13. 神様のプレゼント
「ひなみぃ〜!」
「きゃっ!」
小さな女の子が、私の名前を呼びながら突進をしてきた。なんだなんだと私がわたわたすれば、イクルが私を庇い、女の子を手で制した。
「あっ! 何をするのであるっ!」
「ここは、ひなみ様の家だ。何者だ?」
「まろであるっ!」
ポンッ!
すると。
女の子が突然雪うさぎに…まろになった。
「まままままろ!?」
私はビックリして声を上げた。イクルも驚いた様で、少し声を漏らしていた。
可愛かった女の子が、雪うさぎに。あれ、これはどういうことなのだろうか? 人型に変身した…的な感じなのだろうか。
『みぃっ』
「まろ〜!」
私は急いでまろに駆け寄り抱きしめる。あぁ、すごい久しぶりのまろです。イクルも納得したのか呆れ顔で見守ってくれている様だった。
「まさか本当に精霊化するなんてね…」
「ふふん! もっと褒めて!」
「……性格は残念なんだね」
「えっ!」
またも人型になったまろは、イクルの言葉にドヤ顔をして見せるがストレートなイクルの感想に若干ダメージを受けている様だった。
というか、口調がであるって…中々に個性的ではないだろうか。
「ひなみ、イクル酷いよっ!」
「あはは、まろは可愛いよ〜」
私にピョンピョンと跳ねて懐いてくるまろを撫でる。あ、髪の毛がとてもふわふわだ。やっぱり雪うさぎだけあって、人型になってもふわふわなのだ。
「でも、ひなみの《神様の箱庭》から出ると人型にはなれないの。だから、私がひなみとおしゃべり出来るのは家と庭だけなの…」
「えっ!? そうなんだ、残念。でも、その分家ではたくさんおしゃべりしようね!」
「勿論である〜っ!」
どうやら、感情が高ぶるとである口調になるらしいまろ。なんだろうこの可愛い生き物は! いや、まろなんですけどね。
「取り敢えず、家と街は繋がったね。まろは…街のお店では人化可能なの?」
「むむっ!」
イクルの言葉に私も確かに…と、思う。まろが人型のままであれば、お店の中も《神様の箱庭》が適用されると考えて良いだろう。
結果は……?
「あ、大丈夫みたい」
まろが1歩、お店に入る。が、まろの身体に変化は無い。ということは、お店も私のテリトリーとして認められているということだろうか。これは…一応神様にも聞いてみようと思う。
「でも、多分ここからは出れない」
「だろうね。そのドアを出たら、もう街だ。さすがにそこはひなみ様のスキルは届かないでしょ」
「うん。この先はダメな感じがする」
素直にまろが頷き、街へと続くドアから離れる。少し淋しそうな顔をしているので見ていて辛いが、こればかりは私にはどうしようもない。
まろが私に「大丈夫! お店手伝うね!」と声を掛けてくれる。まろを思って少しテンションの下がっていた私が逆に励まされてしまった。
「うん。一緒に頑張ろうね!」
「はいなのであるっ!」
「…イクルも、ね?」
「ん。分かってるよ」
えへへ。
2人の返事になんだかとても嬉しくなった。イクルに、まろ。私の周りは段々と賑やかになってきて…1人で過ごした2年がずっと見ていた夢のよう。
「あ、そうだ!」
「「?」」
まろが「忘れてた!」と、急いで部屋にあるタンスをゴソゴソとあさり何かを探し始めた。どうしたんだろうと様子を見ていれば、3つの袋を取り出した。
あれ? タンスにあんな袋は入っていなかったと思うんだけど…何だろうか。
「手紙付いてるよー」
「あ、本当だ」
まろが袋を机に置き、袋と一緒になっていた1通の手紙を手渡してくれた。宛名は私の名前。“ひなへ”と、そうかかれた封筒をみてドキリとした。
これは、神様の字だ。
慌てて封筒を裏返せば、そこには“リグリス”と名前が書かれていた。その名前をそっと指でなぞる。まさか、神様から手紙を貰えるなんて思ってもいなかった。
「ひなみ様?」
「あっ! ごめんごめん、読むね」
封筒を持ったまま動かなくなった私を不審に思ったのだろう。イクルが声を掛けてきて意識が戻される。
綺麗に封をされた封筒を開けて、中から1枚の便箋を取り出す。そこには見慣れた字で、綴られていた。
- - - - - - -
ひなへ
街へ出て、お店の購入おめでとう。
ひなのお店ならきっとすぐに人気になるよ。頑張ってね、応援してるから。
そうそう、お店のお祝いに服をプレゼントするよ。たぶん…ひな達の好みに合うと思うから是非着てみてね。
もし何か困ったことがあればいつでも僕を呼ぶんだよ?
