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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第2章 ミニチュアガーデン
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21. 初心者講習 - 3

 なんとなくぼーっとしながら、2日目となる今日も初心者講習を受ける。ラークさんの熱血気味な声が私の耳へと届くのだが、どことなく体を通り抜けてしまっているだけの様な気がする。

 隣を見れば、タクトがしっかりと講習を聞いているので少し苦笑してしまう。なんでも、実践を踏まえた説明をして貰えるために重要らしい。確かに、本などで知りえる知識では実践にかなわないのだろう。

 かくいう私は、さっぱり分からないのです。魔物の説明も最初のスライムやハードウルフあたりはしっかり聞いていたのだが、少し魔物のレベルが上がり種類が多くなり…正直そこまでゲームなどをしていた訳ではないのでなかなか頭がついていかない。それにスライムの説明なんて「雑魚だ、誰でも倒せる」だけだった。隣でタクトが悔しそうにぷるぷるしてた。



 そうなると、私の思考は昨日タクトと話をした“南の森”と“王家の実”という2つのキーワードに支配される。

 どうやら、王家の実というアイテムは…私が居る大陸〈サリトン〉にしか存在しないらしい。それが、この街から南にある森で採取可能…ということだ。だが、情報がまったく無い為に詳しい場所などは分からない…本当に冒険をして採取をしなければならないらしいのです。

 この〈レティスリール〉に来てから、私は必要最低限の活動しかしていない。街と家を往復する…それが私の一番の冒険。もしここに花が居れば、まっさきに冒険へと駆け出したに違いない。でも確かに、ファンタジー世界なのに冒険をしないのはもったいないのかもしれない。いや、安全も大切なんですけどね!



 さて。タクトの話を簡単にするならば。

 その1、王家の実は南の森で採取が可能

 その2、ギルドに採取依頼を出したが一向に成果が見られない

 その3、王家の実をエルフの里に持ち帰るのが“お使い”内容である

 その4、王家の実を食べると特殊なスキルを得られる…らしい?

 である。



 ミルルさんのお使いは王家の実を探すこと…かぁ。でも、切ないかな…タクトにはその内容が伝えられていないらしく、私に教えてくれた情報もタクトが自力で調べたものらしい。冒険が大好きで弱くて口もちょっと悪いタクトだが、実はかなりの頭脳派なのです。ただ、やりたいことは冒険なので、タクトはもう少し別の才能が欲しかったと寂しそうな顔をした。

 そして、薬術の適正である私が同行する理由。それは、女神レティスリールの祝福の効果とされているものが“求める素材に出会える”確率が上がる…というものらしい。ということはつまり…薬草などの素材を採取しに森へ行けばたくさん見つけることが出来る! ということ。私はラッキーガールかっ! しかしラッキーにこしたことは無いので心の中でガッツポーズをしておきました。

 イクルは大分呆れ顔になってはいたが、王家の実自体には少し興味があるらしく了承をしてくれた。むしろ、自分があまり知らないことを知れるというのがポイントなのかもしれない。イクルも王家の実に関しては初めて聞く素材だったようだし。

 南の森へ行くのは、初心者講習が終わってから。今日と明日が初心者講習だから、明後日森に向けて出発することにした。

 誰も怪我が無く無事に帰ってこれますように。そう、毎日祈らなければ…!





「さて、そろそろ昼か。しかし初心者へする魔物の説明もあとは無いしなぁ…」



 はっ!

 いつのまにか魔物の講習が終わっていた。そう、魔物の特性の話を始めたところで私は聞くのを若干諦めた気がします。



「とりあえず、飯だな! 午後からどうするか考えておくから、2時間くらいしたらまたここに集合してくれ!」

「「はい!」」



 どうやら午後は別の座学があるようだ。もう少し薬術関連の話題があると嬉しいなと思いながら、講習室から出て行くラークさんの背中を見送った。

 少し伸びをして隣のタクトを見れば、何かノートに計算式の様なものを書き連ねていた。今度はどの魔物を倒す計画を立てているのだろうか…お姉さんは割と心配ですよ。



「ねぇねぇ、私は一度お店にもどるけど…タクトはどうする?」

「ん? あ、あー… あと少しで終わるから終わったら飯かなぁ」

「そっか。じゃぁ、今日は別行動がよさそうだね」

「あぁ。また午後にな!」



 まだノートに夢中なタクトに「また後でね」と挨拶をして、私はお店へ帰ろうと講習室を出てギルドの入り口へと向かった。冒険者は、午前中に依頼を受けて夕方帰ってくる人が多いため、この時間は比較的落ち着いている。そんな受付で、左目に掛かる緑の髪に、線の細い身体が目にはいる。優雅にお茶を飲んでいらっしゃるイクルさんを発見しました、よ?

