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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
136/175

28. 初代勇者の力

あけましておめでとうございます。

今年も箱庭をよろしくお願いします!

 私に追加された女神代行。

 いったい何ができるのかはわからないが……わかりたくないというのも正直なところ。

 だって。私は普通の人なんですよ?

 何かしなければいけないのだろうか。一度、レティスリール様に会って話を聞いた方がいいかもしれない。

 私が女神の真似事をだなんて、おそれおおい。それ以上に、恐怖してしまう。



 悩んで入れば、「大丈夫」と鈴花さんから声がした。



「今のひなみさんには、重いかもしれない。けれど、将来を考えるのならばきっと必要だ」

「将来?」



 鈴花さんが言う私の将来とは、いったい何か。

 この世界で回復薬(ポーション)を売り、大成功することだろうか。それとも、冒険をしたりして大活躍をすることだろうか。



「……ひなみさんが、どんな風に考えているかまではわからないけど。()は、喜ぶよ」

「えっ?」

「これ以上は、内緒ね。俺が怒られちゃう」



 くすくす笑う鈴花さんは、意味深に彼と言った。

 誰だろうと考えるのだけれど、どうしても私の脳裏には1人しか浮かんでこない。けれど、まさか、そんな。鈴花さんと知り合いだったのだろうか。

 頭の中がぐるぐるしてしまう。内緒と言われたから、おそらくこれ以上は聞けないのだろう。ちらりと鈴花さんを見れば、微笑まれた。



「ひなみさん」

「はい?」

「改めて。ここを浄化してくれて、ありがとう」



 綺麗に一礼する鈴花さんに、私はあわてて「とんでもないですっ」と手を振る。



「でも、これってすごいことだよね。やっぱりひなみちゃんはすごいんだ!」

「そんなことないですよ。私なんて、サリナさんたちがいなければここにだってこれなかったのに」



 私のことを「すごいすごい」と言うサリナさん。私から言わせれば、サリナさんの方がすごいのに。

 そんなやりとりを見ている鈴花さんが、「2人ともすごいから大丈夫だよ」と話をまとめあげた。いや、そうじゃなくて……うぅ。



 あ、そういえば。

 私は大切なことを思い出す。



「鈴花さんは、瘴気はもう大丈夫なんですか?」

「あぁ、俺のは……体質だからなくなりはしないんだよ」

「!」



 この部屋の瘴気は浄化された。

 けれど、鈴花さんの瘴気はなくならないということか……。



「大丈夫だよ。この部屋にいれば、すぐに浄化されるから」

「でも、それだとあまり出かけたりできなくなっちゃうじゃないですかっ」



 まさにこの世界へ来たときに引きこもっていた私のようになってしまうじゃないですか。いや、私よりも重症か。

 どうにかして、鈴花さんの瘴気を取り除くことはできないのだろうか。



「ひなみちゃん……」

「あっ、ごめんなさい。私ったら、熱くなっちゃって」

「いいや。ありがとう」



 声をあげてしまった私を心配そうに呼ぶサリナさん。

 瘴気を自分で感じたからわかる。あんな、重苦しいものを常に発しているなんて、間違いなく辛いだろう。けれど、鈴花さんはそれを感じさせなくて。



「「…………」」

『グオオォァアァァァアアアア』

「えっ!?」

「魔物の声!」



 少し沈黙が流れたと思えば、聞こえたのは魔物の雄たけびだ。

 驚いて周りを見るけれど、何もいない。いったいどこからと考えて、その声が上から落ちてきたものだということに気付く。



「アルフレッド、サイネ!」



 いち早く状況を判断したサリナさんが、部屋を飛び出し階段を駆け上がった。



「サリナさん……っ!」



 そして私は思い出す。


 地下 12階 ボス部屋


 そう。今、私たちがいるのはボス部屋よりも1つ下の階。そして、そこはアルフレッドさんとサイネさんが偵察に行った場所だ。

