2. 黄金の宝石
世界が暗くなり、私が真っ先にとった行動は――レティスリール様にお会いすることだ。そのため、家からつながっている箱庭の扉を使い〈アグディス〉へきた。
エルフの村で別れてから半年以上が経っているので、まだここにいるかはわからない。けれど、何か手がかりはあるはずだ。
「ひなみは、本当に何でもありだな」
「アルフレッドさん……。すみません、黙っていて」
「いや、当然だろう」
そう。私は、アルフレッドさんと共にアグディスへきたのだ。
いつも一緒に行動しているイクルが眠りについてしまっているので、一番私の事情に詳しいアルフレッドさんが付いてきてくれた。
サリナさんが当然のように付いていくと言ってくれたのだけれど、この状況変化の中、勇者が国を不在にするのはよくないとアルフレッドさんが止めたのだ。
確かにと、私は思う。
サリナさんは勇者なのだから、この国の希望と言ってもいいだろう。一気に夜がきてしまったことにより、人々は不安でしかたがないはずだ。
そんなとき、サリナさんが街に顔をだせば多少は安心してくれるだろう。
「でも、この暗闇は怖いですね。……はやく、レティスリール様と解決策を捜さないと」
「そうだな。とりあえずダッチョンを借りてエルフの村に行くぞ」
◇ ◇ ◇
暗い森は、私ではまったく前が見えなかった。
太陽が隠れて夜みたいになってしまったのだがら、仕方がないかもしれないが……。
なので、私のたよりはアルフレッドさんが作ってくれる魔法の光が。私とアルフレッドさんの横に1つずつ、そしてダッチョンが走る方角にも1つ。
魔法の光が、森の中を明るく照らす。
ほとんど休憩をせずに走ったので、前回きたときよりも早く着くことができた。この暗闇の中なのだから、上出来だろう。
息を切らしながらエルフの村にある入り口、門番をしている人に挨拶をした。レティスリール様がいるか簡単に聞けば、すぐに答えが返ってきた。
「「えっ」」
「すみません。レティスリール様は、ひなみ様に会いに行くと……すでに船に乗って向かわれているんです……」
『チョ〜……』
一生懸命ダッチョンで森を駆け抜けてきたのだけれど、どうやらレティスリール様と入れ違いになってしまったらしい。
タイミングが悪かったなぁと思いつつ、すぐに引き返さなければならない。
しょんぼりしつつも、ここで立ち止まるわけにはいかない。すぐにアルフレッドさんに引き返そうと伝えるが、却下されてしまう。
「今日はここに泊まって、明日を待って戻った方がいい。ひなみは無茶をしすぎるからな」
「うぅ……っ」
アルフレッドさんが苦笑をして、「無理をするのは駄目だ」と言う。
確かに、私はアルフレッドさんと違って体力もないし、強さもない。それにダッチョンにも休憩が必要だと言われてしまえば、うなずくほかない。
門番の人に案内をすると言われ、私とアルフレッドさんは好意に甘えることにした。行き着いた先は、長老であるジーヌさんの家だった。
「お久しぶりですじゃ、薬術師殿」
「突然伺ってしまい、すみません。お久しぶりです、ジーヌさん」
ジーヌさんは、ミルルさんのお爺ちゃんだ。とても優しい人で、レティスリール様が復活したことをとても喜んでくれた人でもある。
笑顔で会えたことを嬉しいと伝えられ、私もうれしくなる。ジーヌさんの視線がそのままアルフレッドさんへ向けられたので、紹介をする。
「おぉ、アルフレッドさんか。よろしく頼むのじゃ」
「こちらこそ、一晩お世話になります」
疲れているだろうと、ジーヌさんはすぐに部屋へ案内してくれた。突然だったのにもかかわらず、部屋はきちんと整えられていたのでとても驚く。
ありがたいと思いながら、私は夕飯の時間になるまで少し昼寝をすることにした。少しでも、体力を回復させておいた方がいいからだ。
「……はやく、明るくなるといいなぁ」
そんなこと呟いて、私はうとうとと眠りについたのだ。
本当に、ちょーっとだけ、眠るつもりで。
◇ ◇ ◇
「…………ん」
淡い光を感じて、私は目を開く。
いったいどうして寝てるんだっけと考えて、夕飯まで寝ていたところだった。が、屋敷の中はしんとしていて、今が深夜だということがわかった。
ごうやら私は、夕飯の時間に起きずに寝続けてしまったらしい。
「あー、心配かけちゃった……よね?」
大変申し訳ないと思いつつも、自分がこんなにも疲れていたということを自覚していなかったことが悔やまれる。
もしもアルフレッドさんが泊まらずに帰ろうと言っていたら、私は寝込むくらい体調をくずしてしまったかもしれない。丈夫な体のために、もっと筋トレをしよう。
と。
そうじゃない。私は目が覚めてしまった原因を探らなければ。何か光ったような気がしたのだけれど、窓から外を見ても暗闇があるだけだ。
やはり真夜中のようで、人は歩いていない。
