10. ベアトリーチェの試験-2
「とりあえず、お店から順に上の階層に行こうと思うんだけど、それでいいですか?」
「もちろんいいよ! 頑張って試験をクリアしよう」
「はいっ!」
私とサリナさんは、調和をするためにゆっくりとダンジョンを進むことにした。
お店の1つ上の階にあるのは、妖精の泉だ。ここはベアトリーチェたち妖精がたくさんいる、緑豊かなフロアになっている。
地下 10階 妖精の泉
「最初に見たときも驚いたけど、クリスタルの花が綺麗なフロア……」
きちんと手入れをされているので、調和をする必要性を全く持って感じられない。この階に住む妖精たちも、平和そうに過ごしているからなおさらに。
サリナさんと顔を見合わせて、どうしようかと考える。雑草でも生えていれば抜いたりするけれど、そんなものはないし、もちろんゴミが落ちているということもない。
でも、素通りしてしまうというのもあまりよくない気がするんだよね。
私は近くにいた妖精に、何か必要なことはないか尋ねてみることにした。
『えっ? 調和に来てくれたの? それは嬉しいの!』
「ええと、何かして欲しいことがあるのかな?」
『あるの! お花に栄養をあげて欲しいの!』
なるほど、栄養!
妖精さんの言葉に、私は納得する。確かにここは、ダンジョンの中なので太陽の光が届かないのだ。人間の手で栄養をあげることも、きっと大事だろう。
……あ、そうか。だからベアトリーチェは私に調和をしてほしいと頼んだんだろう、花に栄養を届けるために。
了承の旨を妖精に伝えて、私はサリナさんと作戦会議だ。
フロアの端っこ、クリスタルの花がたくさん咲き乱れるところでどうやって栄養を与えるのかを考える。
天使の歌声でいいのかとも思ったけれど、ここの花は綺麗に咲いているのだ。このスキルは成長促進なので、おそらく違うと思う。
「植物の栄養かぁ……」
サリナさんが首をかしげつつ考えて、「そうだ!」と声をあげる。
「ひなみちゃんの回復薬をあげてみたらどうかな? 人間はもちろんだけど、植物にだって聞くと思うよ」
「なるほど!」
確かに、それならば効果があるかもしれない。私は用意していた真紅の回復薬と魔力回復薬を1つずつ取り出した。
しゃがんで、綺麗に咲き誇るクリスタルに、まずは真紅の回復薬をかけてみる。
「わ、クリスタルが一回り大きくなった!」
「栄養が足りなかったのかな? 魔力回復薬も試してみよう」
サリナさんの声にこくりと頷いて、私は違う花に魔力回復薬をかける。すると、大きくならずにクリスタルの花は輝きを増した。
「回復薬によって、効果が違うんだ!」
真紅の回復薬はクリスタルが大きくなり、魔力回復薬はクリスタルが輝きを増す。
どちらがいいのかは、私に判断が出来ない。のだけれど……回復薬をあげた花の周りに、妖精たちが集まってきた。
両方の花ともに、嬉しそうにしている妖精たちがいる。どちらでもいいのか、もしくは妖精によって好みが分かれているのかもしれない。
「でも、私の回復薬にこんな効果があったなんて知らなかった」
「私もびっくりしちゃったけど、さすがはひなみちゃんだね」
サリナさんのうさぎ耳が、嬉しそうにピコピコと揺れる。
褒められるのは恥ずかしいのだけれど、今回ばかりは純粋に嬉しい発見だ。いつも庭の植物や野菜には、お水をあげていたから。
……野菜に回復薬をあげたらどうなるんだろう?
おばけかぼちゃみたいなのが、育ったりするのだろうか。
それはなんというか、ちょっと怖いかもしれないな、なんて。
とりあえず、今はこのフロアをなんとかしなければ。
私は立ち上がって、スキルを使う。
「癒しの如雨露!」
「おぉぉ、綺麗!」
回復薬の雨が降り注ぎ、クリスタルの花は力を、輝くを、取り戻していった。おそらくこのキラキラ輝く姿が、本来のものなのだろう。
私のスキルでそれを取り戻してもらえるのならば、これほど嬉しいことはない。
たくさんの回復薬を両手に抱えて、何回かスキルを使っていくと……このフロアは、最初に見た時よりもずっとずっと、光に溢れる綺麗な場所になった。
隣ではサリナさんが感嘆の声をあげて、ぴょんぴょんジャンプをして喜んだ。
『栄養いっぱい! これならいい蜜も取れそう~!』
『今夜はご馳走だね~!』
妖精たちがきゃっきゃしながら談笑しているのを見ると、なんだかほっこりとしてしまう。そしてそれ以上い、もっと頑張らなければと思ってしまう。
鈴花さん不在の今、このダンジョンを快適にできるのは私だけ……かもしれない?
◇ ◇ ◇
次の鍛冶屋と、その次の中ボスの部屋には生き物はいなかった。
どうしたものかと悩んだ結果、私とサリナさんはそれぞれの部屋を1日がかりで掃除をした。そっと回復薬をかけてみたけれど、家具に何か変化が起こるはずもないですよね……。
「くたくた……」
へたりとしたいけれど、一刻も早く私は試験を終わらせたいのだ。
一応持ってきていた寝袋で夜を明かして、私たちは次のフロアへと登って行く。いったん家に帰ればいいという意見がサリナさんから出たけれど、あくまで今は試験中だ。
疲れたから家に帰る……というのは、何か違う気がしてしまった。
階段を登っていると、サリナさんがうーんと首をかしげる。
どうしたのだろうと問いかければ、真剣な瞳で私を見る。
「次の階は、広いうえに、たくさんの魔物がいたよね? 一掃したとは思うけど、残っている可能性は十分にあると思う。ひなみちゃんは、絶対に私より前には出ないでね?」
「……わかりました」
そうか、動物園とされていた次のフロアは魔物がたくさにるフロアだった。
というか、森だったはず。回復薬が役に立ちそうではあるけれど、1日では絶対に調和できるような場所じゃない。
下手したら、数日くらいかかってしまうかもしれない。魔物がいたら、ことさらに。
「一応、私も弓は持ってます!」
「うん。でも、ひなみちゃんは私がちゃんと守るから大丈夫だよ!」
安心してねと言うサリナさんは、動物園に足を踏み入れた。




