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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
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18. キラリの加護

 地下 4階 雑魚な魔物がいる部屋



 階段を無事に下りた私たちは、目の前にいるたくさんの魔物に目を見張る。壁に書かれていたフロアの説明文を読んだ限り、雑魚と呼ばれる魔物たち。

 わらわらと、色とりどりのスライムがいた。角が生えていたり、翼が生えていたり。あ、縦に長いスライムもいる!

 まさかこんなにスライムがいるなんて、まったく知らなかった。世界は深いというか、スライムが深いと言えばいいのか。



「わっふ! スライムの亜種がこんなにたくさんいるなんてっ! 1匹ずつ倒していくのはしんどいよ!?」

「確かにな。サイネ、道は覚えているか?」

「えぇ。走り抜けましょうか」

「オッケー!! ひなみちゃん、しっかり掴まってね!」

「へっ!?」



 スライム畑を見ていれば、私は突如サリナさんの肩に担がれる。突然のことにびっくりしてしがみ付いていれば、サイネさんがなにやら呪文を唱えているのが目に入る。

 サイネさんは治癒術師だから攻撃魔法を使わないはず。もしかして誰か怪我でもしたのだろうかと、そう考えるがそうではなかったようだ。

 温かい光りがあふれて、私たちを包み込んだ。



「護りの光よ、ここに《女神の加護(レティス・シールド)》」

「バリア魔法?」

「そう。とばすから、しゃべってると舌噛んじゃう……よっ!」

「わわっ!」



 私が疑問を浮かべれば、サリナさんが簡潔に答えつつ……トップスピードでダッシュをした。地面を大きく蹴ったため、最初の反動がとても大きい。ぎゅっと口を結んで、必死にサリナさんへとしがみ付く。

 いつの間にか先頭がサイネさんになっていて、次にサリナさんと担がれている私。そして最後にアルフレッドさんだ。

 休憩なしで、このまま階段まで走るらしい3人。スピードも出ていて、私が普通に走ったら置いていかれること間違いなし。申し訳ないけれど、サリナさんが私を担ぐという判断をしたのは正解と言うしかありません。

 私にできることは、じっと動かずに担がれていること。担いでいることにより、体力の消耗が激しいだろうと思う。加えて、リュックの中には回復薬(ポーション)がたくさん入っているのだから。



「はぁっはっ! サイネ、あとどれくらいなのー?」

「500メートル程でしょうか」

「オッケー! ラストスパート行くよ!」



 少し呼吸を乱したサリナさんが、次の階段までの距離を確認する。かれこれ10分くらいは走ったままだ。私だったら間違いなくばてているだろうなと思いつつ、おそらくもう数分で階段へたどり着くだろう。

 そう思っていれば、壁のように重なったスライムたちが通路を塞いでいた。何だあれはと思う前に、後ろを走っていたアルフレッドさんが瞬時に魔法を唱え重なったスライムを倒した。



「すごい……」



 走りながらスキルを放つなんて、私に出来るだろうか。

 いいや、アルフレッドさんは勇者パーティーに所属する絶炎の魔術師だ。私と比べること自体が間違っている。



 すぐに階段が顔をだして、私たち一行は一息ついた。



「さて、と。今度の仕掛けはなんだろうな」

「なんでしょうね……音符のマーク?」



 階段があるであろう扉には、音符のマークと人の絵。歌を唄っているようなその絵は、なんだか素敵な絵画に見えた。

 アルフレッドさんとサイネさんが、同時に「歌を唄う?」と答えを言う。私もおそらくそうだと思うのだけれど、歌に反応するなんていったいどういう仕掛けなのだろうか。



「ええぇぇっ! 私、歌なんて全然知らないよ!? ずっと剣の稽古ばっかりだったし……」

「俺だって似たようなものだ。サイネ、教会で唄うのだから歌は得意だろう?」



 まずサリナさんが無理だと言って、それにアルフレッドさんが続く。そしてご指名はサイネさんへ。確かに、教会だと賛美歌を歌ったりするイメージがあります。

 この世界の教会にも、それがあるのかはわからない。けれど、アルフレッドさんの言葉を受け取れば歌というものは教会にあるようです。



「うぅん、ご期待に沿えればいいのですけれどね。あいにくと私は主旋律ではなくコーラス担当なんですよ」

「あぁ、なるほど。ひなみはどうだ?」

「私ですか? えぇと、歌は好きですけど……上手いかといわれるとなんともです」

「決まりだな」



 アルフレッドさんの声とともに、サリナさんとサイネさんの視線が私に向けられる。

 ……あれ? これは間違いなく、私に唄えってことですよね? 確かに歌とピアノが私の趣味というか特技ではあるけれど、ブランクも長いですよ?

