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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第二章 コインロード王国編
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21. 解放

推敲が十分できていませんが、とりあえず投稿しておきます。 ルビをふる余裕もありません。 後で修正予定です。

 

 そんな教育と訓練の日々が続き1週間ぐらい経過したところで、キャサリンさんから大広間へ来るようにと呼ばれた。

 大広間の手前にあるお城関係者控え室に到着すると、エミリ様が正装して待っていた。 エミリ様が正装なさると全くの別人だ。 最初は誰だか分からなかったのだが、僕に対する態度からエミリ様であると分かってしまったのである。 


 エミリ様はこの一週間ですっかり元気になられていた。 そして最初の恐ろしさとは反転して可愛いのである。 頬をつつきたくなるのである。

 だがエミリ様の頬をつつくことは許されない。 なぜならエミリ様は、突っ込み役なのだから。


 僕はアタスタリア王国では機会を逸したボケ役担当になることができていた。 ここでは不可能であったボケ役に自然になれたのである。 そしてエミリ様にならボケても危険は無かったのである。 ボケ役はつつかれたり叩かれたりするのはあっても、決してつつくことはないのである。


 早速エミリ様が僕の脇腹をつついてきた。 勿論避けることは容易だったのだが、わざとつつかれてあげる。 そして僕はイヤイヤと身をよじって見せると、満面の笑顔でまたつついて来ようとする。

 今度は完璧に回避して見せる。 何度つつこうとしても回避してやる。 そして今度は僕が、ゆっくりとつつき返す動作をしてやるとエミリ様は回避動作に移る。 そうやってじゃれ合っていると、ズルマンさんが入ってきた。


 ズルマンさんは、エミリ様に恭しく礼をした。


「エミリ様、ご機嫌麗しゅう存んじます。 今日もよろしくお願い申し上げます」

 エミリ様が頷くと、ズルマンさんは言った。


「では、エミリ様参りましょう」


 どうやらこれから公式的なヤバイ行事があるようだ。

 ズルマンさんが行こうとすると、エミリ様が僕の腕を掴んでしまった。


 ちょっとエミリ様! 

 僕は関係ないです。 巻き込まないでください。 ヤバイ所に出るのはイヤです!


 エミリ様は一人で行くのが嫌なので僕を道ずれにしたいのだ。 僕はイヤイヤしたのだがエミリ様は放してくれない。 僕は訴えるようにキャサリンさんを見たが頷かれてしまった。 ズルマンさんも仕方がないという顔をしている。

 そして何と僕は覆面をつけられてしまった。 キャサリンさんも同様に覆面をつけた。 影の護衛といった感じなのであろうか、この伯爵領の風習はやはり独特のような気がした。

 僕はイヤイヤしながらもエミリ様に引きずられ、キャサリンさんに押されてに大広間へ入って行った。 大広間にはかなりの人がいて、ざわざわと会話が聞こえていた。


 ズルマンさん、エミリ様、僕、キャサリンさんが、順番に大広間へ入って行くと大広間は静まり返った。 そのまま上座へと向かい、エミリ様はズルマンさんに促されて一段高いところにある椅子に座った。 覆面をつけた僕はその傍らにエミリ様に囚われいた。 キャサリンさんも傍らに控えていた。


 ズルマンさんは、一度エミリ様に敬礼すると、大広間の一同に向かって言い放った。


「それでは、クローク伯爵領の定例報告会を始めよう まずは、財務担当、報告を」


 それからは眠くなるような堅苦しい報告会が続いた。 状況からみてズルマンさん――ズルマン様は、代官のような立場だったらしい。 この場は伯爵領への人々の報告会だったようで、内容自体はすでに審議された案件だったようである。


 財政状態が良くないとか、漁業の方で人手が足りないとか、物流が良くないなど、あまり景気の良い話はなかった。 その中で特に気になったのは、南方戦線で苦戦状態という情報だった。 南方戦線には当伯爵領のツキヨミ様が軍を率いて参戦しておられるとのこと。 何とも言えない不安感が大広間を覆っていった。

