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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第四章 アシエラプトル編
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50. 隷属者

 見学者許可証を携えて僕とアスナ、そしてフィリアさんとサトリさんは、ギルドの魔法練習場を見て回りはじめた。 その結果、<識別ボード>の裏側の一覧表で既知の魔法の9割程度を埋めることが出来たのだった。


 思った通り、<識別ボード>の横の行は、魔法の種別で、既知の体系は15行、それに隷属魔法の1行と、スッコロビの睡眠魔法の1行。 空白なまま何も入っていない行が4行なのだと思った。


「フィリアさん、サトリさん。 ありがとうございました。 これで大体傾向は掴めました。 本に乗っている一般に知られている魔法は9割ぐらい埋まって、一覧の何処に何が入るかは分かったと思います。 あとは不明魔法なんですが、それは後でお話します」


「よかったわ。 じゃ帰る?」


「あの~、できれば他のも見てみたいんですが。 …… 本当に見学の意味なんですが」


「わかったわ。 じゃあ、技の訓練場とか、修練魔法の練習とか見てみようね」


「はい。 ありがとうございます」


 技の訓練場は、実戦さながらの訓練が行われていた。 勿論危険な魔法は禁止のようで、INT系はもっぱら魔法レベル1が使われていた。

 思えば故郷の王都で見た道場での訓練もこんなものではなかっただろうか。 もちろん僕に真似してみろと言われても無理だが、本物の戦いを見てしまっていた僕にとっては、この訓練場は物足りなく感じられた。


 次に修練魔法の実地訓練場を見学させてもらった。 ここはある意味、学校の授業が終わった後の学習塾のようなところである。

 今日は休日なので、多数の生徒たちが練習をしていた。 その様子は奇妙と言っていい光景で、あまり心地よいものでは無かった。

 見たかったものを見て満足した僕は帰ろうとしたのだが、不意に違和感を感じた。


 あれ? これって……?


 僕は小声でフィリアさんに聞いてみた。


「フィリアさん。 隷属魔法の修練魔法を使っている人がいるようですが、そんなことをギルドの訓練場でもやるんですか?」


「ええっ!!」


 フィリアさんは大声を上げて驚いてしまった。 そしてその場の注目を浴びてしまったのである。

 とっさに僕は知らないフリをしてゆっくりと立ち去ろうとしたのだが、サトリさんに捕まってしまった。

 フィリアさんはあたりの状況を感じ取ったのか、すまなそうに皆に誤っていた。


 そして僕らはサトリさんに捕まえられて逆戻りしてギルドマスター室へ連れ込まれてしまったのだった。 マスター資格を持つサトリさんは許可を得ているので、ここのギルドマスター室を使用することが可能だったのである。


「さっき隷属魔法の修練魔法と言っていたが本当かい?」


「ええ、確かだと思います。 アスナもわかっただろ?」


「カイン兄ちゃん。 厄介事には関わりたくなのだけど、……確かにSPRの修練魔法パタンがあったわね」


「……」


「それが本当ならば一大事だわね。 さすがカインちゃんだわ。 次から次へと問題を持ってくるんだから」


「まあ、そういうなよ。 これはちょっとした事件だし大きなチャンスなんだからね。 発見できたことは大変良かったのだとだったと思うよ」


「えっと、そのすみません」


「いやいや。 これは本当に助かったんだよ。 これで恐らく非合法の隷属魔法組織の解明につながるかもだね。 今まで捕まえた非合法な隷属魔法使いは皆隷属化されているらしくてね、捕まると同時に自殺してしまう人が多いのだよ。 それでなかなか全容の解明が困難だったのさ」


「それって凄い話ですね。 自殺を強要していたということなんですか?」 


「そうだよ。 自殺される前に状態回復魔法を掛けて隷属を解く、という方法である程度隷属者を救う効果はでているんだが、まだその成功例が少なくて困っていたのだよ」


「そうでしたか。 それで今回はどうするんですか? 修練中だからまだ魔法使いじゃないですよね、きっと」


「う~ん。 恐らく隷属化されて強要された修練だと見た方が良いだろうね。 だから気づかれないように隷属を解除して捕まえるというのが一番いいのだと思うよ」


「そうですね。 それでどうします? 僕がその対象者を特定しましょうか?」


「そうだね。 君なら怪しまれることは無いだろうね。 そして特定したらフィリアに状態回復Lv3、いや念のために状態回復Lv5をその対象者にこっそりと掛けてしまおう」


「……」


「……はぁ~。 本当に僕は巻き込まれ体質なんですかね~。 何かちょっと憂鬱です」


「……それは気の毒だけど、仕方がないので付き合ってくれたまえ」


「はい、わかりました」


 それから僕らはまた修練場へと戻って行った。 そこでは相変わらず問題となるSPRの修練を行っている奴がいた。 僕は子供が走り回るフリをして、その人の前で、わざとコケて見せたのである。


