってみますが、私が判断ではそうなります。 この子が最恐な理由は、まず第一にこの年で魔法が使えます。 そればかりでなく特殊な魔法を使えるのです。 しかも無詠唱で、です」
「無詠唱? そ、それは、確かに凄いですね。 子供が魔法を使えるのは驚きだが、その魔法レベルはどの位なのです?」
「魔法レベルは2なんですが、その、……使える特殊魔法が強烈なんですよ」
「特殊魔法とは?」
「隷属魔法Lv1、睡眠魔法、そして火水魔法だっけ?」
サトリさんは僕のアイテムボックスの事は隠したままにしておいてくれるつもりのようだ。 それにしても隷属魔法については言わなくてもいいような気がしたのだが、なんのつもりなんだろうか。
「私の知らない魔法名が出て来たね。 まあ隷属魔法も大概だが、睡眠魔法と火水魔法とは何かね?」
「睡眠魔法は、その名の通り敵を寝かせる魔法で、火水魔法は、……彼のオリジナル魔法で、水を温める魔法です」
「なるほど、確かに特殊な魔法だ。 でも最恐というのはどういうことかね?」
「それらを瞬時に使えるということです。 例えば、一瞬で隷属化させたり、寝かせたり、熱水を浴びせたりできるということです」
「そ、それは……。 確かに使いようでは最恐だね。 小人数の対戦では特にね……。 わかった承知した。 ……それで、そちらの可愛い女の子は?」
「このアスナちゃんは、スタン能力持ちです。 それも強烈で敵味方を区別できるタイプです」
「そ、それはまた、……すごいね。 なるほど聞いた限りでは確かにこの子たちは大変な戦力だ」
「ということで、サマンサ卿、納得いただけましたか?」
「う、うむ、十分な体制だ。 まさに少数精鋭がそろったということだな。 感謝するよ」
「ありがとうございます」
「それでは、まずアラウミ王国まで迎えに行くことになるのだが、先ほど空間小袋の話をしていたね? 分かってるとは思うのだが、我が国への入国関所は身体検査だけは省略できないのでね、悪く思わないでくれ。 だが身体検査で問題がなければ尋問は無いからそこだけは安心してくれたまえ」
その後僕らは一旦宿へ帰り支度を済ませてから、直ぐにアラウミ王国へと向かうことになったのであった。




