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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
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30. 長い時間

 鈴花さんとイクルが師弟だったことには驚いたけれど、無事に出会えたことにほっとした。

 まさか殴りあいの喧嘩が始まるのかとも思ったが、2人とも優しい人なのでそこはあまり心配をしていなかったり。

 部屋の隅で話をする2人は、しばらくそっとしてあげよう。

 きっと積もる話もあるだろうし。



「ひなみちゃんっ!」

「あ、サリナさん。アルフレッドさんに、サイネさんも! 無事でよかった」

「まったく。……いつも以上に驚かされた」



 どうやらサリナさんから事情を聞いたらしいアルフレッドさんは、しかしこれでここのダンジョンの魔物関連は片がついたと安堵していた。

 私が育てた浄化の木は、魔物が活性化する原因だった瘴気を抑える。

 もしかして、今後も使うことがあるかもしれない。



「持って帰るのか?」

「念のため……」



 浄化の木の枝を折り、リュックへとしまう。

 今後、同じようなことがあればこれで解決できるかもしれない。加えて、庭にも植えておいたらおばけとか出なくていいと思う。

 いや、今まで暮らしてきて出てきたことはなかったけれど。



「しかし、イクルが初代勇者の弟子とはな」

「驚きです。私も師事したい……」



 拳に力を込めて、熱い視線を鈴花さんに送るサリナさん。私からしてみれば、十分サリナさんだって強いのに、まだ力が足りないのだという。



「いつも、私へ神託を使い助言をしてくれたのが……あの方? なのでしょうね」

「そういえば、サイネの神託は初代勇者からも送られてくると言っていたな」

「神託までもを使いこなせるなんて。初代勇者は、この世界にとって女神様のような方ですね。初代勇者も、ひなみちゃんも、2人ともすごいっ」

「サリナは相変わらずですね。でも、一度話をしてみたくはあります……」



 この世界の人にとったら、鈴花さんは女神レティスリール様に続く絶対的な存在なのかもしれない。

 そんなすごい人が、私と同じ日本人なのだから驚きです。サイネさんと同じで、私もゆっくりお話をしてみたいなと思う。

 まぁ、今はイクルとの話し合いが先決ですけどね。



「……あんなに感情を出すイクルも、珍しいなぁ」



 というか、初めて見た。



「イクルは常に冷静だったからな。あんなに怒りをあらわにしているのは新鮮だな」

「ですよねぇ」



 アルフレッドさんも私と同じ意見だったようで、笑ってしまった。

 ぷんぷんしているイクルを見るのは、なんだか不思議。今は、いつもの呆れ顔なんてまったくない。

 でも。19歳のイクルが年相応に見えるのは嬉しいのです。







 ◇ ◇ ◇



「よかったのか?」

「はい。またお店に来てくれるって言ってましたからね」



 私、イクル、アルフレッドさん、サリナさん、サイネさんの4人は、ダンジョンから地上へと出る。鈴花さんは、ダンジョンの地下を整理するために残った。

 瘴気を浄化することのできるあの場所から出たくないのかもしれない。けれど、私とイクルに会いにきてくれると約束してくれた。



「私も残って、修行をしてもらえばよかったかな……」

「サリナは魔物討伐の任務があるだろう?」

「ちぇーっ!」



 残念そうにするサリナさん。しかし、魔物の討伐は大事なのですぐに「わかってる」と返事をする。

 私たちは、引き続き魔物の活性化を食い止めつつ討伐。私は荒れた大地の修復。



「まったく。少し見てないと、すぐ厄介なことに首を突っ込んでるんだから」

「だって、私のスキルが役に立つから……」



 先ほどまでのイクルはどこにいってしまったのか。気付けば、私といたときのような呆れ顔がもどっていた。

 私への様付け以外、呪奴隷だったときとまったく変わっておらず笑ってしまう。



「魔物の討伐って言っても、各地の冒険者ギルドも動いているし……早く終わるといいんだけど」

「イクルは、旅をしていたのか?」

「少しだけですが、各地を」



 私たちのようなパーティーが各地で動いていると、イクルが教えてくれた。魔物が生まれなくなったことによる活性化も、そこまで長引きはしないだろうということだ。

 メインは、街道沿いや街の近く。深い森や山などは範囲外という。



「その中でも、ムシュバール帝国が意欲的みたいです。あそこの皇帝は、魔物との戦闘が趣味みたいに戦うと有名ですからね」

「確かにな。皇帝が動いているなら、俺たちがムシュバールへ行く必要はないだろう」

「あの皇帝さん、強いもんねぇ」



 イクルが説明をしてくれる。

 どうやら、ムシュバール帝国の皇帝さんは強いことで有名らしい。確かに、リグ様もそのようなことを言っていたなと思い出す。

 魔物を倒してくれるのであれば、きっといい皇帝なのだろう。

 この世界は人間同士の戦争がない。必然的に、心優しい人が多い印象を受ける。



「なら、あと数箇所国内を回って戻るか。ひなみ、それで大丈夫か?」

「はい。もちろんです」



 アルフレッドさんの言葉に頷けば、イクルも「了解です」と返事をした。



「わかった。ここからムシュバール方面へ向かうのは変えず、街道をメインだな。一通り見たら、俺がギルド本部へと行って今後を確認しよう」

「それがいいですね。とりあえず、今日は疲れたでしょうから次の街で休みましょう」



 今後のことが決まり、私たちは街の宿で休むこととなった。






 ◇ ◇ ◇



