16. 水晶の回復薬
「うーん、どうしようかな……」
自宅に戻り、就寝前。
私はリグ様に書くための交換日記の内容で――ひっじょーに、困っていた。いや、悩んでいた。
一週間も大樹の中に入っていたし、最近は忙しくて交換日記の内容もあまり書けていなかったから。もちろん、毎日書いてはいたけれど……短いときは数行だった。
そんな私に、リグ様は大丈夫だよって、いつも返事をくれる。
優しいなと……改めて思う。というか、甘すぎると思う。それが嬉しいから、どうすることもできないけれど。
「よっし、とりあえず近況報告を書きつつ……イクルと鈴花さんを助けに行ってくるって書こう」
アイテムや回復薬の類を持っていきたいけれど、意識だけで入り込むのでそれはできないのだという。つまり、私の精神力勝負。
……イクルと鈴花さんは意思が強い。
そんな二人と私が対等にいられるのかはわからないけど、頑固さだったらイクルにだって負けないと自負してるから!
交換日記を書き終えて、私はすぐに眠りについた。
◇ ◇ ◇
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ひなへ
おはよう。
最近はいろいろなことがあって、大変だったね。でも、その分ひなは強く成長してるから、最後にもう少しだけ頑張って。
話したいことはたくさんあるけど、まずは水晶の回復薬のレシピだよ。
これは飲むことによって、防御力を上げることが出来ると同時に、精神面も守ってくれる。
わかりやすく言うと、意識だけの存在でも自我を保つ手助けをしてくれるんだ。だから、絶対に飲んでからイクルと春のところに行くように。
水晶の回復薬
妖精の涙・魔力石・魔力水・瓶
材料自体は、そんなに難しいものじゃないと思うよ。
ドラゴン一匹とかだったら、ひなには難しいからね……。
それじゃあ、頑張って。
リグりス
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目が覚めて、私は真っ先に交換日記を読んだ。
変わらず優しいリグ様の字が綴られていて、それだけでどこかほっとした。私を頑張ってと応援してくれている文面に励まされ、同時に水晶の回復薬の材料に頭を悩まさせる。
「いやいや、間違いなく難しいよ……」
だって、妖精の涙って……!
ベアトリーチェたちの誰かに、泣いてくれって頼むの!? ハードルが高すぎるし、そうそう簡単に泣けるものじゃない。
私だったら、泣いてくれと言われて泣けない自身がある。
「どうしよう……。とりあえず、相談するしかないよね」
ベアトリーチェたちだって、鈴花さんに早く起きてもらいたいだろうし、きっと協力はしてくれる……と、思うんだよね。
でも、ベアトリーチェが泣く姿をいまいち想像できないなぁ……。
なんて、思っていたときが私にもありました。
現在、目の前にいるベアトリーチェは綺麗な瞳から大粒の涙をぽろぽろとこぼしていた。私が慌ててしまうほどで、おろおろしていると一緒にいたまろがコップでベアトリーチェの涙をキャッチする。
「ひなみ、ぼうっとしすぎである!」
「あああ、ご、ごめんまろ、ベアトリーチェ」
ハンカチで涙を拭きながら、『大丈夫ですわ、店長』とベアトリーチェが誇らしげに告げる。
そう。妖精の涙が必要なのだと頼みにきたら、いともあっさり快諾されてしまったのです。しかも、ベアトリーチェはものの三秒で涙を流した。
思わずぽかんとしてしまった私、しかたないよね?
『涙は女の武器ですから、店長もすぐに泣けると便利ですわよ?』
「いや……私にそういうのはちょっと無理かなぁ」
『そうですか? とは言っても、私も実際涙を武器にしたことはないんですけど……』
すべて泣く前に解決するのだと、ベアトリーチェが告げる。
強気な彼女のことだから、泣くことなんて不要だろうと変に納得してしまう自分がいる。むしろ相手が泣いてしまうんじゃ……なんて思ったことは内緒。
『でも、これで水晶の回復薬が作れるのね! 店長、主様をよろしくお願いするわ』
『よろしく』
『…………』
ベアトリーチェに続き、アークルとフィーナも言葉を続ける。
私は力強く頷いて、「まかせて」と告げる。
「絶対に鈴花さんと戻ってくるから、お店をお願いね?」
『ええ、それはまかせて頂戴。店長が驚くくらいの売り上げを出して、あっと言わせてあげるわ!』
「頼もしいなぁ」
私よりも店長らいしベアトリーチェに苦笑して、お店を後にした。
◇ ◇ ◇
「ひなみ~! 魔力石と、魔力水を持ってきたのである!」
「ありがとう、まろ!」
私が地下室から瓶を取ってきている間に、まろが魔力マングローブから魔力石と魔力水を用意してくれていた。
机の上に並べられたものは、水晶の回復薬の材料一式。
コップに入ったベアトリーチェの涙。
魔力石。
魔力水。
瓶。
「これでイクルたちを助けられる……」
回復薬を作る前に深呼吸していると、ひょこりとレティスリール様が顔を出した。
「お待たせ、ひなみ。準備が整ったのね」
「はい。これで助けに行くことができます」
笑いながらレティスリール様に告げると、心配そうな表情で見つめ返される。私の下まで来て、ぎゅっと手を握られる。
ほんの少し、レティスリール様の手が震えているのがわかる。
「ひなみ、春くんをよろしく頼むわ。……私がこの世界に召喚してしまったせいで、こんなにも春くんの人生を乱してしまった」
「レティスリール様……」
「今の私にできることはあまりないけれど……」
そう寂しそうに笑うレティスリール様に、私は首を横に振る。
「鈴花さん、楽しそうでしたよ。あんまりうまくいってなかったのかもしれないですけど、イクルっていう弟子もいるわけですし」
だからそんなに悲観しないでくださいと、そう告げる。
鈴花さんが勝手に出て行ったことを怒るイクルのことはよくわかる。
でも、自分が魔王だったことを告げずに一緒にいて――でも、限界がきて一緒にいられなくなってしまった鈴花さん。
魔王だから、ばいばい。
なんて、そんなことは言えないよね。
だからって、無言でイクルを置いて出て行ってしまう……というのもどうかと思うけれど。
「大丈夫、二人まとめて助けてきます!」
「ふふ、ひなみがいると心強いわね」
任せてくださいと胸を張り、私は水晶の回復薬を作るためにスキルを使う。
「《天使の歌声》」
何個かできるだろうかと思ったけれど、できあがった水晶の回復薬は1個だけ。
瓶の中央に宝石を模ったマークがあって、中の液体はほんのりと薄い水色だった。
まさにクリスタルを飲み物にしました……と言っても過言ではないのかと思う。
「ひなみ」
「はい、レティスリール様!」
私は出来上がった水晶の回復薬を一気に飲み干した――。




