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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第2章 ミニチュアガーデン
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22. 初心者講習 - 4

 視点:タクト・ミルフィーユ



 あぁ、なんてこった。

 初心者講習の2日目、魔物に関する講習の今日…最悪の事態が起こった。



 午前は通常通り、座学の講習をギルドで行った。

 だが、予想以上に早く終わった講習。指導をしていた冒険者のラークが、午後の講習は南の森での魔物見学へと座学からほぼ実践のような形へと切り替えた。

 まぁ、冒険者になる連中だからその提案には盛り上がった。俺も弱いながらも、安全な場所で魔物を見られることは嬉しかったので賛成だった。だから、浮かれて気付かなかった。

 その時、ひなみが震えていたことに。



 南の森で魔物見学を始めた時は問題なかった。

 講習に参加をした冒険者は全員ラークの後ろで見学をしていたのだから。が、ラークが押さえつけている魔物を攻撃し始めたところから全ての歯車が狂いだした。

 それを見たラークは、今回の講習受講者が意外に戦えるということをしった。だから、油断をしたのだろう。「もう少しだけ森の奥へ行ってみるか」と、そうラークの口から言葉が出た。種類が多いだけで、雑魚の魔物しか居ないこの森だ。皆が賛成して森の中へと歩みを進めた。

 だが、その判断は間違いだった。



 気がついたときには、ひなみの姿はどこにも無かった。

 まるで煙にでもなってしまったかのように、忽然と。





「ひなみー! どこにいるんだー!?」

「「ひなみさーん!」」



 ラークや他の冒険者と共に、いなくなったひなみを捜しながら来た道をもどる。行方不明になったのが、多少戦える冒険者であればそこまで焦りは無かっただろうが、行方不明になったのはひなみだ。女の子だ。俺より弱い、薬術師だ。



「くそっ! どのタイミングではぐれたのかもわからねぇ!」



 焦りを含んだラークの声が、他の冒険者にも不安を浸透していく。

 引率しているラークが焦るのが一番良くないと分かっていないのか、馬鹿が。かといって、俺もひなみを見ていなかったから何も言えない。

 しかし、いつはぐれたのか。森の中と入っても、この南の森は初心者の登竜門だ。魔物が弱く、種類が多いためたいていの冒険者がこの森で経験をつむ。だから、基本的に迷わないように森の中に人為的な道が作られている。俺たちはもちろんその道をたどりながら森に入ったし、一度もその道からはそれなかった。「戦闘は出来ないから」と、一番後ろを歩いていたひなみ。あぁ、なんで真ん中を…せめて自分の前を歩かせなかったのか。



「くそっ!」



 たまらず漏らした声が、森に響く。

 であれば、考えられる原因は… 背後から魔物に襲われた、もしくはひなみが別行動をした…? この人数が居るところで人攫いはしないだろうし、かといって争った後も無かった。つまりは、魔物が襲ってきたと言う可能性もかなり低い。この森にいる弱い魔物は、隠密な行動など取らないからな。

 じゃぁ、なんだ。ひなみが別行動をした…ってことか? いやいやいや、それこそありえねぇ。



「わかんねぇな…」



 うーんとうなりつつ、他の冒険者と共に来た道をもどる。ラークを列の先頭におき、講習を受けている冒険者が進む。そして最後尾が俺だ。

 全員がきょろきょろしながらゆっくり進み、かといって何か発見があるわけでもない。入り組んだ森ではないからか、見晴らしは悪くない。

 それとも何か、薬術適正である祝福でも働いたというのか。はっ! それこそ笑えない。



「しかし、この状況下だ。可能性としては、ひなみが自主的に列からそれた…と考えるのが妥当だ。でも… ん?」



 その時、自分の視界に足跡が見えた。道から若干それているだけだから、別に気に止めるようなものではない。そんなに広い道ではないから、獣道をあるく練習のため茂みの中を歩く冒険者だってめずらしくはない。だけど…あの足跡は、なんだか。



