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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
146/175

38. 眠りに落ちた初代の勇者

 私は、ベッドで眠り続けるイクルと鈴花さんを見る。

 ダンジョン最奥、鈴花さんの居住区で寝ていた2人は……私が声をかけても目を覚まさなかったのだ。



 どうしたらいいかわからずまろやベアトリーチェたちに相談をしたが、誰も原因はわからなかった。とりあえず、目の届くところ……ということで、我が家へ運び入れた。

 2人には申し訳ないが、私がひきずりながら運ばせてもらった。私以外に運べる人がいなかったんですごめんなさい! まろが雪うさぎの姿でなければ、運んでもらえたかもしれないけれど……。私のテリトリーではないので、それもできなかった。



「でも、本当に何があったんだろう」



 ぽつりと私の口から漏れるのは、不安の言葉だ。



 ポイントを使いベッドだけを交換することができたので、それをイクルの部屋に置いて使っている。

 前にリグ様が言っていた。私の望むもので、交換が可能なものは一覧に出てくると。今回はそれにとても感謝した。

 そして私は「早くこないかな……」と、サイネさんの訪問を待つ。

 勇者パーティーの治癒術師として活躍するサイネさんの腕は、この国1と言っても過言ではない。原因がわからないのだから、専門の人に見てもらうしかない。

 もちろん、回復薬(ポーション)を2人にかけてみたりもしたが、それはまったく効果がなかった。やはり、怪我などではないのだろう。

 いったいどうして眠ってしまったのか、まったくもってわからなかった。



 本当であれば、サイネさんを迎えにいきたい。けれど、この2人から目が離すのが怖くてそれも出来ないでいる。

 早く目覚めてくれればいいのにと、そう祈る。

 そんなとき、階下からまろが大声でサイネさんの訪れを告げた。急いで駆け上がってきたサイネさんと、その背後にはアルフレッドさんとサリナさんもいた。



「ひなみ! 大丈夫か?」

「アルフレッドさん……! 2人とも、まったく目を覚ましてくれなくて。でも、怪我をしている様子も、苦しそうな風でもなくて」

「見せてください」



 部屋に入ってきたサイネさんは、すぐにイクルと鈴花さんの様子を観察していく。

 呼吸が乱れていないことを確認し、脈に異常がないかも見る。やはりサイネさんが見ても、外見には何も異常がないようだった。

 それなら、原因は何? 不安な瞳でサイネさんを見れば、サリナさんが「大丈夫」と私に声をかけてくれる。



「外傷的な問題はなさそうですね。……魔法で、身体の内部を見てみましょうか」

「お願いします!」



 そう言って、サイネさんはまずイクルの胸に手を当てた。「癒しよ」と呟いて、神経を集中させていっている。

 静かに瞳を閉じ、サイネさんの手からは淡い光が漏れる。私は緊張しながらそれを見守り、ぎゅっと手を握りしめていれば、まろが隣に来て私と手をつないでくれた。



「きっと大丈夫なのである。イクルは強いのである!」

「うん、そうだよね……。早く原因がわかればいいんだけど……」

「大丈夫。だって、初代の勇者なんですから。何かに屈したりはしません!」



 まろとサリナさんに励まされ、私も「大丈夫!」と自分に活を入れる。

 しかしどきどきは収まらず、イクルを見てくれているサイネさんをじっと見つめる。それから数分して、サイネさんが閉じていた瞳を開いた。

 何か分かっただろうかと声を書ければ、「難しいことに、なっていそうですね」と微妙な顔をした。



「イクル、どうですか?」

「こんな状態は、初めてみました。精神が、とても不安定……というか、繋がっているようです」

「?」

 《


 イクルの精神が不安定で繋がっている? いったいどういうことなのか。いまいちどころか、私にはさっぱりわからない。

 そんな私に、サイネさんは丁寧に説明をしてくる。



 まず、イクルの身体には異常がない。

 ただし、その意識が通常の状態ではないということ。身体の中に残っているイクルの意識は、本当にかすかなものだと言う。

 そしてその意識は、細い紐のようなかたちに鈴花さんに繋がっているのだという。



「つまり、イクルさんの意識がハルさんの意識の中にいると考えていいでしょう」

「意識が……? 取り込まれているということですか?」

「いいえ。イクルさん自身の意思で、ハルさんの中へ潜り込んだのでしょう。おそらく、ハルさんの意識に何かがあり、それを救うために行ったのではないかと思います」



 つまり、イクルは鈴花さんを助けようとして、鈴花さんの意識に侵入した。そういうことだ。

 ……一言くらい、相談をしてくれてもよかったのに。そう思いつつも、イクルだって鈴花さんが心配で一刻を争う状況だったということもある。



「次は、ハルさんを見てみましょうか」

「……でも、危険なんですよね。大丈夫ですか?」

「ええ。そう簡単に、取り込まれたりはしませんよ」



 いっそう緊張した面持ちで、サイネさんは鈴花さんの胸に手を置いた。いったい鈴花さんの身に何が起こっているのだろうか。

 全く予想ができない。どうか、あまり大変な事態になっていませんようにと祈るばかり。



「……これ、は?」

「サイネさん!?」



 苦しそうに顔を歪め、サイネさんはすぐに鈴花さんから手を離した。

 いったいどうしたのかと呼びかけるが、「はぁはぁ」と息を乱すサイネさん。何か、よくないことがあったのだろか。身体中が不安になる。



「……はぁ。まさか、こんなことが」

「どうしたんだ、サイネ」

「アル。……彼は、身体の内に瘴気を溜め込んでいますね。それがぐるぐるとうずを巻き、2人の意識を捕らえている?」

「瘴気が、意識を……喰らったということか?」



 現在、一番冷静なのはアルフレッドさんだ。私は、どうしたらいいのかわからない。

 ……でも、鈴花さんの瘴気は木で浄化をしているはずなのに。押さえきれないほどに、瘴気が膨らんでしまったのだろうか?