 何をしているのだろうと近寄れば、片手に数枚の紙を持って何かを読んでいるようだった。なんとなくその視線は真剣で、声を掛けづらい。ような、気がします。



「…あ、講習終わったの?」

「うん、休憩だって」



 と、思っていたらすんなりイクルに発見されてしまった。ぱさりと数枚の紙を机において、「お疲れ様」と声を掛けてくれた。ちらりとその紙を覗き見れば、そこには南の森で採取できる素材一覧が載っていた。

 私が見ているのに気付いたイクルが、リストを「見る?」と渡してくれた。



「ありがとう。南の森って… あ、あんまり素材が取れないんだね?」

「そうみたいだね」



 手渡された紙を見れば、採取できる素材、簡易的な地図、魔物一覧が載っていた。ただ、採取可能な素材がとても少ない。体力草、赤色草、橙色草…のみ。え、少なすぎではないでしょうか!! しかもそれに反比例して魔物の種類が多い。基本的に弱い魔物に分類されるスライムやハードウルフあたりがメインではあるけれど、いかんせん種類が多い。

 あれ、タクトは南の森で戦えるのだろうか…? やばい、とても不安になってきた。



「森の地図は後でギルドカードに登録してもらうとして… 念のため紙の地図も持っていこう。ひなみ様がギルドカードを落としたら迷子になっちゃうかもしれないからね…」

「な、無くさないよ…!」

「はいはい。さてと、一度お店にもどるけど、ひなみ様は?」

「一緒にもどるよ!」



 どうやら南の森に関しての資料を貰いにギルドへ来ていたらしい。が、資料はゲットしたので私はイクルと一緒にお店ひなみの箱庭(ミニチュアガーデン)へと戻ることにした。







 ◇ ◇ ◇



「あ、ひなみだー! おかえり~」

「ただいまー!」



 お店の扉を開ければ、店番をしていたまろが飛びついてきたのでそのまま受け止める。入り口できゃっきゃしていたら「邪魔だよ」とイクルに呆れ顔をされましたが、それもご愛嬌です。

 回復薬(ポーション)売れてるかなぁ…っと、お?



回復薬(ポーション)は、残り少しなのであるっ!」



 《体力回復薬(ハイ・ポーション)》 1,000リル

 60個販売、残り40個。


 《深紅の回復薬ガーネット・ポーション》 1,600リル

 100個販売、残り0個。


 《魔力回復薬(マナ・ポーション)》 2,300リル

 50個販売、残り40個


 《深海の回復薬(マリン・ポーション)》 3,300リル

 20個販売、残り80個。


 《姫の加護薬》 1,500リル

 10個販売、残り90個。


 《解毒薬》 800リル

 5個販売。


 《解麻痺薬》 700リル

 0個販売。


 《解睡眠薬》 700リル

 3個販売。



「おぉ~! すごい、こんなに売れるなんて!」

「これで口コミが広がればお昼頃には完売するんじゃないかな」

「確かに… 人気が出たら嬉しいなぁ」



 順調に売れていた私の回復薬(ポーション)たち。でも、正直なところは回復薬(ポーション)を使うような大怪我はしないで欲しい。まぁ、冒険者と言う職業柄怪我は付き物なのかもしれないが。

 ひとまず…一度お店は休憩中にして、3人でお昼ご飯をとることにした。





「わ、まろ上手だ!」

「ふふんっ! 練習したのであるっ!」



 まろがフライパンを操って卵でオムレツを作り出す。「味見してくれる?」というまろの問いかけに、「もちろん!」と元気に頷いた私は、ふわふわの卵を一口含んで…むせた。



「げほっ! ま、まろ… これすっぱしょっぱくない!?」

「あれー…??」



 頭にクエッションマークを浮かべながら、まろも自分で作ったオムレツを一口食べた。



「ん、不味いのであるっ!」

「あ、まろは器用だから見た目美味しそうに作れるけど、味付けはまだ教えたばっかりだから出来ないよ」



 もう少し早く言ってください、イクルさん。

 水で口の中を落ち着けつつ、まろに味付けは私がするから卵を焼いて貰うようにお願いする。イクルはその間にスープを作ってくれる様です。イクルのスープは美味しいから大好きです!

