表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
145/175

37. 前兆の息吹き

「んー……?」

「どうしたのさ、ひなみ」



 ダンジョンの店舗で、私とイクルは夜の片付けをしていた。ベアトリーチェたちは帰ったので、お店はしんと静かで、私とイクルの声だけが響く。

 しかし私は妙な違和感を感じて、きょろきょろと辺りを見渡す。

 すぐにイクルが反応を示すが、私も説明ができるわけではないので困ってしまう。



「なんだか、空気が重いなぁって?」

「空気が? 俺はよくわからないけど、もしかして風邪なんじゃない?」

「むむむ……」



 そういえば、この世界に来てから風邪を引いたことはなかったなと思う。違和感というより、身体がだるかっただけなのだろうか。

 ぺたりと自分の額に手を当てて、熱があるのかみてみるが……いつも通りだ。



「特に熱はないみたいだし、なんだろう」

「そう? んー……。確かに、熱はないみたいだね。とりあえず、今日はもう帰って休めば? 疲れがたまってるのかもしれないしね」



 イクルが私の額に手を当てるが、やはり熱はないようで首を少しかしげた。

 私もうーんと思いつつも、気付いたら風邪になっているよりは早めに休もうかなと考える。今日は切り上げて、イクルと一緒に家へもどることにした。

 鈴花さんは、しばらく自分の部屋を整えるからとダンジョンの最下層に戻っている。ダンジョンの奥地に住んで、しかし地上にはエレベーターを使ってすぐ移動ができる環境。実はかなりいいものだなぁとなんとなく思う。

 私の家が増築を繰り返したとき、3階くらいならばいいけれど……5階くらいになったとしたらエレベーターは付いたりするのだろうか。

 と、なんとなく思う。だって、絶対に屋上に行くのに疲れてしまうから!



 そんなことを考えていれば、イクルに頭をぽんぽんと撫でられた。その瞳が大丈夫? と、問いかけていた。心配をさせてしまったようです……。

 すぐに「大丈夫」と答えて、家に続く扉に手をかける。



「……ん?」



 最後にお店を見ようと振り返れば、なんとなく入り口付近に黒い靄のようなものが見えた。

 目を擦ってもう一度見ると、その靄はなくなっていた。……私の見間違いだろうか?



「どうしたのさ?」

「今、入り口に何か黒い靄が見えた気がするんだよね」

「入り口に……? 特に何もなさそうだけど」



 私の言葉を受けて、イクルがお店の入り口を開ける。

 しかしそこには何もなくて、いつものダンジョン内部が見えるだけだ。魔物が居るわけでも、妖精などのお客様がいるというわけでもない。

 うーん……。気のせいだったのだろうか。現に黒い靄はないし、やっぱり疲れてるのだろうか?



