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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
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7. ひなみの役割

 長年愛用しているリュックにたくさんの回復薬(ポーション)をつめこんで、私は道を走る。約束の時間に遅れてしまいそうで、苦しくなる呼吸も気にせずに、最大限ダッシュをした。

 ひなみの箱庭(ミニチュアガーデン)を右に出て、最初の角を左に曲がる。そのまま大通りを一直線に進んで行けば、この街で一番大きな教会が姿を現す。

 王城に近いその場所は、この街で一番神聖な場所です。



「はっはっ……はふ、間に合った!」



 ほかの建物より高い教会を見上げれば、きれいなステンドグラスが太陽の光に反射し、きらきらと輝いている。きれいだなと、少し時間を忘れてしまいそうになってはっとする。

 いけない、今日はアルフレッドさんと待ち合わせだった。思わずしばらく眺めてしまう



「こんにちは!」



 門番の人に声をかけて、人との約束で教会にきたことを伝えれば快く中へと案内をしてくれた。青く長い絨毯がひかれていて、その上を歩いて進んで行く。

 騒がしい外とは違い、しんと静かな教会は、なんとなく緊張してしまう。



 今日、私は、なんと! アルフレッドさんとサリナさんの3人で冒険にでます!

 〈アグディス〉から帰ってきて、もう3ヶ月。凶暴化した魔物は冒険者の人が倒したことにより、街や村の近くでは被害がほとんどなくなった。

 よかったと、そう思ったのもつかの間で。ひときわ強く、手強い魔物はダンジョンや森の奥地などに潜った。

 そのほかは、山や森の中に多くいる。山へ行く人も少なくないため、これも問題となった。きのこを採取しに山へ行けば、強い魔物が潜んでいた! なんて、笑えないのです。



「イクルは大丈夫かなぁ……」



 心配だなと、師匠さんをを追って旅へと出たイクルを思い出す。

 ドラゴンが相手でも引けを取らないので、大丈夫だろうとは思うけれど心配なものは心配なわけで。たまには顔をだしてくれるって言ってたので、私は待つしかない。



「っと、ここかな」



 青い絨毯を少し進んで行き、ほどなくして豪華な扉が目に入る。両開きのそれを開けると、大きなステンドグラスと、その前に佇むアルフレッドさん。



「あぁ、ひなみ。きたか」

「はい。こんにちは、アルフレッドさん」



 ステンドグラスと、アルフレッドさんの深い真紅の髪がきらきらと輝いて、なんだか女神様に祝福をされているようだ。

 一瞬だけ、その儚さにどきりとして、それでも私は1歩足を踏み入れる。



「ここは、祈りの間だ。旅立つ者だけが、祈ることを許されている」

「祈りの間……」



 丁寧な装飾品に、祈るための女神像。華美ではないけれど、決して質素ではない。高い天井は、澄んだ空の光を部屋へと導く道筋のようだ。



「急な招集ですまないな。本来、ひなみにこんなことを頼むべきではないとわかってはいるのだが」

「……いいえ。私でお役に立つのであれば、嬉しいです」

「恩に着る。サリナは準備をしているから、もう少しでくる」



 私は頷いて、近くにある椅子へと腰掛ける。

 今から1ヶ月前、ギルドからは立て続けに緊急討伐の依頼が発行されるようになった。主に個人へ宛てたもので、すぐにでも倒さないといけないと判断された魔物の討伐依頼が多い。

 ランクの高い冒険者へ行く依頼であるが、それでも厳しいと判断された緊急依頼が1つ。私は、国を通してアルフレッドさん個人にきたその依頼を手伝うことになった。



「魔物は、通称をギガンテスという。とても巨大で、パワーが強い。タフだそうだが、スピードはないという報告だ」

「ギガンテス……」



 まだ見ぬ姿を想像して、少し身体が震える。

 通称ギガンテス。なぜ、正式名称ではないのか……それは、誰もが初めて見た魔物だから。今までは存在が確認されなかった魔物が、なぜ今。

 山奥の深い場所から出てきたのか、それとも新種なのかと、ギルドはこの噂で持ち切りです。しかし、私のようにレティスリール様の事情をしっている人は、それが奥深くから出てきた魔物だろうと予想している。



