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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
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21. 新しい回復薬 - 3

 宿屋の部屋に備え付けられた小さな机に、摘んできた菖蒲色草を置く。それから姫の花に、瓶に入れてもってきた魔力水と魔力石の粉。

 材料を机の上において、はてと違和感を感じた。



「……あれ?」

「どうかしたの?」



 椅子に腰掛けていたイクルが、私の上げた疑問符に反応した。



「いや、材料が……?」

「ん? あぁ、魔力石の粉じゃなくて魔力石だったね」

「ということは、菖蒲回復薬(アイリス・ポーション)が作れないってこと?」



 うわ、ショックだ……!

 すっかり失念してしまっていたけれど、私が持ってきたのは魔力石の粉。つまり、魔力マングローブの砂利とでも言えばいいのだろうか。そこから小さくても石ころをもってくれば、と。過去の自分を悔やんでも悔やまれない。



「まぁ、魔力石なら街で売っているとは思うけど。でも、近々に必要っていうわけでもないし、保留にしておけば?」

「ええぇぇ……それはほら、なんとなく気分的に駄目だよ。街に売ってるなら見に行こう!」



 あまりにも高かったら考えますが、とりあえず見に行く分には無料です。イクルも「わかった」と頷いてくれたので、入り江探索で少し疲れた身体を再度動かすことにした。

 ロロはどうしようかなと、部屋を覗いてみればベッドですやすやと気持ちよさそうにお昼寝タイムをしていたのでそのまま寝かせておいてあげることにした。







 ◇ ◇ ◇



「魔力石? あぁ、あるぞ。10,000リルだ」

「いちまん……!」



 イクルと一緒に街へでて、向かった先は魔法道具屋さん。

 1件目には売っていなくて、2件目でやっと見つけることができた魔力石。がっしりとしたお店のおじさんが、私へ「見てみろ」と魔力石を差し出してくれた。大きさは野球ボールくらいで、そんなに大きいというわけでもない。

 そしてお値段は、そこそこお高い10,000リル。いやいやいや、さすがにこれは高すぎると思う。お金はあるにはあるけれど、あまり使わないにこしたことはない。



「どうする?」



 私が悩む横で、返事を催促してくる店主。

 きっと私のような小娘が買うわけないと、この店主も思っているのだろう。舐められているのはしゃくだけれど、今の私は15歳なのでいたしかたないところもある。

 うーんとうなれば、イクルが「いらない」と店主に告げた。



「えっ? イクル?」

「少し、試したいことがあるんだけど……とりあえず行こう、ひなみ様」

「う、うんっ?」



 言うが否や、イクルは私の手を引いて魔法道具屋を後にした。

 どうしたのだろうと思いイクルを見るが、どこか目指しているようで無言だ。いったいどこに行くのだろうと考えて……まさか魔力石の採取でも行うのだろうか?

 このような街付近にはないと聞いたけれど、イクルにはあてがある? とりあえずついて行ってみるしかないので、私は黙って手を引かれることにした。



 5分程度歩いて、小さな広場へとやってきた。噴水とベンチがあり、花を植えた花壇が備え付けてある。

 日本では公園があるけれど、この世界には公園がない。そのため、こういった広場が各街や村に何箇所かある。

 イクルはおもむろに草木が生えている広場の端へ行き、しゃがみこんだ。



「イクル、何を……?」

「あぁ。ここで説明するのもあれだから、とりあえず……よし、帰ろうか」

「う、うん?」



 どうしてイクルはあんなものを拾ったんだろう。そう疑問に思いつつも、私はイクルに言われた通り宿屋へと帰ることにした。

 ロロが起きてしまって私たち2人がいないと不安になってしまうかもしれないし。そういえばロロは何歳なんだろうと思いつつ、無邪気な感じを考えると私よりは年下かなぁ?

