22. 新しい回復薬 - 4
私が唱えたスキル《天使の歌声》によって、菖蒲色草、姫の花、魔力石、魔力水、瓶が菖蒲の回復薬へと形を変えた。
三日月を模った、可愛らしい小瓶。
「……いつ見ても、すごいスキルだよね」
「うん。反則かもね」
イクルができあがった菖蒲の回復薬をまじまじと見つめる。私はあははと笑ってまったくだと思う。
こんな簡単に回復薬ができてしまっていいのだろうか。とはいえ、私はポイントをゲットしないといけないから止めるという選択肢はない。魔物を倒せるほど強かったのならば、他の道もあったかもしれないけれど。
「とりあえず、飲んでみる?」
「……まぁ、そうだね。なんだかもったいない気もするけど、ひなみ様ならすぐにまた作れるしね」
「あはは。そうだね。この世界の人がみんな気軽に作れたらいいんだけどね」
瓶の蓋であるコルクをぽんと抜いて、私は香りをかいでみる。とても強い、花の、甘い香りがした。小瓶を少しまわしてみれば、中身はさらさらしているわけではないようだ。少しとろみがついているように見えるのだけれど、どうだろうか。
ちょんと瓶のふちに口を付けて、そのままほんの少しだけ口内へ菖蒲の回復薬を流し込む。
「んんんっ!!」
「ん?」
「イクル、甘い! でも、嫌な甘さではなくて、優しい花の蜜みたいな感じなの!」
「はいはい。…………確かに、すごく甘いね」
ひょいと私の手から菖蒲の回復薬をとり、イクルも飲み込んだ。若干顔をしかめたような気もしたけれど、悪くはないようで安心した。
「魔力を大量に消費すると、精神的に疲れるらしいから甘いのはいいかもしれないね」
「え、そうなんだ。でも確かに、頭を使ったりしても甘いものが欲しくなるもんね」
「………………」
ちょ、それは違うんじゃというような呆れ顔をしないでくださいイクルさん……! 確かにイクルは優秀だし強いし……! 頭を酷使しても別に疲れなさそう。
「イクルって、本当に優秀だよね。私の護衛なんて、もったいないくらいだよ」
「はいはい。とりあえず今後だけど、船がでるのは明後日だから忘れないでね」
「うん、大丈夫! 朝の10時頃、でしょ?」
ちゃんと覚えていますとも。〈アグディス〉へ行く船は3日に1回、午前中に出る。ちなみに、初日にアグディスへ行く船が出ていたので次にでるのは明日なのです。
この港街に到着した初日は観光と買い物。
2日目は菖蒲色草を採取しに入り江に。材料をそろえて菖蒲の回復薬を完成させた。
3日目の明日は特に予定がない。
4日目となる明後日は、午前中に船へと乗り込みアグディスへと行きます。
「でも、明日はどうしよう。やぱり観光、とかかなぁ?」
「この港街は騎士団があるし、治安もいいからね。街の中ならどこも安全かな」
「へぇ、騎士団があるんだ。なんだかすごいね、私が暮らしていたところはそういったものがなかったから。本の中みたいだよ」
「そうなんだ? まぁ、ひなみ様はそういう平和なほうが似合ってていいよ」
イクルにしてみれば、私が暮らしていたところなんて平和すぎて信じられないだろうな。「ありがとう」と言って、「それでも私は頑張るよ!」と、ガッツも伝えておきました。
外国はわからないけれど、日本に騎士団なんてものは今も昔もない。武士もいいのだろうけれど、やっぱり騎士団という響きのほうが格好いいなと思ってしまう。
確か花の読んでいた漫画やゲームにも騎士団が出ていたなと思えば、少し懐かしくなる。異世界にくるということがわかっていたら、もっといろいろ調べたり花と一緒にゲームだってやったのになぁ。
でも、ゲームオンチなのか……私はゲームがとても下手だった。花に勝てるのは、人生ゲームのモラル値だけだったかもしれない。
「とりあえずは、順調だから嬉しいかな。まだまだわからないことが多くて迷惑をかけちゃうだろうけど……よろしくね?」
「はいはい。あ、でも勝手に道をそれて迷子になるのはやめてよね。また隠しダンジョンなんて発見されたら、次も運よく見つけられるとは限らないんだから」
