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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第2章 ミニチュアガーデン
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31. 想い人

 視点:光の精霊・キラリ



 あぁ、もう。

 男前の顔が台無しね。とは言っても、今は白猫のぬいぐるみなのだけれど。

 真っ赤になった瞳を見て、ぬいぐるみでも泣けるものなのだと思った。



 光の精霊である私がタクトを引き取り、合流したのが昨日の夜。最後にひなみにあったはずだけど、あの子(タクト)はきっと泣かなかっただろう。その代わり、翼を使って私の元へ帰還してからは、用意しておいた部屋に閉じこもり…朝まで泣いていたようだった。



『そうよね、意識こそあれど、自分の身体が死んでしまったのだからね…』

『……別に、平気だ』

『タクト…』



 おっと、どうやら心の声が口から出てタクトに聞こえてしまったようだ。

 しかし。一晩泣いて真っ赤になった瞳で…よく部屋から出てこれたものだと関心する。人間はもっと弱いと思っていたのだけれど、芯はありそうだ。

 けれど… すぐに修行を開始するのも酷だろうなと考えてちらりとタクトを見る。いや、どうやらすぐに修行を始めても良さそうだ。タクトの瞳は、強い光が宿っていた。身体は弱いけど、心は強いんだろう。加えて頭の回転がとても早い。



『俺を救って下さってありがとうございます、光の精霊様…』

『いいのよ! それと、私の名前はキラリよ。そう呼びなさい』

『はい、キラリ様。 よろしくお願いします…!!』



 素直に私の言葉に従うタクト。だけど、レベル1をどうすればいいかなと考えつつタクトの先方をシミュレートしていく。しかし、私はあまり頭脳戦は得意では無いなと考える。そもそも、自分より強い人は限られるし、そんな人と争う理由も無いから。



『あ、そうだ… キラリ様、1つお願いがあるんですが…』

『うん?』



 髪をくるりと指で遊びながら今後のことを考えていれば、申し訳なさそうな顔をしたタクトと目が合った。



『ミルルに連絡をしたくて』

『ミルル…? ミルル・ランバートのこと?』

『そうです。一緒に王家の実を探す為に、2人で〈アグディス〉からここ〈サリトン〉まで来たんです』



 タクトの言葉に一瞬自分の耳を疑った。

 ミルル・ランバート。ミルル自身のことは知らないけれど、ランバート一族は知っている。まさかタクトと一緒に行動をしているなんて。運命はいつまで立っても残酷だ。

 タクトのミルフィーユ家とランバート家。この世界で、レティスリール様と一番因縁が深い一族。



『キラリ様?』

『いいえ? 何でも無いわ。手紙を書けば、ミルル・ランバートの元へ私が届けましょう。貴方の部屋の引き出しに、紙と封筒が入っているわ』

『ありがとうございます! すぐに書いてきます』

『ええ』



 すぐに部屋へと戻るタクトを見送り、ぬいぐるみの手でペンを持てるのだろうかと脳裏によぎった。でもまぁ、タクトのことだからその優秀な頭脳でなんとかするだろう。



『それはそうと、ランバートか。思い出すだけで気に食わない名前ね』



 もやもやしだした自分の心を押さえながら、あれはいつのことだったか考える。数百年前ではなくて… そう、1,200年くらい前だったはず。まだレティスリール様が人々と平和に暮らしていた頃だ。

 レティスリール様は、ミルフィーユ家の男に恋をして恋人になった。でも、最終的にその恋は敵わなかった。レティスリール様の想い人は、ランバート家の女と結婚したのだ。

 悲しんだけれど、気丈に振る舞うレティスリール様は見ていて痛々しかった。その後、数百年は平穏に過ごしていたけれど… 宝石華が何者かに盗まれてからが大変だった。あれはそう、レティスリール様が想い人に貰ったものだったはず。



『はぁ…』



 なんとなしにため息を吐き、これからのことを考えようと思うのだが考えがまとまらない。これもランバートの名前を聞いてしまったせいだ。タクトは、ランバートのことが好きなのだろうか。



『でも、好きでなければレベル1で〈アグディス〉から船に乗ってまでここにこないわよね…』



 今はもうレティスリール様はいないけれど。

 これは運命かしら、どうなのかしら。

 ランバートを好きなくらいなら、いっそひなみを好きな方がまだましな様に思える。もちろん、私はリグリス様の味方であるのだが、それ以上にレティスリール様が大好きなの。

 あぁでもっ! こんなことを考えてるとリグリス様にばれたら大変だわ。私はそっと思考を停止して、タクトが戻ってくるのを待つことにした。



『キラリ、久しぶりだね』

『…リグリス様!』



 と、思っていたのにまさかのリグリス様が。

 淡い光が輝いて、一瞬で私の目の前にリグリス様が顕現された。まさか私の思考回路が漏れていた…!? やばい、私はリグリス様とひなみがお似合いだと心から思っていますよ!! 本当ですよ!!