「小さい?」



 冒険者は大柄…ではなくとも体格の良い男女が多い。加えて、装備のせいでその足跡は小さくは無い。森の中であれば、装備をつけているからなおのこと。



「でも… ひなみは装備をせずに普段着だったはずだ。あれは、ひなみの足跡の可能性が高い…!」



 考えるや否や、体が先に動いて足跡の方へと向かう。そしてそこには、1本の木と、根元に生えているキノコ。

 もしかして、ひなみはこのキノコを採取しようとしたのか? 薬術師だし、何か素材に使うつもりだったんだろうか。



「とりあえず、ラークさんにこのことを知らせ…っ!?」



 近くで確認した足跡は途切れていたが、検証する必要があると思い腰を上げラークを呼ぼうとしたが、それは叶わなかった。何故なら俺は、木の根元に出来ている謎の穴に落ちたからだ。







 ◇ ◇ ◇



「…っ、てぇ」



 寝転がっていた身体を起こすと、身体に鈍い痛みが走る。あぁ、寝てるときにでもどこかぶつけたのかな。なんて、考えていたのは一瞬だった。



「ここは、南の森…か?」 



 あぁ、そうだ、俺は…ひなみを探していて穴に落ちたんだ。

 ということは、ラークの初心者講習の行方不明者は2人になったってことか。ざまぁ! ちゃんとひなみを見てないからこうなるんだよ!

 っと、そんなことよりも。辺りをぐるっと見渡せば、やはりそこは森であった。ただ、最初に居た南の森よりも若干薄暗い様な気がする。というか、そもそもの話…穴に落ちたら出る先は洞窟とかではないのだろうか。なんでまた森なのか!



「訳がわかんねぇな。とりあえず、ひなみを捜さないと…と…?」



 やべぇ。

 ここ、魔物出るのか?



「くそっ! 短剣は一応あるけど…普段着で講習をうけたから防具がねぇ」



 こんなことなら宿屋に剣と防具を置いてくるんじゃなかった。が、今は激しく後悔しても遅い。どのみち、俺では武器や防具があってもなくても…結果は負けだ。あぁくそっ! ままならないっ! 念のため自分のステータスを確認するが、そこにはいつも通りの表記があるだけ。



 〈 タクト・ミルフィーユ 〉


 15歳

 Lv. 1(+)


 HP 1/1

 MP 1/1


 ATK 1

 DEF 1

 AGI 1

 MAG 1

 LUK 1


 〈称号〉

 世界最弱



「ステータスが低いからなんだよ! くそっ! 男は度胸だろ! 魔物は出ない!!!」



 決意を叫び、ぐっと立ち上がる。

 大丈夫、俺はやれる、出来る男だ!!!



「あれ、タクト?」



 ……んん?



「捜しに来てくれた…の…?」

「って、ひなみっ!!!!」



 捜してた俺が見つけられた様になっている気がしなくも無いが…まぁ、そこは気にしない。

 つーか、もう。なんだ。元気そう…でもないか。ひなみは不安そうな顔をして、若干体が震えている様だった。「恐かったよー!」と涙目になりながら、ひなみが小走りでやってくる。



「まぁ、な。全員で捜してたんだけど、俺だけがあの穴に落ちた。道からも近かったから、さっと確認してラークさんに伝えようとしたんだけど伝える前に落ちた。助けに来た…んだけど、俺もどうしたらいいかわかんねぇ」

「そっか。でも、きっとラークさんが見つけてくれるよ…きっと」



 そうは言いつつも、ひなみの声にはいつもの明るさはこれっぽっちもない。



「しかし、ここはどこだろうな。穴に落ちたから、洞窟に出そうなもんだけど」

「そうだね。私は…あそこの木のくぼみに隠れてたんだ。魔物は、出なかったよ」



 不安になりつつも、ひなみが現状を伝えてくれた。

 ひなみが行方不明になったのは…約1時間か。その間に魔物を見ていないとなると、ここらいったいには魔物がいないのかもしれない。

 しかし、ここは森だ。偶然でなかっただけ…ということは無理があるが、可能性が無いわけでもない。魔物は居るものと考えて、この後どうするか考えなければならない。



「とりあえず、移動しよう。夜になると、ここにいるのはまずい。夜行性の魔物が出てくる可能性もある」

「魔物…!」

「ちなみにひなみ、武器もって…ないよな」

「うぅ…ごめん」



 申し訳なさそうに「何も無い」というひなみに「問題ない」と応えつつ。さて、どうしようか。

 もう一度何かないかと辺りに視線を巡らせてー… あ?



