5. 新スキル取得
地下倉庫の回復薬を整理して、庭の薬草などを整理して。すべてをしっかり整えて、イクルからのオッケーをもらうのに3日かかりました。
うん、イクルさん結構細かいですよね……。
そして花の手紙に書かれていた私のできること、2つめ。
『ひなちゃんは、戦っている人を回復させる手段を持つべき!』
という、一文。いったいどういうことだろうと考えつつ手紙を読み進めば、なるほどと思う。例えば、治癒術師であれば回復魔法で傷を癒すことができる。それならば、私は回復薬を投げて傷を癒せばいいと。
「…………投げる?」
仮に投げたとして、瓶のまま? もし、戦闘中の人の頭とかに当たってしまったら笑えないどころではないと思うのだけれど。かといって、ふたを外してから投げたとしたら……中身が先に全部こぼれてしまうのではないだろうか。
うぅん、こまった。けれど、私が回復薬を使って戦闘をしている人の回復アシストができるということは、需要があると思う。
くるくると指で毛先を遊ばせて、「うぅーん」と唸る。
「花が言っているのは、きっとゲームでそんなことができるから……っていうのがあると思うんだよね。私にもできたらいいんだけど、ゲームと現実だと可能か不可能かの線引きがシビアだよね」
部屋にある椅子に腰掛けていた私は、引き出しにしまっておいた体力回復薬を取り出して机の上に置く。
指先で遊びながら、ころころと転がしてみる。きれいなハートの模様を模どった瓶は、高い音を立てて机の上でダンスを踊るように滑る。
力を入れて落とせば、いや、力を入れなくても落とせば一瞬で砕けてしまいそうな瓶。そして中身は緑茶味の液体。うん、なかなかにこれを投げて回復させるのは難しいぞ?
「うーん」
いっそ回復薬を他の容器に移してしまうというのはどうだろうか。
なんとなくありがたみはなくなってしまうけれど、例えば水風船のようなものに回復薬を入れておけば当たっても痛くないし、投げるのも楽だろう。
問題は、今まで水風船のようなものを見たことがないということ、かなぁ。
「ひなみ様」
「あ、どうぞ!」
私を呼ぶ声に、コンコンというノックの音。
すぐにドアが開いて、イクルが「何してるのさ」と私の手元を見た。体力回復薬を机に転がすという不思議なことをしていた子に見えているのかもしれない。
「いや、回復薬を使って後ろから回復支援をできないかと思って」
「戦闘中に? また特殊なことを考えるね」
「そう?」
やれやれというように、イクルが私の隣に腰掛ける。そして、戦闘に関しての説明を私にもわかるようにしてくれた。
冒険者のパーティーとして、大きな点は治癒術師の有無。治癒術師は魔術師よりも全体数がすくないうえ、教会に所属することが多く、冒険者をしている人は多くないのだそうだ。
治癒術師がいるパーティーは、最低限の回復薬を前衛術師がもって、回復が間に合わない場合のみ緊急として使用する。が、パーティーということもあり、そこまで緊急事態になることは少ないらしい。
治癒術師がいないパーティーは、そもそも狩り場の設定を少し低めにすることが多いようだ。なので、無理なく、確実に冒険をするというスタンス。戦闘中に前衛術師の回復薬がなくなってしまった場合は、後衛の人が投げて手渡すのが一般的だとか。
「もう、治癒術師の人がいるかいないかでかなり違うんだね」
「そうだね。回復魔法は希少だし、そもそも教会で祈りを捧げるのが好きな人ばかりって聞くよ」
「聖職者さんかぁ」
回復するかしないかという点は置いておいて、回復薬を投げるという発想はゲーマーと異世界の共通認識だったようだ。
ごめんね花、疑ったりしちゃって……。
「手段はまぁ、あれとしても。魔物が凶暴化して、治癒術師がいないパーテイーの回復手段をギルドも検討してはいるらしいよ」
