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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
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44. 記憶の回復薬 - 2

 記憶の回復薬(メモリー・ポーション)』を作ってからの私たちは、毎日が大忙しだった。

 エルフさんたちに回復薬(ポーション)の作り方や、栽培の仕方を教える。主に……というか、すべてレティスリール様が。私の生成方法は特殊すぎるので、教えると特殊スキルがばれてしまうかもしれないからと。

 そもそも、通常の生成方法がわからないので教えることもできないのだけれど。

 私は横で一般的な回復薬(ポーション)の作り方を見て……大変なんだなと改めて実感した。



「ひなみ様、帰りの支度ちゃんとできてる?」

「うん。大丈夫だよ!」



 明日の朝、私とイクルはエルフの村を出て〈サリトン〉大陸へともどる。

 ダッチョンに乗って港街へもどり、ロロと合流する。その後の帰路に関しては、箱庭の扉を増設しようと思っている。エルフの村には空き家を売るというのがないので、港街。

 ポイントは箱庭の扉を増設してもまだまだ余裕がある。家を一気に増築することもできるけれど、さすがに3人でそれはやりすぎかな? 掃除も大変になるし。



 オレンジ色の夕日がエルフの村にさして、緑の木々が秋の紅葉のように染め上がる。

 木でできた家が集まるエルフの村は、落ち着く和やかな雰囲気がながれている。ときおり聞こえる子供の声が、母親の声が、平和だということを告げる。

 特に道という概念がないのか、土の地面に、ところどころに生えた草木。



「……なんとなく、寂しいね」

「ひなみ様?」



 村の中を歩きながら、ぽつりとそんな考えが私の中で芽生えた。イクルが横で首を傾げて、何を言っているのかと問いてくる。

 私は少し悩んで、どしようかとイクルを見て……何かを察したイクルがため息をついた。



「またろくでもないこと考えて」

「そ、そんなことないよ?」

「そんなことあるでしょ」



 やれやれと言うイクルが、いつも通りの呆れ顔。

 どうやら私が何をしようとしているのかわかっているようで、「仕方ないね」と一言。

 ……どうしてイクルはいつも私の考えていることがわかるのだろうか。私はそんなに考えていることが顔にでるタイプではないのだけれど、おかしいなぁ。



 とりあえず、作戦を実行に移す場所を探さなければならない。どこかいい場所をときょろきょろしつつ、おそらく村の中心よりも外側がいいだろう。

 リュックの中身を確認して、必要なものをもっているか確認する。長老さんの家に置いてきているものもあるけれど、今必要なものに関しては問題ない。



「でも、いい村だねぇ。もっと、なんだろう。ぎすぎすしてたら嫌だなって思ってたけどそんなこともないし」

「そうだね。女神が現れて、心に余裕ができたんじゃない?」



 まるで他人事のようにさらりと流すイクルが、なんだかすごくイクルっぽくて笑ってしまう。

 しばらく家の合間を通り抜けながら歩いて、村のはずれまでイクルと歩く。ちょうどいい所を……と見渡して、私の肩くらいまである大きな岩を発見した。

 うん、これがちょうどいいかもしれない。村側から見て岩の裏手に回って、うんうんと頷く。スコップがあればいいけど、ないので手を使って少し土を掘っていく。



「よくもまぁ、こんなことするよね。人がいいというか、なんというか……」

「そうかな? でも、何か目に見える結果があったほうがエルフの人たちの希望になると思うし」



 そう。

 私が考えたことは……そっと薬草を村の中に植えて行くこと。自然に薬草が村の中に生えてるという演出になる。

 エルフの人たちだけでは、おそらく薬草栽培にも少し時間がかかる。でも、こうやって村のはずれに生えていたら少しは希望に繋がるかもしれない。

 私のわがままかもしれないけれど、少しでも皆の力に、希望になれたらいい。



「でも、植えるのは体力草だけだよ。他の薬草は、さすがにやりすぎだ」

「うん。わかってるよ……!」



 さすがに私だってそこまで考え無しじゃないよ! イクルのやれやれという態度が私を信用していない気がしますよ!

 少し柔らかくした土に体力草を1本だけ植える。これを少し増やしておく。岩の裏だから、ぱっと見ではわからない。うん、ばっちりだ!



