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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
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2. レティスリール

 私の目の前には、いつも通り…あきれ顔のイクル。そしてその横には、にこにこしているまろ。

 朝食を食べ終わり、お茶を飲みながら夢の話をした。



「夢で女神に会うとか、ひなみ様寝ぼけてたんじゃないの?」

「ひなみはおもしろいねぇ〜!」



 下の方が濃い緑のさらさらの髪で左目を隠し、優雅にお茶を飲むイクルは相変わらず手厳しい。体のラインが分かるすらりとした服に身をつつみ、「疲れてるんだよ。今日は寝てたら?」と、一応は気を使ってくれているようないないような。

 まろは小さくお団子ヘアで、今日は庭で宝探しをすると張り切っている。



「そうかなぁ。何かあるような気がしたんだけど…… やっぱり夢かなぁ?」

「そうだよ。洗い物とかはしておくから、もう少し部屋で休んでなよ」

「うーん…… そうだね、本も読みたいし。今日は甘えちゃっていいかな?」

「まかせるのであるっ!!」



 2人の優しさに甘えて、今日は本を読んで本の精霊さんに会いに行くプランを立てる。とは言え、本の精霊さんの居る本屋さんはこのお店のお隣さんなんですけどね。

 さて、部屋に戻って精霊さんがくれた《僕の本》を読みますか!





 ◇ ◇ ◇



 昨日と同じ様にベッドへ腰掛け、眠気防止の為に窓を開けて空気を入れ替える。少し肌寒くなって来た今の風は、少し冷たくて。膝にブランケットをかけてみれば、それはとても心地良くて睡魔に負けてしまいそうな気になった。



「書き途中になってしまったけど… 交換日記を見て精霊さんの本を読もう」



 机に置いておいた交換日記と、本棚から《僕の本》を取り出して一息つく。ベッドサイドにある小さな机に暖かい紅茶を置いて準備は万端。

 おそるおそる交換日記をめくれば、神様から一言…「ちゃんと休むこと」とお返事が来ていた。申し訳ないです。今日は早く交換日記を書いて眠ろうと心に誓っておく。そして、精霊さんのくれた《僕の本》はと言えば、可愛らしい絵本だった。



 - - - - - - -


 ぼくは ほんのせいれい


 ひっそりと しずかなせかいで うまれました

 もとは めがみさまの にっき

 めがみさまの おもいが ぼくをせいれいにしました


 いっしょにわらって

 いっしょにないて


 ぼくは いつも めがみさまといっしょ


 でも


 ぼくは いちにんまえになるために たびにでることになった

 めがみさまと はなればなれ

 ほめてもらえるように つよくなるよ!


 - - - - - - -





「あ、思ってたより短かった。全部ひらがなでちょっと読みにくいけど…」



 つまり、は。

 女神様の日記帳から本の精霊さんが産まれて、いつも楽しく過ごしてた。そして今は強くなる為に旅をしている…ということだろうか。うん、多分そんな感じだと思う。



「挿絵も描いてあって可愛いなぁ。このぴんくでふわふわした女の子が、レティスリール様かな…?」



 ん?

 ぴんくで、ふわふわした、女の子?



「夢で見た少女だよ!!!!」



 思わず大声を上げてしまった。

 この本の挿絵の女の子、夢に出て来た儚い美少女レティスリール様にそっくりじゃないですか! 驚いて本を3度も見返してしまった。でもでも、これってあの夢が本当(現実)ということだよね。ちょっと自分の鼓動が早くなるのを感じて、でも、どうしたら良いかわからなくて。

 とりあえずイクルに突撃することにした。



「いくるいくるいくるー!!!」



 ダッシュで階段を下りて、2階にある自分の部屋から1階のリビングへと向かう。しかしイクルは見当たらない。庭を見れば……まろがスコップで何やら穴を掘っているが、イクルの姿はどこにも無い。



「ということは、お店だっ!」



 イクルが無断で出かけることは無いので、家に居ない時は長時間お風呂にこもっているかお店のどちらかなのですよ! リビングからお店に繋がるドアを開け、つなぎの間を抜けて、勢いよく……開けると怒られる恐れがあるのでゆっくりとお店への扉を開ける。



『それはいいぽ! イクルはどうなのぽ?』

「俺はひなみ様の護衛だからね。そんなに森へは行かないかな」



 あれ? お客様かな?

 でも…この独特のしゃべり方って…もしかしてもしかしなくても!



「スライムさん!」

『あ! こんにちはぽ〜! 遊びにきたぽ!!』

「いらっしゃい! イクルも店番ありがとうね」

「休んでなくていいの?」



 やっぱりスライムさんだった。あいかわらずぽよぽよしているのです。イクルとは普通に話していたけど、いったい何を話していたんだろう。森へ行くとかいかないとか?