「ギルドが?」
「そう。とはいっても、回復手段は治癒術師か回復薬だからね。そういい案がでてくるとは思えないよ」
「ふむぅ……」
どこも回復方法には悩んでいる、ということですね。
投げる、かぁ。でも、瓶を投げてもピンチだったら受け取ることも難しいのではないだろうか。戦闘中、しかも回復薬が切れてピンチ! 受け取ってる暇があるとは思えないし。
イクルも体力回復薬を1つ手に取って、くるくると遊び始める。イクルは優秀なので、そんなに回復薬を使ったりはしていない。
「イクルは? 魔物が強くて、回復している暇がなかったらどうするの?」
「そもそも俺は、風魔法で探索をかけるから緊急事態にならないよ」
「それもそうか……」
そうだ、イクルは優秀だった。
そもそも、1人であればピンチにはならないのだろう。……つまり私がいるからピンチになっていた、と! イクルにはいつも無理をさせてしまったと思う。ありがとう、イクル。
少ししょんぼりしてしまえば、イクルがやれやれと顔を振って「大丈夫だよ」とフォローしてくれる。私は何も言っていないというのに、おかしいですね。
「まぁでも、投げて前衛に渡すことができるっていうのも大きいだろうし。投げる練習でもしてみれば?」
「投げる練習……! うん、そうだね。やってみるよ!」
すぐにできるからと、イクルがとりあえずの現状案をだしてくれる。私の投球コントロールはおいておいて、もしものために練習しておいて不要ということはないだろう。
イクルが手伝ってくれるというので、一緒に庭に出て練習スタートです。
◇ ◇ ◇
ゴン! ボトンッ!
「「…………」」
さて。庭に出て、体力回復薬を木に向かって投げてみました。
イクルが受け止めるよと申し出てくれたのだけれど、さすがに人様に向かって中身入りの瓶を投げつけるのははばかられる。イクルだから大丈夫だとは思うけれど、間違えて当たってしまったらと考えると怖い。
「木にぶつけても割れないんだ……!」
「ひなみ様、俺も投げるから1つちょうだい」
「あ、うん!」
私が木に向かって投げた体力回復薬は、幹に当たり地面に落ちた。瓶は割れるどころか、ひびすら入っていない。
やっぱりふたを開けて投げた方がいいのだろうか。それとも、私がもっと鍛えるべき? いや、そもそも瓶のまま投げてぶつけて割って回復というのが間違いだ。間違いないです。投げるのは渡すためであって、回復するためではないのだから。
そう考えていれば、横から風を切る音が耳に届く。どうやらイクルも体力回復薬を投げたようで、視線で辿れば……結果は、私と同じだった。
まったく割れず、ひびすらない。綺麗なままの、瓶がそこにあった。
「……結構、強く投げたんだけどね」
「なんだろうね、この瓶。まぁ、軽く投げるか、それかふたを開けて上空に向かって投げてみるかかなぁ」
今度はふたを開けて、木に向かって投げてみることにした。
投げてすぐに中身がこぼれてしまっては意味がないので、どうしようかなぁと考えつつも、とりあえずそのままでいいかとやってみることにした。
「えいっ!」
中身が降り注ぐようにと思いながら投げては見るものの、勢いがある上に小さな口なので、液体がでることはなかった。
失敗したなぁと思いつつ、瓶を拾いに行けば落ちた地面に中身はこぼれてしまっていた。もったいないとは思うけれど、これは必要なので多目にみてもらおう。
「上手くいかないね」
「そうだね。まぁ、今までそんな使い方をしてる人がいなかったし」
「うぅーん……ん?」
「どうしたのさ」
瓶を拾ったのはいいのだけれど、なんだか地面がやけにきらきらしている。体力回復薬がかかったから、何か地面にさようしたのだろうか。
人間につかうと傷が癒える。じゃぁ、ほかのものに使ったとしたら……?
