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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
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13. 小さな森の泉

 急いで朝ごはんを食べて、私はまろと2人でお店の整理を行う。

 せっかく念願のお店を手にいれたのに、ほとんどまろにまかせっきりにしてしまっている。なんだか申し訳ないなと思いつつ、まろにはとても感謝です。

 だから、お店のカウンターにいっぱいあるお菓子は見なかったことにしてあげる……。



 今回は、世界各地を巡って魔物の退治と大地の修復がメインになる。ずっとこの街を空けるということはせずに、ちょこちょこ戻ってくることはするらしい。

 けれど、私は箱庭の扉をこっそり設置して、アルフレッドさんとサリナさんに内緒で可能な限り戻ってこようと考えている。まろを1人にしてしまうのも可哀想だし、もしかしたらイクルが遊びに来てくれる……なんてことが起こりえるかもしれないから。



「でも、サリナさんに内緒にしておくのは心苦しい……」

「気にしたら負けなのである! 家と街を繋ぐ扉は、とても希少だから絶対にばれたら駄目。ひなみ、気を付けるのである! そして可能な限り帰ってくるのである!」



 びしりと指をさして決めポーズをとるまろだけど、「お土産のお菓子を忘れないのである!」という一言ですべてが台無しになったような気がするよ?

 私はカウンターをさっと拭いて、すぐ横に置いてある香りの花魔法(アロマ・フルール)を手に取る。まろが丁寧に作っているこれは、実は人気商品なのです。

 石鹸として使うことができる香りの花魔法(アロマ・フルール)は、特殊効果がある。それは1つずつ違うのだけれど、例えば魔物を寄せ付けにくくするもの。身体の温度調節をしてくれるものなど、種類は様々だ。



「まろ、魔物を寄せ付ける香りの花魔法(アロマ・フルール)もあるんだよね?」

「ん? あるけど、ひなみは止めておいたほうがいいのである!」

「私じゃなくて、サリナさん。欲しいって言ってたから、一応。使わないにこしたことはないんだけどね……」



 今回の目的は魔物討伐なので、魔物を寄せ付ける効果のある香りの花魔法(アロマ・フルール)はピッタリだ。ただ、どれくらいの量で、どのくらい強い魔物がよってくるのかはまろにもわからない。おそらく、周辺にいる魔物が香りの花魔法(アロマ・フルール)の香りに集まってくるのだろうけど。



