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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
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43. 記憶の回復薬 - 1

 さてさて。用意しましたのは、下記の3点セットにございます。



 記憶の花

 蜂蜜

 瓶



 ちなみに、瓶はポイントで交換したので大量にあります。



 現在、用意してもらった部屋には私とレティスリール様の2人だけ。

 なんだかそわそわと緊張してしまうけれど、レティスリール様の雰囲気が柔らかいためぴりぴりしたり嫌な空気になるということはない。



「ひなみは、知っているかしら」

「はい?」

回復薬(ポーション)が、本当はとても美味しいということを。薬草が、栽培できるということを……」

「ええと、知っています。というか、私の回復薬(ポーション)は美味しいですし、家の庭では薬草の栽培をしてます」

「まぁ……」



 私の返事を聞いて、「やっぱりひなみは優秀ね」とレティスリール様が微笑んだ。

 というか、その言い方だと……やっぱり回復薬(ポーション)は美味しいもので、薬草もちゃんと栽培することができるものだということが予想できる。

 聞いた話では、薬草は栽培することができないから森で生えているものを摘むしかない。でも、ちゃんと栽培ができる。レティスリール様が帰ってきたことで、できるようになることが増えるだろうか。



「……本当は、みんな知っていたの。美味しい回復薬(ポーション)の作り方や、薬草の栽培方法も。でもね、私が無意識に呪いをかけてしまっていたの。それに、昨日気付いたの。ジーヌの話を聞いて、私はとんでもないことをしてしまっていた」

「呪い、ですか?」



 こくりと頷くレティスリール様の目には、申し訳ない色がにじむ。そして説明をしてくれたその言葉を聞いて、目を見開くことになる。



 レティスリール様は、すべてを忘れて眠ろうとしたとき……歌を唄ったそうだ。

 ゆっくり、自分の身体を癒すように。大好きな人への気持ちを、忘れて立ち直れるように。

 通常であれば、女神の歌というものは人々に幸せを運ぶ。だけど、苦しい気持ちで歌を唄ってしまったレティスリール様は……その幸せの歌を呪いにしてしまった。



 まさか、そんなこと。

 そうは思うけれど、その呪いの内容が回復薬(ポーション)の作り方と薬草の栽培だというのだから……信じるしかない。それまでは、誰もがちゃんとした回復薬(ポーション)を作り、薬草を栽培していたとレティスリール様が教えてくれた。

 ちなみに、味は作る人によってさまざまだったらしいです。



「呪いとして染み付いてしまったものを、記憶の回復薬(メモリー・ポーション)を飲むことにより思い出すことができるの。ひなみが薬術師で、本当によかった。申し訳ないけれど、協力してもらってもいい?」

「もちろんです! 私にできることなら!」

「ありがとう」



 しかしすぐに、「だけど……」とレティスリール様の言葉が続く。

 記憶の回復薬(メモリー・ポーション)を飲んだとしても、完璧に思い出すわけではない。身体に染み付いた呪いを消すことができるだけで、今後少しずつ改善されて行くらしい。

 つまり、試行錯誤していれば美味しい回復薬(ポーション)ができ、庭で薬草を栽培できるようになるらしい。少し時間はかかるけれど、その進歩はきっと人々の成長に繋がるだろう。

 でも……私は、きっとそれでいいんじゃないかなと心の片隅で思う。頑張れるのが人だから、女神様にたよってばかりではなく自分の足で歩いていくことができる。



「ひなみには、助けられてばかりね。私もこれからは頑張らないと。あの人のことも、ふっきれたから……しばらくはこの世界の幸せを祈るわ」

「いいえ、私こそ。レティスリール様にお会いできてよかったです!」

「ふふ。じゃぁ、記憶の回復薬(メモリー・ポーション)を作りましょう。まずは、この村の人全員に飲んでもらいましょう」

「はい!」



 まずはじめにすることは、記憶の花の増殖……!

