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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第5章 闇に目覚し一輪の花
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22. のぞむもの

 ドキドキうるさい心臓を無視するようにして、私は大きく深呼吸を何度も繰り返す。


 ――魔王になる。

 ただの一般人である自分が何を言っているのだと、おそらく普段ではまったく考えられなかったと思う。でも、この言葉は自分でも驚くほどにすんなりと口から出ていった。


 魔王という存在が、どういったものか私にはわからない。

 きょとんとしている魔王を見て、笑う。


「ねえ、魔王……。私が魔王でいると、どうなるの? 鈴花さんみたいに、瘴気がはびこっちゃうの?」

『……ひなみには、特殊なスキルがあるからそうはならない』

「特殊な?」

『そう』


 私の問いかけを聞いて、魔王はゆっくりと頷いた。


天使の歌声(サンクチュアリ)

「え?」


 神様の箱庭だろうかと思っていたのに、魔王が告げたのは私が予想もしていなかったスキルだ。この世界に来てから一番使っているスキルだけれど、そんなに特殊ではなかったはず。

 私はステータス画面で、天使の歌声(サンクチュアリ)の効果を確認する。


 《天使の歌声(サンクチュアリ)

 旋律を奏で、力を与えることが出来る。

 効果:植物・鉱石などの成長促進、調合過程の短縮。


「…………」


 うん、やっぱり私が考えている通りの効果だよね。植物を成長させたり、回復薬(ポーション)を作る工程のショートカットに使っている。

 私が首を傾げながら、魔王に「そんな特殊なスキルじゃないよ」と伝えると、盛大にため息をつかれてしまった。


 あきれた様子の魔王が、やれやれと口を開く。


『このスキルの天使っていうのは、スキルを使うひなみのこと。それはいい?』

「え、えっと……?」


 そんなこと、今まで一度も考えたことがなかったよ。けれど自分が天使というのはどうにもしっくりこなくて、あやふやに笑うことしかできない。

 魔王が言葉を続ける。


『神の力を歌い、自分の周囲に奇跡を起こす力……それが、天使の歌声(サンクチュアリ)だよ』

「!」


 魔王の説明を聞いて、息を呑む。

 つまり、私が今までほいほい使っていた天使の歌声(サンクチュアリ)は、私自身のスキル……っていうよりも、リグ様の力を使いまくっていたっていうことだよね?


 そうだよ。

 よくよく思い返してみれば、天使の歌声(サンクチュアリ)はリグ様の加護によって使えるようになったスキルだ。

 リグ様が、加護と称して私に力を貸してくれていたんだということをすぐに理解する。


「うわあぁぁ、私最低だ……どれだけリグ様の力を使ってたんだろう」


 基本的に楽をしたかったのもあり、ちょっとしたことでもすぐに回復薬(ポーション)のために使ってしまっていたスキル。

 リグ様も先に教えておいてくれたらいいのに……。ああでも、私が遠慮しちゃうのを嫌だって考えたのかもしれない。間違いなく、遠慮する自信があるから。


『……まあ、だからひなみの周囲がサンクチュアリみたいなもの。だから、瘴気がどこかにいってしまうことはないんじゃないかな。もちろん、実際は試してみないとわからないけど』

「そっか……、ありがとう。自分一人で頑張ろうと思ってたけど、リグ様がずっと私を見守ってくれていたんだね。なさけないような、嬉しいような」


 複雑な気分。


「とりあえず、起きても大丈夫そうだね」

『…………』


 しかし、起き方がわからなかったことを思い出す。魔王が知っているんじゃないかと思って、ちらりと盗み見る。むすっとした表情は本当の子供みたいで、鈴花さんをずっと苦しめていた魔王だなんてとてもじゃないけれど思えなかった。


『起きるのは別にいいけど、私が消滅しないと無理。……まあ、ひなみと融合しても起きれるけど』


 その場合は、私が告げたように魔王になるのだという。


『本当は、あの男の体を乗っ取ろうと思ったんだけど……思ったより強くてね。そうしたらひなみには、さらに強い男が背後にいるんだ』


 いくら魔王だからって、この仕打ちは酷いと文句を言う。

 強いはずの魔王は、リグ様の圧倒的な力によって消滅してしまいそうになっている。よくよく見ると、体が先ほどより薄くなっていることがわかる。

 ……本当に消えてしまうんだということが、理解できた。


 でも、私が選ぶ道は魔王と融合すること。

 もしかしたら、レティスリールに住む人たちを苦しめてしまうかもしれない。でも、私にとってこれはきっと一生に一度のチャンス。


 だって、魔王になったら――。


「魔王になったら、ずっとリグ様のそばにいてあげることができる」


 魔王が持つスキル《不老不死》。これがあれば、永遠のときを生きているリグ様と一緒にいれる。私が先に死んで、リグ様を一人ぼっちにしないですむんだ。

 今、私と魔王がここであったことが――私にとっては、まるで奇跡だった。


『……目当ては不老不死、ね。まあ、いいよ。融合しようか、ひなみ』


 魔王がにこりと微笑んだ。

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