 南方戦線は敵国と接しているとともに当伯爵領とも接している辺境伯の領地であったのだ。 南方戦線が崩れるとこちらも恐らく無事ではすまないのである。


 そんな集会も終わり僕らは日常へと戻って行った。

 それから3か月ぐらい経過した頃であった。 

 僕とエミリ様は、キャサリンさんに武術を習っていたが、それが終わった後僕は小さな平べったいワッペン状袋を渡された。 お金が入っているかと期待して中を覗いてびっくりとした。 なんと空間倉庫という魔道具だったのである。 

 空間倉庫は現在の技術で作成できるものではなく、ダンジョンの魔物を倒した時にのみ極稀に獲得できる大変貴重な魔道具である。 そしてこの伯爵領の第二ダンジョンからは、その空間倉庫が多く産出されていたのである。

 空間倉庫は非常に希少であり一般にはほぼ流通しない。 買い取り価格は恐ろしく高価である。 もちろんそれらは王都へさらに天文学的な価格で買い上げられるのだが、管理は当領主が行っていたので、ツキヨミ様やエミリ様は所持できていたのである。

 隷属者にこんなもの渡してよいのだろうか? まさか南部戦線がいよいよ危機的になってしまって逃げる準備をしろということなのだろうか? 僕は問いかけるようにキャサリンさんの様子を窺ったのだが、キャサリンさんは手招きで空間倉庫の中を見ろと示唆したので覗いてみることにした。 その空間倉庫の大きさは約1立米ぐらいで中には水や保存食料、お金、服などの生活必需品、さらに種々の魔道具まで詰め込まれていた。


「いよいよ南方が危ないかもしれません。 もしもの場合に備えて持っていてください。 貴方ならこの町どころかこの国では顔を知られていませんので、場合によっては役立つこともあるかもしれません。 あと戦争が安定したら返却してもらいます。 私も持っていますが、リスクは分散しておくべきです」


 事情は理解できた。 

 最悪の場合にはエミリ様を守って逃げろということなのだろう。 僕は単なる隷属者なのだが随分信頼されたものである。 もっとも僕としてもエミリ様はもう家族のように仲良くなったのだ。 僕だけがエミリ様を見捨てて逃亡するなんてあり得ない。


「……分かりました。 あとすみません お金を少々使ってもよいでしょうか サバイバル装備と薄手のレジャーシ……防水シートを持っておきたいです」


 僕は山の中でのサバイバルを経験したことがある、その知識からそれらが有用であることを実感していたのである。


「う~ん。 私はテントを持っていますが、それぐらいなら訓練のためにも持っておいてもよいかもですね。 それじゃ 今から買い出しに行きましょうか」


「はいお願いします」


「あ、じゃ私もついてく」  


 キャサリンさんはかなり渋ったのだが、エミリ様の熱意に押されて折れてしまい、エミリ様も買い物に付いて来ることになってしまった。 

 結局3人で平民に扮して、イスカンダリア市街へ繰り出した。 市街はそれほど豊ではないものの、ダンジョンが存在している領地であるためか小ぎれいで悪くはなかった。 そして僕らは武具店へとやってきた。


「すみません、サバイバル装備が欲しいんですが、置いてますか?」


 僕は店員に話しかけた。


「毎度ありがとうございます。 そうですね~。 そこの棚に置いてありますが、サイズが合わないようなら特注になります」


 僕はサバイバル装備を物色していたのだが、僕のサイズは中々見つけられない。 結局専用仕立て品として注文することになってしまった。 


「ちょっと、貴方だけ特注なんて許せないわ。 私も特別に注文するわ!」


 何か僕にライバル心をもっているのであろうか、 エミリ様も僕に対抗して負けじと注文したのである。

 それに対してキャサリンさんは自分に合うサイズを見つけたみたいでその場で購入を決めていた。 僕たちに使い方とかを教えてくれるつもりなのかもしれない。 僕はアタスタリア王国にいた時の実習ピクニックで技術は習得済であり、本当のサバイバルの経験もあったのだが、そのことは黙っておいた。 


