15. 変化した弓
私がスキルを唱えると、ふわりと辺りに暖かな風が吹いた。サリナさんの聖剣を伝い、私の力が大樹に流れ込んでいっているというのがわかった。
神様の箱庭だけど、私に神としての力はない。きっとリグ様が力を貸してくれているから、こんなにもあったかい気持ちになれるんだと思う。
私の力で成長できるのなら、いくらでもあげる。
そう思った瞬間、大樹は大きな花を咲かせた。
「うわあぁぁ、すごいね、さすがひなみちゃんだよ!」
「はふ……っ」
大きく深呼吸してから、聖剣から手を離す。
気付けば汗だくになっていて、とても緊張していたことに気付く。サリナさんが「聖剣も誇らしいね」と微笑んだ。
「はい。……でも、本当によかったんですか? 聖剣なんて、伝説級の武器なのに」
「いいの。この方が、この子も幸せだと思うから」
大樹に刺さった聖剣をサリナさんが指先で撫でると、私の意識は反転した。
「……え?」
『おかえりなさい、店長』
「大樹の中から出たみたいだね、ひなみちゃん」
目の前にあった聖剣はなく、代わりにフィーナとアークルがいた。二人とも笑顔なので、大樹を成長させることができたのだということがわかる。
私はすぐに後ろを振り向いて、今まで試験として中に入っていた大樹を――見た。
「うそ……すごい」
「さすがは、ひなみちゃんだね」
大樹は一回り大きくなっていて、とても綺麗な花が咲いていた。まるでこの世界の神であると言われても、私は疑うことがないと思う。それほどまでに立派で、凛としていた。
私の力でこんなすごい大樹に育ってくれるんだ。それはひどくむずがゆくて、けれど嬉しかった。
『やっぱり店長はすごい』
『お店も大繁盛』
「褒めすぎだよ……」
アークルの大繁盛は褒めているのかわからないけれど、二人が嬉しそうにしてくれているので私も嬉しい。
『はい、これ』
『ん』
二人がキラキラ光る宝石を差し出して、『ありがとう』と照れたように笑う。
「確かに受け取ったよ……!」
緑色と、黄色の綺麗な宝石。私は手で包み込むように持って、二人に「ありがとう」と微笑み返す。
すぐに弓を取り出して、二つの宝石を付ける。
「これで、火・水・風・土……全部が揃ったんだ」
「弓が変化するよ、ひなみちゃん!」
「え、わわわ、本当だ……!」
自然のすべてを取り入れた弓は、大きく成長するのかと見せかけて――一回り小さいものへと変化した。
「これって……」
威力が下がったりしたのだろうかと、弓をじっと見つめてみる。弦を引いてみるが、今までよりもぐっと扱いやすくなっている。
力もあまりいらず、小回りが利きそう。
弓をくるくる回しながら見ていると、ぽかんと口をあけたサリナさんが私を見ていることに気付く。
「ひなみちゃん、それすっごい魔力を秘めてる。妖精たちの力が加わったからだろうけど、ドラゴンも一撃で倒せるかもしれないよ」
「ええ、まさかそんな」
イクルやアルフレッドさんじゃあるまいし、私がドラゴンを倒せるとは思えない。
あ、でも。
この弓はリグ様にもらったものだから、リグ様の力でドラゴンも倒す――と考えると、私でもできる気がしてしまうから不思議だ。
やっぱりリグ様は、私の中で特別です。
「これで、イクルを助けに行くんだっけ」
「いえ、あとは水晶の回復薬があればいいみたいです。防御力が上がるから、あった方がいいってレティスリール様が言ってました」
ただ、これを手に入れるためには秘密の硬貨が千枚必要になる。二号店の売り上げがそのまま硬貨になるけれど、どれくらいで集まるだろうか。
小さくため息をつくと、フィーナが『店長』と私を呼ぶ。
「うん?」
『大丈夫』
『ぬかり、ない』
フィーナとアークルがそう言うと、ベアトリーチェが奥から大量の秘密の硬貨を持って現れた。まだまだ半分は足りなかったはずだと思いながら、どうしてそんなに硬貨があるのかと問いかける。
にっこりと笑ったベアトリーチェは、『当然ですわ』と胸を張る。
『だって、店長ったら大樹の中に一週間も入っていたのよ! これくらい、稼げて当然です。まろ様が回復薬をたくさん運んでくださったんです』
さすがまろ様は素晴らしいと、ベアトリーチェは嬉しそうに笑う。
まろが頑張ってくれていたことがとても嬉しくて、私は頬が緩んでしまい――って、待って。
「一週間も、大樹の中に入ってたの?」
「うひゃー、全然わからなかったよ。時間の流れが違うのかなぁ?」
「サリナさんは落ち着きすぎです……」
「だってひなみちゃんの勇者だし」
それは理由になっていませんから。
こめかみを押さえながら、まろたちに心配をかけてしまっただろうなと考える。……でも、ベアトリーチェの口ぶりからしてよく二号店に来てくれていたみたいだから、事情は把握してくれているのかな?
それなら安心だけど……と思いながら、イクルの様子を一週間も見れていないのかと思う。
……異状はないと思うけど、心配だ。
鈴花さんと一緒に眠っているイクルは、無事なのだろうか。
二人とも強いから大丈夫だと思いたいけれど、もしもということだってある。出来るだけ早く、二人を助けにいきたい。
「って、そうだ……! 一週間もそうだけど、秘密の硬貨はどれくらいあるの? 千枚で、水晶の回復薬の作り方と交換してもらえるの」
私が必死に訴えると、ベアトリーチェはにんまりと笑う。
『1,032枚、ですわ!』
「うっそ、そんなにあるの!?」
あと少しで千枚くらい……なんて考えた私が馬鹿だった。交換できる枚数を余裕で越えていて、私は思わずサリナさんの手を掴んで「やったー!」と声をあげてしまった。
恥ずかしいけど、どうしようもなく嬉しかった……から。
「じゃあ、水晶の回復薬を作ってイクルたちを助けに行こう!」
「はい!」
サリナさんの言葉に大きく頷き、急いで家に帰った。
やることは一つ。交換日記に秘密の通貨が集まったことを書いて、リグ様にレシピをもらう。
やっと助けてあげられる。
まってて、イクル、鈴花さん!
頑張って更新月間です。
ちらっとお知らせ。
『悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される』
http://book1.adouzi.eu.org/n7864de/
第4章を開始したので、こちらもよろしくお願いします〜!