「ひなみを呼んだ理由を、話していなかったな」

「え? 回復する人が必要だったからじゃないんですか?」



 私を呼んだのは、治癒術師のかわりというか、回復薬(ポーション)が必要だったからではないだろうか。違うのかなと首をかしげていれば、アルフレッドさんが説明をしてくれた。



「このパーティーの治癒術師はサイネというんだが、所用でな。まぁ、それはよくあることだ。俺がソロで行くことも、今回のようにサリナと行くこともある。回復薬(ポーション)のごり押しだがな」

「あはは……」



 回復薬(ポーション)のごり押しって、すごいなと思う。実際の治癒術師の人を見たことがないから、パーティーにいるとどのようなことをしてもらえるのかは知らない。回復薬(ポーション)のように、傷を回復してもらえるのかなと思っているくらい。



「今回の問題点は、山だ」

「山?」

「あぁ。ギガンテスは、山にいる。今回は俺が再度シュトラインと偵察をしたんだが、山頂部分が壊滅していてな」

「かいめつ……」

「木々は倒れ、水は涸れている。無理を承知で頼む、ひなみ。お前の力で……山の自然を回復してはくれないか。もちろん、サリナにもスキルは内密にする」



 それはつまり、枯れ果てた大地を私のスキル《天使の歌声(サンクチュアリ)》で回復して欲しいということだろう。

 回復役なのかと思っていたら、そうではなかったのが少し恥ずかしい。確かに、勇者パーティーの、臨時とはいえ回復役が私では大問題だ。足手まといになること間違いなし。

 私の返事をまっているからか、ゆれるアルフレッドさんに視線を感じて……私は笑顔で頷くことで返事をした。助けられる自然があるのに、行かない理由なんてない。



「恩に着る」

「いいえ。私でお役に立てるのなら!」



 私に頭を下げてくるので、慌てて「やめてください」とアルフレッドさんを止める。



 遡れば、それは昨日の昼間。アルフレッドさんがひなみの箱庭(ミニチュアガーデン)にやってきて、今回のことを手伝って欲しいと言った。

 準備などで忙しそうだったということもあり、詳細は明日でいいと快諾したのだ。アルフレッドさんにはいつもお世話になっているので、可能な限り力になりたいのですよ。



「ひなみを危険にはさらさないと、約束しよう」

「はいっ!」



 凛とした、透き通るアルフレッドさんの声。それには、絶対という強い意志が垣間見える。

 私は信頼して、しっかり付いて行こうと思う。

 せめて足手まといには、なりたくないなぁ。なんて。







 ◇ ◇ ◇



「ひょあーぁー……」

「ひなみちゃん、しっかりー!」



 私はくたりとしながら、力なくサリナさんへともたれかかる。

 アルフレッドさんの危険にさらさないとはなんだったのか……私は今、アルフレッドさんのドラゴンであるシュトラインに乗り空の上。

 あ、そうか、危険にさらさないは魔物のことですよねそうですよねーわあぉ。



 景色を楽しめたらいいのだけれど、今の私にそんな余裕はないのです。

 怖い。酔う。ドラゴン!