 それから次に魔道具店へとやって来た。

 魔道具店は比較的充実しており、魔物素材の薄手の防水シートはすぐに見つかった。 かなりの額であるが、これもまた3人分確保しておいた。 またついでに保温シートも買っておいた。


 それから数日後、サバイバル装備ができたとの連絡があったので、この前のように平民に扮し、武具店へとやってきていた。 

 僕は試着して、調整をしてもらって、その上から平民服を着た。 例の空間倉庫は、サバイバル装備と下着との間に装着している。 僕もエミリ様も華奢な方なので、サバイバル装備の上から平民服を着こんでも、普通体系の子供に見えるようにした。

 エミリ様が例のごとく僕の脇腹をつついた。 ところが、サバイバル装備の防御力によって僕は何も感じない。 それどころかエミリ様がちょっと指を痛めたようだ。


「エミちゃん。サバイバル装備は簡易的な甲冑でもあるので、ちょっかい出しても無駄だよ」 


 ここは平民地区へお忍びできているので、僕たちは、エミちゃん、アレ兄ちゃんと呼び合う仲だ。


「アレ兄ちゃん、そんなこと最初に教えてよ。 痛いじゃない」


 何言ってんだよ、 自分のサバイバル装備を触れば分かるじゃないか。 僕は少し呆れながらエミリ様のサバイバル装備をつつこうとした。


 その時である。 僕の中で変化が生じた。 


 隷属者から解放されたのである。  

 その十数秒遅れで ”どぉ~ん” という大きな音が遠方から続けざまに聞こえて来た。

 僕は血の気が引いてしまった。 


 何もせずに隷属者から解放なんてあり得ない。 ご主人が…ツキヨミ様が亡くなられたのかもしれない。

 キャサリンさんは遠方を見て警戒している。 

 エミリ様は驚いた顔をしている。

 僕は、すぐにキャサリンさんに向かって訴えた。


「キャサリンさん 解放されて自由になってしまいました」


 僕は、エミリ様にサトラレないように、暗に隷属者から解放されツキヨミ様が亡くなられたことを伝えたのである。


 それを聞いたキャサリンさんは固まってしまった。


「すぐ判断してください。 時間が無いかもしれません」  


「キャサリンさん。 第一ダンジョンの見学をする予定でしたよね、時間が無いのですぐ行きましょう。 もうじき入れなっちゃうかもしれないです! 」  


 本当は見学の予定もなかったし、入れなくなることもないのだが、キャサリンさんに事の重大さを必死に訴えたのである。 ここはもうじき戦場になり蹂躙されるから早くダンジョンへ避難しましょうと。


「……そうだわね。 エミちゃんへのサプライズだったのに、アレちゃんバラしちゃダメでしょう。 そうね早く行きましょうか」 


 キャサリンさんは僕の案に乗ってくれた。


「え? ダンジョンを見学できるの? そのための装備だったの?」


 不安そうにしていたエミリ様が反転して笑顔になった。


 僕らはすぐに人力車の停留所へ行って、人力車を雇ってダンジョンへと急いだ。

 遠くでは時々 ”どぉ~ん” という音がしていて、少しずつだが近づいている気がした。 更に少し時間が経つと流石にエミリ様も、人力車を引いている人も、何が起こっているかを気づき始めたようで不安を隠せなくなってきた。 そしてとうとう人力車の人が帰りたいと言い出したので、キャサリンさんがその場で人力車を買い取り、代わりに人力車を引くことになってしまったのだった。


 遠くでは火の手が上がり、人が叫ぶ声も聞こえるようになってきている。 ダンジョンに到着した時には、はるか遠くに見えるお城からも火の手があがっているのが見えていた。


 それは僕らが見たクローク伯爵領の最後の光景だった。

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