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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
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33. 2号店の交換リスト

「じゃじゃーんっ! なのであるっ!」



 お店から家へと移動すれば、どや! っとした顔でまろが出迎えてくれた。

 食卓として使っているリビングには、まろが作ったらしい手料理の数々が並んでいた。オムレツに、スープ、パン。庭で採れた野菜や果物もあり、とても華やかだ。



「わぁ、すごい美味しそう。まろちゃんは料理上手なんだね」

「いっぱい食べるといいのであるっ!」



 料理を褒める鈴花さんは、しかしまろの料理を食べたことがない。見た目はいつも綺麗だけれど、味がどうなっているのかは私もわからない。

 イクルと一緒に作っていたから、大きな失敗はないと思うけれど……。

 鈴花さんの言葉が嬉しかったらしいまろは、イスを引いて席へと案内している。和やかな雰囲気を見るに、私がいないときにもお店へきてくれていたんだろうなと思う。

 基本的に店番をまろにまかせてしまっていたからね。しばらくは予定もないし、お店のことをできるのではないかなと思う。



 鈴花さん、イクル、まろ、私と席について夕食となった。



「……ふぅ。あったまるんねぇ」



 イクルのスープを口に含み、なんだか家に帰ってきた実感がこみ上げてくる。

 アルフレッドさんたちと旅をした半年間は、野宿もあったけれど基本は街や村の宿屋に泊まっていた。なので、ちゃんとしたイクルのスープは久しぶりなのです。

 たっぷり野菜が入っているので、健康にもいい。つまり、イクルはいつも通りスープを作った。……つまり、オムレツはきっとまろが作ったのだろう。

 私がそんなことを考えていれば、ちょうどまろがそう言った。



「オムレツはまろの自信作なのであるっ! 食べてみるのであるっ!!」



 期待に満ちた目で私たちを見るまろ。

 私は意を決してふわふわの卵を口に含む。



「……っ!」



 しょっぱい!!

 どうしよう、美味しいと言うべきだろうか。それとも正直にしょっぱいと伝える……?

 ちらりとイクルを見れば、無表情。鈴花さんときちんと仲直りをしていないからか、2人の間には会話がほとんどない。師弟なんだから、もっと素直になればいいのに。

 そして師匠である鈴花さんはと様子を見れば、いつもと変わらず優しい笑顔でオムレツを食べている。



「卵がすごいふわふわしてるね、これは大変だったんじゃない? まろちゃんすごいねぇ」

「えへへ、褒められちゃったのである~!」



 鈴花さんの言葉にまろがへにゃりと笑顔になる。

 さすがはイクルのお師匠様。まろの料理も美味しくいただけるなんて……ん? 待って、鈴花さんは卵を褒めたけれど、決して美味しいとは言っていない。

 ……気付いてはいけないことに気付いてしまった気がするけれど、うん。気付かなかったことにしよう。

 私もそっと便乗して卵を褒めれば、まろは笑みを深めた。



 が、そのすぐ後に自分でオムレツを食べ「しょっぱいのであるー!!」と叫んだ。

 まろ、鈴花さんの優しさが台無しだよ……。







 ◇ ◇ ◇



 夜になって、宿に泊まるという鈴花さんを我が家に招待しました。ポイントもたくさんあったので、何かあってもいいように客室を作った。

 机とベッドがあるので、泊まってもらうには十分だろう。お風呂は共同だけれども、広いのでゆっくりくつろいでもらえると思う。



 お客さんなので、鈴花さんに一番風呂をしてもらって、次に私。その後はまろが入って、最後にイクルが長風呂をするんだろう。



 ……コンコン。



「? どうぞ」



 不意にノックが響いて首をかしげるけれど、きっとイクルだろうと思い招き入れる。まろは勢いあまってすぐ突入してくるので、論外です。

 しかし、顔を見せたのはイクルではなく鈴花さんだった。



「夜遅くにごめんね。少しだけ大丈夫?」

「あ、はい。どうぞ」



 あわててイスを勧めて、自分で紅茶を飲んでいたポットから鈴花さんの分もカップに注ぐ。まろたちがきてもいいように、私の部屋にはカップが何個か置いてあるのです。



「ありがとう。ひなみさんの紅茶は美味しいね」



 カップに口を付けて、鈴花さんが優しく微笑む。そして、1枚の紙を差し出した。

 首を傾げつつ手に取れば、ダンジョン店舗の交換リストだった。



 《 秘密の硬貨:交換アイテム一覧 》


 5枚

 おもてなしセット

 妖精の掃除道具

 妖精の羽休め

 10枚

 招きの蜂蜜

 クリスタルの文房具(ランダム)

 20枚

 店舗拡張:来客スペース

 クリスタルの雑貨(ランダム)

 50枚

 店舗拡張:全体拡張

 クリスタルの家具(ランダム)

 100枚

 霞の香水

 500枚

 招きの看板

 1000枚

 水晶の回復薬クリスタル・ポーションレシピ



回復薬(ポーション)のレシピ!」

「……薬術師だねぇ。ひなみさんには、きっと必要なレシピだろうと思ってね。ただ、1000枚を集めるのは大変だから、頑張って」

「はい。ありがとうございます! も、もちろんほかのものだって気になってますよ?」



 クリスタル関連の家具なども夢が膨らむし、妖精関連のものもある。これは店舗で働いてくれている3人が使うようなアイテムだろうか?

 必要な硬貨枚数も少ないので、早めに手に入れたいところである。

 リストの紙をむむむと見ていると、くすくすと鈴花さんの笑う声が耳に入る。いけない、食い入るように見すぎてしまった!

