表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第5章 闇に目覚し一輪の花
166/175

19. 魔王の目覚め

 花が咲きほこり、妖精の力を得てパワーアップした私の弓。それは確かに私の手の中にあって、心地よい重みを渡しに与えてくれる。

 ああ、よかった。私はこの弓を、ちゃんと自分の武器として顕現させることができた。


 私がはにかむように笑うと、イクルが「よかったね」と褒めてくれた。そのちょっとしたことがやっぱり懐かしくて、すごく嬉しい。


「よし、鈴花さんのところに行こう! 案内して、イクル」

「……わかったよ。まったく、ひなみには敵わないね」


 暗い空間のなか、イクルは手で風を呼ぶ。

 しんとしていた場所で、初めて空気の流れを感じることができた。

 イクルは、風の魔法を得意とする。それから、探索能力も優れていて、深い森でもイクルがいれば道に迷うことはない。それはこういった空間でも同じだったらしく、とても頼もしい。


 風が流れるままに、「こっちだよ」とイクルが私の手を取る。


「ああいった変な師匠はたまに出てくるけど、魔物の類はいないよ」

「そ、そうなんだ……」


 とりあえず魔物がいないことにほっとしながら、さっきみたいな鈴花さんがまだまだいるのかと思うと気が滅入る。イクルがいるから心強いけれど、助けてもらえなかったらさっきの攻撃でやられていただろうし。


 あ、でも今は弓があるから……私でも勝てるのかな?

 いや、鈴花さんもどきとはいえ初代勇者。きっと強さは鈴花さんに匹敵……とまではいかないけど、かなり強いはずだ。イクルは強いから大丈夫かもしれないけど、私だと厳しいかもしれない。


「ひなみ? 考え事しながら歩いてると転ぶ――っと、ほら」

「うわ、ありがとうイクル」


 真剣に鈴花さんVS自分はどうなのか……なんて、イクルが聞いたら呆れることを考え込んでいたら転んでしまった。

 すかさずイクルが抱きとめてくれたけれど、いつものあきれ顔だ。


「何もないところで転ぶなんて、どんな才能なのさ」

「才能じゃないよ……」


 運動神経がそんなに悪いわけじゃないんだけどな、そう言うとイクルがため息をついた。


「……ほら、ついたよ。あの階段の下で、師匠が眠ってる」

「螺旋階段? 地下に、深い空間がある……?」

「そう。この穴から続く螺旋階段を降りた先に、師匠がいるよ」


 イクルが指差す先、ぽっかりと穴が空いていた。そして見えなくなるくらい下まで続く、螺旋階段。空間に淡く光る花が舞っているため、最低限の明かりが確保されている。

 ……イクルがいないまま歩いてたら、この穴に落ちてた気がするよ。ちょっとぞっとしながらも、イクルと一緒に螺旋階段を下っていく。


 金属でできた階段のようで、降りるたびにカツンと音が鳴る。


「ねぇ、イクル」

「ん?」

「……この螺旋階段、どれくらい続くの?」


 かれこれ数十分くらい降りている感じなのに、まったく下が見えてこない。イクルが首を傾げながら、「そうだね……」と呟いて無慈悲な言葉をぶつけてくる。


「俺が一人で歩くと、一時間くらいだったけど」

「………………」


 イクルの一時間と、私とイクルがセットのときの一時間は……たぶん、倍くらいは所要時間が続くと思う。だからイクルも、自分が一人で歩くとって言ったに違いない。


「つまり私が一緒だと……?」

「……たぶん、三時間はかかると思うよ」

「だよね……」


 自分に体力がないことも、足が遅いこともちゃんと自覚してるよ。

 私とイクルは、ちょこちょこ休憩をしながらなんとか最下層――鈴花さんがいるところまでたどり着いた。



「鈴花さん……鈴花さん!!」


 私は鈴花さんを見て、一目散に駆け寄った。


 そこはまるで牢獄のような石造りで、冷たい空間だった。鈴花さん本人に足かせがはめられていて、ここから動くことができないようになっている。

 ここは鈴花さんの意識なのに、どうして鈴花さんが囚われているんだろうと……胸が苦しくなる。


 いや、というより本当に――。


「息苦しい……?」

「ああ、そうだね。ここは場所が悪いから、空気が濁ってる。長時間いるのは、おすすめしないね」


 だからイクルも離れたりを繰り返していたんだ。

 ……でも、あの螺旋階段を何往復する体力が私にあるだろうか? 絶対にないよ。


「私は鈴花さんを起こすよ!」

「はいはい」


 寝ている鈴花さんの肩を持って、揺らしてみる。黒髪がさらさらと揺れたけれど、そろだけだった。


「どんだけひっぱたいても起きないんだよ」

「いくる……」


 どんだけひっぱたいたんですかとは、怖くて聞けなかった。


「……ということは、物理的な方法じゃ鈴花さんは起きないってことだよね?」

「そうなるね。かといって、それ以外にどう起こせばいいかわからない」

「うん……」


 人を起こすようなスキルは持っていない。

 どうしようかと考えていると、さっきの病室のときみたいに――ぞわりとした空気が、辺りに満ちた。思わずイクルの服を掴んで、息を呑む。


 私を庇いながら、イクルが周囲を警戒するけれど――鈴花さんもどきの姿は、見えない。


「どういうこと?」

「こんなこと、今までなかった。ひなみが来た影響としか、思えないけど」


 まさか私が原因!?

 とはいえ、思い当たることなんてない。


「どうしよう……でも――あ、もしかして」

「ひなみ?」

「これが、鈴花さんの持つ魔王の力? それに鈴花さんが囚われているのだとしたら、魔王を倒せば鈴花さんが起きるのかもしれない!!」

「魔王って……そんな、無茶な」


 イクルが顔をしかめ、横たわる鈴花さんに視線を向ける。

 さっきまでびくりともしていなかったのに――その体が、起き上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