「いいえ。喰らったというよりも、戦っていると言った方がいいかもしれません」

「……なるほど。イクルとハルの意識が、その瘴気と戦っているということか」

「ええ。確信はもてませんが……おそらく、その可能性が高いでしょう」

「「「…………」」」



 部屋に、想い沈黙が流れる。

 とりあえず、イクルと鈴花さんが戦っているということは理解ができた。

 問題は、その戦いに勝てるのかということ。私たちが、何か手伝えることはないのかということだろうか。けれど、意識に潜り込むやり方などわからない。

 誰か知っている人がいればいい……。そう思ってみんなを見回すが、誰もが首を横に振る。



「手伝えることは、ない……?」

「私も、このような現象は初めてですから。どのようにすれば、イクルさんのように意識を飛ばせるかわかりません。すみません、あまりお力になれないで……」

「い、いえ! サイネさんは、とてもすごいんですから。そんなこと、言わないでください」



 サイネさんがいなければ、現状だってわからなかったのだから。

 そしてふと、リグ様の顔が私の頭をよぎる。……リグ様ならば、知っているだろうか。でも、ここで「助けて」なんて都合の良いことを言えるわけがない。

 私の存在は、リグ様に頼ることをしてはいけない。花を助けてもらった私は、この世界では自分で頑張らなければいけないのだ。



 1歩前に出て、鈴花さんの顔を見る。

 まるで昼寝をしているようなその姿。そんな裏で、いったいどんな戦いをしているのだろうか。



「鈴花さんが、何かに負けるなんて。そんなの、ないですよね?」



 ぽつりと、部屋に私の声が漏れる。



「鈴花さんも、イクルも、とても強いっていうこと……。私、ちゃんと知っています」

「……そうだな。ハルの強さは、サリナをも圧倒的にしのぐ。簡単に、やられるわけではない」



 私の声に、アルフレッドさんが応えてくれた。



「……でも。何か、私も2人の力になりたいです」

「ああ。できるのならば、俺もそうしたいが……」



 助け方も、フォローの仕方もわからない。

 いったいどうしようと思ったところで、まろが口を開く。



「潜り込むのは、無理なのである。イクルはきっと、ハルが神託スキルで受け入れたのである」

「え?」

「ハルは初代勇者で、どちらかというと神に近い存在なのである。イクルは神託スキルで、ハルの声を聞ける。だから、イクルはハルの意識に入ることができたのである」

「……なるほど。では、私も神託を使えます。この力でどうにかなりませんか?」



 ぽけぽけしているが、さすがは精霊。まろは誰もが思っているよりも知識が深く、様々なことへの対応に柔軟だ。

 しかし、イクルは鈴花さんに受け入れられた。でも、今は鈴花さんが寝ているため、私たちを受け入れてもらうことなんてできないだろう。

 これはもしかして、詰みというやつだろうか。



「神託の力じゃ、どうしようもないのである」

「だが、何か方法はあるはずだ」

「うーん。アルフレッドが言うことももっともなのである。けど、まろはその方法を知らないのである。知っているとすれば……」



 まろが「うーん」と悩み首を傾げる。

