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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
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4. まろの宝探し

 射抜かれそうなほど真剣なイクルの瞳に、飲み込まれた気がした。

 いつもはあまり関心がなく、無表情でいることが多いイクル。

 そんな彼が見せる、どきりとするような表情。



「……理由を、聞いてもいいかな?」



 私はレティスリール様の石碑に書かれていた文字が読めた。それはもちろん、日本語だったから。

 この世界に生きる人誰もが読めない、文字。

 レティスリール様が書いたのか、それとも違う第三者が書いたのかはわからない。ただ、私が読めると言う事実だけがあった。



「あのときにも言ったけど、ひなみ様はまろを信用しすぎだ」

「イクルは、まろを疑ってるの……?」



 それに、イクルの言う“あのとき”とはいつのことを指しているのか。

 しばし考えて、一番最初に精霊化したまろと出会ったときのことを思い出した。

『というか、まろ。タイミングがよすぎて怪しいんだよね。カミサマの手先なんじゃないの?』

 確かイクルは、まろにこう言ったはず。ということは、未だにまろを疑っているのかな?



「イクルは、まろが神様の手先だと思ってるの? それなら、大丈夫。あの石碑の文字は、私の国の文字。だから、私が読めることは神様も知ってるよ」

「ひなみ様の国の文字? そうなんだ。でも、カミサマってやつじゃなくても可能性はある。ひなみ様は、自分が薬草の栽培をできることや最高品質の回復薬(ポーション)を作れることをもう少し自覚しなよ」

「むむ。私の能力を狙って、誰かがまろをスパイとして派遣したってこと?」



 まさかそんな、ドラマや映画じゃあるまいし。

 スパイとなると、他国の人かな? この森に引きこもっていたので、やっぱりそれは考えすぎだと思うのです。



「ないない、そんなこと。それに、まろは“雪うさぎ”なんだよ? すごい希少なんでしょ?」

「まぁ、ね。だからと言って、可能性がゼロではないでしょ。他国はもちろん、ギルドだって……世界には、自分が予想できない規格外の奴がいるんだよ。もちろん、ひなみ様も規格外だ」

「規格外……」



 イクルに規格外認定をされてしまった。まぁ、いいよ、認めるよ。だって神様にいろいろ加護をいただいてるから。

 しかし、それとまろとは別問題。たしかにまろも規格外と言えば規格外なんだろう。

 ちらりとイクルを見れば、まだ真剣な瞳。うーん……ここは、私が折れるしかないか。



「まろの疑念が晴れたらちゃんと信じてくれる?」

「……そうだね、そのときは何も言わないよ」

「わかったよ、イクル。まろには内緒にする……これでいい?」



 観念して両手をあげつつ伝えれば、イクルはコクリと頷いた。

 そして、そのとき、どうしてか、ありえないほどにタイミングよく。



 ドンドンドンドドン!!



「ひーなーみーぃー!!」



 まろの寂しそうな叫び声が、大音量のノックとともに耳に入った。

 そうだよ、まろが部屋にたずねてきてたんだった……!



「ごめんまろ!」



 慌ててドアを開けば、まろが私に突っ込んできた。しっかりと受け止めて、しかしその反動のせいで恋人同士のようにくるくる回ってしまった。

 横ではイクルが「何やってるのさ」と呆れ顔。うぅん、あっという間にいつものイクルです。



「イクルがいる!」



 はっとして、まろがイクルに突撃。しかし私のときのようにくるくる回ることはなかった。なぜならイクルが華麗にさっと避けたから……。

 まろはそのまま勢いあまって壁にぶつかり、「痛い」と言いながらおでこを抑えている。

 まぁ、大丈夫だとは思うけれど、壁まで行き回復薬(ポーション)をまろに渡してあげる。



「ありがとうなのであるっ! って、ひなみ!」

「ん?」

「イクルと2人で部屋にいるなんて、何してたのである?」



 大きい声でお礼を言われ、そのごまろが小さく耳元でささやいた。

 何をしていたって……まさかまろにスパイだと疑いをかけていました、とも言えない。どうしよう、まろになんて説明をすればいい……?

 困りつつ、イクルにどうしようと視線を送れば……そこにイクルの姿はなかった。



「あれ、イクル?」

「イクルなら今さっき下に行ったのである。たぶんご飯の準備?」



 助けを求めたイクルはいない。きっと面倒は嫌の精神で逃げ出したに違いない。



「それで、イクルと何してたの?」

「別に何も……今後のことを話してただけだよ?」



 若干苦しい言い訳であるが、嘘ではないからきっと大丈夫のはず。

 と、私は思っていたんだけれど、まろの関心は違うところにあったみたいだ。



「いちゃついてたんじゃないのであるっ?」

「……えっ!?」

「む。その反応は何もなかったようなのである……」



 ま、まろがませている…!?