「よし! 少しだけでいいので、この世界の希望に。《天使の歌声(サンクチュアリ)》!」



 私の声とともに、淡い光が辺りを包む。

 しゅるりと体力草が伸びて、新しい芽が地面から顔をだす。仲良く10本くらいの体力草が生えたのを見て、私は満足して笑った。



「あいかわらず、何度見てもすごいね。……1人で外にいるときに使っちゃ駄目だよ」

「わ、わかってるよ……!」



 私だって、何度も同じ失敗をしたりはしませんよ! もう人前でスキルを使う失態はいたしません! イクルはもう少し私を信用するべきだと思うのですよ。いや、心配してくれるのは嬉しいんだけどね。



「とりあえず、ここにいるのがばれたらひなみ様の仕業だっていうのがばれるからさっさと部屋に戻るよ」

「あ、うん。ありがとう」



 イクルの差し出した手を取り立ち上がって、そのまま空を見上げる。オレンジ色だったそれは、暗い夜の色へと変化を遂げようとしていた。

 日本と違って街灯がないので、たよりになるのは月明かり。それと、たくさんの星空。もうすぐこの大陸、〈アグディス〉ともさよならだと思うとなんだか寂しくなる。

 でも、自分の家が恋しいのもまた事実。帰るのが寂しいけれど、自分の家にも帰りたい。私はこの異世界ですごく恵まれているんだと、そう思えた。







 ◇ ◇ ◇



「ひなみひなみひなみー!!」

「ふあぁっ!? ど、どうしひゃのっ!?」



 しまった、寝起きだから噛んでしまった。

 部屋の扉をどんどんとノックされて、私の返事を待つことなくミルルさんが部屋に突入してきた。朝日の昇った早い時間で、私はまだベッドの中でゆっくりと寝ていた。

 急いで身体を起こしてミルルさんへ視線を向ければ、なんだかすごく興奮している様子で……鼻息が荒い?



「どうしたのじゃないのですよ、もう! 大ニュースです! こんなことが起きるなんて、もう嬉しいというかなんというか……です!」

「う、うん……?」



 いったい何があったのだろうか。でも、その様子から見てわかるのは悪いニュースではないということ。それならばまぁいいのだけれど、それにしても朝が早すぎて少し眠い。

 とりあえず起きようとベッドから出れば、騒ぎを聞いてイクルがひょっこりと私の部屋へ来た。まだ眠いのか、あくびをかみ殺している。



「朝っぱらから騒がないでよね」

「あ、おはよう」

「おはようございますです!」

「ん……」



 イクル、すごい眠そうだ。

 あまりゆっくり眠れなかったのかなと心配になりつつ、今日の午前中には港街へ帰るけれど……出発を少し遅らせるのも考えたほうがいいかもしれない。

 そう考えていれば、イクルが横まで着て「別に大丈夫だよ」と見透かしたように言ってくる。本当、なぜこんなにも考えていることがばればれになっているのだろうか。



「って! そうじゃないのです! 村に……体力草が生えているのです!!」

「えっ!?」



 ば、ばれてるー!

 昨日の夕方にこっそりイクルと植えた体力草。それが翌日である今日の早朝にはばれているなんて! 見つかりにくいように岩の裏に植えたのに。

 どうしようとあわあわしていれば、ミルルさんが私を見てくすりと笑う。



「……まさか、自然(・・)に薬草である体力草が村に生えるなんてびっくりです」

記憶の回復薬(メモリー・ポーション)のおかげで、今後は自生が増えるんじゃないの?」

「そうかもしれないです」



 あれ? てっきりミルルさんは私が何かしたんじゃって言ってくるのかと思ったけれど、そうではなかったようだ。イクルもフォローを入れてくれて、ミルルさんが「とりあえず見に来ませんか?」と。

