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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
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45. これからの世界

 視点:レティスリール



 朝日が昇ってすぐ、私は優しい大地へと寝転んだ。

 ふわふわした草が身体を受け止めて、ゆれる葉先がくすぐったくて笑みがこぼれる。



 あぁ、私は生きているのね。



「レティスリール様?」

「あら。おはよう、ひなみ」

「おはようございます。どうしたんですか? 寝転がって」



 首を傾げながら私を見るひなみは、まだどこか眠たげな瞳。

 リグリス様のお気に入りだから、もしかしたら何か連絡を取ったりする手段をもっているのかもしれない。そう考えて、リグリス様が独りではないのだと安堵した。



 村の広場の端、草木が生えている場所に私は寝転がっていた。くるりと1回だけ転がって、身体を起こす。うぅん、朝の空気が気持ちいい。



「何でもないの。外が久しぶりだったから、なんとなく寝転んだの」

「あぁ、ずっと地下でしたもんね。ここの自然はすごく気持ちがいいから、落ち着きますよね」

「えぇ」



 すぐに「そうですよね」と笑顔を向けてくれるひなみは、なんだかすぐ騙されそうでとても心配になる。素直でとてもいい子だから、その分まわりの皆で助けてあげたいと、そう思う。

 私の隣に腰を下ろして、「朝ご飯です」とサンドイッチを渡してくれた。



「あ……持ってきてくれたの? ありがとう。イクルたちと、食堂で食べればいいのに」

「いいんです。レティスリール様と、こうやって外で食べるのも楽しいですよ?」

「ふふ。ありがとう、ひなみ」

「はい!」



 にこにこにて、サンドイッチを頬張っているひなみを見ると、なんだか餌付けをしたくなってしまう。サンドイッチが入っていたバスケットに入っている果物を見つけて、1つひなみの口に押し込んでみる。

 口をもぐもぐさせて、一生懸命な様子がなんだか可愛い。これでは、リグリス様が夢中になってしまうのもなんだかわかる気がする。



「いきなりびっくりするじゃないですか……」

「あら。でも、おいしかったでしょう?」

「それはまぁ、すごくおいしかったですけど」



 ぷうと頬を膨らませて、それでもおいしいと言う。ふと視線をあげたひなみは、何かに気付いたようで食べるペースをあげる。どうしたのかと思えば、エルフの男性2人と、女性3人がこちらへやってくるのが目に入った。



「あぁ、もうそんな時間なのね」

「ん、んぐ……ごちそうさまです!」

「早食いね、ひなみ」



 今日は、朝から薬草栽培と回復薬(ポーション)作製を教える約束になっている。ひなみは手伝いを申し出てくれたので、今日は私とひなみの2人でエルフの人たちへと教授する。その後、ひなみはおそらく帰るだろうから、そうしたら私1人で各地へ教授していく予定だ。



 残っていたサンドイッチを一気に口へ押し込めて、飲み物で流し込む。急がなくても彼らは待っていてくれるだろうけれど、約束の時間に遅れるわけにはいかない。



「あぁっ、どうかゆっくりお食べくださいレティスリール様!」

「ありがとう。でも、大丈夫よ、はじめましょう」

「「「ありがとうございます!!」」」



 案の定ゆっくりどうぞと進められるけれど、それはさらりと流してさっそく薬草栽培を行うことにする。使う薬草は、体力草と青色草の2種類。

 ひなみが体力草と青色草の入った袋を取り出して、エルフの人に渡せば感嘆の声があがる。



「おぉぉ、すごい状態のいい薬草ですね!」

「それに、こんなに立派なものは森の奥へ行ってもあまり見ないわ」

「さすが、レティスリール様と一緒におられる薬術師様だ!」



 森の中で薬草を摘むには時間が惜しい。かといって、村に備蓄している薬草を植えてしまうわけにもいかない。なので、ひなみにスキルで増やしてもらった。

 ひなみの手によって作られた薬草は、質が最高級のものだ。成長しきっていない薬草を植えるよりも、これを植えて繁殖させたほうがいい。



 薬草の繁殖方法は、通常の植物とは異なる。あまり、というか……今の時代にその事実を知っている者はいないだろう。あぁ、でも、そう。春くんは知っていたかしら。

 実は、薬草そのものが魔力を持っている。繁殖するのには、この魔力を使う。根から大地の力を吸い上げて、茎を通して薬草の中を一周する。そうすると、それは魔力へと変換される。成長している薬草ほど魔力が高く、より質の高い回復薬(ポーション)を作ることが可能。

