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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第4章 初代勇者の英雄奇譚
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3. 文通

 今日の目覚めは、覚えていない。

 窓から差し込んだ暖かな朝日とか、鳥のさえずりとか、木の葉の揺れる音とか……何も、頭に入ってこない。



 私の視線は、一通の手紙に釘付けだった。



「はな……?」



 サイドテーブルに置いた交換日記の上にある、白い封筒。

 そこには確かに、花の字で『ひなちゃんへ』と書かれていた。



「……花!」



 私は何かを考える前に手紙を手に取って、封を切った。

 たった数行しか送らなかった私の手紙。それにきた返事は、もしかしたら数行かもしれない。けれど、花が元気で生きていてくれているのならば、それ以上に嬉しいことはない。

 いったい何を書いて……と、手紙を取り出せば分厚くなった便せん。



「え? これ……いったい何枚の便せん? しかも、びっしりと文字が書いてある……!」



 - - - - - - -


 ひなちゃんへ


 久しぶり、花だよ。

 もう、ひなちゃんってば手紙がたった3行だなんて。妹として情けないよ!?


 でもね。ひなちゃんが幸せだっていうことは伝わってきました。

 書いた文字を消しゴムで消した跡とか、実は少し震えていた文字とか。

 手紙、すごく嬉しかった。ありがとう、ひなちゃん。


 それはそうと、ひなちゃんってば!

 いつのまにあんなイケメン神様を射止めてるの!? もう、びっくりしちゃったよ。いつもリグリスさんとひなちゃんの洋服とかいろいろ見ていたんだけど、ひなちゃんに似合うものならなんでも買っちゃうし。

 私も自重したりはしなかったけどね! ひなちゃんに似合いそうな服、いっぱいあったから。

 だから今度、ひなちゃんからリグリスさんの話を聞かせてね? それと、イクルさんっていうイケメンさんの話も。まろちゃんっていう、可愛い子もいるんでしょう?

 ひなちゃんの妹は私だけだと思ってたから、なんだか妬けちゃうよ。でも、ひなちゃんの傍にいい人がたくさん居てくれて、私は安心です!


 あとは、もう! 剣と魔法のファンタジー世界!

 私もひなちゃんと一緒に冒険がしたいよ! 魔法使いもいいけど、前衛もしたいから魔法剣士とかが狙い目だと思うんだよね。

 何度もリグリスさんに異世界へ送ってって頼んだんだけど、絶対にいい返事はくれないの。私はこんなにも異世界行きを希望してるっていうのに。大変に残念。


 っと、そうそう。

 私たちの話も少し書いておくね。

 ひなちゃんも、簡単にはリグリスさんに聞いたとおもうけど。私とお母さん、お父さんは、リグリスさんに事情を聞きました。

 家族3人、まぁ……平和に暮らしているかな。ひなちゃんがいないのは寂しいけれど、私たちは元気です。お父さんは仕事の毎日。お母さんは、会社員を辞めてパートをしています。

 私は学校に通ってるよ。今までは病気のせいでできなかったけど、夜中までゲームができるようになりましたー! うん、私すっごく元気になったよ!

 だから、私たち家族のことは心配しないで大丈夫。私にまかせて。


 実はね。

 私、ひなちゃんに、ばかやろーって、叫びたいよ! だって、私が生きるためにひなちゃんが異世界に行くことになっちゃったんだから。


 だけどね。


 立場が逆だったら、私も同じことをしたよ。

 ひなちゃんのために、私の命をなげうった。


 だから、私は、ひなちゃんに……笑顔でありがとうって、言うね。

 ありがとう、ひなちゃん。

 私のこの命は、私の1番の宝物だよ。


 ……私のためにたくさんバイトをしてくれてありがとう。だから、その分これからはひなちゃんに幸せになって欲しい。世界で、うぅん。宇宙で、1番の幸せ者になって欲しい。


 ひなちゃんは、私の自慢のお姉ちゃんです!


 花より


 - - - - - - -



「…………はな」



 まるっこいような、ふにゃけたような花の可愛らしい文字が私の脳裏に焼き付いて行く。

 手紙を読んだ感想とか、花は私のことをどう思てくれてたんだとか、そんなことは何も考えられない。だって、私の目からは涙が止まらないのだから。



 ねぇ、花。

 やっぱり私たちは姉妹だよね。

 花は私にとって、自慢の妹だよ。







 ◇ ◇ ◇



「いらっしゃいませ!」

「おう、ちわっす」

「こんにちはー」



 リグ様にもらったエプロンドレスを着て、私は1人お店に立つ。

 まろにはゆっくり休んでもらって、今日は私が頑張ります。朝からいっぱい泣いてしまったので少しだけ目が赤いけれど、そのうちおさまるはず。

 ちなみに、泣き止んでから目を冷やしたりしていたので開店はいつもより遅めの時間。イクルが開店時間をお店の前に書いてくれていたからか、開店したとたんお客様がきてくれた。よかったです。



