20. ひなみ:前編
ちょっと短すぎたけど、とりあえずここで……
「す、すずはな……さん?」
「師匠……じゃ、ない」
ふらりと立ち上がった鈴花さんに言葉をかけるも、すぐにイクルがそれを否定する。いつもの優しい笑顔はなくて、鈴花さんの瞳は閉じられていた。
ぞくりと、嫌な殺気が私たちを襲う。
「どうしよう、イクル」
「……ッ」
鈴花さんがこちらにこようとするも、足かせが邪魔をして動くことができなかったらしい。カシャンと音がなって、私は一瞬だけほっとする。
しかしそれはすぐ、イクルの声で緊張状態に戻る。
「ひなみは階段を上がって、上に!」
「う、うん……っ!?」
イクルの言葉を聞き、螺旋階段に足をかける――が、今おり切ったばかりなのに駆け上がる体力なんて残ってないよ!!
でも、私がここで逃げても駄目だ。
イクルと一緒に鈴花さんを起こすって決めたんだから。螺旋階段を数歩登ったところで振り返ると、鈴花さんが短刀でイクルに切りつけているところだった。
武器らしきものはもっていなかったから、きっとあれも意識的に顕現させたものなんだろう。
「イクル……っ」
素早い動きで切り付けてくる鈴花さんに、防戦のみのイクル。確かに、鈴花さんを攻撃して怪我を負わせるのはよくない……。かといって、何もしなければイクルがやられてしまう。
どうしたらいい?
あの二人の攻防の間に入って、防御スキルを展開するのなんて無理だ。かといって、ほかのスキルや魔法は回復系統しかない。
「――ッ!?」
「イクル!!」
ガンと、イクルの棍が弾き飛ばされた。
鈴花さん、強い! さすがはイクルの師匠だと納得しながらも、そんなことを考えている場合じゃない。私は倒れたイクルの下まで駆け寄り、庇うように二人の間に入る。
「ちょ、ひなみ!? 逃げろって言っただろう!!」
「大丈夫!!」
これなら、防御スキルを使える!
鈴花さんが短刀を振りかざすのを見てから、スキルを唱える。
「《光の狂詩曲》!」
私のスキルが、鈴花さんの短刀を弾――かなかった。
「……え?」
「ひな、み?」
いつもはすべてを弾きかえすスキルが、すんなりと……鈴花さんの短刀を通した。
見えるのは、瞳を閉じていたはずなのに――その目を大きく見開いた鈴花さんの姿。その瞳には確かに光が宿っていて、いつもの鈴花さんだと……赤い鮮血を見ながら思った。
こんな大量の血は、初めて見たかもしれない。
なんて、鈴花さんの短刀で切られたはずなのにひどく冷静だった。この世界に来てから、今が一番私の心は落ち着いているんじゃないかと思うほどに。
「ひなみ!!」
イクルと鈴花さんの声が重なって、何度も二人が私の名前を呼ぶ。
「いく――げふっ、はっ……っ」
「喋るな、すぐに意識を現実世界に戻して! ここは意識だけの世界だから、現実世界に帰れば何も問題はおきない」
「すず……っは、はぁ」
二人に返事をしたいのに、うまく喋ることができない。喋ろうとしたら、口から血が出て――その匂いに、むせかえる。
そこで、私の意識はなくなった。
◇ ◇ ◇
視点:イクル
「ひなみっ!」
力の限り叫び、体を起こす。
まっさきに目に入ったのは、苦笑している師匠の顔。
……そうか、師匠の中に入ってた意識が覚めたのか。
「イクル、とりあえずこれを飲むのである!」
「……回復薬?」
まろが、真紅の回復薬を差し出してきた。そういえば、体が思うように動かない。
すぐに、ひなみが何日も眠っていたと言っていたことを思い出す。素直に一気に飲み干してから、気付いた。
「――ひなみ」
同じベッドで、眠るひなみがいた。
先ほど師匠の短刀でついた怪我などがないことを確認して、ほっと胸を撫でおろす。けれど――ひなみは、一向に目を開けようとしない。
「イクル、落ち着いて」
「……落ち着いていわれるわけ、ないだろ」
師匠の声を聞き、元凶となった癖にと睨みつける。回復薬を飲んだからか、師匠本人はけろりとしてる。俺があれだけ苦労してたのに、こうもあっさり起きるなんてね。
とりあえず、どうにかしてひなみを起こさないといけない。
そう思っていると、扉が開いて――この世界の女神が、姿を現した。