 あの2人は強いから大丈夫だとは思うけれど、心配なことにかわりはない。急いでサリナさんの後を追い、地下12階へと急いだ。







 ◇ ◇ ◇



 私と鈴花さんがボス部屋へと行けば、すでに戦いにはサリナさんが加わっていた。

 戦えない私ははらはらとしながら見守るしかない。



「……いい連携だね」

「鈴花さん。そうですよね! いいパーティーですよね」



 ボス部屋にいたのは、狼の魔物だった。

 額に大きな角が生え、身体は静電気を帯びているのかぱちりと電気を発している。

 トンッと、狼が音も立てずに地面を蹴り上げ、サリナさんへと突進する。すぐにそれを剣で流すが、狼の持つ雷がサリナさんを襲う。



「っあ! サリナさんっ!!」

「ひなみは安全なところにいろ! 我の炎よ、剣ツルギとなり漆黒の焔を纏え! 《剣王の乱舞(フィア・ダンス)》」

「アルフレッドさん!」

「あまり前に出ると危険だからね」



 雷を受けて後ろにゆらいだサリナさんに駆け寄ろうとしたが、それをアルフレッドさんの声が制する。私と反対側にいるアルフレッドさんとサイネさんに、大きな怪我は見当たらない。

 よかったよ思うが、狼の魔物がその安堵をくれはしない。追い詰められるサリナさんは、次第に息を上げていく。

 鈴花さんにも下がっているようにと腕を引かれ、私は仕方なく後ろへと移動する。



 身軽な狼は、サリナさんとの間をゼロ距離へと詰めて牙を、爪を向ける。それを剣で弾き返し、アルフレッドさんが魔法を使うのだが……狼が早すぎて思うように魔法が打てないでいた。



「はっ、はぁっ! こいつ、強い」



 頬に傷が付いたサリナさんはそれを手の甲で拭って、剣を握り返す。致命傷はないけれど、サリナさんの身体には無数の細かい傷がついていた。

 私がサリナさんを回復させる? でも、狼は素早いから戦いの邪魔をしてしまいそうだ。

 そう考えていれば、サイネさんがサリナさんへ回復魔法を唱える姿が目に入る。みるみるうちにサリナさんの傷が癒え、安堵する。



「サイネさん、すごい……」



 私は、サイネさんたちのように、息をするように、当たり前のように使うことができない。

 どうしても、使うときに間ができる。スキルを唱えるときも、どんな結果になるのかを考えてしまう。癒すという支援のポジションにいるのに、私は瞬間的なスピードが足りない。



「前衛に、魔術に、支援。理想的な形ではあるけれど、あの狼は……強いよ」

「っ! でも、アルフレッドさんたちだって」

「うん。彼らが強いということも知っているけど、あの狼は俺の瘴気を吸収しすぎた」

「あ……」



 瘴気。そう言う鈴花さんの言葉は、どことなく寂しさを含んでいた。



「大丈夫」



 鈴花さんの綺麗な声が私の耳に届く。

 歩き出す姿を見て私は慌てて止めようとしたけれど、鈴花さんは止まらなかった。そのまま歩き、サリナさんと狼の魔物へと辿りついた。



「ちょ、なんでっ!」

『グルアァッ!』



 突然の乱入に驚いたサリナさんだけれど、剣を持つ手は決してゆるめたりはしない。

 狼の爪を交わし、その腹に一撃を加えた。が、あまり致命傷ではないのか、狼は空中で一回点をして地面へと着地した。



「サリナさん、鈴花さんっ!」



 私には、2人の無事を祈り声を上げることしかできない。

 突然の乱入に、アルフレッドさんとサイネさんが顔をしかめる。先ほどまで放っていた魔法も、今は止まっている。



「今代の勇者に、あれはまだ早い……。今は、見て覚えるといい」



 鈴花さんがサリナさんの剣に手を添えると、剣が呼応するように大きく輝いた。見たことも無い強烈なその光に、私は反射的に目を瞑る。



「うそ、そんな……」



 サリナさんの驚愕する声に目を開けば、黒い剣を持つ鈴花さんの姿が視界に入る。すらりとした刃先の、細く、黒い……漆黒の剣。

 いったいどこから取り出したのだろうと思ったのだけれど、サリナさんの持つ剣が消えていた。

 サリナさんが持っていた剣は、代々の勇者に受け継がれていた剣だと聞いた。鈴花さんが初代の勇者であるならば、サリナさんの剣の、一番最初の持ち主……?