ひなの声はちゃんと僕にとどくから。
それじゃあ、またね。
リグリス
- - - - - - -
と、いうことは。
この袋はもしかしてもしかしなくてもお店の制服なのだろうか。そうであれば、とても嬉しいです!
私は早速袋を開けて、服を取り出す。
「わっ! すごい!」
「おおぉぉ! 可愛いのであるっ!」
私とまろの服は、レースと花があしらってあるエプロンワンピースであった。
まろは水色をメインに、私はオレンジをメインに仕立てられていてとてもよく似合うと思う。
女子2人できゃっきゃっしている中、イクルは動く様子が無い。どうしたのだろうか…男の子だから、服には興味が無いのかな?
そんなことを考えていれば、まろがイクルの分も袋を開けてしまった。
「おぉっ! 格好良いのであるっ!」
「本当だ! 素敵だね…!」
イクルの服は深い緑色で、腰に巻くタイプのエプロンが付いてる。
私達の服とは違ってレースや花は無く、とてもシンプルなデザインになっており線の細いイクルにはよく似合いそうだった。
「…イクル?」
「……」
何かを考えているのか、私が手紙を読んだあたりからイクルが黙ってしまった。その表情は特に怒っている…という訳では無さそうなのだけれども、私には原因が分からなかった。
まろが「どうしたの?」と、私に続いて問いかければイクルの視線がまろを見た。そしてその視線は私を通り、机に置いた神様の手紙へと注がれた。
「……それが、カミサマとかいう奴?」
「そうだけど…って、神様に奴なんて失礼だよ。どうしたの、イクル?」
声に抑揚が無くて何だか怖いですよイクルさん。神様に何か怒りでもあるのだろうか。
「ひなみ様は、神様の玩具にされてるのに…よくそんな嬉しそうに出来るね」
「えっ! だって花を助けてもらったし、事実神様には感謝してるから…」
あれ、もしかしてイクルは私の為に言ってくれているのだろうか。
私は…今の生活に満足している。花と…家族とは離れ離れになってしまったけれど、イクルやまろ、シアちゃんにも会えたしね。
そう伝えれば、イクルは一つ息を吐いて「馬鹿だね」と呟いた。
そしてイクルはそのまままろに向き直る。
「というか、まろ。タイミングが良すぎて怪しいんだよね。カミサマの手先なんじゃないの?」
「えっ!?」
「ななななななにを言ってるのである! そんな訳ないのであるっ!!」
イクルの問題発言に少し驚きはしたが、神様がそんなことをする理由は思い当たらない。
「そんな面倒なことはしないと思うよ? それに、何かあれば連絡をくれると思うし」
「そそそそそそうなのであるっ!」
まろの全力否定が何だか可愛いなと思いつつイクルを見るが、怪しそうにまろを見ていた。
「動揺しすぎ…」
「そんなことないのであるっ!」
何だかイクルとまろが睨み合っている。
仲が良いのか悪いのか…どうなんだろうか。まろがイクルに「今は見逃してやるのであるっ!」と何だか言葉を熱くしていた。それに「はいはい」と返事をしてイクルがあしらっていた。
あれ、仲直りしたの?