 方法は知らないけれど、知っている人に心当たりがあるのだろうか。そうであるならば、ぜひとも教えてもらいたいところだ。

 どうか、まろに何か心当たりがありますように! そう願いを込める。



「……この世界の、女神の力。それしか、ないのであるっ!」

「「「!!」」」



 まろが導いた答えは、この世界に立つ頂点。女神、レティスリール様の名前だ。

 ……うん。確かに、レティスリール様であれば何か助ける方法を知っているかもしれない。けれど、私はレティスリール様がどこにいるかを把握していない。



「女神か。ひなみの話では、もう目覚めているはずだな。今は、アグディスにいるのか?」

「……わかりません。レティスリール様と別れたのは、もう半年以上前です。もしかしたら、他の場所に移動してしまっているかもしれません」

「なるほど」



 別れた直後であれば、レティスリール様はアグディスにいた筈だ。けれど、今もなおアグディスにいるかはわからない。むしろ、いない可能性の方が高いだろう。

 けれど、解決するためにはその力が必要不可欠だと思う。

 どうしようもうない胸騒ぎと不安が、私の胸をよぎる。このまま、2人が瘴気に勝ち、目が覚めるのを待つというのは駄目だと、私の心が訴える。



「でも。絶対、レティスリール様を捜します! 一刻も早く、そうしたいです」

「ひなみ?」

「いえ、その。そんな気がするんです」

「うん、捜そう! ひなみちゃんが言うなら、きっと大切なことなんだよ。私も全力で協力するから、一緒に頑張ろう!」

「サリナさん! ありがとうございます」



 笑顔で「私に任せて」というサリナさんに、私は勇気をもらったように感じる。



「それに、私はひなみちゃんの勇者だからね。絶対、ひなみちゃんにとって一番役に立ってみせる!」

「サリナさん」



 こんな状況なのに、ぶれないなぁ。でも、そんなサリナさんの態度が重い沈黙を生むこの空間を柔らかい空気に変えてくれたように感じる。

 うん、私、頑張ろう!!



「それならば、士気は私がとりましょう」

「サイネさん……! お願いします」



 すっと立ち上がり、周りを見渡すサイネさん。誰が参加をするのかの確認をして、しかし全員がこのイクルと鈴花さん救出作戦に参加すると即決してくれた。



 よかった、と。私が息をついたその瞬間。



 ふわり、と。



 室内に重い風が吹き、その強い勢いでバンと窓が大きな音を立てて開いた。



「きゃぁっ!」



 びっくりして思わず声を上げれば、サリナさんが私を庇うように前へと立つ。

 その風の、重い空気の発生源は……言わずもがな、鈴花さんだ。風にあおられて転びそうになった私の肩を、アルフレッドさんが支えてくれる。



「……どうなってる」

「わかりません。ですが、風が吹いて空が……」

「嘘! 空が、暗くなっていく……?」



 鈴花さんの身体から溢れ出た黒い靄が、風により空へ舞い上がり……世界を黒く染めた。

これにて4章はおしまいです!

次回から5章ですよ〜


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

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