「なんだったんだろう。少し散歩がてら見てみようかなぁ?」
ここはエルフの村の中だから、特に危険もないだろう。
私は上着を羽織り、みんなを起こさないようにゆっくりと廊下を歩いて外に出た。太陽どころか、月すらない空を見上げて苦しくなる。
鈴花さんが原因であることはわかっているが、どうしてこうなったのかはわからない。
「でも……。きっと、レティスリール様が知ってるはず」
そうでなければ、すぐに私へ会うために移動をしたりはしないだろう。
早く合流しないとと焦るけれど、私が1人で突っ走ったらきっと起こられてしまうんだろうなと思う。
不意に、私に影がかかる。
「ん……? んんんっ!?」
白い花がたくさん咲いているエルフの村を歩き始めて、5分くらいだろうか。
驚くことに、頭上にドラゴンがいた。思わず叫びそうになってしまうが、口に手を当ててぐっとたえる。
敵か!? と、一瞬体を固くするが、私はそのドラゴンを知っている。
レティスリール様が、この世界の頂点にいると言っていたドラゴンだ。
私を主人として認めていると言っていたけれど、あれ以来会ってはいなかったから。守護ドラゴンという、黄金に輝くドラゴンはまるで月のようだ。
おいで。
と、言われているような気がした。ドラゴンはゆっくりと村の端に降り立ったので、私も村の中ならばと、ドラゴンの下へと行く。
こんなに大きなドラゴンがいるのに、エルフの人は誰も起きてくる様子がない。夜はぐっすり眠る種族なのかもしれない。
『グルゥ……』
「お久しぶりです、ドラゴンさん。もしかして、私に用事ですか……?」
私は首を傾げつつ、言葉が通じていることを祈りながら守護のドラゴンへ話しかける。ここにレティスリール様がいないのだから、目的は私かもしれないと思ったのだ。
もちろん、私がいない間にエルフの人たちと交流があったという可能性もあるけれど。
『我の力を、主に授けよう……』
「えええぇっ!? ドラゴンさん、喋れたんですね。ええと、でも、力って……?」
突然喋ったドラゴンさんに驚いて、私はどきどきと早くなった胸を押さえる。
びっくりしすぎて飛び上がっちゃうかと思ったよ……。
『驚かせてしまったか。この声は、主にしか聞こえぬものだ』
「私だけ、ですか?」
低い声で話すドラゴンの声は、どうやら私にしか聞こえないらしい。
よほど重要な内容なのだろうかと思い、緊張で手が震えた。力を授けると言われても、私にはいったいどういうことかわからない。
「どういう、ことですか?」
『主も、この現状を理解しているだろう。魔王が目覚めた、闇の世界だ』
「……っ!」
魔王。
それは勇者である鈴花さんが、倒したのではなかったのだろうか。しかし、私の目の前にいるドラゴンは確信したように言う。
「魔王って、でも、勇者が遥か昔に倒したんじゃ……?」
『そうだ。だが、今のこの空は、以前魔王が存在していたときと同じ。どういった理由かはわからぬが、魔王が現れたということだけは確かであろう』
「……そんな。危険な魔物とか、そういうのは」
『わからぬ。それは主の目で確かめてみるといいだろう』
私が疑問を尋ねれば、しかしドラゴンさんもわからないようだった。けれど、私のようにこの現状を憂いているということは、よくわかる。
それに、私ができることは可能な限り、やりたいと思う。
「私は、この暗い闇をぬぐい去りたいです! 私の大切な人が今、きっとこの闇のような存在と戦っているんです。だから、私は……」
『なるほど。では、この花を授けよう』
ドラゴンがそう言って、頭を私の前まで下げる。
そこには、宝石のような綺麗な花が一輪だけ咲いていた。以前もらった花とは違う、もっと黄金に輝いている美しい花だ。
「これは……?」
『摘んで、そのまま飲み込むといい。そうすれば、主に私の力の一部が宿る』
「これを?」
ドラゴンさんはいいと言ってくれているけれど、頭に咲いている綺麗な花を摘んでしまうのは忍びない。
しかし私が躊躇していると、ドラゴンさんが『早くしろ』と私の方へ頭をぐいっと押し付けた。
痛かったら申し訳ないなと思いながら、私はおそるおそる花へ手を伸ばす。
摘もうと思ったら、しかしその瞬間花びらが落ち、綺麗な宝石が花の中心から現れた。これが、ドラゴンさんの言う花なのだろうか。
『それを飲み込めば、主の力になる。体に馴染むのに少し時間がかかるだろうから、落ちついた場所で飲み込むといい』
「あ、ありがとうございます……! 私、この闇を取り除けるように頑張ります」
『ああ。頼んだぞ、主よ』
守護のドラゴンさんからもらった、きらりと光る黄金の宝石。
ほのかに温かくて、力があふれてくるような感じがします。
レティスリール様に会うことはできなかったけれど、もう一度エルフの村にきてよかった。