「ここは俺の勝ちだね、まろ」
「ふんっ! すぐに追い抜いてやるのであるっ!」
「えっ! いったい何の勝負してたの…?」
何だかよく分からず、2人に問いかければ声をハモらせ「何でもない」と返事をいただいた。
「っと、これ…イクルの分だよ。使って欲しいんだけど、駄目かな?」
「…別に良いよ」
「ありがとう!」
服をイクルに差し出せば、割と素直に受け取ってもらうことが出来た。
神様のことをあまり良く思っていない様だったから、受け取ってもらえないかもと思っていたので安堵した。
「うん、やっぱりイクルに似合うね!」
「格好良いよ!」
「大袈裟だよ…」
イクルが簡単に服をあてがってくれ、それを見ればとても似合っていた。
すぐにまろが自分にもあてがうが、納得が出来ないようで着替えると服を持ちお風呂場へと小走りで向かった。
「ひなみ様も着てみれば?」
「えっ? でも、私には可愛すぎだと思うんだよね」
「ちゃんと似合うから大丈夫だよ、ほら」
「あ、うん…分かった」
トン、と。イクルに背中を押されたので私もそのままお風呂場へと向かった。
1人で出てくるのは少し恥ずかしいから、まろと一緒に着替えて出てくる作戦です。
というか、イクル大丈夫かな…神様のことで色々思うことが有るみたい。夜にでも、時間を作って話が出来たら良いなぁ。
そんなことを考えながら、私はまろと一緒にエプロンワンピースへ袖を通した。
「じゃっじゃ〜ん! 可愛いでしょ!」
「これは照れるね…」
着替えてリビングへと飛び出したまろは自信満々だった。私は恥ずかしいので小さくなりつつまろの後へと続いた。
「自分で言ってどうするのさ…」
「えぇ、可愛くない? イクルおかしいんじゃないの?」
「その自信をひなみ様にも分けて欲しいね」
ちょ、私分けて貰わないといけないほど自信なかったのかな? イクルの言葉にちょっと自信を無くしつつ…って、これがいけないのか。ポジティブにいかねば!
「まぁ、2人共似合ってるんじゃない?」
「疑問形とは失礼なっ!」
「あーはいはい。可愛いよ」
イクルの言葉にまろが反論しつつ、なんだかとても賑やかだ。
「そうだ、お茶いれるね!」
「あ、私もやる〜!」
「じゃあ、俺は果物でも切ろうか」
紅茶用に地下室へ魔力回復薬を取りに行く。その後ろをまろがちょこちょことついて来てなんだかとても癒される。花と一緒にいるみたいな気分になる。
「ひなみの作った回復薬凄く美味しいね。こっそり何個か貰っちゃった…ごめんね?」
「あぁ、いっぱいあるから好きなだけ飲んで良いよ〜」
「やったのである! さすがひなみは心が広いのである〜っ!」
まろが嬉しそうにして、軽やかに階段を降りる。
最後の5段をジャンプして華麗に着地をして見せた。さすが雪うさぎ、というところだろうか。飛び降りた時はヒヤッとしたではないですか! 無事で良かった。
「大量! これで金儲けをして大金持ちになる…さすがひなみなのであるっ!」
「いやいや、そんなにたくさんは売らないよ」
「そうなの?」
キョトンとした顔で、まろが何で? と、瞳で訴えてくる。
何でと言われても…そうだなぁ。
「私の回復薬はね、ここでは割と特殊な部類に入るんだよ。だから、一気にたくさんは売らない予定」
「なるほど… 確かにひなみの回復薬は凄いもんね。ひなみは何も考えず在庫を捌くのかと思ってたよ〜」
あははと笑いながら、まろが「じゃあお店はあんまり忙しくないのかな?」と、自分がお店に立っている様子を思い浮かべているようだった。
「はっ! こんな可愛い私がお店に居たらナンパ男が後を絶たないかもしれないのであるっ!」
「確かに、まろは可愛いからね」
でも、それでナンパしてくる男はロリコンなのでは? だってまろの外見はどう見ても10歳程度。
雪うさぎだから実年齢はもっと上かもしれないが、なんだか心配になってくる。まろのことは私がちゃんと見ててあげないと危ないかもしれない、です。
「ひなみ様、まろー?」
「あ、今行くー!」
まろとふざけてしゃべっていれば、イクルの呼ぶ声が聞こえた。
そうだ、イクルにもまろが心配だから見てて貰うように頼んだ方が良いかもしれない。うん、そうしよう。
「じゃあ、お茶にしようまろ!」
「うんっ!」
私達は手を繋いで、足取り軽く階段を上りイクルの元へと急いだのです。
楽しくお茶をして、まろと一緒の今後に胸を踊らせた。
イクル「ひなみ様で手一杯なのに、まろの世話なんて無理だよ」
ひなみ「えっ!?」