 そう思っていたけれど、少し汗ばんでいるサリナさんたちを見てしまえば……「はい」としか言えないわけで。



「よろしくね、ひなみちゃん!」

「頼んだぞ」

「楽しみですね」



 うぅ、3人の期待するような眼差しが私に注がれます。さすがに少し、恥ずかしいというかなんというか。発表会で唄ったこともあったけれど、それとは状況が違うわけで。

 しかし腹をくくらなければ。私は静かに目を閉じて、大きくひとつ深呼吸をする。



 大丈夫、ちゃんと唄えるから。



「ら、ら、ら、ら~……ららら~♪」



 言葉を一度発してしまえば、そこからはもう私の世界だった。

 歌を唄うって、どうしてこんなにも楽しいのだろうか。スライムが跳ねていた音も、アルフレッドさんたちの声も、何もかもが私からシャットダウンされた。

 思い切り声を出す。このフロア中に声が届けばいいと願う。私の歌を聞いて、どうか階下への扉を開いて!



「ららら、ら~……♪」



 私は最後の一節を口ずさみ、礼をする。

 やりきったぞ! と、そんな顔で皆を見る。拍手をしようとしてくれたのか、皆が手を合わせようとした瞬間その場に高い声が響いた。



『もうっ! ひなみったら、やっと私を召喚したのね!』



 なんだかデジャブを感じるようなその台詞に、私はそうだったと思い出す。私が思いを込めて歌を唄うと、光の精霊であるキラリさんを召喚できるのだ。

 慌てて普段呼ばないことを謝罪しつつ、「こんにちは」と挨拶をする。



『いいわ。でも、珍しい場所にいるのね』

「キラリさんは、ここをご存知なんですか?」

『えぇ、知っているわ。数回ここの主と会ったくらいかしら?』



 綺麗な金色の髪をくるりと指で遊びながら、キラリさんはくるりとスカートをひるがえしながら階段のほうへ身体を向ける。

 リボンと花がたくさん使われているドレスに、背中にある翼。その姿は神々しくて、まるでキラリさんのためにこの世界が存在するのではないかと思ってしまう。



『まだ4階なのね、ここ。っと、そうだった。ひなみ、私になにか御用だったのよね?』

「あ、えぇと。階段の出現条件が歌だったんです……それで、私が歌を。ごめんなさい、いきなり呼び出すかたちになってしまって」

『あぁ、そういうことだったのね。いいわ、久しぶりにひなみに会えて嬉しかったもの。それに、レティスリール様を救ってくれてありがとう。感謝しているわ、ひなみ』

「わぁっ!」



 ふわりと微笑んだキラリ様は、それはもう……嬉しそうだった。私の額にそっと口付けをされて、驚いて声を上げてしまう。

 いったい何事!? そう思ったのだけれど、とたんに私は淡い光に包まれた。



『私の加護よ。ありがたく受け取りなさい、ひなみ。またね』

「え!? あ、キラリさん! ……行っちゃった」



 唇に指をあて、にっこりと微笑んだキラリさんはそのまま姿を消してしまった。私の前には5階へと下りる階段が見えて、なんだか慌しかったと思いつつ……そういえばと後ろを振り向けば微妙な顔の3人がいた。



「……ひなみ、今のは誰だ」

「えぇと、光の精霊のキラリさんです」

「なぜ、現れたんだ」

「えぇと、私が歌を唄うと召喚できるんです」

「ほぅ?」



 ちょ、待って! アルフレッドさん、なんだか顔が怖いですよ!?