「うん。体は大丈夫だよ。イクル、スライムさんと仲良くなったの?」

「ん、別に… 近くの森で取れる薬草や鉱石を聞かれたから、教えてただけだよ」

「そうだったんだ…行く時は気をつけてね!」

『ありがとうぽ!』



 きっと冒険者の人と一緒に行くんだろうな。安心だとは思うけど、気をつけるにこしたことはないのです。それにスライムっていうと、やはり弱い魔物なイメージなので。ゲームでは雑魚敵として出て来るよね? 花がやっていたゲームに出て来ていたから知っているのですよ! まぁ、私のゲーム知識といったらそのくらいしかないのですけれどね。



「それはそうと、慌ててどうしたのさ?」

『何か事件ぽ?』

「あ、そうだった…! イクル、この本見て!!」



 ばっと、手に持っていた本を自分の前で大きく開いてみせれば、イクルの頭にはてなマークが浮かび微妙な表情をされた。そうですよね、いきなり奇怪な行動をとって大変申し訳ありません。しかし、私が説明を使用とする前に足下から声があがった。



『レティスリール様ぽ〜!』

「「えっ?」」



 思わず私とイクルの声がはもり、目線を下げてスライムさんに注目する。え、何々、魔物はレティスリール様のこと知ってるの? それともこのスライムさんが特殊なのだろうか…??

 思わず絵本を見て、スライムさんを見る。きっと私の顔に何で知ってるの? と、書いてあったんだろう。スライムさんが、『家の近所に、レティスリール様の壁画があるぽ』と教えてくれた。



『とは言っても、色はついてないからその本の女の子と一緒かは分からないぽ。でも、そっくりぽ〜!』

「そうなんだ…教えてくれてありがとう! その壁画って、私も見に行くことは出来るかなぁ?」

『オッケーぽ!』



 壁画が、レティスリール様が見たい! そう頼み込めば難なくOKを貰うことが出来て一安心。でも、この世界にも壁画があるんだ。大昔の物が発掘されたりしたのだろうか? それとも、最近書かれた絵みたいなものなのだろうか。色々なパターンが頭に浮かびつつも、実物を見てみないと何とも言えないか。

 スライムさんの家が近所だといいんだけど、歩いて遊びにいけるかな? いや、冒険者さんの家…というのが正しいのかな? とりあえず、今日行けるか聞いてみて、可能であればすぐにでも向かいたいところです。だって、やっと手に入れたレティスリール様の手がかりです!



「いつだったら見に行けそうかな? 今日行けたら嬉しいけど…どうだろう?」

『もう家に帰るだけだから、一緒に来たらいいぽ!』

「本当!? ありがとう!!」

「疲れてるんだか元気なんだか…… じゃぁ、俺も支度するよ」



 顔にやれやれという文字が書いてありますよ、イクルさん。それでも、すぐに準備に取りかかってくれるのはとても助かる。呪奴隷の立場なので、そうせざるを得ない…ということはあるのだろうけど、叱るときはきっちりお説教をして来るイクルさんです。嫌という訳ではないのだろう。

 スライムさんには少しお店で待っていてもらって、私はいったん部屋へ鞄を取りにいく。イクルは持っていく物は特にないので、お店の片付けをして閉店にする。裏通りのお店だと営業面が楽で良いです。



「とと… まろ、ちょっと出かけてくるよー!!」

「ひなみ! わかったのである!!」



 庭で1メートル弱くらいの穴に入っているまろを見て声をかければ、ぶんぶんとスコップを振り回しながら良いお返事をいただいた。というか、まろさん…いったいどんな宝を庭で探しているの?

 近くまで行って穴を覗いてみるが、特に何もない。



「ねぇまろ。いったい何を探してるの?」

「んふふ。みつかるまで、ないしょー! なのであるっ!」

「そっか。じゃぁ楽しみにしてるね!」



 本当、庭でなにを発掘するつもりなのか……?

 えっほえっほと庭に穴を掘るまろは満足気に輝いて入るのだが、私には何がしたいのかさっぱりわからないのです。宝物、みつかるといいなぁ。



「ひなみ様、行くー?」

「あ、行くよ〜!!」



 急いでコートを羽織ってお店に戻れば、支度の終わったイクルとスライムさんが待っていてくれた。

 視線が合うようにスライムさんの前にしゃがみ、「よろしくお願いします!」と手を差し出した。すると、スライムさんがにゅっと手のように伸びてきて私の手を取った。握手成功です!!