「俺が後でもう少し確認しておくから、ひなみは先に寝ておきなよ」

「でも……」

「いいから。人には休めって言うくせに、自分は休まないつもり?」

「う……」



 確かに、いつも無茶ばかりをするイクルに休めーと言ったことは多くある。そもそも、イクルは修行と称して睡眠時間があまり多くないから心配になる。

 一時期なんて、睡眠時間よりお風呂の時間の方が長いのではないかと思ったくらい。

 とりあえず、今日のところは休むことにしてイクルと家に戻る。






 ◇ ◇ ◇



 翌朝。早めに寝た私は、いつもより爽やかに目覚めることができた。

 顔を洗って、イクルとまろが起きてくる前に朝ご飯を作ろうと準備に取りかかる。今日はふわふわに焼いたパンと、新鮮野菜のサラダと、卵スープにしよう。

 それと、街のお店で買った美味しいジャムがあるのでそれも添える。



「いい匂いなのである〜!!」



 パンが焼き上がり、スープに卵を入れたところでまろが2階から軽やかに降りてくる。「おはよう」と挨拶をして、さっそく朝食。

 ……と、いきたいところではあるのだけれど。



「イクル、まだ寝てるのかなぁ?」



 スープをよそりつつ2階に続く階段へ視線を送るが、イクルが降りてくる気配はない。

 私が昨日早く帰ってしまったから、イクルが遅くまで仕事をしていてくれたのだろうか。そうであるならば、無理に起こしてしまうのも申し訳ない。

 イクルの分の朝食は別にとっておいて、今はそっと寝かせてあげることにした。



「いただきますなのであるっ! ん〜! ひなみの作るご飯は美味しいのであるっ」

「それはよかった。たくさん食べてね」

「もちろんである。今日はキルトがお店にくるから、急いで準備をするのであるっ」



 すでに街にあるひなみの箱庭(ミニチュアガーデン)は、まろが店長のようになっている。常連さんもたくさんいて、いつもお菓子をもらっているまろは看板娘のポジションだ。

 でも、キルト君がくるのか。……そういえば、まろは体術も得意だから、よくキルト君の相談に乗っていると言っていたからそれかもしれない。

 シアちゃんとの呪奴隷契約が切れたキルト君は、その後もシアちゃんとパーティーを組んでいるらしい。

 護衛という仕事も継続してもらっているらしく、今は自分でお金を貯めて将来に備えていると言っていたので、とても頼もしいと思う。



「ん! 準備してくるのである〜!」

「うん。いってらっしゃい」



 いそいで食べ終えたまろが、ばたばたとお店へ続く扉を通り街へでる。

 私はといえば、もう少しだけゆっくりしようとお茶をのんびり飲んでいる。イクルが起きたら、朝ご飯を用意してダンジョン店舗へ向かおうと思う。



 ……の、はずだったのだけれども。



「イクル、起きてこない?」



 のんびりお茶を飲み、1時間くらいが経っただろうか。イクルがまだ、起きてこない。

 ちらりと時計を確認すれば、9時を回っている。……もうすぐ起きてくるかな?



 庭の薬草に水をあげて、草をむしり、家に飾るお花を少し摘む。

 さすがにそろそろイクルも起きただろうとおもったのだけれど、まだ起きていない。



「あれぇ……?」



 時計を確認すれば、もう11時になるだろうか。

 ゆっくり開店しているダンジョンのお店も、そろそろベアトリーチェたちが開けてくれる時間のはずだ。

 しかし、イクルが遅めに起きたとしてもここまで遅くなることはあまりない。このままでは午前中いっぱい起きてこないんじゃないだろうか……?

 いや、それよりも。



「もしかして、体調が悪くて起きてこられない?」



 私に風邪じゃないかと言ってはいたが、実はイクルが風邪気味だったのではないだろうか。イクルは自分の体調について、あまり言わない。

 その可能性が多いにあるなと考えて、私はイクルの部屋に様子を見に行くことにした。



 イクルの部屋は2階。

 作りは私と同じになっているが、その内装はいたってシンプルなものだ。イクルは男の人なので、私みたいにこった可愛い内装の部屋だったら困ってしまうだろうけども……。

 きっとリグ様がそれぞれに合わせたコーディネートをしてくれるのだろうと思うと、なんだかほっこりと嬉しくなる。



「イクルー?」



 部屋の前にきて、トントントンとドアをノックする。

 しかし呼びかけるも返事はない。……大丈夫かな? 倒れてたりしないかな?

 そもそも、イクルがノックの音に気付かないという方がおかしい。寝ていたとしても、些細なことですぐに目を覚まして警戒態勢をとるのがイクルだ。

 そのイクルがノックの音に反応しない。いや、もしかして反応できない……?