 巡った魔力は、ほんの少量だけ葉先から魔力を地面へたらす。大地に触れた薬草の魔力は、そこから新しい芽を育てて成長していく。それが、ほんらい(・・・・)の薬草の繁殖方法。ひなみのように、スキルを使用してところかまわず成長させるのはとんでもない技。



「そのすごさを自覚していないのがひなみ、ね。これから先、大変になるというのに」



 小さくため息と共に呟いて、これからのこの世界を憂う。

 魔物がいなくなったこの〈レティスリール〉は、ここからが本当に大変だろう。もともと、魔物がいない世界ではあったけれど、1度発生してしまえば元に戻すことは至難の業だ。

 魔物は危機を感じ、より強いもので群れをなして、進化をし新しい魔物が産まれるだろう。最悪魔王が産まれるかもしれないと思って……私は背中に冷たいものが走るのを感じた。



「…………?」



 辺りを見回してみるけれど、特に変化はない。

 それでは、私が感じた悪寒はなんだというのか。特別魔物の気配が濃いというわけではない。ではなぜ? そう考えて、1つのことが脳裏をよぎる。



 …………魔王。



「まさか、そんなこと」



 あるわけない。

 だって、魔王は倒されたのだから。



「レティスリール様? どうかしましたか?」

「あ……いいえ、なんでもないわ。ありがとう、ひなみ。見てくれていて」

「いいえ。とりあえず、土を耕して、薬草を植えれる状態にはなりましたよ」



 えへへと可愛く笑うひなみは、薬草を栽培できるようになったことが嬉しいようだ。現状、薬草栽培が可能なのはひなみだけ。それを独り占めしようとか、そういう気がまったくないということは、賞賛に値すると思う。

 こんな優しい子が、この世界の頂点にいてくれるのならば、しばらくは安泰だろうなと考える。けれど、そうは言っても長くは持たない。

 リグリス様が、そんなに長い間ひなみをこの世界にとどまらせておくわけがない。いつか迎えがくるだろうから、それまでにこの〈レティスリール〉を正常な世界へ導く下地を築かなければ。



 やることはたくさんある。けれど、長い間休んでいた私には丁度いいのかもしれない。キラリにもしばらく会っていないから、ここが一段落したら今後のことを協力してもらおう。

 そう考えて……いけない。今は、エルフの人たちに薬草栽培を教えているのだったわ。



「そう、そのまま優しく土をかぶせてあげて」

「は、はい! レティスリール様!」



 体力草を地面に植えようとしている男性に声をかけて、となりの女性にはもっと束を多めにして植えたほうがいいとアドバイスをする。



「レティスリール様、こっちはどうですか?」

「えぇ、大丈夫よ。これならきっと、上手く育つから」

「よかった!」



 ひなみが、他の女性と一緒に植え終わった青色草を指でさす。

 若干斜めになって植えてあるけれど、おそらくこれなら許容範囲内だろうと判断して、水をあげるように指示をだす。植えたばかりなので、ジョウロで優しく。



「数日間は、このまま様子を見て。枯れないようであれば、あとはある程度放置しても問題ないわ。雨が定期的にふれば、水やりも不要よ」

「結構たくましいんですね。でも、私の家も放置気味だったかも……」

「そうね。ただ、希少な薬草は弱いからしっかりと世話をしてちょうだい。でないと、枯れてしまうから」

「「「はい! ありがとうございます、レティスリール様!」」」



 エルフの人たちのお礼とともに、私とひなみの薬草栽培講座は終了した。

 この村は、これできっと大丈夫だろう。昔のように、薬草とともに生きられる世界になればいい。



「次は回復薬(ポーション)作製ですね。でも、私はスキルでしか作ったことがなくて」

「じゃぁ、ひなみは見学ね。あ、でも、雑用をお願いしても?」

「はいっ! 頑張ります!」



 面倒を押し付けようとひなみに意地悪を言えば、元気に肯定の返事をされた。なんて素直なのかと、くすりと笑ってしまった。



 ひなみは、数日中にここを立つ。

 これからの道に、幸あらんことを。



 女神の力はもうないけれど、せめて加護だけは受け取って。

これにて第3章、終わりです。

次回より第4章になります!


皆様の応援のおかげで、くじけつつもここまで続けていくことができました。


よりいっそう頑張っていきますので、引き続きよろしくお願いします。


そしてたくさんのブックマーク、評価、感想、ありがとうございます!

とても励みになっておりますっ!


ではでは、4章にて!

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