 カランという鈴の音とともに入ってきたのは、3人組の冒険者。男性2人に、無口な女性が1人。

 リーダーさんっぽい男の人が、「回復薬(ポーション)をくれ!」と、二カッと笑って声をかけてくれる。すぐに何を用意しようか聞こうとして、もう1人の男の人を見て「あ」と、声をあげてしまう。

 この前お店にきてくれた冒険者さんだった。以前と同じで、バンダナを頭に巻いて、コートのようなマントを羽織っていた。



「なんだ、知り合いか?」

「うん。前に1度きたことがあるんだ。俺も個人的に真紅の回復薬ガーネット・ポーションが欲しいから、お願いできる?」

「はい、ありがとうございます!」



 そうそう、この人は王子の実をお茶のお礼にくれようとしたとんでもない人だ。でも、また買ってくれるということは私の回復薬(ポーション)を気に入ってくれたんだろう。嬉しいな。

 それとは別に、パーティーで使うための体力回復薬(ハイ・ポーション)を10個と、魔力回復薬(マナ・ポーション)を3個購入してくれた。



「3人はパーティーなんですか? 前にこられたときは、おひとりだったので……」

「あぁ、うん。一昨日かな……ムシュバールからの帰り道でたまたま出会ってね」

「そうそう。俺とこいつの2人パーティーだったんだが、魔物が強かったから共同戦線ってやつだ」



 どうやら、リーダーっぽい男の人と女の人がパーティーだったようだ。

 魔物の凶暴化は、こういった面でも冒険者の人に影響を与えてしまうんだ。いつもの調子で冒険にでたら、いつもの魔物が強くなっている。それは、とても怖いと思う。

 バンダナの人も1人っぽいし、こういう出会いはきっと大切なんだろうな。



真紅の回復薬ガーネット・ポーションを個人的に……10個ほどもらえるかな?」

「はい。ありがとうございます!」

「本当はもっと欲しいんだけど、今は回復薬(ポーション)が不足してるからね」

「そうですね。無理をして怪我をしないといいんですけど」



 リーダーのお兄さんからは、体力回復薬(ハイ・ポーション)を10個で1万リル、魔力回復薬(マナ・ポーション)を3個で1万6900リル。合計2万6900リルを受け取る。

 バンダナの人からは、真紅の回復薬ガーネット・ポーションなので1万6000リルを受け取る。

 でも、回復薬(ポーション)の値段はそのままなのに魔物が強くなるのは、かなり厳しいのではないだろうか。消費量は上がるけれど、収入とかは増えないのだから。



「ってか、お前太っ腹だな! ガーネットは高いだろうよ」

「甲斐性の違い……」

「おまっ! ひでぇ、パートナーだろ!」



 商品を渡していれば、初めて女の人がしゃべる声を聞けた。……ツッコミ担当さんなんだろうか。

 でも、確かに体力回復薬(ハイ・ポーション)よりも真紅の回復薬ガーネット・ポーションのほうが600リルも高い。しかし、だからといって回復効果の低いほうを進めて万が一何かあっても困る。うぅん、難しいです。

 そんなことを考えていれば、バンダナの人がくすくす笑って2人を見ていた。「あいかわらず夫婦漫才だねぇ」と笑いながら、体力回復薬(ハイ・ポーション)魔力回復薬(マナ・ポーション)をリーダーさんに渡した。



「味だよ、味。俺はこの回復薬(ポーション)の味が好きだからいいの」

「あじぃ〜? 確かに美味いらしいけど、そんなにか?」

「ほら、俺はシグの雑食と違って美食派だし。この真紅の回復薬ガーネット・ポーションは味がコーラで美味しいんだよ」

「ふぅん〜? ま、俺も収入が入ったら買ってみっか!」

「シグは貧乏で金遣いあらいから、きっと無理」



 どうやら、リーダーさんはシグさんというらしい。笑顔で、ムードメーカーの役割もしているのだろうな。

 バンダナの人は味をお気に召してくれているようで、とても嬉しい! 今後は、ほかの薬術師さんの回復薬(ポーション)も美味しくなっていくはずだから楽しみにしていて欲しいなと思うのです。

 そしてやっぱり女の人はツッコミ担当みたいで、少し笑ってしまう。



 ……っと、少し笑ってしまえば3人に見られてしまった。慌てて「ごめんなさい」と言えば、シグさんが「気にすんな」とさらに笑ってくれた。



「ごめんなさい、店主さん。シグはうるさいうえにやかましいから……」

「えっ!? いえいえ、そんなことないですよ?」

「シグはいつもひとりで賑やかだからねー」

「お前らひでぇな!?」



 女の人の言葉を慌てて否定するが、バンダナの人が追い打ちをかけた。

 いやいや、全然。本当、私はそんなことまったく思っていないですよ? 賑やかで楽しそうだなっていうくらいで。本当ですよ?



