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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第5章 闇に目覚し一輪の花
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23. 魔王の誕生

 不老不死になりたいから、魔王になりました!

 なんて言ったら、きっとみんなに怒られちゃうんだろうなぁ。




 ゆっくりと瞳を開けると、心配そうに私の顔を覗き込むイクルがいた。


「ひなみ? 目が、覚めたの……?」

「……イクル」


 ひどく真剣な緑色の瞳と視線があって、私は頷いた。体を起こそうとしてみるけれど、思うように動かない。

 ……体感では一日もたっていなかったけれど、現実世界ではかなりの時間が流れてたのかな……なんて、ぼんやりと考える。


「……何日くらい」

「とりあえずいいから、ひなみはこれを飲んで」

「ん?」


 真紅の回復薬ガーネット・ポーションを渡されて、ふるえる手でそれを飲み干す。一気に体が軽くなって、自分で作った回復薬(ポーション)に改めて驚いてしまう。

 医療技術が発達した地球でも、こんなお手軽に治ったりしないよね。そう考えると、この世界に科学はないけれど……ずっとすごいのかもしれないと思う。


 体を起こして窓へ目を向けると、すごく久しぶりに太陽の光が見えた。

 淡いオレンジ色の空は、今が夕方だということを私に教えてくれる。どれくらい寝ていたんだろうとイクルに問うと、イクルが目覚めてから一か月間眠り続けていたのだと教えてくれた。


「え、そんなに……?」

「そんなにだよ。俺たちのことを起こしにきたくせいに、自分はまったく起きないんだから」


 ひやひやして心臓に悪いと、イクルが呆れながら告げる。


「でも、私の体感だと1日もたってないんだけどな……」

「ひなみの体感ほど信用できないものはないよ……」

「ええ……イクルひどい」


 もう少し私のことを信用してくれてもいいのに。

 思わずぷうと頬を膨らませたところで、私のお腹がきゅるるるると盛大な音で鳴った。


「…………」

「………………」

「っ、ひなみ……とりあえず、ご飯持ってくる」

「ありがとう…………」


 恥ずかしくなって、顔を伏せる。

 だってまさか、自分のお腹がこんな盛大に鳴るなんて思ってもいなかった。そうか、一ヶ月も寝てたらお腹も減るよね、そうだよね……。

 ちょっと吹き出しそうになっていたイクルが私の部屋を後にして、階段を降りる音が耳に届く。それと同時に、階段を登る足音も聞こえた。


 ……誰だろう?

 レティスリール様か、まろか、サリナさんあたりかな? そうのん気に考えて、ノックを待つ――予定だったけれど、そんなものはなしにバーンと勢いよく部屋のドアが開いた。

 小さなツインテールをぴょこんと揺らし、とてつもない笑顔のまろが私の寝ているベッドへとだいぶしてきた。


「ひなみいいいぃぃぃ、目覚めてよかったのである~!」

「わ、ちょ……っ! まろ!!」


 ダイブしてきたまろに押しつぶされそうになって、思わず「ぐぇっ」とカエルのようなうめき声が出てしまう。なんというか目覚めてから自分の発する音に嫌な思いしかしてないよ……。


「イクルがスープを作るって言ってたのである!」

「本当? イクルのスープは久しぶりだから、すごく嬉しい」


 まろの手作り料理が運ばれなくてよかったと、心の片隅で思ったのは内緒です。


「んん、ひなみ……?」

「まろ?」

「ひなみ、変な感じがするのである」


 にこにこ顔から一変して、まろの目つきが真剣なものになる。普段はへろへろしている姿ばかりなので、思わず緊張してしまう。

 ……イクルには何も言われなかったけど、どこか変なのかな?


「…………」


 とりあえず大人しくしつつも、きっと私が魔王になったから……なんだろうなと自分で結論を出す。

 それにすぐ気づくというか、察知するまろもすごいけれど。だって、鈴花さんが魔王だっていうことを、レティスリール様も長いこと気付かなかったらしいし。


 ……そういえば、まろはどれくらいの強さを秘めているんだろう。

 私をじっと見つめる水色の瞳は、外見の幼さとは比例していない。元々は雪ウサギという魔物が精霊になり、人の姿をとったのがまろだ。


 イクルより強くて、いったい誰より弱いんだろう。

 鈴花さんといい勝負だったりするのかな?