「……まさか、回復薬の効果?」
「わからない」
イクルも気付いたようで、土を手に取り触っている。見た目が少しきれいになってはいるけれど、土に詳しいわけではないので私にはわからない。
まじまじと土を見ているイクルも、「わからないや」と手から土を払った。
「でも、もしかしたら土にとっては栄養なのかもしれないね」
「栄養、というと、肥料の変わりになるのかな?」
よくよく思い返せば、この世界には肥料というものがないのかもしれない。お店でそういったものを見たことがないし、そういった話題を聞いたことがない。
私は持っていた体力回復薬のふたを開けて、薬草が生えている場所へと振りかけてみる。きらきらと輝く光景をみて、なんとなく嬉しくなる。
「どうするつもりさ、ひなみ様」
「うん。こうするの! 《天使の歌声》!」
私は両手に体力回復薬を持って、ふたを開けてくるっと回転しながら大地に振りかける。それと同時にスキルを唱えて、これがたくさんの人に届けばいいのにと願う。
薬草にかかって、嬉しそうに成長を始めて立派に育ってくれる。にょきにょきっと育つ姿を見るのは、未だに不思議で仕方がない。いったいどういう仕組みになっているのだろうと考えて、急に違和感を覚える。
「…………?」
「どうしたのさ」
「なんか、変?」
いったい何が変なのかわからないけれど、こう……身体が熱いような気がしますよ? 急にくるりと回ったからかなぁと思っていれば、イクルの「ひなみ様、その手」という声が聞こえた。
何だろうと思って、自分の両手を見れば淡く光っていた。加えて、持っている回復薬も一緒に光っていた。
「えぇっと?」
「もしかして、スキルなんじゃないの」
「スキル?」
イクルが少し考えて、1つの可能性を示唆した。
スキルというと、私が使っている天使の歌声ということだろうか。でも、いつもはそんなことがないしと思っていればイクルから「違うよ」という声がかかる。
「新しいスキルを取得したんじゃないの?」
「…………へ?」
「とりあえず、ステータスを見てみなよ」
「ええと、《ステータス》」
新しいスキルを? この2年間、異世界にきてから新しくスキルや魔法を覚えるといったことはない。今更、しかもどんなスキルが戸思いつつも、その可能性を聞いてどきどきしてしまう。
〈 楠木ひなみ 〉
15歳
Lv. 8
HP 188/188
MP 282/282
ATK 33
DEF 33
AGI 49
MAG 76
LUK 190
〈スキル〉
神様の箱庭
光の狂詩曲
癒しの如雨露
天使の歌声
〈称号〉
リグリス神の加護
「癒しの如雨露?」
「また、聞いたことのないスキルだね……よくもまぁ、そんな希少スキルを何個も取得できるね」
《癒しの如雨露》
傷を癒すことができる雨を降らせることができる。
使用すると、回復薬を1つ消費する。
「すごい、私が欲しかったスキルだ……!」
回復薬を持つ手に少し力がはいって、どきどきする。花と少し文通をしてアドバイスをもらって、新しいスキルを使えるようになったということが、嬉しくて仕方がない。
スキルは、経験や修練などを積むことで取得したりすることができる。ものにもよるけれど、基本的に簡単に取得できるものではないらしいのだけれど……こうも簡単に取得できた私はラッキーであって、もしかしたら相性のいいスキルだったのかもしれない。
「どうやら、そこそこの範囲に適応されそうだね」
「うん、そうみたい。これがあれば、私も少しは役にたてるかな」
「そうだね。ひなみ様の回復薬は効果も高いから、弱い治癒術師よりは役立てるんじゃない?」
「そっか……!」
イクルの言葉に、少しだけ勇気をもらえた気がする。
いつも護られて、かといってサポートができるわけではない。この新しいスキルは、きっと私にとっての新しい第1歩になるに違いないと思うのです。
活動報告に、ひなみとまろコンビのキャラクターバトンを書きました!