 ドキドキしながらリグリス様を見れば、特に何も気にしている様子ではなかったのでそっと胸を撫で下ろす。



『どうされたのですか…?』

『いや、タクトを面倒見てくれるみたいだから… 少し助言でもと思って。レティスリールの想い人の子孫、か。まぁ、子孫だから何か有るっていう訳ではないけどね』

『まぁ、そうですね… でも、やっぱりレティスリール様には幸せになって欲しかったんですよ』



 少し悲しくなって来たけれど、こんなところで泣く訳にはいかないので「助言とは?」と、話を振れば、リグリス様が「そうだったね」と続きを話してくれた。



『タクトの身体だけど、とりあえずキラリは作らなくて良いよ』

『え…? えと、それはリグリス様が用意して下さると?』

『いや? でも、きっとレティスリールが用意してくれると思うから…もう少し待ってて?』

『え…っ!?』



 私はリグリス様の言葉に大きく目を見開いた。レティスリール様が、タクトの身体を用意する…?



『だって、レティスリール様は亡くなってるではないですか…!!』

『え、生きてるよ』

『えっ!!?』



 一気に私の視界がクリアになった様な気がした。いや、クリアになった。

 レティスリール様が、生きている? リグリス様の言葉に驚いて声も出ないけれど、亡くなっていたと思っていたレティスリール様が生きていることを知って、私の体は歓喜に震えた。『この世界のどこかにいると思うよ。そのうちひなが発見してくれるから』と、気楽なリグリス様の声が私を通り抜けていく。

 生きてた、生きてた…!



『うわあああぁぁん』

『キラリ…』

『だって、だってぇ… レティスリール様が生きていたなんて…! 私はこの世界の精霊だから、レティスリール様をお護りしないといけなかったのに…でも、でも、それが出来なかったから…く、うぅっ」



 ぽろぽろと私の頬を涙が伝って、普段では考えられないくらい声をあげて泣いてしまった。

 わんわんと泣いて、でも涙はなかなか止まらなくて。レティスリール様と一緒に過ごしていた時が思い出されてさらに泣きたくなって来る。リグリス様の前で、なんて…考えている余裕がないほどに。



『どどど、どうしたんだ…!?』

『ううぅぅ… えぐっ… たくと…』



 ここにはいなかったはずのタクトの声が聞こえたが、涙にあふれた目ではその姿がよく見えない。しかし、タクトが動揺していることは声で分かる。それはそうか、戻って来たら光の精霊が大泣きしているのだから。『大丈夫だから』と伝えようとしたが、それは涙声になってタクトには伝わらなかった。



 とっとっと、ぽすん。



 何を思ったのか、タクトが泣いている私に抱きついてきた。短いぬいぐるみの手で私を撫でようとしてくれているのだが、届いていない。

 昨日はタクトが泣いて、今日は私が泣く。なんという師弟関係だろうと思いつつ、なんだかあったかくなって涙がおさまってくる。とりあえず、いきなり泣いてしまったのでリグリス様に謝罪を…と思ったのだが。



『リグリス様、いない…』

『?』



 いつ帰ったんですか、リグリス様。ひなみほどとは言いませんが、もう少し優しくしてくれてもいいのでは。

 でも! リグリス様が良い知らせをくれたから…これからこの世界の為にもっと頑張ろう。ひなみが捜すみたいだったから、私も光の精霊として、力になろう。悔しいけれど、きっと私1人ではレティスリール様を捜し出すことはおそらく不可能だから。



 ひとまず、私はタクトから手紙を受け取ってランバートへ届けることにした。

 さぁ、頑張っていきましょう。

これにて第2章は終了です!

ここまでお付き合い下さった皆様、ありがとうございます。

来週以降は3章に入ります!


が、その前に。


3章開始までの繋ぎ更新? として、小話リクエストを受付ます!

詳しくは活動報告に記載しれありますので、そちらをご覧下さい。

http://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/1103866/


早ければ今日から小話を書こうと思ったのですが、明日から掲載する予定です。

リクエストが多くなった場合は、別途ページを設けるかもしれません。

その際はご報告させていただきますね!


追記

新しくページを立ち上げたのでご報告です。

下記ご参照下さい。

http://book1.adouzi.eu.org/n3963co/

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