 でも、袋に入れた土だと少し足りない。なので、用意してもらったのは土を入れた大きめのたらい。ここに花を植えて、たくさん咲かせる作戦です。

 私が花を育てて、レティスリール様が育った花を摘んで行くという役割分担。



「お願いね、ひなみ!」

「はい。《天使の歌声(サンクチュアリ)》!」



 私がスキルを唱えれば、タライに植えた記憶の花がタライいっぱいに咲き乱れた。タライという環境が少し残念ではあるのだけれど、その光景はとても綺麗だと思う。

 せっせとレティスリール様が記憶の花を摘んで行くので、私は再度スキルを唱えて行く。



「《天使の歌声(サンクチュアリ)》」



 レティスリール様が摘んだ記憶の花を机の上に置いてくれるので、私は新しく生えたものをレティスリール様が摘む間に記憶の回復薬(メモリー・ポーション)を作ることにする。

 材料はすべて机の上にあるので、《天使の歌声(サンクチュアリ)》を使うだけで問題はない。



「《天使の歌声(サンクチュアリ)》!」

「すごいはやい。あっという間にできちゃうわね」

「そうですね。あとは……蜂蜜次第ですね」



 スキルを使えば、記憶の花は簡単に手に入れることができる。瓶も、ポイントは使い切れないほどにあるため何個でも追加できる。

 ただ、蜂蜜ばかりは補充ができない。村のものすべて使い切ってしまうということもよろしくないので、どうしても記憶の回復薬(メモリー・ポーション)を作る数に制限がかかってしまう。

 今ある蜂蜜でどれくらい作れるのか。おそらく、村のエルフさんの分は問題ないだろう。でも、この世界すべてという話になると……なかなか難しいかもしれない。

 いや。今は、今でできることを一生懸命やってみよう。



「《天使の歌声(サンクチュアリ)》」



 再びスキルを唱えて、さらに記憶の花を咲かせる。それをレティスリール様が摘んで行く。

 割と無心で10分くらいそれを続けて、はっとする。



「「部屋が記憶の回復薬(メモリー・ポーション)だらけ……!」」



 気付けば、部屋には……600個の記憶の回復薬(メモリー・ポーション)があった。すぐ数がわかるのは、100個の瓶を6回ポイントで交換したから。

 余っているのは、記憶の花のみ。蜂蜜と瓶は丁度なくなった。



「とりあえず、長老に渡しましょう。この大陸にいるエルフの分は足りるでしょう。獣人たちは……また私が相談してみるわ」

「はい。そうですね……ん?」



 今後についても考えているレティスリール様だけど、その場合は私も戦力として含まれているのだろうか。私のスキルがあれば、あっというまに回復薬(ポーション)を作ることができて……正直に便利です。

 そう考えていれば、ノックの音が響く。長老のジーヌさんか、それともミルルさんだろうか。どうぞと言おうとすれば、その前に声が響いた。



「ひなみ様ー?」

「あれ? イクル!」



 帰ってきたんだと思い、ドアを開ければなんだか満足そうな顔をしたイクルが目に入る。うん、なんでそんなひとりで満足そうにしているかの理由は聞かないよ、私優しいですからね!