「イクル!!」



 次の瞬間、私は慌てたようにイクルの部屋のドアを開ける。鍵がかかっているかとも思ったが、そんなことはなく。部屋はすんなりと私を受け入れた。

 イクルが倒れていたら大変だ。助けないと! と、そんな思考が頭をぐるぐるした。



「…………え?」



 が、しかし……。

 イクルの部屋には、誰もいなかった。綺麗にベッドメイクされていて、誰かが直前まで寝ていた様子は感じられない。

 ということは、イクルは部屋で休んでいないということだろうか。



「……ということは、ダンジョンのお店か鈴花さんのところ?」



 イクルが出かける場所は、その2つ。前はレベル上げのために狩りに行ったりもしていたけれど、最近は鈴花さんと修行をしているためそれもない。

 ……でも。なんだか嫌な予感がする。

 何がとは、はっきり言えない。けれど、昨日から感じるもやもやとした嫌な気持ち。早くイクルを捜さないとと心がせかす。



「とりあえず、お店!」



 急いで階段を降り、リビングを通りダンジョンの店舗へ行く。

 そこにいるのはベアトリーチェたちのみ。イクルがいる様子はない。



『『『店長おはようございます』』』

「おはよう、3人とも。……イクル、こっちにこなかったかな?」

『イクルですの? 今日は見ていませんわ!』

「ありがと。ちょっと、鈴花さんのところに行ってくるね」



 尋ねれば、首を傾げてベアトリーチェが教えてくれた。

 どうやらイクルはお店に来ていないらしい。ちらりと昨日片付けをしていたところを見れば、そのままになっていた。

 イクルがお店で作業をしたのであれば、そのまま放置されることはない。それなのに放置してあるということは、イクルはお店で何も作業をしていないということだ。

 鈴花さんのところに違いないと、私はベアトリーチェたちに告げてお店を後にする。



 行き先は、このダンジョンの最下層にある鈴花さんの住居だ。

 エレベーターを使えばすぐに行けるので、ものの数分で鈴花さんのいる場所まで辿りつけた。本来であれば魔法が使えないと動作をしないらしいのだが、鈴花さんが誰でも使えるようにしてくれたのだ。

 すごいと感心しつつも、家の防犯は大丈夫だろうかと少し心配になった。そうしたら、結界がはってあるから大丈夫だよと笑われてしまった。



「おはようございますー」



 エレベーターから降りて、朝の挨拶をしつつ進んでいく。

 鈴花さんとイクルはいるかなときょろきょろするが、室内は暗く誰かがいるような様子ではなかった。



「おかしいなぁ。鈴花さん? イクル? いませんかー?」



 疑問に思いつつも、ここにいないとなるとどこにいるのかわからない。それに、あの2人が何も告げずに出かけるというのも考えにくい。

 何か緊急の事件でもあったのだろうか。うーん。



「とりあえず、一度家に戻ってまろに相談してみよう……ん?」



 帰ろうと室内に背を向けたところで、昨日も感じた違和感が私を襲う。黒くもやっとしたものが視界にうつり、やはり疲れているのだろうかと不安になる。

 もう一度だけ室内を見るけれど、黒い靄はもうない。大きな浄化の木が室内の中央に植えられているだけで、他には何も変わった様子はなくで……?



「え? イクル、鈴花さん?」



 私の視線が、浄化の木全体を捕らえたとき。太い幹の向こう側に人影が見えた。

 幹に重なって見えなかっただけで、少しはみ出している服から、イクルと鈴花さんだと言うことが分かった。まさか2人で昼寝でもしているのだろうか。

 もしそうだったら、微笑ましいと思う。しかし、気配に敏感なこの2人が私に気付かないはずがない。



「イクル! 鈴花さん!!」



 私は急いで浄化の木の裏側に回った。

 どきどきと早鐘のように鳴る心臓を落ち着かせるようにして、2人の名前を呼んだ。

 見れば、イクルと鈴花さんが浄化の木の幹に寄りかかるようにしているのが目に入った。とりあえず2人を見付けたことに安堵するが、いったいどういう状況なのだろうか。



 んっ? んんん?



「……寝てる?」



 イクルと鈴花さんは、間違いなく寝ていた。

気付けば日刊にちらりと載っていました…!嬉

もっとこまめに更新せねばです…!!


いつもお読みいただきありがとうございます。励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