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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
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8. 勇者の役目

「ひなみちゃんって、すごいんだねぇ」



 もらったお湯で身体を拭いていれば、横からサリナさんの声。なんだか感心しているようなそれに、勇者様が何を言っているのですかと言いたくなってしまう。

 私の新しいスキル癒しの如雨露(ポーション・シャワー)を見たアルフレッドさんとサリナさんは、それはもう驚いた。そしてそんな希少なスキルをぽんと使うな! と。

 とは言っても、私が使ったことで助かる命があったのだから。そう思うと、私は素直に頷けなくなってしまう。私を心配してくれるのはすごくわかるけれど、あと少し間に合わなくて亡くなった……なんてことは、嫌です。



 シュトラインと半日程仲良くして、目的地である山の麓にある村で一泊することになった。農作物や、動物の毛皮の加工を行っている村は、なんだかとてものどかだった。

 1件だけあった宿屋に、私とサリナさんの2人部屋。アルフレッドさんは、1人で隣の部屋。男女別というやつですね。

 ベッドが2つに、簡単な机と椅子。決して広くはない部屋だけれど、手入れはきちんと行き届いていてとても落ちつきます。



「私は、自分にできることを一生懸命やるだけです。サリナさんこそ、勇者って、すごいじゃないですか」

「あはは。歴代の勇者さまがすごすぎて、私は全然だよー」

「歴代の?」



 そういえば、アルフレッドさんが今代の勇者と言っていたなぁと思い返す。

 いったい今までに何人の勇者がいたのだろう。そもそも、勇者って、何をする人なんだろうか。魔王を倒すのが勇者! という、ゲーム的な考えしか私には浮かばない。

 私が「むむむ?」と、疑問をうかべながら唸っていれば、サリナさんが少し笑った。



「ひなみちゃんは、歴代の勇者を知らないの?」

「……すみません、まったく」

「そうなんだ、珍しいね。じゃぁ、私が簡単に教えてあげる」



 頭からぴょこんと生えたうさぎの耳を優しく拭きながら、サリナさんがベッドへと腰掛ける。

 ふぅと一息ついて、「何から話そうかなぁ」と少し楽しそうにしていて、歴代の勇者のこが大好きなんだなと思う。

 身体を拭き終わったので、タオルを絞り椅子の背に干す。サリナさんの話を聞けるように、私も向かい合う形で自分のベッドへと腰かけた。



「私が正式に勇者として認められたのは、今から2年前の1511年。私は6代目の勇者になるの。最初に勇者様が現れたのは、1011年」

「それは、魔王を倒すために?」

「んー……あまり詳しい文献はのこっていないんだけど、魔物を倒したというのは確かみたい」



 まぁ確かに、500年も前のことではわからないことも多いかもしれない。そんなに文明が発展しているというわけではない。語り継ぐとか、本にとか、そんな伝承しかないのだろうなと思う。



「勇者っていうのは、この剣を持っている者のことをいうの」



 かちゃりと、ベッドの端に立てかけてあった剣をサリナさんが掴んで私に見せてくれた。

 中央に宝石がはめられていて、剣の柄の先には植物が模どられている。金色に輝くそれは、ゲームなどで出て来る聖剣のイメージそのままだった。

 私にはずしりと重いこの剣が、歴代の勇者に伝わっている。それはきっとすごく重く、プレッシャーとして襲いかかることもあるのだろう。だけど、それに耐えて真っすぐ生きるサリナさんは、やはり勇者なんだと思う。



