19. 魔王の目覚め
花が咲きほこり、妖精の力を得てパワーアップした私の弓。それは確かに私の手の中にあって、心地よい重みを渡しに与えてくれる。
ああ、よかった。私はこの弓を、ちゃんと自分の武器として顕現させることができた。
私がはにかむように笑うと、イクルが「よかったね」と褒めてくれた。そのちょっとしたことがやっぱり懐かしくて、すごく嬉しい。
「よし、鈴花さんのところに行こう! 案内して、イクル」
「……わかったよ。まったく、ひなみには敵わないね」
暗い空間のなか、イクルは手で風を呼ぶ。
しんとしていた場所で、初めて空気の流れを感じることができた。
イクルは、風の魔法を得意とする。それから、探索能力も優れていて、深い森でもイクルがいれば道に迷うことはない。それはこういった空間でも同じだったらしく、とても頼もしい。
風が流れるままに、「こっちだよ」とイクルが私の手を取る。
「ああいった変な師匠はたまに出てくるけど、魔物の類はいないよ」
「そ、そうなんだ……」
とりあえず魔物がいないことにほっとしながら、さっきみたいな鈴花さんがまだまだいるのかと思うと気が滅入る。イクルがいるから心強いけれど、助けてもらえなかったらさっきの攻撃でやられていただろうし。
あ、でも今は弓があるから……私でも勝てるのかな?
いや、鈴花さんもどきとはいえ初代勇者。きっと強さは鈴花さんに匹敵……とまではいかないけど、かなり強いはずだ。イクルは強いから大丈夫かもしれないけど、私だと厳しいかもしれない。
「ひなみ? 考え事しながら歩いてると転ぶ――っと、ほら」
「うわ、ありがとうイクル」
真剣に鈴花さんVS自分はどうなのか……なんて、イクルが聞いたら呆れることを考え込んでいたら転んでしまった。
すかさずイクルが抱きとめてくれたけれど、いつものあきれ顔だ。
「何もないところで転ぶなんて、どんな才能なのさ」
「才能じゃないよ……」
運動神経がそんなに悪いわけじゃないんだけどな、そう言うとイクルがため息をついた。
「……ほら、ついたよ。あの階段の下で、師匠が眠ってる」
「螺旋階段? 地下に、深い空間がある……?」
「そう。この穴から続く螺旋階段を降りた先に、師匠がいるよ」
イクルが指差す先、ぽっかりと穴が空いていた。そして見えなくなるくらい下まで続く、螺旋階段。空間に淡く光る花が舞っているため、最低限の明かりが確保されている。
……イクルがいないまま歩いてたら、この穴に落ちてた気がするよ。ちょっとぞっとしながらも、イクルと一緒に螺旋階段を下っていく。
金属でできた階段のようで、降りるたびにカツンと音が鳴る。
「ねぇ、イクル」
「ん?」
「……この螺旋階段、どれくらい続くの?」
かれこれ数十分くらい降りている感じなのに、まったく下が見えてこない。イクルが首を傾げながら、「そうだね……」と呟いて無慈悲な言葉をぶつけてくる。
「俺が一人で歩くと、一時間くらいだったけど」
「………………」
イクルの一時間と、私とイクルがセットのときの一時間は……たぶん、倍くらいは所要時間が続くと思う。だからイクルも、自分が一人で歩くとって言ったに違いない。
「つまり私が一緒だと……?」
「……たぶん、三時間はかかると思うよ」
「だよね……」
自分に体力がないことも、足が遅いこともちゃんと自覚してるよ。
私とイクルは、ちょこちょこ休憩をしながらなんとか最下層――鈴花さんがいるところまでたどり着いた。
「鈴花さん……鈴花さん!!」
私は鈴花さんを見て、一目散に駆け寄った。
そこはまるで牢獄のような石造りで、冷たい空間だった。鈴花さん本人に足かせがはめられていて、ここから動くことができないようになっている。
ここは鈴花さんの意識なのに、どうして鈴花さんが囚われているんだろうと……胸が苦しくなる。
いや、というより本当に――。
「息苦しい……?」
「ああ、そうだね。ここは場所が悪いから、空気が濁ってる。長時間いるのは、おすすめしないね」
だからイクルも離れたりを繰り返していたんだ。
……でも、あの螺旋階段を何往復する体力が私にあるだろうか? 絶対にないよ。
「私は鈴花さんを起こすよ!」
「はいはい」
寝ている鈴花さんの肩を持って、揺らしてみる。黒髪がさらさらと揺れたけれど、そろだけだった。
「どんだけひっぱたいても起きないんだよ」
「いくる……」
どんだけひっぱたいたんですかとは、怖くて聞けなかった。
「……ということは、物理的な方法じゃ鈴花さんは起きないってことだよね?」
「そうなるね。かといって、それ以外にどう起こせばいいかわからない」
「うん……」
人を起こすようなスキルは持っていない。
どうしようかと考えていると、さっきの病室のときみたいに――ぞわりとした空気が、辺りに満ちた。思わずイクルの服を掴んで、息を呑む。
私を庇いながら、イクルが周囲を警戒するけれど――鈴花さんもどきの姿は、見えない。
「どういうこと?」
「こんなこと、今までなかった。ひなみが来た影響としか、思えないけど」
まさか私が原因!?
とはいえ、思い当たることなんてない。
「どうしよう……でも――あ、もしかして」
「ひなみ?」
「これが、鈴花さんの持つ魔王の力? それに鈴花さんが囚われているのだとしたら、魔王を倒せば鈴花さんが起きるのかもしれない!!」
「魔王って……そんな、無茶な」
イクルが顔をしかめ、横たわる鈴花さんに視線を向ける。
さっきまでびくりともしていなかったのに――その体が、起き上がった。




