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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
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9. ひなみちゃんはすごい!

「……そんな話をしていたのか」



 翌朝、食堂にて。

 アルフレッドさんが「何を騒いでいたのかと思えば」と息をついた。私とサリナさんが部屋でしゃべっている声が、隣の部屋のアルフレッドさんに筒抜けだったらしい。

 あははと笑って、私は違うんですよという気持ちを込めて首を振った。



「サリナ、あまりひなみに迷惑をかけるなよ」

「大丈夫! 私がちゃんと守るから!」

「…………はぁ。サリナ、お前は思い込みがすぎるぞ」



 私を守るために、勇者になったというサリナさん。もちろん、そんなことがあるわけはないのだけれども……勇者としての意義を見いだせなかったサリナさんは信じてしまっている。

 回復薬(ポーション)の革命を起こしたと、サリナさんが私をとてつもなく持ち上げてくるのです。



「私は、そんなすごい人じゃないのに……」

「……ひなみはひなみで、謙遜だな」

「はい?」

「いいや、なんでもない」



 私の発言にアルフレッドさんが何か言うけれど、とくに謙遜しているようなこともないのですが。皆は私を持ち上げ過ぎだと思うのですよ。

 手に持っていたパンを、ぱくりと口に含んで「ごちそうさま」と手を合わせる。



 今日は、ギガンテスを倒しに行きます。とはいっても、私は特に何かするというわけではない。アルフレッドさんとサリナさんを応援しつつ、回復薬(ポーション)で援護をする。

 そして私がきた本当の役目として、大地の修復。ギガンテスによって壊滅させられているらしい山頂を、《天使の歌声(サンクチュアリ)》をつかって元に戻す。

 ……果たして本当にそんなすごいことができるのか、若干不安ではある。うまく成功すればいいんだけれどと、私は祈るばかりです。







 ◇ ◇ ◇



「わ、ひゃぁー!」

「大丈夫だ、俺が押さえているから落ちたりしない」

「わ、わかってますけど! でも、怖いものは怖くてっ!」



 シュトラインで空を飛び、山頂付近にてサリナさんが途中下車。もとい、1人地上へと下りる。サリナさんがギガンテスを押さえ込み、その間にアルフレッドさんが魔法で攻撃をするという作戦。

 私はといえば、落ちないようにとアルフレッドさんの前に座って後ろから抱きかかえられている。子供じゃないです! と、言いたいところだけど……落ちたら笑えないので、おとなしくしています。



「でも、山頂だと結構寒いですね」

「そうだな。しっかりコートを羽織っておけ」

「はい。アルフレッドさんは、大丈夫ですか?」



 ふるりと震える身体を抱きしめて、白い息をはく。アルフレッドさんは問題ないようで、ひとつ頷いて山頂へ目を向けている。

 ギガンテスがいるのか、私も目をこらしてみるけれど、それらしい影は見えない。ただ、木々や草木が壊滅しているというのは確認をすることができた。

 根元から折れている大樹や、踏み荒らされた様々な花たち。美しかったであろう山頂は、今は無惨な姿へと変えられていた。



「……いた。あいつが、ギガンテスか」

「え? あ、本当だ!」



 アルフレッドさんの視線を追って、山頂の端をみれば巨大な……。



「ロボット?」

「ひなみ、あれを知っているのか?」

「い、いいえ。知らないです……!」



 あれ? あれれ?

 ギガンテスは、どう見ても巨大なロボットだった。私はその手のものには詳しくないけれど。緑色の、二足歩行のロボットだ。

 でも、この異世界〈レティスリール〉にはロボットなんてものは存在しない。単に、ロボットに似ているだけの魔物。という、可能性もある。



「見たことのないタイプだな。サリナの位置は……あぁ、大丈夫そうだ。ひなみ、シュトラインを近づける。しがみついていてくれ」

「はいっ!」



 ギガンテスは、アルフレドさんも見たことのない魔物のようだ。

 シュトラインを大きく浮上させて、一度ギガンテスの真上を通過する。真上から見れば、後ろには木を背負っていることがわかった。いったいどういう構造になっているのかと首を傾げて、アルフレッドさんの「鉱石と宝石でできているのか」という言葉が耳に入る。



 私がロボットだと感じたギガンテスは、機械でできているのではないとわかりほっとする。もし本当にこんな大きなロボットがいたとしたら、日本の技術を使ったとしても無理だろう。

 5メートル程ある巨大なロボット、もといギガンテス。胴体の胸部分は輝いているから、おそらく宝石なのだろう。腕や足は、とても硬そうな鉱石でできているように見える。

 背中の木は、まるでミサイルを搭載しているよう。まさか何か飛んできたりしないよね? そう、私が考えてしまったからかどうなのか……突然ギガンテスの背負っていた木からこちらに向かって木の実が発射された。