「ひなみ」

「う、うん?」

「…………神と同じ存在になったのである?」

「……っ!」


 まさに、的確――ということばが、しっくりくるのかもしれない。

 まろが直接的に魔王と言わないのが、特に。もしかしたら、魔王になったということまではわからなかったのかもしれないけれど。


 私が目を見開いたことを肯定ととったようで、まろは小さくため息をついた。


「……別に、ひなみが人間じゃなくなっても大好きである」

「まろ……」


 怒られるかと思っていたけれど、まろから出た言葉はとても優しいものだった。

 思わず涙がにじみ、まろをぎゅっと抱きしめた。

 リグ様と共に生きたいのだという私の願いを、こうも簡単に受け止めてもらえた。もちろん、まろはリグ様のことを知りはしないけれど。

 最初に、イクルに怒られていたらきっとダメージが大きかったと思うんだよね。


 まろも魔物だから、こうもすんなり受け止めてくれたのかな?

 そう考えると、魔王も悪いものじゃないような気がしてきた。だって、この世界を滅ぼしたい衝動とか、悪いことをしたいという思考とか、そういったものは一切ない。


 意識だけの世界で、魔王と少し話したときに聞いた。

 私はリグ様の加護があるから、魔王に支配されることはないと。むしろ、私が魔王を支配下に置いているのが今の状況らしい。

 特に何かするとか、そういったことは特に考えていないけれど。


「でも」

「まろ?」

「うまく行き過ぎてるのである」

「?」


 呟くようにぽつりともらされたまろの言葉を聞き、私は首を傾げる。うまく行き過ぎているもなにも、目的は鈴花さんとイクルを起こすことだった。

 私が魔王になってしまったけれど、うまく行き過ぎているという言い方はいまいちしっくりとはこない。


 まろが、ひなみ、と。私の名前を呼ぶ。


「この世界のことを一番把握していたのは、リグリス様……。だったら、魔王である鈴花春がこの世界にいることを知らないわけがない……のである」

「え……」


 まろの言葉に、私は今までで一番驚いたかもしれない。


「まろ、リグ様のこと知ってたの?」


 だって、今までそんな素振りは見せなかった。


 いや、まって。

 イクルは私に、まろを信用しすぎるなと告げたはずだ。……つまり、イクルは薄々まろとリグ様の関係に気付いていたっていうこと?

 イクルは神とか、そういった類のものが好きじゃないから。


「…………」


 私の問いかけに、まろは何も答えようとはしてくれない。

 もしリグ様のことを知っているのなら、教えてほしいのに。


「ねえ、まろ――」

「――ひなみ?」


 再度まろの名前を呼んで聞こうとしたところで、ノックとイクルの声が室内に響いた。

 すぐにまろが「イクルー」と声をあげて、ドアを開く。きっとまろにとって突っ込んで聞かれたくないところなんだろうけど、私はすっごくすっごーく気になって仕方がない。


 イクルがトレイにスープとパン、サラダを載せて部屋へと入ってきた。

 難しい顔をしている私を見て、「どうしたのさ」と声をかける。まろと交互に見ながら、いったい何があったのだろうと思案している。


「どうもしないのである」

「?」


 イクルの横をすり抜けるようにして、まろがぱたぱたと足音を立てて部屋を出て行った。後で話をしたいと思っていると、それに入れ違う形で鈴花さんとレティスリール様がやってきた。


「ひなみさん、体はもう平気? 助けに来てくれて、ありがとう」

「ひなみ、目覚めたみたいね」


 二人が私を心配してくれるけれど、私はそれどころじゃない。

 とはいえ、なりふり構わずまろを追いかけることもできないし……。


「はい、もう大丈夫です」


 どうしようかと悩みながらも、私は三人に自分が魔王になったということを告げることはできなかった。

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