「仕組みはわからないんだけど、この剣を扱えるっていうのが勇者の証明」

「扱える?」

「そう。見てて」



 私が持っていた剣を渡せば、サリナさんが剣を抜いて胸の前へと構える。何をするのだろうと思えば、突然……剣が光り輝いた。淡い光は温かく、なんだかとても心地いい。

 どこかで感じたことのある心地よさだなと思って見つめて……そうだ、これはレティスリール様の温かさと同じだ。



「魔力を剣に与えると、こうやって光るの。それが、この剣に認められた勇者の証」

「すごい、きれいで温かいですね」

「うん。これはね、女神レティスリール様が初代勇者に贈ったといわれているの」



 あぁ、そうか。だから、レティスリール様のように温かい剣なんだ。なんとなくすごくなっとくしてしまい、けれどそう感じることができて嬉しくなった。



「この〈レティスリール〉に何かが起こるときに、勇者は現れるの。2代目はサリトン王国の建国、次はアグディス王国、ムシュバール帝国。5代目は、冒険者ギルドが設立したとき。というか、冒険者ギルドを作ったのが先代の5代目になる」

「じゃぁ、〈レティスリール〉の歴史が動くときに勇者があらわれるんですね」

「うん。そう言われては、いるんだけどねぇ……」



 とたん、サリナさんの顔に影が落ちる。なんだか落ち込んでしまった彼女は、大きくため息をついた。

 心配している私に気付いたのか、そっと首を振って「大丈夫」と言う。気丈なサリナさんからはあまり想像できなくて、勇者というプレッシャーなのだろうかと不安になる。



「ごめんね、違う。いや、なんというか……どうして私が勇者なのかなって」

「え?」

「私が勇者になった理由がわからないの。この世界の歴史は、なんら変化がないから」

「歴史の変化……」



 そうか。

 それぞれの国が建国したときに勇者が現れた。確かにそうすると、サリナさんが勇者となった理由は……なんなのだろうか。

 2年くらい前に勇者になったと言っていたけれど、新しく国ができたわけでもない。魔王のように、強い魔物が出たというわけでもない。

 丁度私がこの世界にきたときくらいかな? そう考えるけれど、私は森に引きこもっていたからこの世界のことはわからない。うーんと少し悩んでしまえば、「大丈夫だよ、ごめん気にしないで!」と、サリナさんが慌てて首を振った。



「新しい国でもできていればそれだー! ってなったんだけど、何にもないからねぇ。でも、剣に認められたから勇者だし、私もいまいちしっくりこなくって」

「サリナさん……」

「もしかしたら、どこかにとてつもなく強い魔物が現れた! っていう可能性もあるからね。例えば深い迷いの森やダンジョンの奥地とか。だから私は、世界中を回って理由を探してるの」



 えへへと力なく笑うサリナさんは、どこか自信をなくしているようで……なんとなく、以前の私に似ているなと思った。

 私と比べたら失礼かもしれないけれど、〈レティスリール〉にきて引きこもった2年間は自信のない私の逃げだったのだから。本当は冒険に出ればいいのに、出れない私の弱さ。

 ベッドの上にあるリュックの中から真紅の回復薬ガーネット・ポーションを取り出して「はい」と、サリナさんへ渡す。



「ひなみちゃん?」

「元気の出る回復薬(ポーション)です。私も自分に自信がなくて、2年前にずーっと森の家に引きこもっていたんですよ。でも、最近はたくさんの人に会えて自分に少し自信が持てたんです」

「うん。ありがとう、ひなみちゃん」

「美味しいから、元気になります!」



 私がぐっと拳を出せば、サリナさんもこつんと拳を合わせてくれる。

 なんだかとても男らしいなと2人で笑って、サリナさんは一気に真紅の回復薬ガーネット・ポーションを飲み干した。



「ぷはーっ!」

「おぉっ! 豪快ですね」



 よほどコーラを気に入ってもらえたようで、少しへこみ気味だったサリナさんが持ち直した。実は以前、アルフレッドさん経由で買ってもらったことがあるのです。

 それからは、たまにお店にも買いにきてくれていたということを、実は先ほどシュトランと飛んでいるときに教えてもらった。ありがとうございます。



「いやいやいや、めっちゃ美味しいよ! ありがとう、ひなみちゃん! とっても元気がでたよ! こんな美味しい回復薬(ポーション)を作れるなんて、女神だよ! 歴史に残る大事件だよ! すごい!」

