3. 人々の不安
私の手の中には、ドラゴンさんにもらった黄金の花。
ベッドで体を起こし、真夜中のことが夢ではなかったのだと確認することができた。
「たしか、落ち着いたときに飲み込めって言ってたはず……」
とりあえず、家に帰ってからがいいかな。
そうと決まれば、アルフレッドさんに相談してすぐに帰りへ向かおう。
「っと、その前に」
私は鞄の中からリグ様との交換日記を取り出して、返事の確認をする。
実は寝直す前に、ちゃんと書いておいたのだ。
- - - - - - -
おはよう、ひな。
怒濤の展開だったね。体は大丈夫? いつも頑張ってるから、心配になるよ。
僕からひなに答えを教えてあげるのは簡単だけど、それだとひなが成長できなくなっちゃうからね。僕は見守っててあげるから、ひなの思った通りにやってごらん。
もちろん、危ないと思ったらすぐに名前を呼ぶこと。
それから……。
いくらエルフの村の中だからって、真夜中に一人で出歩いたら駄目だよ。
せめて、僕を呼んで。
ひなはあまりにも警戒心がないから、心配になっちゃうよ。
今日は、家に戻るんだよね。
森の中は危ないから、十分注意してダッチョンに乗るんだよ
リグリス
- - - - - - -
「うぅぅ……」
また、心配されてしまった。
というか、私はいったいどれくらいリグ様に見られているんだろうか。
話していないことも普通に日記に書かれてるから、どこかで見守ってくれているんだろうけれど。嬉しいような、恥ずかしいような、そんな気分。
「でも、頑張りますね。リグ様」
この真っ暗の世界に、早く光を取り戻さないと。
よしっと気合いを入れていれば、ノックの音がしてアルフレッドさんの声が聞こえた。
「ひなみ、起きてるか?」
「あ、すみません。起きてます!」
慌ててドアを開けると、すでに支度を終えているアルフレッドさんが顔を出した。私も支度は終わっているので、一緒に朝食をとるため階下へ向かう。
その行きしなに、一刻も早く帰りたいことと、ドラゴンさんにもらった黄金の花のことをアルフレッドさんに伝える。
「……はぁ。ひなみ、何かあれば俺を起こせ。夜に散歩をしたかったら、そのときに起こせ」
「え、でもそれは」
「いいから起こせ。勝手に出歩いて何かあったら遅いんだぞ」
「ご、ごめんなさい……」
リグ様に続き、アルフレッドさんにまで怒られてしまった。
とりあえずすぐに変えることに関しては了承をもらえたので、よかった。
私たちは朝食を食べてすぐ、エルフのみんなに別れの挨拶をして家路を急いだ。
◇ ◇ ◇
「ひなみひなみ〜! 大変なのである!!」
「まろ?」
家に帰るなり、お店の制服を着ているまろが私に飛びついて来た。後ろを歩いていたアルフレッドさんが支えてくれていなかったら、きっと倒れていただろう。
どうしたのかまろに確認すれば、どうやらお店にお客さんが押し掛けているらしい。
……どういうことだろうか?
「よくない現象だからって、回復薬を買い占めてる人が多いらしいのである! 街のお店も、軒並み売り切れているのである!」
「あ、そうういうことか……。確かに、不安になるのも仕方ないね」
でも、私のお店ひなみの箱庭は1日の販売個数を100個ずつという風に決めているのだ。
それは、私が回復薬をたくさん作れるということが知れ渡るのはよくないためなんだけれども。しかし、実際のところはまだたくさん在庫はあるのだ。
街の人が望むだけ売ってもあまるとは思う。
どうしようか。
「今も店に大勢の人がいるのか?」
「そうなのである。回復薬はもうないって言っても、明日売る分があるだろうって聞かないのである」
「そうか。ひなみ、いくぞ」
「は、はいっ!」
ため息をついて、アルフレッドさんが店舗へ繋がっている扉を開く。
アグディスへ行くときにもこの扉を使っているから、もうなれたもの。驚くこともせずに街の店舗へ移動して、店内を見渡した。
そこはまろが言っていた通りに……人、人、人。
今までに一番多いであろうお客さんの数だった。誰もが回復薬を売ってくれと言っているけれど、私たちの出現でその場が静まり返る。
……店長が出たから?