「ひゃぁっ!?」

「なっ! 遠距離攻撃をしてくるのか!」



 思わず頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。

 赤い実をぽぽぽんと投げ飛ばされて、アルフレッドさんが私を庇うように手を前にかざす。そのまま呪文を唱えて、魔法を放って赤い実を撃ち落とす。

 思わず「すごい!」と声をあげて、おそるおそる前を見る。発射された全ての実が視界から消え、ほっと一息ついた。



「これくらいは余裕だ。……と、サリナがギガンテスの前に着いたようだな」

「サリナさん!」



 ガキンッ! と、巨体へ剣をあて、サリナさんが大きく一撃を入れた。5メートルくらいの巨体なのに、まったく恐れずに立ち向かうその姿は、まさに勇者だと思った。

 アルフレッドさんも口で詠唱をしながら、ギガンテスの様子をさぐる。大きな魔法を使用するとサリナさんを巻き込んでしまうから、相手の出方を見ているのだろう。



「ひなみ、大丈夫か?」

「はい、私は全然! 気にしないで、どんどん行っちゃってください!」



 今は安全圏にいる私よりも、直接ギガンテスと対峙しているサリナさんが心配だ。言っていた通り、ギガンテスの動きは鈍い。サリナさんが素早い動きで相手を翻弄しながら、細かく一撃をかせいでいく。

 後ろに背負っている木の大砲が気にはなるけれど、遠距離のものであればサリナさんは安全だろう。ギガンテスの攻撃手段は、現状パンチと背中にある木の大砲だ。

 華麗に剣を振るうサリナさんが、ステップを踏むようにパンチをよけてカウンターで剣を放つ。



「サリナさん、頑張って……!」

「うんっ! まかせて、ひなみちゃん!」



 祈るような私の声が届いたようで、地上にいるサリナさんにピースをされた。ちょ、そんなのはいいから前を! ギガンテスをちゃんと見てください!! 私の心臓にとても悪いです。それに、私の声はそんなに大きくなかったのに、よく届いたなと思う。あ、うさ耳だからかな?



「ひなみ」

「あ、はいっ!」



 じぃっとサリナさんを見ていれば、不意にアルフレッドさんの声に呼ばれる。何だろうと思えば、攻撃魔法を打つからしっかりとしがみついていろとのお言葉。

 おそらく強力な魔法を放つために、私へ意識を向けるのが難しいのだろうと勝手に判断をする。もう1度しっかりと返事をして、私はシュトラインにぎゅっとしがみついた。



「ようし! アルフレッド、いつでもいいよ!」



 サリナさんが大きく後ろに飛び、倒れている木へ着地をする……と見せかけ、反動をつけて木を蹴り上げ一気に加速した。見事ギガンテスに剣を突き刺して、離れる。

 その高い身体能力は、見ていてほれぼれしてしまうほど。しかし瞬間、シュトラインが急降下をして私に何かを見ている余裕がなくなる。ぎゅっと目を閉じて、後ろにあるアルフレッドさんの温もりだけが生きていると感じられる証拠だ。



「我の炎よ、(ツルギ)となり……漆黒の焔を纏え」



 凛とした澄んだ声。ちらりと薄目で見れば、静かな湖へ落ちた一滴の雫のようなきれいなアルフレッドさんのそれが、魔法の刃を形作る。

 無数の剣が、シュトラインの……いや。アルフレッドさんの周りへと集まってくる。この魔法は、確かドラゴンを倒したときのものだ。きらきらと炎を輝かせる剣の切っ先が、ギガンテスを捕らえる。



「《剣王の乱舞(フィア・ダンス)》!!」



 そしてそれは、アルフレッドさんの音色とともにギガンテスめがけて雨のように振りそそいた……!



「わ、ぁ……すごい! 倒した!?」



 一撃必殺! さすが、勇者パーティーの魔術師は強さの桁が違う。炎の剣は、私がみたところすべてギガンテスへと飛んで行った。すべてが命中して、巨体を地面に倒す。

 ほっと一安心したけれど、そうもいかず。アルフレッドさんの声が、辺りに響く。



「ひなみっ!」

「えっ!?」



 アルフレッドさんが突然私をマントで包み、ぎゅっと抱き込む。いったい何だと思い、首だけ回して前方を見れば赤く大きな木の実。背中にあった大砲から、最後の力を振り絞ってだしたのだろうそれは……1メートルほどの大きさがあった。

 突然のことと、大きな魔法を放ったばかりだったアルフレッドさんに撃ち落とす時間はなかったようだ。私だけでもと、アルフレッドさんに庇われる。

 けれど、まろとの特訓をした私は……昔の守られるだけの私じゃない!