「あ、ごめんさない。 お兄さん、修練の邪魔をしてしまった?」


 その人は一瞬だけピクリとしたが、僕を無視して修練を続けようとした。

 その時(ささや)くような小声でフィリアさんの状態回復魔法Lv5の詠唱がスタートした。 魔法の詠唱というのは、それぞれに人それぞれに固有の個性があるため、人の詠唱を初見で見破ることは困難だから、フィリアさんの詠唱は僕とアスナにしか分からない。

 フィリアさんの魔法が発動し、その人は我に返ったように呆然とした表情をした。 つまり隷属魔法が解除されて驚いたのである。


「ちょっと君。 一緒に来てくれるかな? 話したい事があるんだよ」


 サトリさんが、その人に話しかけて連れて行こうとした。 そのとたん火魔法Lv9 ――小規模裂魔法の詠唱が始まるのが識別ボードで見えてた。 これも辺りの修練魔法の詠唱にまぎれていて僕やアスナにしか分からない。


 うぁっ! すっごいな、こんな至近距離で発動したら何人巻き込んで殺しても構わないって感じじゃん。 

 口封じにも限度ってもんがあるだろ!

 一瞬狼狽えたえてしまった僕だったが、すぐに冷静を取り戻し対処することにした。


 僕は小声でフィリアさんに状況を伝えた。



「フィリアさん。 小規模爆裂魔法の詠唱を開始した人がいます。 直ぐに対処が必要なので合図したら確保をお願いします」


「えっ? そんなことが。 ……い、いえあり得る話だわ」


 フィリアさんは驚いたが信じてくれたようだ。 

 そして僕はアスナにお願いした。


「アスナ、あの小爆裂を詠唱している人に、僕が合図したらスタンくれる?」


「兄ちゃん、了解でっす」



 僕はフィリアさんの手を引いて、その爆裂魔法の人のところへいって、前回同様コケて見せた。



「あ、ごめんなさい。 すみません。 僕今日何かおかしな」



 それがアスナへの合図だった。



「!!!!!」



 無音、それでいて強烈なスタン攻撃が爆裂魔法の人へと着弾した。



「あら、どうしたの貴方? 気分が悪くなったのね。なら外へ行こうね」



 フリーズした爆裂の人を、フィリアさんがスマートに回収していく。



 15秒後、スタンが解けた爆裂の人は運ばれながらも躊躇なく、今度は自分自身に小規模爆裂魔法の詠唱を開始した。


 こ、これは、一体何だ? この人も隷属化されてこのような事態になった場合に自殺するようにされている?


 僕は寒気を感じた。  この隷属者を操る奴らはビックリするぐらい卑劣で冷徹な奴らだ。


 フィリアさんと僕とでその人を引っ張っていく。



「!!!!!」



 魔法が発動する数秒前に、またアスナのスタンが着弾した。

 だがその人は3度目の詠唱を開始した。


「フィリアさん。 この人にも状態回復をお願いします」



 フィリアさんは一瞬戸惑ったが、僕に(うなず)くと状態回復Lv5の詠唱を開始してくれた。



「!!!!!」



 爆裂の人の詠唱が完了する前に、本日3度目のアスナのスタン攻撃が、それから少し遅れてフィリアさんの状態回復魔法が着弾した。

 それにより爆裂の人は小規模爆裂魔法の詠唱をしなくなり、いきなり放心状態になったようだった。


 マスター室へとその人を無事に連れ込んだ後は尋問のお時間だ。

 さすがに僕とアスナには見せられないということで、事の顛末を聞いたサトリさんから控室の方へ下がるように指示された。


「ふぅー。 アスナが居て助かったよ。 あれじゃ確かに対処が難しいよね」


「そうね。 隷属化された口封じ役もいたなんて、あんまりよ」


「もしあんな口封じ役が複数人いたとしたら、……僕たちもどうなっていたか分からないよね」


「そうね。 そもそも私たちみたいな、ちびっ子が関与するべきじゃないのよ」


「自分で自分を、”ちびっ子” っていう子供を始めて見たよ」


「あら? なにやる気?」


「いや、今日は疲れたから舌戦は止めておこうよ」


「……そうね止めておきましょう」



 暫く僕らは控え室で寡黙になり大人しく待っていた。

 何か重苦しい、何か今日はもうパーッとお酒でも。 ……いや、まだこんな”ちびっ子”じゃ無理だな……。

 長く思える時間が過ぎたところでフィリアさんが控え室へとやってきた。



「カインちゃん、アスナちゃん。 本当にありがとうね。 大手柄だったわね」


「……フィリアさん。 僕は手柄なんてどうでもいいです。 疲れたから帰りましょうよ」


「わかったわ。帰りましょう。 でもね一言だけ言っておくことがあるわ」


「……」


「何でしょうか」


「貴方たちは、あの二人の命を救ったのよ。 あの人達はあれから泣いていたわ。 そして私たちに、”助けてくれてありがとう” って言ったのよ」


「……そうでしたか。 それはよかったです」


「では、帰りましょうね」


「はい。 帰りましょう」



 そして僕らは宿へと戻った。

 今回のことで非合法な隷属魔法組織の卑劣なやり方と残虐さを改めて思い知らされた。

 僕が強くなったら、そんな組織はいつか絶対に潰してやる!

 僕は激しい怒りを抱いて心に誓ったのだった。 

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