「地上からだと、時間がかかりすぎるからな。飛んでいけば、半日で着く。ひなみ、もう少し我慢してくれ」

「へへ……ふぁい」



 アルフレッドさん、私、サリナさんという順でシュトラインに乗る。私が真ん中なのは、落ちないようにという配慮なんだろうか。

 教会で合流した後、すぐに飛び立った。

 行き先は、街から西へ向かった先にある山。

 そこの山頂付近に、ギガンテスがいる。ギルドの人が調査したときは、まだ普通の山頂だったらしい。が、アルフレッドさんが行ったときには壊滅していたらしい。

 どんな恐ろしい魔物なのかと、震える。



「大丈夫、ギガンテスとは私が対峙するから! ひなみちゃんは、アルフレッドとシュトラインの上にいてね」

「ええぇっ!」

「サリナは前衛だからな。俺はその間に上空から魔法を使う」

「なるほど……」



 危険で、とても心配ではあるけれど、これがパーティーの作戦ということなんだろうか。

 私は口をはさまず、大人しく従った方がいいのだろう。いつもと違うという、イレギュラーな状態にはしたくない。



「それはそうと、ひなみ」

「はい?」

「なんだそのぎちぎちにつまった鞄は……」



 くるりと顔だけ後ろを向いて、私が抱えているリュックへと注目される。

 持てるだけはと思い、可能な限り回復薬(ポーション)を詰め込んである。



回復薬(ポーション)です。私は戦えないので、せめて怪我を治すくらいはしたいです」

「美味しい回復薬(ポーション)だ!」

「そうです!」



 私が自信を持って差し出せる、唯一、と言ってもいいですからね。

 自信満々でそう告げれば、サリナさんが知ってると言わんばかりに反応してくれた。アルフレッドさんも「いい回復薬(ポーション)だからな」と、笑ってくれた。



 一応、リグ様にポイントでもらった装備一式は着ている。弓もあるけれど、アルフレッドさんは強いから使うことはないだろうと思う。



「ひなみちゃんのこの服って……何気にすごくいいやつだよね?」

「えっ?」

「だって、生地の触り心地もいいし、防御力もかなり高いよね? ひょっとして、私の装備よりもいいんじゃない?」



 わさわさと私の装備を触りながら、「いいなぁ」とサリナさんが呟く。

 私に装備の価値はわからないけれど、リグ様にもらったこれがすごくいい物だということはわかる。

 でも、勇者様の装備よりもいいっていうのは……その、ええと、ちょっと気まずいですよ?



「ひなみは過剰なくらいが丁度いい。間違っても、1人で何かして怪我をするなよ」

「えぇっ! そんなことしませんよ、ちゃんと注意します!」



 ちょっと皆さん、過保護すぎではないでしょうか⁉︎ いや、心配してもらえるのは嬉しいのだけれども。

 うーんと悩みつつ、しかし防御力は大切なので仕方がないと思ったところで、耳にかすかな声が届く。

 何だろう? そう思ったときには、サリナさんのアルフレッドさんを呼ぶ声が聞こえた。



「わかっている」

「ひなみちゃんは私にしがみついててね!」

「えっえっ⁉︎」



 訳がわからず、それでも言われた通りにサリナさんの手をぎゅっとにぎる。

 アルフレッドさんが何かを詠唱した? と、そう私が認識したときにはシュトラインの周囲に矢のような炎が大量に姿を現した。



「敵を討て、《炎の雨音(フィアレイン)》!」

「……っ!」



 炎が雨のように大地へと降り注ぐ。いったい何がと、勇気を出して地上を見下ろせば……そこには、人と魔物。

 魔物は、アルフレッドさんの魔法がすべて命中したようで、すべてが光となって消えた。私が見た一瞬だけでも、おそらく20ほどは魔物がいたと思う。

 周りには、倒れていたりうずくまっている人が10人くらい。おそらく魔物の攻撃で怪我をしたのだろう。



「サリナ、体力回復薬(ハイ・ポーション)はどれくらい余裕がある?」

「んー……あのくらいの人数なら、まぁ大丈夫だと思うよ!」



 どうやら、怪我をした人へ回復薬(ポーション)を渡すようだ。

 高いものなのに、まったくためらわずにあげることができるのはすごいなと思う。

 シュトラインがゆっくりと羽ばたいて地上へと降り立とうとして……私は自分の回復スキルを思い出す。

 戦えないのだから、せめてこれくらいは役に立たないと!

 今なら、空だからスキルも広範囲に適応されるはず。



「アルフレッドさん、少しこのままで!」

「ん?」



 リュックから真紅の回復薬ガーネット・ポーションを1つ取り出して、上手くいくように祈りながら地上を見る。

 きっと大丈夫、ぎゅっと握りしめた真紅の回復薬ガーネット・ポーションが熱くなるのを感じて……私はスキルを使う。



「《癒しの如雨露(ポーション・シャワー)》!」

「「な……っ⁉︎」」



 唱えた瞬間、きらきらと輝くジョウロが現れて、大地へ向かって癒しの水が降りそそぐ。

 癒しの水をうけた人はすぐに傷が癒えて、倒れていた人も立ち上がった。



「よかった!」



 最悪の場合も脳裏によぎっていたため、起きてくれたことに安堵した。スキルも上手く使うことができて、緊張していた身体の力が抜ける。

 しかしそれも束の間で、私はアルフレッドさんの声にはっとした。



「ひなみ、なんだそのとんでもスキルは?」



 ……あれ?

 もしかしてこれって、いきなり使ったら駄目なやつだった?

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