 不意をついた問いかけにどきりとしつつ、イクルとはまったく何もないのです。続けて「気になる男性()いない?」と問いかけられて、ちょっと困る。

 私には恋愛をしている暇なんてないのですよ! いや、日本でも彼氏ができたことはなかったけれど。



「ほら、ご飯にしよう!」

「ごまかしたのである!」



 ごまかしてないのにっ!

 でも、まろはおなかが空いていたのかリビングへ突撃していった。相変わらずパワフルだなぁ。

 ……気になる(男性)、かぁ。不意に脳裏に誰かが浮かびそうになって、急いで頭を振ってそれを払う。

 さて、ご飯にしましょう。







 ◇ ◇ ◇



「あったああああぁぁぁぁぁ!!!」

「「!?」」

『クエッ!』



 私が庭でモーのブラッシングをしていれば、庭のすみで穴を掘っていたまろが大声を上げた。動物小屋の中にいたイクルが様子を見に出てくるほどの大声だった。

 木にとまっていた鳥たちがあわてて逃げて、魔力マングローブで水を飲んでいた鳥は驚いて水の中に落ちていた。あわてて助けようとしたが、自力で這い出て身体をばさばさしている。



「まろ、宝探し中だっけ。何か見つかったのかなぁ……?」

「まだそんなことしてたんだ」



 のんびりまろのほうへ歩いていけば、後ろからイクルもついてきた。

 まろがいるであろう地点へ向かい、まろが掘った穴を覗かないと。いったいどれほどの深さの穴を掘ったのか、私がいた地点からではまろの姿を確認できなかった。

 たしか掘り出してまだ1時間ほどしかたっていなかったはずなのに、おかしいくらいのスピード穴掘りだ。

 しゃがんでそっと穴をのぞけば、その深さは……まろの倍以上ある。



「これって、埋めるのも大変そう。まろー?」

「ここであるー!」



 うん、そこにいるのは知ってるよ?

 手をぶんぶんと振っていて、太陽のような超絶いい笑顔をしていた。

 その手には何か持っていて、きっとそれがまろの掘り当てた宝物なんだろうと予想がついた。手にしたそれは、きらきらと輝いた芋だった。

 …………芋? 思わず2度見してしまった。



「まろ、それなに……?」

「芋なのであるっ!」



 うん、それはわかった。見た目は、きらきらしているサツマイモなんだけどなぁ。この世界特有のレア食材とかなんだろうか?

 そんな期待をこめてイクルを見れば、とてつもなく驚いた顔を……してはいなかった。



「ずっとその芋を探してたの? すごい食い意地だね……」

「イクル、あの芋しってるの?」

「あぁ、ひなみ様は知らないのか。あれはサツマモっていう芋で、食べると空を飛ぶことができるんだよ」

「えええぇっ! 何それすごいー!!」



 食べると空を飛ぶ! まったく原理はわからないけれど、凄いことだけはわかります。

 でも、それをあれだけ必死に探していたってころは、まろは何か空を飛びたい理由でもあるんだろうか。でも、理由が無くても空を飛ぶのとか割と憧れちゃう……かなぁ。



「ひなみ、焼いて食べよう! 焚き火するのであるっ!」

「ええぇっ! わ、わかった……! イクル、焚き火しよ!」

「俺はお店があるからいいよ。まろと2人でやりなよ」



 さっとその場を後にしてしまったイクルの背中には、はっきりと面倒と書いてあったような気がしますがきっと気のせいでしょう。きっと。

 まぁ仕方ない。こうなったらまろと2人で見事な焼き芋を作ってみせましょう。

 穴に入ったままのまろをひっぱりだして、落ち葉を探す。あまり落ちていなかったので、こっそり体力草を混ぜてみたりした。まろ曰く、体力草で焚き火をしてそこで包み焼く? と、普通に焼くよりも栄養の減りが少なく体にいいとのことだ。ちょっとした豆知識だけど、薬草は貴重なので実践する人はいないらしい。

 集めた落ち葉と体力草を、今までまろが入っていた穴へと落とす。そこに火をつけて、焼き芋を焼くのです。そうすることにより、煙が穴の中に充満して浮遊効果が高まるとはまろの言葉。



「おいしくなぁれ〜!」

「楽しみだねぇ」



 火をつけた落ち葉に、まろと私でサツマモを投げ入れる。たちまち落ち葉の中に沈み、火に包まれる。

 あれ、これ焼けたとしてどうやって取り出すんだろう? いや、きっとまろには作戦があるに違いない。間違いない。きっとそうだ。

 隣のまろを見れば、目をらんらんと輝かせて穴を覗いている。そして煙が目に入ったらしく、「痛いのであるっ!」と飛び跳ねた。

 まろ、実は結構ドジッ子っていうことは知ってるよ……。



「あぁもう、酷い目にあったのである!」

「大丈夫? 水で流してきたら?」

「んーん、平気なのであるっ! それよりも、芋を取り出すときがきーたー!」



 ん?

