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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第5章 闇に目覚し一輪の花
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20. ひなみ:前編

ちょっと短すぎたけど、とりあえずここで……

「す、すずはな……さん?」

「師匠……じゃ、ない」


 ふらりと立ち上がった鈴花さんに言葉をかけるも、すぐにイクルがそれを否定する。いつもの優しい笑顔はなくて、鈴花さんの瞳は閉じられていた。

 ぞくりと、嫌な殺気が私たちを襲う。


「どうしよう、イクル」

「……ッ」


 鈴花さんがこちらにこようとするも、足かせが邪魔をして動くことができなかったらしい。カシャンと音がなって、私は一瞬だけほっとする。

 しかしそれはすぐ、イクルの声で緊張状態に戻る。


「ひなみは階段を上がって、上に!」

「う、うん……っ!?」


 イクルの言葉を聞き、螺旋階段に足をかける――が、今おり切ったばかりなのに駆け上がる体力なんて残ってないよ!!


 でも、私がここで逃げても駄目だ。

 イクルと一緒に鈴花さんを起こすって決めたんだから。螺旋階段を数歩登ったところで振り返ると、鈴花さんが短刀でイクルに切りつけているところだった。

 武器らしきものはもっていなかったから、きっとあれも意識的に顕現させたものなんだろう。


「イクル……っ」


 素早い動きで切り付けてくる鈴花さんに、防戦のみのイクル。確かに、鈴花さんを攻撃して怪我を負わせるのはよくない……。かといって、何もしなければイクルがやられてしまう。

 どうしたらいい?

 あの二人の攻防の間に入って、防御スキルを展開するのなんて無理だ。かといって、ほかのスキルや魔法は回復系統しかない。


「――ッ!?」

「イクル!!」


 ガンと、イクルの棍が弾き飛ばされた。

 鈴花さん、強い! さすがはイクルの師匠だと納得しながらも、そんなことを考えている場合じゃない。私は倒れたイクルの下まで駆け寄り、庇うように二人の間に入る。


「ちょ、ひなみ!? 逃げろって言っただろう!!」

「大丈夫!!」


 これなら、防御スキルを使える!

 鈴花さんが短刀を振りかざすのを見てから、スキルを唱える。


「《光の狂詩曲(ライト・ラプソディア)》!」


 私のスキルが、鈴花さんの短刀を弾――かなかった。


「……え?」

「ひな、み?」


 いつもはすべてを弾きかえすスキルが、すんなりと……鈴花さんの短刀を通した。

 見えるのは、瞳を閉じていたはずなのに――その目を大きく見開いた鈴花さんの姿。その瞳には確かに光が宿っていて、いつもの鈴花さんだと……赤い鮮血を見ながら思った。


 こんな大量の血は、初めて見たかもしれない。

 なんて、鈴花さんの短刀で切られたはずなのにひどく冷静だった。この世界に来てから、今が一番私の心は落ち着いているんじゃないかと思うほどに。


「ひなみ!!」


 イクルと鈴花さんの声が重なって、何度も二人が私の名前を呼ぶ。


「いく――げふっ、はっ……っ」

「喋るな、すぐに意識を現実世界に戻して! ここは意識だけの世界だから、現実世界に帰れば何も問題はおきない」

「すず……っは、はぁ」


 二人に返事をしたいのに、うまく喋ることができない。喋ろうとしたら、口から血が出て――その匂いに、むせかえる。


 そこで、私の意識はなくなった。




 ◇ ◇ ◇


 視点:イクル


「ひなみっ!」


 力の限り叫び、体を起こす。

 まっさきに目に入ったのは、苦笑している師匠の顔。


 ……そうか、師匠の中に入ってた意識が覚めたのか。


「イクル、とりあえずこれを飲むのである!」

「……回復薬(ポーション)?」


 まろが、真紅の回復薬ガーネット・ポーションを差し出してきた。そういえば、体が思うように動かない。

 すぐに、ひなみが何日も眠っていたと言っていたことを思い出す。素直に一気に飲み干してから、気付いた。


「――ひなみ」


 同じベッドで、眠るひなみがいた。

 先ほど師匠の短刀でついた怪我などがないことを確認して、ほっと胸を撫でおろす。けれど――ひなみは、一向に目を開けようとしない。


「イクル、落ち着いて」

「……落ち着いていわれるわけ、ないだろ」


 師匠の声を聞き、元凶となった癖にと睨みつける。回復薬(ポーション)を飲んだからか、師匠本人はけろりとしてる。俺があれだけ苦労してたのに、こうもあっさり起きるなんてね。

 とりあえず、どうにかしてひなみを起こさないといけない。

 そう思っていると、扉が開いて――この世界の女神が、姿を現した。

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