「弾き返せ! 《光りの狂詩曲(ライト・ラプソディア)》!!」



 ありったけの力を込めて。声をあげて。私は、守るためのスキルを使った。

 私の声とともに、光る壁が現れて、飛んできた大きな赤い実を弾く。よし、成功した! しかしそう思ったのも一瞬で……その大きな赤い実は、サリナさんをめがけて一直線に落下していった。



「嘘!? サリナさん!」

「ひなみちゃん、やっぱりすごい! この実は、だいじょー……ぶっ!」



 ギガンテスに刺さっていた剣を引き抜いて、サリナさんがにっと笑う。いったい何をするつもりだと思えば、剣を構えて赤い実をぶった切った!

 嘘! あんな大きな実を切ってしまうなんて。この世界の人たちは、とんでもない方ばかりだなと……改めて思ったのであります。



 そして背後から、「またとんでもスキルか……」と。アルフレッドさんのため息が聞こえたような気がした。







 ◇ ◇ ◇



「本当にいいのか? サリナは先に返してもいいんだぞ」

「大丈夫です。サリナさんは、いろいろスキルも知っていますから。それに、口外するような人じゃないです。ね? サリナさん」

「もちろんだよ!」



 ギガンテスが光の粒子になって消えた後、私とアルフレッドさんはサリナさんがいる山頂へと降り立った。木も花も、すべてがぼろぼろになってしまっていて痛々しい。

 すぐにでも天使の歌声(サンクチュアリ)で元に戻そうとしたところで、アルフレッドさんからサリナさんは先に帰るようにと言われた。確かに、最初はスキルを見られたらいけないから、サリナさんは一緒にいない予定だった。

 けれど、短い間とはいえ一緒にギガンテスと向き合った。お話もして、私に親切にしてくれる。なので、スキルはサリナさんがいて問題ないと私がアルフレッドさんに伝えたのです。



「やっぱりひなみちゃんはすごい。これから、全力で守るからね!」

「いやいや、私は大丈夫です!」



 私よりも、勇者であるサリナさんを求める人はたくさんいると思う。なのに、私と一緒に森で引きこもりのような生活をさせるわけにはいかないのですよ!

 燃え上がっているサリナさんをなんとかなだめて、私は2人より1歩だけ前に歩いた。くるりと周囲を見渡して、壊れてしまった自然に悲しい気持ちが込み上げる。そのまま数歩歩いて行って、祈るようにスキルを発動する。

 唄うように唱える「《天使の歌声(サンクチュアリ)》」は、私が歩いた場所に花を咲かせた。倒れた木々まで歩いて、そっと抱きしめるように大地にしゃがみ込む。

 アルフレッドさんとサリナさんが息を飲む音を聞いて、けれどそれを聞いていないように、私は続ける。



「もう、大丈夫。《天使の歌声(サンクチュアリ)》」

「「……っ!」」



 空気が震えるように、きらきらと木々が成長する。私を中心に広がる草木が、この山はとても美しいんだと語りかけているようにさえ思う。

 もう何回か天使の歌声(サンクチュアリ)を唱えれば、そこは大自然の溢れる山となった。



「どうですか、アルフレッドさん!」

「あ、あぁ……」



 くるりと後ろを振り返って、アルフレッドさんへ笑顔を向ける。若干引きつっているように見えるアルフレッドさんは、何か言いたげにしてはいるけれど頷いてくれた。

 問題なくてよかった。そうほっとしようとすれば、サリナさんに突撃された。思わず2人して地面に倒れ込んでしまう。けれど、ふわふわの草花が受け止めてくれたのでまったく痛みはない。



「すごい! すごいすごいすごい! ひなみちゃん、すごいっ!!」

「わっ!? サリナさん、苦しいですよー!」



 ぎゅっと私を抱きしめて、「すごい」を連発するサリナさん。確かに、私は普段見慣れているけれど……最初に見たときはそれはもう驚いた。

 あぁでも、あのときは食料事情もあったから驚きより嬉しさがまさっていたかもしれない。



「やっぱり、私の存在意義はひなみちゃんだよ! 会えてよかった。やっと見つけた、私の守るべき人」

「サリナさんってば、オーバーですよ! 私は、皆さんが思っているほどすごい人ではないですから」

「「謙遜」」

「えっ!?」



 なぜか突然アルフレッドさんの声もかさなり、2人に「そんなことはない」と言われてしまう。これはゆっくりと説明をしないといけない。私はすごくない、と。

 まぁそれはいいとしても。ギガンテスを倒し、山も豊かになって……今日の任務は無事に達成できました!

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