「サリナなら、いいのである! それは、こっちにしまってあるのであるっ」

「並べてなかったの?」

「間違って誰かが買ったら大変なのである」



 なるほど。

 確かにと頷きながら、まろがカウンターの下の棚から香りの花魔法(アロマ・フルール)を取り出すの待った。

 緑色の可愛い香りの花魔法(アロマ・フルール)を受け取って、お礼を伝える。



「っと、そろそろ出発の時間だ」

「お店のことは、まろにまかせるのである!」

「うん、よろしくね。まろ、すごく頼りになるよ」



 ぎゅっとまろを抱きしめて、「行ってきます」と言えば「おやつも忘れず持っていくのである!」と、まろらしい返事をもらった。







 ◇ ◇ ◇



 地平線の見える草原を、私はダッチョンと共に駆けた。

 きらきら光っているような空は、幸先のよさを表しているのではないかなと思う。



「ひなみ、大丈夫か?」

「はいっ! 私もダッチョンも、元気です!」



 馬に乗って前を走るアルフレッドさんが、私を時折気にかけてくれる。

 私とサリナさんがダッチョンに乗り、アルフレッドさんは馬に乗っている。

 正直、ドラゴンの旅でなかったことが大変嬉しい私です。



「次の村でサイネと合流だっけ?」

「あぁ。怪我人が多かったらしく、教会の治癒術師として行っている」

「サイネが行くなんて、よほど酷い怪我だったんだろうね……間に合ってればいいんだけど」



 最近、何かと名前があがるサイネさん。どうやら、次の村で合流するようだ。

 アルフレッドさんの話では、怪我人の治療をするために一足先に向かったらしい。魔物の被害は、私が考えている以上に深刻なのだと突きつけららる。

 どうか、治療が間に合っていますように。私ができることは、今は祈ることくらいだ。



『チョー!』

「ん? どうしたの、ダッチョン?」

『チョッチョッ!』

「ちょ、えっ⁉︎」

「ひなみちゃん!」

「待てひなみ、どこに行くんだ!」

「わ、私が聞きたいです……っ!」



 急にダッチョンが声をあげたと思えば、前に進んでいたのを直角に曲がり右方向へと走り出した。

 家を出てから、西へ西へと走ってきたのだけれど……いったい何があるというのか。



「ダッチョン、どうしたの? とりあえず、止まろう!」

『チョ!』



 ふるふると首を振って、私の言葉を否定される。

 最近は、庭で一緒に遊んだりしていて仲もよかったし、私の言うことは聞いていてくれていたのに。



 1人ダッチョンに乗って突っ走る私を、アルフレッドさんとサリナさんが追いかけてきてくれる。

 申し訳ないと思いつつ、私にダッチョンを止める力は……なかった。



「ひなみちゃんっ! 大丈夫? 落ちそうだったりしない?」

「それは、なんとか。でも、止まってくれなくてっ」

「うーん。ダッチョンはいい子なんだけどな、どうしたんだろうね。もしかして、走ってる方向に何かがあるのかな?」



 私の横まで駆けてきたサリナさんは、器用にダッチョンを操り私の横を一緒に走ってくれる。

 そして考えるのは、ダッチョンの勝手な行動。

 首を傾げて悩みつつ、サリナさんが「何かあるのかもしれないし、行ってみよう?」と。

 ダッチョンにも、もしかしたら野生の勘があるのかもしれない。お店で買ったから野生ではないのだけれども。



「そうだな。それに、ひなみの乗っているダッチョンだからきっと何かがあるんだろう」

「だよねー!」



 なぜか変に納得をするアルフレッドさんと、それに同意をするサリナさん。

 待ってください、それってダッチョンじゃなくて私が原因みたいに聞こえるじゃないですか!



 納得いかないのは私だけという状態で、ダッチョンは20分走り……小さな森の入り口へとたどり着いた。



「はふ、止まった……」

「ノンストップだったね、ダッチョン! この森に来たかったのはわかったけど、何かあるのかな?」



 どうやら、ダッチョンの目的地は小さな森。どんな森なのかというと、魔物のいない、きれいな森とアルフレッドさんが教えてくれた。

 私の家も魔物がいない森ならよかったなと思いつつ、もしかして活性化した魔物が突如現れたりしたのだろうか。

 そう考えると、私の足は少し震えた。



「この森は、ラリールの街と同じくらいの大きさだ。中央には小さな泉があるが……魚も何もいない」

「魔物もいないし、動物もね。野宿にはもってこいだけど、街からそう遠くないから使われない。薬草の採取にくる人がいるくらいかなぁ?」



 なんとも不思議な森があったものだ。1歩森に入って足元を見れば、確かに体力草や橙色草が生えていた。

 つまりここは、薬草の森なのだろうか。



「とりあえず、泉まで行ってみるか。15分も走れば着くだろう」

「はい。すみません、なんでここに来たのかわからなくて」

「気にするな。何もないなら、別にそれでいい」



 サリナさんを先頭に、私、アルフレッドさんの順で進んでいく。

 何もない森だけれど、アルフレッドさん曰く「ひなみ効果で何があるかわからん」と。私に、特殊効果はありませんよ?



 きょろきょろと森を見ながらゆっくりダッチョンで進むけれど、本当に……動物どころか、虫も見当たらない。

 不思議な森だなぁと思いつつ、咲いている花や草木を見る。ほとんどが庭にある薬草で、自分の知っているものがあるというのは、なんだか安心する。

 ちゃんと成長してるんだよと、森が私に教えてくれている。



「どうしたの? ひなみちゃん、なんだか嬉しそう」

「えっ! いや、あの……知ってる薬草が多かったから」



 なんだか恥ずかしくて、へらりと笑って誤魔化してしまう。自分成長してる! そんな想像をしてましたなんて、言えません。



「ひなみの家も、大概だな」

「あれはすごいを通り越して、酷いもんね。でも、最近は薬草の栽培に成功したって、お城の薬術師が言ってたよ」



 おぉ、お城で栽培が!