 まだ芋をいれて2分程度しか経っていないはず。これではまだ生焼けだと思うんだけど、この芋はあまり焼かずに食べるものなんだろうか……?

 うーんと首を傾げていれば、まろが右手を上げて、穴の中を睨みつけた。



「まろ?」

「闇夜よりも冷え、太陽よりも優しく包め…… 《雪の花吹雪スノウブロッサム・シャワー》!」

「!!」



 突然の詠唱に驚きつつも、まろが魔法を発動したということだけが認識できた。いきなり何をするのかと身を構えれば、まろは雪魔法を穴の中の焚き火に向けて放った……!

 一瞬にして庭の温度は下がり、静かに雪の結晶が舞った。そっと手を出せば、ひらりと雪の結晶が乗ってきた。目に見える程のそれは、3㎝程の大きさだろうか。それは私の熱で一瞬で溶け、水になった。



「まろすごい……! 雪魔法って、こんなに綺麗なんだね」

「ふふん、もっと褒めるのであるっ!」



 どやっとした顔で、ふふんと胸を張っているまろ。とはいえ、私よりも小さいまろがしているので可愛いだけだよ……! 思わずぎゅっと抱きしめてしまいました。と思えば、まろもぐりぐりと顔をつけてきた。うぅん、やっぱりまろがスパイだなんて、考えられないよ。



「さて、食べるのである!」



 まろが凍らせた焚き火から芋を取ってくれて、1つ受け取る。というか、あれだけ雪まみれにしたから凍ってると思ったんだけど……すこし冷めてて逆に持ちやすかった。

 きらきらしていた芋、もといサツマモは、焼けたにもかかわらずその輝きは失われていなかった。それどころか、雪の結晶がまざったためか、太陽の光りにも反射してとても綺麗だった。

 2つに割れば、なかはサツマイモとまったく同じ黄色の美味しそうな芋だった。外程冷えていなく、中からは湯気が出ていてちょっとかなり美味しそう!

 食べようとして、口へ運ぶがすんでのところで手が止まる。これ、食べたら空を飛べる……というか、勝手に浮いてしまうんだろうか。それとも、自分の意志で自由に飛ぶことが出来るんだろうか?

 ちょっと怖いなぁと思いつつまろを見れば、いない……?



「ひなみも早く食べるのである〜っ!」

「ちょ、まろ飛んでるー!!」



 いないと思ったら、まろは空中にいましたよ!

 特に外見的には変わりなく……どういった原理で空を飛んでいるのかまったくわからない。

 しかし、女は度胸だ! ぱくりとおおきく齧り付けば、強烈な甘みが口の中を襲う。あぁ、これが幸せというんだろう……それほどに、このサツマモは甘くて、甘くて、優しい味がした。

 ふわりと、私の足が地面を離れる。唐突に浮く訳ではなく、ゆっくり、優しく……正直かなり安心しました。



「ひなみも浮いてる〜!」

「まろも浮いてる〜!」



 なんだかちょっと楽しくなって、まろと2人で笑ってしまった。



「あ、これひなみにあげるね!」

「えっ? サツマモ! でもこれ、まろが一生懸命掘った宝物だよ?」

「いいのである。ひなみはなんだかおっちょこちょいだし、もしものために持っておくのである! 迷子になっても齧って飛べばオッケー!」



 ちょ、なんだか聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がしますが……素直にお礼を言って受け取った。まろが言うには、このサツマモは生でも食べれるらしい。先ほど焼いたのは、単純に焼いたほうが美味しいから……らしい。

 うん、なんだか、楽しいね! 空を飛んだのだって初めてだし。

 まだふわふわと浮いている私とまろ。どうやらこれはちょっとばたばたすれば、そっちの方向へ進むことが出来るようだった。



「ようし、まろ! このままイクルのところに突撃だー!」

「突撃なのであるっ!」



 異世界の芋、すごいです。

 今日の日記で神様に報告しようと思います!

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