「…何だあれ、神殿か?」

「えっ? あ、本当だ…! 何か建物が見えるね!」



 ふと、視界に入ったのは白い建物…ぱっと見は、神殿のような造りになっている。ここから歩くと、おそらく15分程度の距離か。



 というよりも、この南の森に、神殿?

 “王家の実”を手に入れるために、この森の情報は調べつくした。だが、神殿があるという情報はなかった。ということは、ここは南の森ではない? いやいや、そんな馬鹿なことがあるか。

 でも… もし、仮定をするとするならば。

 情報が無い王家の実。南の森にあるということを知っているのは、ミルルと長老の爺さんが話しているのを盗み聞いたからだ。あの爺さんの情報が間違っているとは思えない… ということは、だ。南の森には…一般には情報が出ていない、王家の実へ繋がれた何かがあるのだとすれば。それが、あの穴であり、この神殿であるのならば。南の森にそんなものがある情報はなかったが、薬術の適性があるひなみがいる。というか、実際に穴を発見したのはひなみだ。



「はは… これが、女神レティスリールの祝福なのか…」

「えっ?」

「おそらく、あの神殿に“王家の実”があるんだ」

「え…!!」



 俺が確信を持ってひなみに告げると、ひどく驚いた顔をした。

 でも、ここまで来たら止まる訳にはいかない。



「とりあえず、ここにいても魔物が不安だ。あの神殿に向かおう」

「うー… うん。そうだね、確かに…このまま森にいるよりは注意しながら神殿に行ったほうが安全かもしれない」

「ひなみは絶対守るから…ほら、手」



 ステータス値は最低だけどな、と心で付け足して。手を差し出せば、ひなみが少し何かを考えつつも、最終的には手をとってくれた。その手は、とても小さくて弱々しかった。

 大丈夫だと、自分に言い聞かせて、俺とひなみは神殿に向かい足を向けた。





「魔物、でなかったねぇ…」

「……そうだな」



 歩くこと15分。俺とひなみは神殿の前に居た。魔物はまったくでない、どころか動物さえも見当たらなかった。かといって、ひなみが材料に使用する薬草類もいっさい生えていなかった。森であれば、多少は体力草くらい生えているものなんだけどな…と、ひとりごちつつ額を汗が伝う。やっべぇ、思った以上に俺は緊張しているらしい。

 どきどきする心臓を押さえながらひなみを見れば、先ほどよりは落ち着いたのか神殿の壁をぺたぺた触り「すべすべしてる! 良い手触り…!」と、感動している様だった。おいおい、テンションの切り替えが早くないか…? それともこれが女子という生き物なのか。



「…あっ!」

「ん?」



 ガッコン!



「「……」」



 ひなみが壁を触ってまったりしていれば、一部の壁がへこみ、何か音がした。



 直感的に、思った。

 これは、ヤバイやつだ。



「くそっ! つかまれひなみ!!!」

「あ…っ!? タクト…っ!? きゃっ!」



 思ったらもう止まれない。

 俺の足は可能な限りのスピードでひなみへと向かい、次に何かくるのであろう衝撃からかばえるようにひなみの身体を抱きしめた。しかし、上から何か衝撃がくる…ことはなかった。



 何故なら、床が崩れたからだ。



「うわああああわぁぁああああぁぁぁ!!!」

「きゃああぁぁぁぁぁ!!」



 俺とひなみは絶叫しながら深い深い奈落へと落ちていった。

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