「う、うん。気をつけるよ…………! めずらしい植物が生えていても勝手に摘みに行かないでイクルに声をかける!」
こればっかりは絶対に気をつけないといけない。たぶん次に同じことをやらかしたら生きていられる気がしません。
あそこは魔物が出てこなかったからよかったけれど、次に何かあったときにも魔物がいないとは限らない。しかもこれからいくのは〈アグディス〉だ。私が今いるところよりも自然が多くて、ファンタジー度が増しそうなのです。
ドラゴンや妖精がたくさんいると、前にリグ様が言っていた気がします。
「とりあえず、今日はもう疲れたでしょ? ゆっくり休んで、明日はひなみ様の行きたいところを観光でもすればいいよ」
「うん。イクルはないのー?」
「別に。あ、でも最後にレベル上げしておきたいから今夜は出かけるから」
「む。わかったけど、気をつけてね……?」
ちょっと心配になってじぃっとイクルを見れば、大丈夫だよというように頭をぽんぽんされた。絶対子ども扱いをされているなと思いつつ、実際15歳の外見年齢なのだから仕方がないのか。いや、精神年齢をとってもイクルの方が大人びているのであれですが。
とりあえず、2人でロロを起こしに行ってご飯を食べることにした。
◇ ◇ ◇
「今日は菖蒲の回復薬を作ったから、この調子でどんどん回復薬を作ってポイントを貯めていこう」
夕食を食べてお腹がいっぱいになった私は、ベッドの上に寝転んで交換日記のページをめくる。
ここには私とリグ様の交換日記が綴られているのだけれども、不思議なことに一向にページがなくならない。魔法のかけられた不思議な交換日記なのか、小説のハードカバー程度の厚さなのに私がこの世界にきた2年以上の交換日記を読める。
普段はあまり意識をしないようにしてはいるけれど、こう考えると不思議だなとしみじみ思う。そしてそれ以上に、リグ様のすごさもわかる。
「交換日記には、無事に菖蒲の回復薬を作れたことを書いて、あとは温泉を発見したことも! 温泉って、あんまり行ったことないんだよなぁ……」
私と花が小さい頃は、たまに旅行もいっていたけれど。中学生、高校生になればテストや習い事やらでなかなか機会がなかった。そしてそのまま花が病気になり、それ以来1度も旅行には行っていない。
もう少し姉妹でいろいろなところへ行きたかったなと思いつつも、花が生きているという事実が1番だからあまりわがままは言ってはいけない。
「リグ様は、旅行とか温泉には行くのかな? 神様だから、そんなことはしないのかなぁ……?」
ふと疑問に思う。
ほら、日本には確か神様がいっせいに集まる日があったような気がする。だから神無月があるとか。駄目だ、あまり勉強していなかったからわからないや。
とりあえず日本にはたくさんの神様がいるということ。神様同士で仲良く温泉旅行をしているかもしれないと思いつつ、リグ様は和風より洋風が似合うなとなんとなく思った。
そんな温泉事情を伺った日記を書き終えて、交換日記を1度パタンと閉じる。そしてもう1度1ページ目を開いて現状の確認を行う。
この交換日記の1ページ目には、私がこの異世界で生活するために必要なポイントなどの情報が記載されている。
現在のポイントと交換出来るもののリスト、ポイント取得方法が載っている。
ちなみに、今欲しいものは箱庭の扉の増築なんだけれど。そう思って内容を確かめて溜息がもれる。
【交換日記】 =3ポイント加算
【菖蒲の回復薬調合:上位】 3×1個 =3ポイント加算
【鉢植え:小】 1
【鉢植え:中】 10
【鉢植え:大】 20
【野菜の種セット】 10
【果物の種セット】 10
【ハーブの種セット】 10
【小麦の種】 50
【稲の種】 100
【レンガ:1個】 5
【噴水 - バージョンアップ】 2,000
【テラス席セット】 3,000
【瓶:100個】 3
【部屋】 50
【お風呂 - 増築】 5,000
【部屋 - 増築】 2,000
【部屋 - 増築】 2,000
【部屋 - 増築】 2,000