「私はひなみだよ。いつもお店に来てくれてありがとうね!」

『僕はロロステッドっていうぽ! ロロって呼んでぽ!』

「おぉ〜! 格好良い名前だね! よろしくね、ロロ!」



 普通にスライムさんって呼んでいたけど、ちゃんと名前がありました! 魔物だから名前がないと思い込んでしまっていました。うぅ、失敗だ。調教術師の冒険者さんがつけてくれた名前かな? 格好良い名前なのに、愛称にするととっても可愛いのです。

 ロロはイクルにもよろしくと挨拶をしていて、とっても礼儀正しいスライムさんだ。



「さて、それじゃぁ行こうか。道案内、よろしく」

『まかせるぽ!』



 ロロは勢いよくお店から飛び出して、元気いっぱいだ。続いて私、最後にイクルが出てお店に鍵をかける。

 そういえば、ロロはどこに住んでいるんだろう。

 冒険者さんの仲間なら、宿屋とか? あ、でも家に壁画があるって言ってたから拠点はこの街なのかな。そうなると、住民街に住んでいると予想が出来る。街の東にある貴族が住む住民街と、西にある平民の住む住民街。

 歩いていく方向を見れば、どうやら西の住民街に向かっていることがわかった。ということは、冒険者は平民……一般人さんかな?

 そうだ! 妹さんもいるって言ってたし、何かお土産を買っていこう。さすがに回復薬(ポーション)をお土産なんてのは嫌なので、どこかいいお店がないかきょろきょろと辺りを見渡しながら歩く。

 隣を歩いていたイクルに「今度はどうしたのさ」と聞かれたので、お土産を買いたいことを伝える。



「あぁ、それならあそこはどう?」

「ん? 可愛いね、お菓子屋さん?」



 イクルが指をさした先にあったのは、入り口にお花が飾ってある可愛いお店。

 何屋さんだろうと目をこらしつつイクルに聞くと、思っていたのとは違う返事が帰ってきた。



「石鹸屋だよ」

「せっけん?」



 初めて訪問するお家に石鹸は微妙なのではないでしょうか……?

 ちょっと微妙な顔でイクルを見れば、やれやれと言ったふうに、それでも丁寧に理由を教えてくれた。



「スライムは、石鹸を飲み込むことによって香りを変化させることができるんだよ。自分の体に石鹸を溶かせてなじませる……と思ってもらえればいいよ」

「えっ! スライムってすごいんだね…!?」



 なんと! スライムにそんな不思議属性がついていたなんて知らなかったですよ!

 たしかにぽにょぽにょしてて、液体っぽい体だもんね。あれに溶かすのか……でもその発想がすごいです、スライムさんたち。いったい誰が考えたのか。



『そうぽ! 今日の僕はみかんの香りぽ!』

「えっ! ちょ、ちょっとかいでもいい?」

『いいぽ〜!』



 くんくん……。

 はっ! すごい……! 強烈なみかんの香り……!!!

 ふわっと香って辺りの空気に溶けて消えたかと思った香りは、それでも私の鼻に残る。まるでリッチなお風呂に全身でつかっているような感覚に襲われた。

 思わずその場で一回転して、「すごい!!」と声をあげてしまった。



「ちょっと、恥ずかしいことしないでよひなみ様……」

「あ…… ごめんなさい」



 うっかり!

 そうだった、ここは街の中だった! はーずーかーしーいーよー!



「ロロ! ちょっとお土産に石鹸買って来るからまってて!」



 私はそれだけを伝えて、お店までダッシュした。

 大声をあげてしまった私は恥ずかしくてこの場にはいられないのです! 察してくれたらしいイクルが「早くしてね」と言いつつもロロと待っていてくれるようだ。

 店内に入れば、棚に色とりどりの石鹸。香りが違ったり、石鹸の中に花や木の実が入っているものもあった。やだ何これ可愛い! 今は無理だけど、今度自分用を買いにこようと心に刻む。

 プレゼント用にラッピングされた石鹸セットがあったのでそれを購入して、すぐにイクルとロロの元へと戻った。お待たせしてしまうわけにはいかないですからね!



「お待たせ! 買ってきたよ」

『そんなの気にしないでいいぽ!』



 ちょっとぷんっ! とした感じのロロ。きっと私がダッシュでお店へ行ったために、本当は止めたかったのに止める間がなかったのだろう。ふふ、それも作戦なのだよロロ君。

 それにスライムってずっと見てるとなんだか愛着がわくと思うのです、この……ぷるぷにボディ? 的な。



「まぁまぁ、私の気持ちだから受け取ってよね。ロロの家は、西の住民街かな? まだ結構かかる?」

『うぅ、ありがとうぽ。妹は石鹸がとっても好きだから喜ぶと思うぽ!』



 おおぉ! 妹さんが石鹸好きと。それは一安心です。

 さて、西にはあと10分程度あるけば入り口だけれど、住民街に入ってすぐかな?



『家は、西の住民街奥にあるスラムぽ〜!』

「オッケー! 西のスラムね!」



 ロロの家もばっちり聞いて……ん?

 ん? んん? んんん?

 スラム……? やばい、これが花のよく言っていた空耳かしら。

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