「ちょ、サリナさん! 大げさですよもうっ!」

「そんなことない。これはこの世界にとって……え?」

「?」



 私の回復薬(ポーション)をすごい勢いで褒められて、さすがにこれはちょっと恥ずかしい。若干顔が熱くなるのを感じながら、それでもサリナさんが元気になったのだからいいかなぁとのんきに考えてしまう。

 そう思っていれば、サリナさんが突然のフリーズ。どうしたのだろう、真紅の回復薬ガーネット・ポーションはコーラの炭酸だから、なれていないのかもしれない。

 どうしたのだろうと声をかけようとすれば、先にサリナさんが口を開いて、今度は私をフリーズさせた。



「私が勇者になったのは、ひなみちゃんが理由?」

「………………はい?」



 いったい何を言っているのだろうと考えて、それでもやはりわからない。何かをぶつぶつ言いながら、サリナさんの瞳が私を射抜かんばかりに見つめて来る。



「ねぇ、ひなみちゃん」

「は、はい……」

「この回復薬(ポーション)って、いつから作り始めたの?」

「ええと、2年前でしょうか……」

「それ以前は、何をしてたの?」

「ええと……」



 まさか、異世界にいました! なんて言えない。答えない私によって気まずい沈黙がつくられ、どうしようと冷や汗が背中を伝う。

 5分ほどの沈黙が流れて、先に口を開いたのはサリナさんだ。



「この世界が動くとき、勇者が現れる。それは国だったり、制度だったり。私が勇者となりえたのは、回復薬(ポーション)に革命をもたらしたひなみちゃんを護るためじゃない……?」

「ふぇっ!? いやいやいやいや、私はそんなことないですよ!」

「うぅん。絶対にそう! だって、2年前っていう時期も合ってる。それに、この回復薬(ポーション)は〈レティスリール〉の歴史を変える!」

「ええとええとええとええとえっとと! そんなことないですよ!」



 それは違う、断じて違う!

 全力で首を振り手を振り「私ではない!」ということを伝える。けれど、サリナさんは思い込んだら一直線タイプなのか「そんなことない、絶対ひなみちゃん!」と譲らない。

 どうしよう。私はたまたま2年前に異世界にきてしまっただけなので、サリナさんの勇者になった理由ではない。そもそも、私はこの世界の人間ではないのだから。



「偶然ですよ、本当に。私は、何か影響力のあるような人間じゃないですし」

「そんなことないよ! だって、この美味しい回復薬(ポーション)! 間違いない」

「えええぇぇっ」

「私はひなみちゃんを守護するために、勇者になったんだよ!」



 胸を張って、「間違いない」と断言するサリナさんに、私はどうしたらいいかわからない。いくら違うと伝えても、「何言ってるのひなみちゃんすごいんだからー」と真面目にとってもらえない。

 アルフレッドさんに止めてもらいたいけれど、夜も遅い時間だから部屋にいくのもよくないだろうし。明日の朝に話して、サリナさんに勘違いだということを伝えてもらおう。

 それに、一晩経てばサリナさんも落ち着くかもしれない。今は少しナーバスになっていて、私の回復薬(ポーション)を過剰評価しているのだろう。



「よし、そうと決まったら今後のためにゆっくり休んで英気をたくわえよう!」

「そうですね。一晩経てば落ち着きますからね」

「うん。じゃぁ、私はこの仕事が終わったらひなみちゃんの家に住み込みで護衛するからよろしくね☆ おやすみー!」

「へっ!? ちょ、サリナさん!?」



 いきなり爆弾発言して寝ないでください! あわてて肩をゆすってみるけれど、1度寝たら起きないタイプなのかまったく反応をしてくれない。

 どうしようと頭がぐるぐるするけれど、寝てしまったらどうしようもない。



 全て明日の朝に話そうと決意し、私はリグ様への交換日記を書いて眠りについた。

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