 目が据わってますよね!? じとりと私を見て、どうやらキラリさんの存在に驚いているのだということはすぐにわかった。

 その鋭い眼光から視線をそらしてサリナさんを見れば、「さすがひなみちゃん。やっぱり私の思っていた通り」と自分のことのように喜んでいる。サイネさんはといえば、何も言わずにサリナさんの横で微笑んでいるだけで。

 誰も私を助けてくれるということはないのだと、そう思いつつもう一度アルフレッドさんを見れば……今度はにこりと微笑まれた。



「ひなみには色々と聞かないといけないようだな?」

「えっ……あ、あははは?」



 とりあえず笑ってごまかしはするけれど、私にできることはもうないように思う。あとはリグ様と交換日記くらいしかないけれど、これはさすがに言うわけにはいかない。

 うぅんと悩みつつ、どうしようかなぁと思えば……ぽんと頭を撫でられる。



「アルフレッドさん?」

「はぁ……」

「えぇと?」

「無理に聞き出したりはしない。個人の能力は、おいそれ人に話すものではない。むしろ、ここで洗いざらい俺に話していたら説教だぞ」



 ひぃっ!

 笑顔のアルフレッドさんが怖い。しかし、私のことを考えての言動なので頷くことしかできないのです。いつもいつも、アルフレッドさんにはよくしてもらっていて、頭が上がらない。



「まぁまぁ、アル。とりあえずは、先へ進みましょう」

「……そうだな。次の階は、確か何もないフロアだったな。とりあえず、そこで少し休憩をしよう」

「そうですね。ひなみさんは、なれないダンジョンで疲れているでしょう?」



 サイネさんが、ダンジョン初心者の私を気遣ってくれる。しかし、このフロアはサリナさんに担がれていたので皆ほど疲れてはないかなと思ったんだけれど。

 うん。どう見ても、サリナさんの方が私よりも元気です。





 地下 5階 休憩スペース:おくつろぎください



 ゆっくり階段を下りて、私たちは休憩スペースへとやってきた。

 そこには机とソファがあり、本当に休憩のために作られたものだというのがわかる。いったいなぜ? このダンジョンの主の意向なのだろうか。

 最奥には居住スペースがあるみたいだし、そこにたどり着けば何かがわかるのだろうか。



「ひなみちゃん、大丈夫?」

「はい、ありがとうございます。どれくらい休憩するんですか?」

「とりあえず、次に休憩できるのがいつになるか不明ですから仮眠はとりましょう」



 なるほど。

 サイネさんの言葉に頷いて、私はソファへと身体を預ける。全員で寝るわけにはいかないので、最初は私とアルフレッドさんが休む。その次に、サイネさんとサリナさんが休む。

 この振り分けは、戦闘職と支援職という組み合わせだから。



「寝ていいぞ、ひなみ。ここに来て安心したんだろう、身体が休憩を求めているんだ」

「はい……ありがとうございます」



 アルフレッドさんが、魔法の鞄(マジックバック)からブランケットを取り出し私にかけてくれた。寝ろと、問答無用で言われた気がします。

 けれど、ソファに座った瞬間から緊張の糸が切れたのか眠くて仕方がないのです。普段よりも歩いているので、仕方がないかもしれないけれど。



「おやすみ、ひなみちゃん」

「おやすみなさい」



 サリナさんとサイネさんも私を寝かせにかかってくる。

 もう少し話をしたいとも思ったけれど、仕方がない。私はゆっくりと目を閉じて、ふわふわのブランケットにくるまるようにする。



 あ、でも……最後にステータスをチェックしておきたかったのを思い出す。寝言のように「ステータス」とつぶやけば、一瞬だけステータスが現れるがすぐに消える。

 眠いから、起きたら確認することにしよう。そうしよう。



 〈 楠木ひなみ 〉


 15歳

 Lv. 8


 HP 188/188

 MP 282/282


 ATK 33

 DEF 33

 AGI 49

 MAG 76

 LUK 190


 〈スキル〉

 神様の箱庭

 光の狂詩曲(ライト・ラプソディア)

 癒しの如雨露(ポーション・シャワー)

 天使の歌声(サンクチュアリ)

 光魔法 - 小さな加護(リトル・ポーション)


 〈称号〉

 リグリス神の加護

 光の精霊キラリの加護



 しゅるりと、私のリボンがピンキーリングになって小指にはまる。結っていた髪がほどかれて、少し身体が落ち着きを取り戻す。

 アルフレッドさんたちの驚いた声が耳に聞こえたきがしたけれど、私のまぶたは閉じるという選択肢しか用意されていなかった。



 おやすみなさい、です……。

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