「この剣がまだ受け継がれていたなんてね。……今代の勇者、その目でしっかりと心に刻むといい。この剣は、応えてくれる剣だ。《解放》しろ!」

「「「……っ!!」」」



 鈴花さんの声とともに、剣から黒い光りが増した。

 その圧倒的な輝きと力に、私たちは息を飲んだ。鈴花さんの持つ剣が、その姿勢が、しぐさが、すべてが、洗礼されていると感じた。



「剣が、生きてるみたい……」

「そう。この剣は、生きてる剣。この世界の、至宝だ」



 トン、と。鈴花さんが小さく地面を蹴り上げた。ゆっくり歩き始めるようだったその動作は、しかしサリナさんよりも速いと感じてしまうスピードだった。

 一瞬にして狼の眼前へとたどり着き、剣を横に凪いだ。



『グルアアアアァァァァッ!!』

「この剣からは、逃れられないんだ。諦めて、この世界から去れ」



 大きな断末魔とともに、狼の魔物はあっさりと光となり消えてしまった。

 サリナさんたちがあんなにも苦戦していた狼を、一撃で、一瞬で、倒してしまった。これが初代勇者の、日本人である召喚者の実力なのかと。

 しらずに、私の身体が震えてしまう。

 すごいと、身体が訴えている。ぴりりとした空気を肌で感じ、なんとも言えない感覚に襲われた。



「これが、初代勇者の力……」

「あ、初代だって認めてくれたの?」

「こんな圧倒的な力を見せられたら、認める以外ないです」



 サリナさんの視線が鈴花さんに釘付けとなり、そこには絶対的な信頼が色を見せていた。

 漆黒になってしまったサリナさんの剣は、しかしふたたびサリナさんが持つことによって元の剣へと戻った。



「ひなみ、無事か?」

「いきなり階下から現れるから、驚きましたよ」

「ごめんなさい。私は大丈夫」



 魔物を無事に倒せたことにより、アルフレッドさんとサイネさんが私の元へと来てくれた。しかし視線はときたま鈴花さんへと向かっているので、かなり気にしているということもわかる。

 初代の勇者であることを伝えれば、酷く驚いた顔をされたけれど……サリナさんの様子を見てすんなりと信じることに決めたらしい。決断がとてもはやいです、お2人とも。



 っと。



「ここ、なんだか寂しいですね」

「寂しい?」



 私の言葉に、アルフレッドさんが疑問を返す。

 こくりと頷いて、足元を見れば、そこには小さな花や草。きっと、魔物が住み着く前は綺麗な場所だったのではないかと思う。

 魔物に荒らされてしまった台地を修復するのが、私の役目。



「綺麗な緑を、ここに。《天使の歌声(サンクチュアリ)》」



 私の声がフロアに響き、しゅるりと草花が育った。

 ふわりと甘い香りがして、花がたくさん咲く暖かな空間へと変化した。



 ……のだが。



「え?」



 ゴゴゴ……と、地響きのような音が響いた。

 いったい何事だと焦るが、原因の特定ができない。いや、天使の歌声(サンクチュアリ)を使った直後なので間違いなく私が原因な気がするのだけれどどうだろうか。



「ひなみ、こっちへ」

「アルフレッドさんっ!」



 アルフレッドさんへ手を伸ばそうとするが、地面が揺れ動き上手く近づけない。どうしよう。

 しかし次の瞬間、メキッといやな音がして、床から植物が突き破り生えてきた……っ!



「うそおおぉぉっ!?」



 思わず絶叫してしまう。

 だって、だって、これは、さっき植えた浄化をしてくれる植物だ。まさか、私の声が階下に届いて成長を遂げたというのか。

 けれど、それしか考えられない。



「ひなみさん……っ」



 木によって突き破られ、崩れた床に落ちそうになる。

 気付けば鈴花さんがすぐ横まできて、私を抱きとめようとしてくれていた。よかった、落ちなくて済む。反射的にそう思い安堵したけれど、私の重心が後ろへとひっぱられた。



 え?



 鈴花さんは私の前に。アルフレッドさんたちは斜め前に。それより少し後ろにサリナさん。

 今この場には、私たち以外だれもいないはずなのに。

 けれど、ぽすんと抱きとめられた私は落下を免れることができた。いったい誰が助けてくれたのだろうと振り向こうとすれば、落ち着いた、懐かしい……しかし少し怒気を含んだ声が私の耳に届いた。



「ひなみに触って、また瘴気をまきちらかされたら困るんだけど。……ねぇ、師匠?」

えへへ、やっと登場。

最後の誰かわかってもらえたかな……。

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