と、思ったのだけれどもちろんそうではない。
「アルフレッド様だ!」
「よかった、アルフレッド様がいらっしゃれば安心だ!」
「この空はいったい何なのですか!?」
わっと皆が詰め寄ったのは、アルフレッドさんへだった。
勇者パーティーの一員で、この国で絶焔の魔術師と呼ばれるすごい人。それがアルフレッドさん。期待の眼差しで見られるのも、頷けます。
一度ゆっくりと目を閉じて、アルフレッドさんは店内の人々を見渡した。
落ち着いた声を心がけているように、「大丈夫だ」とその口が動く。
「この暗い空に関しては、勇者サリナも動いている。もちろん、私もだ。解決までにはもう少し時間を有するが、必ず晴れ間をとり戻すと誓おう」
「アルフレッドさん、それは」
「しっ。大丈夫、俺たちは必ず解決できる」
私が声をあげようとすれば、口元に指を当てて喋るなという意思表示をされる。
もちろん解決する気はあるけれど、それを皆に伝えてしまっていいのかという不安があった。絶対やってみせるとは思っているけれど、まだ解決策を見いだせていないのだ。
しかし、アルフレッドさんはそれをさらりと口にする。自分のことよりも、この場をきちんと収めることを選んだのだ。
「ありがとうございます」
「気にするな。それから、回復薬はもう売り切れだ。あまり個人で抱え込まず、分け合うようにしてくれ。もし何かあれば、私も支援はさせてもらう」
回復薬がなくて困るような事案になれば、しっかり自分が支援をすると宣言をした。
それを聞いた人たちは安心したようで、次々とお店を後にした。しっかりと回復薬を買ってくれた人も多いようで、今日の分は売り切れだった。
「街も、大変そうですね」
「ああ。とりあえず、ひなみはしばらく店じまいをした方がいいだろうな」
「……そうします。今は、イクルたちをなんとかしないといけませんから」
だから、早くレティスリール様と合流をしなければいけない。
が、もし迎えにいこうとしてまた入れ違ってしまっては大変だ。確かミルルさんが一緒だったはずだから、この街には問題なくこれるはずだけれど。
早く、会わないと。
「ひなみ、アルフレッド、ありがとうなのである」
「ああ。まろは大丈夫か?」
「バッチリである! まろは家から出られないから、サポートをするのであるっ!」
ガッツポーズをしながら、まろはお店の中を整理し始める。
私も、何かしよう。でなければ、落ち着かなくて仕方がないのだ。
「あ、そうだ」
「ん、どうした?」
「この空だと、作物の育ちが悪いかなって。庭の畑で、できるかぎり野菜を収穫したいんです。食料がなくなっても、しばらくはもつように」
私がそう言えば、アルフレッドさんも頷いた。
すぐに影響は出ないだろうが、確実に今後悪影響を起こすのは目に見えている。そう考えると、私のスキルはなんて便利なことか。
「ひなみ、よければあまった作物を城で保管をしてもいいか? そうすれば、国民に関しては王が対応するはずだ」
「わかりました。そうしましょう!」
育てたのが私だからと、私が配るというのはやはりおかしい。
ちゃんとそれを仕事にしている人がいるのだから、国に管理をしてもらうのが一番いいだろう。
「じゃあ、さっそく取りかかります! 作物を揃えたら、したいこともありますから」
「わかった。終わったら教えてくれ。俺は一度城へ行ってくる」
アルフレッドさんはそのままお店のドアを出て、お城へ。
私は作物を育てるために、庭へ向かった。
レティスリール様がくるまでに、私はできることをしよう。
そっと新作の連載をしております。
もしよろしければ、ぜひぜひっ!
「緑王の盾と真冬の国」
http://book1.adouzi.eu.org/n6308dg/
盾に転生したハーミアが、春を見つけるお話です。