 恥ずかしくなって少し顔を伏せれば、「ごめんごめん」と明るい声が返ってくる。



「ひなみさんは、一生懸命でいいなって思ったんだ。俺の知ってる子に似てる」

「知ってる子?」

「うん。もう会うことはないけど、日本で仲がよかったんだ。元気にしているといいんだけど」



 懐かしそうに目を細める鈴花さん。

 そうか、ずっとこの世界で過ごしていたんだ。日本に帰る手段はなかったのだろうか。

 ……今は、日本に帰りたいと思っているのかな?



「ひなみさんって、本当、思ってることが顔に出るんだね」

「うえぁっ! す、すみませんっ、私、えっと」

「大丈夫、気にしてないから。それに、俺は日本へ帰ることは望んでないんだ」

「え?」



 するりと紡がれた言葉に、私は反射的に声を上げてしまう。

 私の声に苦笑をして、けれど鈴花さんは澄んだ瞳で微笑んだ。……本当に、日本へ帰りたいと思っていないんだと、そう思えた。

 どうしてだろうと考えて、けれどすぐに答えが出た。

 この世界が、とても優しいからだ。街の人も、冒険者の人も、イクルたちも。この世界の人たちは、日本よりもずっと……穏やかなのだ。

 もちろん物騒なことがまったくないという訳ではないけれど、人間同士の争いというものがないのだ。対象は、いつだって魔物だった。



「500年、いろいろなことがあったけどね。俺はね、今、ここで生きて、死にたいと……心から思ってるよ」

「鈴花さん……」



 生きて、死にたい。

 不老不死である鈴花さんにとっては、とてつもなく重い言葉だろう。私にそれを受け止められるのかはわからないけれど、笑顔で頷いた。



「ごめん、なんだか微妙な雰囲気にしちゃったね。そのリストの使い方を説明しようか」

「いえ、そんなことないです」

「ありがとう。……ダンジョンの店舗で販売したものは、客から秘密の硬貨で購入される。そのリストにある通りの硬貨枚数と、アイテムを交換するよ。硬貨は直接俺に渡してもらえれば、アイテムを渡す」



 ふむふむ。

 もう一度リストに視線を落としつつ、一覧を見る。回復薬(ポーション)のレシピを手に入れるのはかなり大変そうだなぁと思い、あれ? そういえば回復薬(ポーション)っていくらで売ってるんだろう?

 ベアトリーチェたちに聞くのを忘れていた。明日あたりお店に行って、いろいろと確認をしなければ。

 鈴花さんは基本的にダンジョン最下層にいるらしいので、いつでもアイテム交換をしてくれるらしい。出かけるときは、あらかじめ教えてくれるそうだ。



「イクルに修業をつける約束もしたから、ひなみさんのお店に近い場所かダンジョンがメイン拠点かな」

「おぉ、イクルに!」

「まだまだ睨まれてるけどね」



 あははと笑いながら、「まぁ、イクルとは長期戦だからね」と。呆れ顔のイクルが笑顔になってもちょっと怖いけれど、師弟仲はいいに越したことはない。



「応援してますね。イクルも地味に頑固ですから」

「そうなんだよ~! イクルは素直じゃないから、こっちが折れて折れるしかないんだよね」



 結構ストレートにものを言うけれど、鈴花さんへの対応はまた違うのだろうか。イクルの数年の恨みが大きそうだと思いつつ、私は苦笑する。



「っと。リストも渡したし、そろそろ部屋に戻るよ。これいじょうひなみさんのところにいたら、怒られそうだからね」

「イクルはそんなことで怒ったりしませんよ?」



 肩をすくめる鈴花さんにそう言えば、しかし「違うよ」と答えが返ってくる。



「?」



 イクルじゃないとすると、まろだろうか?

 しかし、まろこそ、そんなことを気にするタイプではない。首を傾げつつも、鈴花さんに「おやすみなさい」と挨拶をして見送った。



「そうだ。眠くなる前に交換日記を書こうっと」



 サイドテーブルからリグ様との交換日記を手に取り、机に向かう。……が、何を書いたらいいのかペンを持つ手が動かない。



「……」



 きっと、昼間に鈴花さんとあんな話をしたからだ。

 不老不死のことと、私が不老不死になりたい理由についての……話。

 鈴花さんの「好きなの?」という言葉が、私の身体を駆け巡る。



 好きか嫌いかと言われれば、もちろん好きと答える。



「でも……」



 私はただの人間であって、リグ様は神様なのだ。

 恋愛とか、それ以前だろう。神であるリグ様が私をそういった好きでとらえることはないだろう。それが分かっているから、私はいつも思考を止める。



「むぅ……」



 交換日記の白いページを見て、私はペンでとんとんとリズムを作る。

 どうしよう。なんて書こう。

 リグ様は、私が鈴花さんに不老不死の話をしたこと、知っているのかな? ……知らないでくれたらいいな。そんな思考が芽生える。



「リグ様」



 交換日記の1行目。そこに、リグ様とペンを走らせる。



「……あ」



 いけない。

 ほとんど無意識に、リグ様の名前を交換日記に書いてしまった。

 どうしよう、この後に何て書けばいいのかまったく頭に浮かばない。



 1分。



 2分。



 5分。



 ……リグ様の後に何を書けばいいのか分からずに、時間だけが過ぎていく。

 悩み続けて10分くらいたったころだろうか。交換日記が淡い光を発して、綺麗な文字を紡いだ。



『なぁに? ひな。』



 それは紛れもなく、リグ様の字だった。

活動報告にて、キャララフを公開しております。(2回分あるよ!)

よかったらご覧くださいな〜!


そして今月15日、2巻の発売です!

緊張してきた。紛らわすために更新がんばりますので、よろしくです。

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