 それくらいならと頷いて、1人ぱじゃまだった私は慌てて着替えて3人で体力草の植わる岩へ。




「すごい、体力草だ!」

「薬草が村に生えているとは!」

「これもレティスリール様のご加護に違いないぞ!」

「すごい!」

「俺たちの栽培はまだ始めたばかりだが、これならきっとすぐに……!」



 なんだか、岩の周辺がすごいことになっていました。

 自生したと思ってもらえていることが救いか。まさか私がやりまし、なんて言ったらどうなるかわからない。

 とりあず話しかけることはしないで、そっと遠くから見守る私とイクルとミルルさん。



「これはまた……すごいことになってるね」

「うん。なんだかお祝いムードだね」

「そうです、これはすごいことです!」



 なんとなくやってしまった感がありますが、私の植えた体力草を囲むように花壇を作っているのでこのまま栽培ゾーン? にするのだろう。

 すぐに摘まず、こうやって大切に育てていこうとするエルフさんたち。自然がたくさんあって、植物を大切にする。

 きっとすぐに、自分たちでも薬草の栽培ができるようになるんだろう。私の植えた体力草がほかの薬草の成長を手助けしてくれたらいいな。



「騒ぎもすごいし、そっと村を出たほうがいいね。このまま宴にでも突入しそうだよ」

「そうですね。ひなみさん、イクルさん。朝食を用意しているので、もどりましょう」

「ええと、はい。そのほうがいいかもしれないですね」



 あははと笑いながら、私とイクルは午前中にそっと村を出ることにする。

 挨拶をするのは、長老のジーヌさんやお世話になった一部のエルフさんたち。村が落ち着いたらまた遊びにこようと思う。そのときは、きっとこの村も薬草や花であふれているんだろう。そう思うと、とても楽しみです。



「でも、すごいです。ひなみさんは、幸せを運ぶ女神様みたいです」

「えぇ? それはレティスリール様だよ。私は少しお手伝いをさせてもらっただけ」

「「…………」」

「ん? どうしたの?」



 私が「ないない」と笑って言えば、ミルルさんどころかイクルにまで黙ってため息をつかれた。

 あれ? おかしいな、私は何か変なことを言っただろうか。私がしたことは、レティスリール様を起こしたくらいだし、むしろ呪を解除してもらったりと……助けてもらったことのほうが多い。



 レティスリール様は、しばらくこのエルフの村へとどまるそうだ。その後、この世界をしっかりと見て回るのだと、そう言っていた。

 ……それが、世界を放棄した女神である自分にできる今の唯一だからと。この世界を1番に考えられるのは私だけだからと。それだけは、この先どんなことがあっても胸を張って言うのだと笑った。



「まぁ、それがひなみ様だからね」

「そうね。それがひなみさんなのです」

「もう、2人ともいったいなにー?」



 ぐぬぬと唸って問いただそうとするけれど、笑ってスルーされてしまった。

 むぅ。おかしいなぁ。







 ◇ ◇ ◇



「お世話になりました」

「こちらこそ、ありがとうですじゃ」

「レティスリール様をよろしくお願いします。それと、また遊びにきていいですか?」

「もちろんですじゃ」



 村の入り口、ダッチョンと私とイクル。それと見送りにきてくれたジーヌさんにミルルさん、レティスリール様と数人のエルフさん。

 しっかりと挨拶をして、私とイクルは港街にもどってロロと合流です。



「ひなみ、ありがとう。あなたには、感謝をしてもしたりないわ」

「そんなこと。私こそ、ありがとうございます。お会いできて、よかったです……!」

「リグリス様にも、よろしくね?」

「! は、はいっ!」



 不意打ちででたリグ様の名前に、少しどきりとした。

 そういえばまだ文通のこととかをちゃんと聞いていない。かといって、私から話したいとか、話しかけるとか……それはやはり恐れ多い。

 わたわたと考えていれば、なぜかレティスリール様に笑われました。



「ええと、それじゃぁ行きますね。お世話になりました!」

「ええ。また会いましょうね、ひなみ!」

「いつでもおいでなさいじゃ」

「私もまっているです」



 ぺこりとお辞儀をすれば、皆が温かい言葉をくれる。

 再会を願ってくれるレティスリール様や、また村に迎えると言ってくれるジーヌさんにミルルさん。他のエルフさんは皆で「ありがとう」と言ってくれた。



「ありがとうございましたっ!」

「じゃぁ……」



 ダッチョンに乗って、私とイクルは村を後にした。

 レティスリール様とエルフの村は、私にとって大きな成長になったのだろうか。なんとなく胸に嬉しい思いが込み上げる。



 レティスリール様をお助けして、この異世界〈レティスリール〉からは魔物が産まれなくなり呪が消滅した。

 そして、イクルの目が治った。ずっと心配していたから、このことが正直に1番嬉しい。

 回復薬(ポーション)に関して言えば、現在は不可能だった美味しさや薬草の栽培を今後行っていけるようになった。これはすごい進歩で、やはり女神様はすごい。



「ようし! 行くよイクル、ダッチョン!」

「はいはい」

『チョー!』



 さぁ、今日も空が青いです。

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