 イクルは確か19歳で、日本で言えばまだ成人前。どうしてこんなに大人びているのだろう。いや、この異世界の人たちは総じて精神年齢が高いと思う。

 それはきっと生活環境のせいで、日本で平和に過ごしていた私とは次元が違うのだろう。バイトで忙しい毎日だったといっても、たかがバイトだ。なんの責任を負うこともできない、学生バイト。ここで暮らしている人に比べたら、責任感なんて天と地ほどの差があるのではないだろうか。



 っと、いけない。これから頑張ればいいと自分に言い聞かせて、イクルと一緒にいつのまにか着いていた宿屋の部屋へと足を踏み入れた。

 机の上には出したままだった菖蒲色草と、姫の花。それから  魔力水と魔力石の粉が入った瓶。


「……で、何をするの?」

「うん」



 こてんと首をかしげて、イクルが何をするのか見ていればさきほど広場でイクルが拾った小石をコップにいれて、そこに魔力水を注ぎ込んだ。

 もしかして、広場で拾った小石を魔力石にするつもりだろうか?



 小石が隠れる程度に魔力水を入れて、それをイクルがこちらに差し出してきた。どうしようと思いつつも、それを受け取って中を覗き込んでみる。

 変哲のない小石と、魔力水、です。



「ええと、これで魔力石になったの?」



 おそるおそる考えていたことを聞くが、魔力水に浸したからといってそんなにすぐに魔力石になったりはしないはずだ。でも、イクルがそれを知らないはずもないし。

 そう考えて、どういうつもりなのかイクルを見れば呆れた顔をしていた。



「スキルだよ、ひなみ様」

「スキル?」

「そう。天使の歌声(サンクチュアリ)を使えば、おそらく短時間で魔力石に変化するはず」



 なるほど……!

 それはまったくの盲点だった。イクルはよくそんなことを思いつくなぁと感心しつつ、私はそっと指先で小石に触れる。でも、魔力石になったのかどうかの判断はどこで行うのだろう?

 魔力マングローブにある石は、魔力石のはずだがとくにこれといって普通の石との違いはない。でもまぁ、その時は材料を並べてスキルを使って魔力石か普通の石かの判断をすればいいかな?



「ようし。……《天使の歌声(サンクチュアリ)》」



 瞬間、ぱぁっとコップが光り輝いて……特に何も起こらなかった。



「…………《天使の歌声(サンクチュアリ)》」

「ちょ、ひなみ様!? もう魔力石になってるから大丈夫だよ」

「え、ええぇっ!? そうなの? ぱっと見た感じ普通の石だよ? さっきとどこが違うの?」



 本当、普通の石だよ? 特に変化は見られないというのに、イクルはきっぱりと魔力石になったと言った。私には普通の石と魔力石の違いがわからないけれど、イクルにはわかるようだ。



「魔力、だよ」

「まりょく?」

「そう。魔力石は、普通の石とは違って魔力をもってるんだよ。だから、魔力の有る無しで判断することができるんだ」



 ぽかーん。と、私は間抜けに口を開けていることだろう。

 石がもっている魔力を感じる? どうやって……? 私は魔法の杖をもらったらすべてを理解して魔法少女に変身したりできません。つまり詳細に細かく教えてもらわなければ、普通の石と魔力石の見分け方だってわかりません。

 イクルさん、やり方くらいわかるでしょ? っていう顔で私を見ないでください。……と、思っていれば何かを察したらしいイクルさんはいつもの呆れ顔になられてしまった。



「いや、慣れればすぐに判断できるけど……ひなみ様はこういったスキルや魔法のない世界から来たんでしょ? 俺が見るから、ひなみ様はどっしり構えてればいいよ」

「うぅ、ごめんね。さっぱりわからないよ。……でも、今度教えてくれたら嬉しいな?」

「ん、わかったよ。家にもどったら教えてあげる」



 私がしゅんとした顔をしてしまったため、イクルがフォローをしてくれたので少し持ち直した気がする。「ありがとう」と伝えて、家に帰る楽しみができました。

 はっ! でも、間違ってもまろのスパルタモードに移行したりしないように細心の注意を払わないと。イクルにはこっそり教えてもらうようにしよう。



「とりあえず、回復薬(ポーション)を作ってみれば?」

「あ、そうだね……! うっかりまろのせいで忘れるところだった」

「…………?」



 なんとなくイクルが微妙な顔をしているけれど、私は見なかったことにした。なんだかんだで、イクルとまろの仲が微妙なのはかわっていないのです。

 でも、まろはイクルになついているし。イクルは割りと無関心というか、こういうドライな性格のため仲が普通に成り立っているというこの不思議。



「ようし……じゃぁ行くよ! 天使の(サンク)

「ちょ、ひなみ様! ストップ!!」

「えっ!? ど、どうしたのイクル?」



 スキルを唱えようとした瞬間、イクルから待ったの声がかかる。普段より少し慌てた声で、いったい何が……私は何かやらかしてしまったのかと不安になる。

 まさか前回のアルフレッドさんのときみたいに……はっ! わかった、そこにロロが……! あれ、いないぞ?