 私はその言葉に嬉しくなる。レティスリール様と一緒に、エルフの村では薬草を植えたけらど、こちらでは何もしていないから。

 自力で栽培に成功するなんて、さすがお城に勤めている薬術師はレベルが違う。



「やっぱり、ひなみちゃんこそ私の護るべき人だね! っとと、泉に到着!」

「サリナさんてば……って、すごい!」



 ダッチョンを降りて、私は泉の前へと行った。水はとても澄んでいて、太陽の光が反射してきらきらしていた。

 まるで、女神様が住んでいそうな泉です。たしか、ボロい斧を投げて、それを拾った女神様に金の斧を差し出される。断れば、正直者として金の斧をもらえるという。



 泉を全体的に見れば、大きさは半径3メートルくらいだろうか。

 中央から木が生えていて、大きな青い花を一輪だけ咲かせていた。



「あれ? こんな花、咲いてたっけ?」

「いや。そんな話は聞いたことがないな……ひなみ、何の花かわかるか?」



 隣に来た2人が、泉の花を見て首を傾げる。しかし、私も見たことのない花だ。ふるふると首を振って知らないと伝えれば、「そうか」と、少し残念そうな声が返ってきた。



 大きな青い花は、けれど……姫の花に、少しだけ似ているように思えた。

 きらきら輝いて、まるでお姫様を見ているように思えたから。



「ひなみちゃんほどの薬術師が知らないとなると、知ってる人なんていないんじゃない?」

「いやいや、そんなことないです! 私は勉強中なので、知らないことのほうが多いんです!」



 回復薬(ポーション)の性能と、私の知識がまったく比例していない。

 慌てて否定をすれば、あまり納得していなさそうだけれど一応は納得してもらえた。よかった……。



「ダッチョンは、この珍しい花をひなみちゃんに見せたかったのかな?」

「ふむ。まぁ、それも一理あるか」



 花を見ながら、「一輪しか咲いてないから、採取は無理か」とアルフレッドさんが何やら思案している。

 というか、私の知識よりもアルフレッドさんの方が絶対に詳しいと思うのですよ。

 私のスキルで成長させることも、もちろんできる。

 けれど、それは自然のバランスではない。アルフレッドさんからは、必要最低限のみでいいと言われている。「あまり自分を犠牲にするな」と。



 おそらく、もし……私の力が知られてしまったときのことを、考えてくれているのだろうと思う。

 自然のバランスをと、私が納得する理由をくれる。でも、本当は私がスキルをいつも使っていたら、「いつも使ってるんだから、もっと使ってくれ!」そう言われてしまうかもしれない未来を、懸念してくれている。

 あまり言葉にしないけれど、アルフレッドさんはとても気遣いがうまい。



「でも、本当にきれいな花ですね。ずっと見ていたいくらい」

「うんうん。まろちゃんにも、見せてあげたかったなー!」



 うさ耳をぴこぴこさせて、「残念」とサリナさんが言って……「今度はまろちゃんにも連れてこようね!」と。

 ごめんなさいサリナさん。まろは家からでると雪うさぎになってしまうので、それは無理です。



「まぁ、何もないからそろそろ引き返えし……ダッチョン⁉︎」

「「え?」」



 泉の前で、サリナさんときゃっきゃしていれば驚くアルフレッドさんの声。いったいどうしたのだろうかと振り返れば、ダッチョンが私たちをめがけて突進してきた……!



「えええぇぇ! ダッチョン⁉︎」

「ど、どうしたのっ⁉︎」



 驚くサリナさんに私も続いて、しかし突進してくるダッチョンは私だけを見ていることに気付く。

 なんで⁉︎ 逃げないと、そう思ったけれど……私はダッチョンの体当たりを受けて、泉へと身体を投げ出された。

 驚いているサリナさんがスローモーションのように見えたのが、まるで走馬灯だなと、なんとなく思った。



「まぁ、浅い泉だから大丈夫。ダッチョン、かまって欲しかったのかなぁ?」



 そんな気楽なサリナさんの声を聞きながら、私は大きな水しぶきをあげて泉へ落ちた。

 大丈夫、きれいな水だったから泉の底もちゃんとさっき見た。

 私の腰くらいの深さだと、アルフレッドさんが説明してくれたのも聞いた。



 だけど、なぜだろう。

 私の足はいっこうに泉の底へつくことはなく、身体はどんどんと沈んでいった……!



「がぼっ」



 何か助けを、と。声を出そうとしたけれど、口の中に水が入ってくるだけで、状況が悪化した。

 私は泳げる、大丈夫。明るい水面へ向けて必死に泳いでみるが、まったく進まない。それどころか、水面が遠くなる。



 なんで⁉︎

 心の中で叫び、助けを呼ぶようにもがく。けれど、あがきも虚しく……私は意識を手放した。

まろ「いらっしゃいませー」

ロロ『こんにちはぽ! 回復薬くださいぽ』

まろ「ありがとうなのであるー! ロロはすっかりお得意様だけど、もうかってるのである?」

ロロ『魔物を倒して稼いでるぽ! そこそこ強くなったぽ!』

まろ「おぉー!」

ロロ『そのうちお店にある回復薬を買い占めるぽ!』

まろ「(ロロ、おそろしい子……!)」

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