 私はイクルと2人、宿の部屋でまったりくつろいでいる。お茶を入れて、それをこくりと飲み干せば身体がほっこりとする。

 今後についての話とかをしておかないと。

 ちらりと視線を送ってみるが……久しぶりのイクルで、なんだか緊張してしまう。



「今後は、ムシュバール近くまで行って戻りみたいだね」

「うん。アルフレッドさんたちは強いから、私は最後にあらされた大地をスキルで整えるんだ」

「まったく。いくら危険が少ないとはいえ、何かあったらどうするのさ」



 今までの経緯を説明すれば、「危ない」とイクルに怒られる。「でも」と言えば、呆れ顔をされる。

 それでも、変わらず私のことを心配してくれるイクル。



「俺は師匠のこともあるし、ひなみと一緒に行くよ」

「嬉しいけど、いいの?」

「あんなダンジョンの地下にこもりたくはないからね」

「イクル……」



 鈴花さんが住居としていた場所なのに。思わず鈴花さんを可哀想だと思ってしまう。

 確かに地下深い場所だけれど、瘴気というものを発してしまっていたので仕方がなかったのだろう。今後、何か改善できる方法が見つかるといいのだけれど。



「少しでも師匠に追いつけるように、俺もいろいろと経験したいしね」

「いろいろ?」

「うん。ひなみといれば、経験内容には事欠かないだろうし」



 それは私がトラブルメーカーだと言いたいのだろうか。

 そう思えば、顔に出てしまったのかイクルに笑われる。うん。いつも通りの日常だ。



「何さ」



 私が笑えば、イクルが怪訝な顔をする。



「なんだか、こういうのが久しぶりだなって」

「まぁ、そうだね」



 イクルの呆れ顔が、懐かしくてなんだか嬉しいのです。そう言えば、また呆れ顔をされてイクルの呆れ顔無限ループだ。それもまた楽しくて、私は笑ってしまう。



「まったく。ひなみは変わらないね……」

「うん。イクルもね? おかえりなさい」

「……ただいま」



 やれやれと肩をすくめつつも、私の声に応えてくれる。なんだかんだで、イクルはやっぱり優しい。



「さてと。明日も午前中から移動でしょ? 早く寝なよね」

「ん、そうだね。イクルもゆっくり休んでね」



 おやすみと挨拶をして、イクルは隣にある自分の部屋へと戻る。

 ダンジョンに入ってから、いろいろなことがありすぎて私も疲れている。だけど、ゆっくり止まってはいられない。魔物の被害が出てしまっては大変だから。



「それに、自分のことも考えないと」



 このダンジョンで、魔法を使えるようになった。それに、謎の女神代行。特に何かすることがあるわけではないのかな? うぅん、謎です。

 レティスリール様にちゃんと聞いてみなければ。



「……ふぅ。考えることがたくさん」

『ひな』

「ふぁっ!?」

『あいかわらず、可愛いね』



 もんもんと考えていれば、突然響くリグ様の声。

 びっくりして声をあげてしまえば、くすくすと笑われてしまう。うぅ、恥ずかしい。



『お疲れ様、ひな。……強くなったね』

「そうですか?」

『うん。光魔法と、レティの代行。それに2店舗目、おめでとう』

「……ありがとうございます」



 リグ様には説明をするまでもなく、すべてお見通しだったようだ。

 私の力はすべてがサポートより。そのため、アルフレッドさんたちのように自分の強さがわからない。モンスターを倒せるわけではないから。



「リグ様。私は……このままでいいんですか?」

『ひな?』

「このまま幸せにこの世界で暮らしていて、いいのかなって。時々、少しそう思って不安になります」



 私はリグ様のお役に立てているのだろうか。

 花と手紙のやり取りだってさせてもらえて……。甘やかしてもらっているのだろうなと、思う。

 リグ様だって、私にこうやって話しかけてくれる。私はいつもどきどきして、嬉しいと思う。幸せすぎて、花を助けてもらった交換条件に釣り合っているのだろうか。



『大丈夫。ひなは、ちゃんと前に進んでるから』

「前に?」

『うん。それに、鈴花も動き出した。僕にもこの後の結果はわからないけれど、〈レティスリール〉は、もっともっといい世界になるよ』



 リグ様にそう言って背中を押してもらえるのは、私にとってとても心強い。

 それにしても。



「鈴花さんと、お知り合いなんですか……?」

『ほんの少しだけね。基本的に干渉はしないけど、彼はレティとよく会っていたからそのときにね』

「初代の勇者ですもんね」

『うん。レティに召喚されて、もう500年くらいかな? その存在は、人間よりも僕たちに近い』

「すごい……」



 500年というその年月は、20年そこそこしか生きていない私にはわからない。私に同じだけ生きてみろと言われたら……そんなことができるのだろうか。

 うぅん、難しい。



 でも。

 そう考えると、リグ様はいったいどれくらいの月日を生きているのだろうか。

 前に、家族はいないと言っていた。

 最初に出会った、あの暗い空間。そこに、今も独りでいるのだろうか……。



『ひな?』

「あ、いえ。周りがすごい人ばっかりだったので……。私も頑張らないとって」

『……ゆっくり。ひなの気持ちは嬉しいけど、あまり無理はしないでね』

「はい」



 甘く心地いいリグ様の声が聞こえて、私はやっと肩の力を抜くことができた気がする。

 頑張れがんばれーって思うけれど、それ以上に私はリグ様がどう思っているのかが気になってしまう。花を助けてもらったから、そう思うのは当たり前かもしれないけれど。



 それでも、私は不安に思う心をいつもリグ様の言葉に救ってもらっていると思う。

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