「っと、そろそろ行かねえとな。回復薬(ポーション)、ありがとうな!」

「また真紅の回復薬ガーネット・ポーションを買いに来るよ」

回復薬(ポーション)、大事に使う」

「こちらこそ、ありがとうございます! またお待ちしてます!」



 おそらくこれから狩りに出るのだろう。シグさんが気合いを入れて、「よぅし!」と拳を握っていた。

 お礼を言って、3人をお店から見送って……どうか怪我がないようにとそっと祈る。



「凶暴な魔物、かぁ……」



 私にも魔物と戦う力があればいいのだけれど、そう都合のいいものではない。なので、とりあえずは毎日ひなみの箱庭(ミニチュアガーデン)を営業する。

 自分のできることを、頑張ります!



「ようし、頑張って回復薬(ポーション)を作って売るぞっ!」



 えいえいおー! と、意気込むように店先にいればくすくすと笑う声が耳に入った。やばい、人が見てたんだはずかしい……!



「元気ですね、可愛い薬術師さん?」

「あはは、ごめんなさい。ええと、いらっしゃいませ……」



 おそらくお客さん、だよね? 若干どころかすっごく恥ずかしくなりつつも、店内へ招き入れる。すぐに「魔力回復薬(マナ・ポーション)を5個」という声が聞こえてきたので、急いで用意をする。

 どうやら、私がアグディスに行っている間に何度もきてくれていたらしい。「最近は、いつもここで買ってるの」という女の魔術師さんの言葉に嬉しくて頬がゆるむ。



「私はソロなんだけど、魔物が凶暴になったから狩り場のレベルを下げるか悩んでるのよね」

「無理をして怪我をしたらいけませんもんね。パーティーは組まないんですか?」

「うーん……私は、魔法の制御があまり上手くないからパーティーは厳しいのよね。だから、今はソロなの」

「なるほど……」



 そうか、魔術師さんでも練習はしないといけないのか。好きなところに魔法をぽこぽこ命中させられるものだと思っていたけれど、そうではないらしい。



「ただ、街道に弱い魔物が姿を現すって噂ね。以前はそんなことなかったんだけど。だから、街道周りもいいかなぁってね」

「街道だと、危険ですよね。街を行き来する人もいるでしょうし」

「そうなの。だから、今は護衛の募集も増えてきているの。っと、そろそろ行けないと。またねぇ」

「はい、ありがとうございました」



 魔術師さんに話を聞くことができて、思っていたよりも問題は深刻になってきているような気がする。殿段階でこの魔物凶暴化が収まるのかがわからない現状、街の行き来をする人が減ってしまうかもしれない。

 そうすれば、街から活気がなくなってしまう……という恐れもある。



「私にもう少しだけでも、力があればよかったのになぁ……」



 ぽそりと、そんなことを呟いてしまう。

 お店のカウンターに頬杖をついて、ちょっとだけこっそりため息をひとつ。こんなとき、花だったら剣を振り回して魔物に特攻していくんだろうなぁと、容易に想像ができた。ゲームをやっていた花は、基本的に攻撃職しか使わない。



「あ!」



 そうだ! もしかして、花に相談してみたらいいんじゃないかな? 弱い私だけど、花なら何かいい案をだしてくれるかもしれない。

 いろいろなゲームをやっていたから、私のようなポジションでも役に立つ方法を知っていそうだ。この世界の人と違い、花にはいろいろなゲーム知識がある。回復薬(ポーション)の有効活用だって、いい案があるかもしれない。



「うん! そうと決まれば、さっそく花に手紙を書こう!」



 リストにある文通は、1回毎にポイントを消費する。

 私が花に手紙を送り、返事がくる。この往復で1回というカウントがなされる。今は呪を消滅させたおかげでポイントがたくさんあるけれど……あまり手紙を出しすぎるとすぐにポイントが尽きてしまう。だって、消費は1回30万ポイントだからね……。大切に使います。



 花にいろいろ質問しつつ、もちろん私の現状も手紙に記載しないと。

 とはいえ……ある程度リグ様に聞いているようだけれども。この世界にきて、リグ様に説明したことを聞いたりはしたけれど、頻繁に直接会っているとは知らなかったのでとても驚いた。

 もしかして、私より花のほうがリグ様と仲がいいのかな……? なんとなくもやっとした気はするけれど、とりあえず今は魔物をどうにかするのが先決です!



「ようし、お姉ちゃんは頑張るよ!」



 えいえいおー! と、気合いを入れ……ていたら、イクルに目撃された。

 穴がなくても入りたいです。

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