【屋上 - 増築】 10,000
【地下室 - 増築】 30,000
【調合室 - 増築】 15,000
【箱庭の扉 - 増築】 100,000
【所持ポイント:2,563】
「箱庭の扉を増築するには、100,000ポイント必要で、現在のポイントが2,563? ということは、ええと、菖蒲の回復薬を1個作ると3ポイントもらえるから、ええと……?」
いったい何個の回復薬を作ればいいのかと頭で計算をして。……計算をして。
足りないポイントは、100,000-2,563だから97,437ポイント。
「………………つまり菖蒲の回復薬だと、あと32,479個も作らなきゃいけないってこと……!?」
そんな馬鹿な! 思わず心の中で絶叫してしまった。そんなに作っていたらそれこそ過労で死んでしまうではないですか。
「あれ? でも、姫の加護薬は1個につき5ポイントだったはず! ここで思い出すなんて、さすが私……!」
ちょっと希望が見えてきたぞ。姫の加護薬だって、作る分の手間は菖蒲の回復薬とさほど変わらない。
97,437ポイント足りなくて、姫の加護薬は1つ作ると5ポイントもらえるから、ええと。
「19,500個くらい…………?」
なんだかもう、この桁になるとそんなに変わらない気がしてきました。だって1万個以上回復薬を作らないといけないんだよ。スキルの唱えすぎで声が枯れてしまうに違いない。
そんなことをふと思えば、交換日記が淡く輝いて交換できるものの一覧が更新された。
【鉢植え:小】 1
【鉢植え:中】 10
【鉢植え:大】 20
【野菜の種セット】 10
【果物の種セット】 10
【ハーブの種セット】 10
【小麦の種】 50
【稲の種】 100
【レンガ:1個】 5
【噴水 - バージョンアップ】 2,000
【テラス席セット】 3,000
【瓶:100個】 3
【部屋】 50
【お風呂 - 増築】 5,000
【部屋 - 増築】 2,000
【部屋 - 増築】 2,000
【部屋 - 増築】 2,000
【屋上 - 増築】 10,000
【地下室 - 増築】 30,000
【調合室 - 増築】 15,000
【箱庭の扉 - 増築】 100,000
New!【無詠唱】 50,000
【所持ポイント:2,563】
「…………え?」
何が追加されたのだろうと思えば、無詠唱。
でも、なんでいきなり…………? そもそも、無詠唱とはなんだろうか。しかしそれよりなによりも、ポイントが足りません。
「詠唱を無、だから、詠唱がいらないっていうことかな? 確か、魔法を使うときにシアちゃんとかが詠唱をしてた気がする」
あの、少し恥ずかしくて口に出すのには勇気がいる文章のことだよね? 私は魔法……というよりスキルだから必要がなさそうだけれども。それとも、スキル名も言わなくていいということなのだろうか。
確かに、なんとなく、心の中で声が枯れるしなと考えていたような気はするのだけれど。あれー? と考えていれば、ベッドの上で開いていた交換日記がぱらぱらとめくられて最後のページを開いた。
どうやら新しくリグ様からの返事が書いてあるようだった。
「ええと……『この交換日記のポイント交換リストは、ある程度のものであればひなの意思を反映してくれるよ。でも、ひなはあまりものを欲しいと思わなかったみたいだからあまり反映されたことはないけど』、と」
この交換リストにそんな秘密があったなんて。
あ、でも。そういえば可愛いティーカップが欲しいなと思ったときは翌日に一覧にあったような気がする。きっとティーカップはある程度のものなんだろうな。
もちろん、無謀なものはリスト反映されない。確かに、戦車とかがあれば森を突っ切って街にいけるかなと思いながら触れていたこともあったけれど、戦車は交換リストに反映されなかったなと思い出す。
うーん。いまいちどれがある程度なのかはわからないけれど、また何か欲しいものがあったときは考えながら交換日記に触れてみようと思います。




