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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第5章 闇に目覚し一輪の花
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18. リグリスの弓

「……っ、イクルッ!!」

「ほら、下がって」


 私が名前を呼ぶと、いつものあきれ顔が返ってくる。

 そして私の手を取って、イクルの後ろへ庇うように回される。なんら変わってない、イクルのままだ。精神だけだから、精神的に消耗してるんじゃ……なんて心配はいらなかったらしい。


 棍を振るうイクルの後ろ姿を見て、ほっとする。


「勝手に師匠の姿を取らないでほしい、ね」


 鈴花さんに似た何かは、イクルに絡めるように手を伸ばす。それを軽くかわしながら、躊躇することなくイクルの棍が相手に命中して――それは塵となり闇に溶ける。

 それと同時に、病室だった場所も元の暗い世界へと姿を戻した。


「うわぁ……」


 イクルがきてくれなかったら、間違いなくやられていた。


「ありがとう、イクル。助かった……!」

「ひなみは油断しすぎだよ。というか、どうして一人でこんなところまできてるのさ」


 家で大人しくしていればいいのにと、イクルが盛大にため息をつく。

 そんなこと言うけれど、私から言わせてもらえば、心配させる二人が悪い! もう、これに尽きる。目が覚めない二人を毎日見て、私がどれほど、どれほど――!


「心配、したんだから……っ!!」

「! ひなみ、俺は」

「何日も何日も、目が覚めなかったんだよ! 心配しないわけないでしょう……!」

「そんなに?」


 涙が出そうになるのを必死にこらえながら、イクルに詰める。けど、当の本人はそんな自覚がまったくなかったようで、きょとんとした。


 ……この世界と現実は、体感的な時間の流れがだいぶ違うみたいだ。

 今この瞬間も、私にとってはほんの一時間程度。でも、実際には数日時間が経っている可能性もあるということ。

 多少の覚悟はしてたけど、これが意識だけの世界。

 何を目安にしたらいいのか、まったくわからないというのは怖いね。


「何はともあれ、イクルが無事でよかった。鈴花さんの居場所は、探してるの?」

「心配かけてごめん。……いや、師匠は見つけた。でも、一筋縄じゃいかなくてね」

「え?」


 イクルが素直に謝るのなんて珍しいと思ったのも束の間で、すぐに険しい顔になる。鈴花さんを見つけたけれど、起こすことができない……そんな状況。

 この意識だけの世界を把握しつつあるのかな? そう思い、私は鈴花さんのところまで連れて行ってほしいとイクルにお願いする。


「……それはいいけど、簡単に目覚めさせれるなんて思わない方がいいよ」

「わかってるよ!」


 イクルの言葉に力強く頷いて、拳を握りしめた。

 そしてふと、気付く。


「ねえ、イクル。どうして棍を持ってるの?」


 意識だけの世界なのに、武器を持ってくるのは不可能じゃない? そう思い、首を傾げる。もってくることができるのならば、それこそ山のように回復薬(ポーション)を持ってくるし武器だって持ってくる。

 泣く泣くあきらめたというのに、イクルはその方法を知っていた?

 どうせなら、行く前に教えておいてくれたらよかったのに……。


 私がそう告げると、イクルはまたもやあきれ顔。


「ここは意思の世界なんだから、思い描いたものが形になるんだよ。ひなみだって、いつも使ってる弓を思い浮かべれば顕現させることができるはずだよ」

「え、そうなの? すごい、便利だね!」

「……確かに便利だけど、本当に愛用しているものじゃないと顕現させることはできないよ。そう考えると、不便の方が強いし」

「ふぅん……」


 イクルの言葉を聞きながら、なら、鈴花さんが作ったその棍をイクルは相当気に入っているってことだよね。やっぱり仲は全然悪くないと思い、自然に嬉しくて笑みが浮かぶ。

 いっこくも早く鈴花さんを起こして、三人で目覚めないといけないね。


「……とりあえず、ひなみも弓をイメージするといいよ」

「うん、やってみるね!」


 私はイクルに言われた通りに、いつも使っている弓をイメージする。想像しやすいようにと目をつぶれるのも、横にイクルがいてくれるという安心感があるからだ。

 ……もしまた、あんな恐ろしい鈴花さんもどきに襲われたらたまったもんじゃないですよ!


 あれは本当に怖かった。

 おばけといい勝負だと思う。


「……ふんっ」

「変な気合いはいらないよ。……というか、まったく顕現する気配がないね」

「…………うぅ」


 頭の中では完璧に弓を想像しているのに、実物が手元に現れてくれない。どうしてだろうか。普段使っている武器はあれだけだし、なによりベアトリーチェたち妖精のおかげでパワーアップすることができた……大切な宝物だ。

 それを顕現できないはずがあるだろうか、いいや……ないですよ!


 私はあきれるイクルの横で、もう一度唸りながら自分の弓を想像する。

 けれど、うんともすんともいってくれない。私の想像の仕方が悪いのだろうかと、今度は戦っているときのことを思い浮かべてみた。

 どう使うものなのか、具体的にイメージすることは大切だからね!


「……駄目そうだね」

「うぅ……。どうして駄目なんだろう、こんなにも望んでるのに」

「想像力が足りない……っていうことは、ないと思うんだけどね。ひなみはいつもそれを使ってるし、なによりあの神からもらった武器でしょ?」

「うん――あ」

「?」


 イクルの言葉に、ハッとした。

 そして同時に、思い浮かべていなかったもう一つのイメージが頭の中に浮かんでくる。


 それは、リグ様だ。

 この弓は私の武器でもあるけれど、リグ様が私にくれたものでもある。ポイントでだけど。


 だから、私はこの武器を思い浮かべるよりも――リグ様を思い浮かべた方がいいのかもしれない。そう思うと、すとんと心が落ち着いた。

 まだ、そんなにたくさんあったことはない。


 でも、リグ様の顔はすぐに思い浮かべることができる。

 いつも優しくて、私のことを玩具だと告げるのに――最優先に護ってくれる神様。


 リグ様の優しい笑顔が私の中で浮かんだ時、手に心地よい重さを感じだ。


「――! ひなみ、それ」

「……弓だ!」

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