 3人でにぎやかに準備をして、にぎやかに食卓を囲む。あぁ、なんだか幸せ。







 ◇ ◇ ◇



 鳥の低い声が木霊し、森がざわざわと音を立てる。明るいのにまるで真夜中に生きている様な感覚の中、私は足を動かすことが出来ずその場に座り込んだ。

 さっきまではイクルとまろと…美味しいお昼ご飯を食べて幸せ気分だったと言うのに。



「あぁ… どうしてこんなことになっちゃったのか…」



 若干肌寒く、両手で自分をぎゅっと抱きしめ丸くなる。幸い近くに魔物はいない…と、思う。

 丁度良い木のくぼみを見つけたので、動いてくれない足を叱咤し、なんとかくぼみまでは移動をする。腰を落ち着けて辺りを見渡しはするが、人が居るわけでもなく、街の場所が分かるわけでもなく。

 幸いなことに、怪我はしていない。恐くて足がすくんでいるだけ。万が一怪我をしたら…と、思って気がつく。回復薬(ポーション)の手持ちがないことに。



「そうだった… (ここ)にきた時に他の人にあげちゃったんだ…」



 やばい、そう思ったがもうどうしようもない。ぎゅっと目を瞑り、この後どうすれば良いか思案する。

 あぁ、やっぱり私にファンタジー世界はあっていなかったのかもしれない。





 さかのぼること、午後の初心者講習。

 きっちり2時間後に集まった受講者に対して、ラークさんははっきりと告げた。



「ようし、午後は実際に魔物を見てみよう。南の森に行くぞ!」

「「ええぇっ!!?」」



 もちろん、座学だと思って受けていた冒険者たちは驚いたが、別段それを拒否するものは居なかった。これから冒険者になる人たちだ…ベテラン冒険者が引率して森に連れて行ってくれる。私以外には絶好の経験チャンスになる。

 タクトはどうだろうと横を見れば、目を輝かせていた。あぁ、駄目だ、彼はやる気に満ち溢れている。



「とは言っても、お前らに戦闘はさせないから安心しろ。魔物は俺が倒すから、お前らは見学だ。南の森は、雑魚の魔物ばっかりだが、種類が多い。魔物の勉強にはうってつけ、ってことだ!」

「「おぉ~!」」

「俺が倒しながら魔物の特性や弱点なんかを教えて、さらに素材の取り方も教えてやるよ」

「「おおおぉぉぉ~!!」」



 気前の良い人だ! と、冒険者が「ラークさんさすが!」「頼りになります!」「どこまでもついていきます!」など、若干熱血具合が感染している。

 まぁ、戦うことが無い…のであれば、安心なのかな? ベテラン冒険者に、初心者とはいえ一応冒険者が私とタクトを含めて10人いるし。あ、でも私とタクトは戦力外ですよ!



「じゃぁ、さくっと出発だ! 南の森は馬車で30分…ってところだな。あ、馬車はギルドので行くから心配しなくていーぞ!」

「「はーい!」」





 そうしてとんとん拍子にことが進んでしまった。馬車に乗り、そのまま南の森へとやってきたのです。

 もちろん、最初は順調だった。ハードウルフが出た時は、ラークさんが軽くいなしながら特性の説明。そして実践をしながら弱点を教えてくれた。ちなみに、スライムは「雑魚だ」の一言のみで瞬殺されました。もちろんタクトは…以下略です!

 その後、余裕だと…誰かが感じてしまったのだろう。次第に講習を受けていた初心者冒険者も実践に加わった。もちろん、ラークさんが魔物の足止めをしている間に攻撃をするというスタイルではあったのだけれど。

 森の浅いところから、少し移動する話になった時に、私は心配だったので戦闘を行っている初心者冒険者へと回復薬(ポーション)をあげた。私は後ろから見ているだけだったし、実践に加わる予定もなかったから。なので、全部あげてしまった私の手持ちは現在0個。



「うー… せめて全部あげないで、1個は残しておくべきだった!」



 しかし後悔してももう遅い。

 このままここでじっと助けを待つしかない。



 ちなみに、私がはぐれたのは…足を滑らせて何故か地面にあいていた? 穴に落ちてしまったからです。

 まぁ、見たこともないキノコが木の根元にあったので採取しようとしたからなんですけどね! ふふ、なんでおとなしくしていなかったんだ私よ。



 あぁ、早く助けが来てくれますように。

なろうコン大賞に応募してみました!

応援していただけると嬉しいです。

今後ともよろしくお願いします!

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