 きょろきょろと室内を見てみたけれど、特に私とイクル以外に人はいない。もちろんスライムもいない。加えて言えば動物類もいないように思う。

 となると、いったいなぜストップがかかってしまったのだろうか。



「ええと?」

「綺麗さっぱり忘れているね……姫の花、スキルで増やすからそんなに量を持ってきてないでしょ?」

「あっ! そうだった……!!」



 すっかり失念してしまっていた。

 姫の花は、3輪しか持ってきていないのだった。うっかりで1輪を消費してしまったら、道中なにかあったときにきっと困ってしまう。

 イクルが鞄から土が入った袋を取り出してくれたので、私はその土の中へ姫の花を埋めいれた。こうすれば、スキルで姫の木を育てて花を採取することができるのです。



「《天使の歌声(サンクチュアリ)》」



 姫の花を埋めた土に向かってスキルを発動すれば、そこから観葉植物程度の姫の木が生えた。

 今回の旅をするにあたり、イクルと一緒に少し実験をしたのです。植物はどの程度成長をするのか、ということを。

 スペースに制限がない庭では、私のスキル具合。ここが難しいのだけれど、大声とか小声とか、そういう問題ではない。私がどれくらい育って欲しいとか、そういった目に見えない“想い”を乗せてスキルを使うと結果結果が左右される。つまりは、私の感情しだいということなのです。

 そして、スペースに制限がある場合。例えば植木鉢とか、今回やってみた袋に土とか。この場合は、普通にスキルを使えばスペースサイズにあった成長をしてくれる。ちなみに、爆発的に育つといけないのでスペース制限があるときに感情を込めてスキルを使ったことはありません。

 不安なことはしない、これいいことです。



「うん、いい感じに育ったね」

「これで菖蒲の回復薬(アイリス・ポーション)を作ることができるね!」



 姫の木になった姫の花を摘んで、他の材料が置いてある机に一緒に並べる。それを見たイクルが、ついでとばかりに魔力水の中に小石を追加で投入してくれた。

 1度のスキルで回復薬(ポーション)と魔力石を作ってしまうというお得な作戦なわけです。さぁ、このまま《天使の歌声(サンクチュアリ)》を使って一気に……!

 そう思うと、途端に心臓が早鐘のように鳴り響いた気がした。



「やばい、どきどきするよ!」

「何さ、いきなり……」

「だってだって。新しい回復薬(ポーション)だよ! 魔力回復系は3種類目だから、きっと上級カテゴリーだよ。だからポイントは、確か、そう! 3ポイントだよ、すごい!」

「え、あ、そうだね……でも、姫の加護薬は5ポイン、いや、何でもない」

「?」



 肯定してくれたイクルだけど、その後に続いた言葉は小さくて聞き取れなかった。何でもないと言うけれど、どうかしたのだろうか。

 とりあえず、問題はなさそうなのでそれは置いておくとして……さて。



「じゃぁ、いくよ?」

「はいはい、どうぞ」

「イクルは相変わらずクールだね。私はこんなにどきどきしてるのに。まぁいっか…………《天使の歌声(サンクチュアリ)》」



 瞳を閉じて、息をひとつはく。

 そして私はスキルを唱えて……新しい回復薬(ポーション)である菖蒲の回復薬(アイリス・ポーション)を1つ作り上げた。



 魔力石が1つだったので、今回出来た菖蒲の回復薬(アイリス・ポーション)は1つ。

 ほかの回復薬(ポーション)と同じサイズの瓶で、紫色の液体が入っていた。瓶に模られていたのは、とても可愛い三日月だった。

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