 それに、目が見えるようになったんだ。ひとりでいろいろと考えたいこともあったんじゃないかなぁ。まぁ、これは私の思い込みだけども。



「……って、すごい数の記憶の回復薬(メモリー・ポーション)だね」

「あはは、たくさん必要になったんだ」

「ふぅん?」



 私はレティスリール様に聞いたことをイクルに説明して、記憶の回復薬(メモリー・ポーション)がたくさん必要であることなどを伝えた。 

 それを聞いたイクルは溜息をついて、「そんな理由があったなんて」と呆れ顔だ。しかし何か反論することなくすんなり納得してくれるのは、さすがイクルだなと思う。



「後は、エルフの薬術師に作り方を教えて任せるのがいいだろうね。蜂蜜は他の大陸でも採取できるけど……アグディスが1番効率がいい」

「そうなんだ・・・・・・」



 やっぱり大自然だからだろうか? 確かに蜂はいっぱいいそうだ。私がうんうんと頷いていれば、レティスリール様が「そうするつもり」とイクルに同意した。



「とりあえず、作った記憶の回復薬(メモリー・ポーション)をジーヌに渡しましょう。後のことは、彼がやってくれるでしょう」

「そうですね。じゃぁ、呼んできます。ひなみ様、その不自然にタライから咲き乱れてる記憶の花だけ処理しといて」

「あぁ、わかった!」



 確かに、タライから花が咲き乱れていたら怪しいことこのうえない。イクルがジーヌさんを呼びに行く間に、レティスリール様と一緒に急いで花を摘む。

 摘んだ花は私が持って帰ることにして、鞄へつめこんだ。 

 タイミングを計っていたのか、タライの処理が終わったタイミングでノックの音が響く。きっと風魔法的なので気配を読んでくれていたんだろうと、ドアを開ける。

 イクルと長老のジーヌさん、それとミルルさんの3人がいた。



「これは……すごい数の回復薬(ポーション)ですじゃ。しかし、いったい何の?」

記憶の回復薬(メモリー・ポーション)というものよ。説明するから、座ってちょうだい?」

「レティスリール様! お願いしますじゃ」



 全員で椅子に座ったところで、レティスリール様が先ほどと同じ説明をしていく。

 ジーヌさんとミルルさんがとても驚いているけれど、とりあえずは納得したらしい。女神様の言葉はとても偉大です。



「であれば、薬術師を何人か用意させましょう。作り方は……」

「それは私が。ひなみを私の都合で長時間拘束するわけにはいかないもの」

「レティスリール様みずからが……! ありあたいことですじゃ。みなも喜ぶじゃろうて。獣人たちにも、儂から声をかけておきますじゃ」



 私は手伝うつもりだったのだけれど、レティスリール様からストップがかかった。「ひなみには、もっとやるべきことがあると思うから」と。

 そうは言われても、私に今後の予定は……特にない。お店に戻って、回復薬(ポーション)を売ってのんびり生活するような感じになるのだろうか。

 でも、リグ様への恩返しだってあるから、もう少し何か冒険をしたほうがいいのだろうか。うぅん、家に帰ったらもう少し自分で今後のことを考えてみよう。

 それに、イクルのこともある。もう呪奴隷ではないのだから、特に私はイクルの主人であるわけではない。イクルとも今後のことを話さないとと思いつつ、あとは〈アグディス〉で箱庭の扉を設置できればバッチりです。



「話はまとまったみたいだね。まぁ、全部ひなみ様が引き受けてたら切りがないから、俺はこれでよかったと思うよ」

「……そうかなぁ」



 イクルは私の考えていることをお見通しと言わんばかりで、そっとフォローをしてくれた。私としては、うぅん。レティスリール様に残りすべてをお願いしてしまうのは悪い気がするのだけれども。



「ふふ。悩み顔ね、ひなみ。でも、大丈夫……もうすぐ、きっと忙しくなるわ」

「忙しく?」

「そう。ひなみには申し訳ないけれど、またよろしくお願いすると思うの」

「はい? ええと、わかりました」



 少し状況がわからないけれど、きっとレティスリール様関連でまだ何か問題があるのだろうと判断する。一つ返事でオーケーをすれば、イクルに「内容もわからないのに返事をしない」と怒られた。







 ◇ ◇ ◇



 それからすぐに、私たちは記憶の回復薬(メモリー・ポーション)を村にいるエルフさんたちに配り飲んでもらった。

 飲んだからといって特に変化があったわけではないけれど、薬術や薬草に多く触れる人は何か思うところがあったのだろう。自分の身体をぎゅっと抱きしめて涙ぐんでいた。



「これから、薬草の栽培方法を皆さんにお教えします。薬術師の人や、興味のある人はついてきて?」

「「はいっ!」」



 レティスリール様が記憶の回復薬(メモリー・ポーション)を飲んだ人を誘導し、薬草栽培に関してのノウハウを教えていく。

 私は……どうして自分が薬草栽培をできるかがわからないので教えることができないのです。むしろなんで薬草栽培ができないの? という、最低パターンではないだろうか。

 ぐぬぬぬ。私も一緒にレティスリール様の栽培講座を受けようかな、他にやることもないし。そんなことを考えていれば、ジーヌさんが私のほうへやってきた。



「いやぁ、まさかこんな奇跡がおこるなんてびっくりですじゃ。いくらお礼を言ってもたりませんの」

「いいえ、私はそんなたいしたことはしてないです」

「そんな謙遜をせんでもよいて。ひなみ殿は薬術師じゃろう? もしよかったら、これをお礼にもらってはくれんかの」

「え? でも、これって……!」



 そう言ったジーヌさんが持っているかごには、王子の実をはじめ、私が見たことのない薬草や花がたくさん入っていた。恐らく凄く貴重なものなのではないだろうか。



「儂らがもらっていただきたいのですじゃ。のぅ?」

「そうです。ぜひ、もらってください」

「エルフの森で取れた貴重な薬草です。きっと、薬術師様ならば使いこなせるでしょう」

「そうです。我が村では、使いこなせない薬草です。ぜひ、受け取ってください」



 ジーヌさんに続いて、周りにいたエルフさんたちが次々ともらってと私に詰め寄って来る。どうしようか考えていれば、イクルが「ありがとうございます」と受け取ってしまった。

 慌ててイクルを見るが、その顔はには素直に受け取ればいいと書いてあった。



「……ええと、ありがとうございます」



 これでいいのかなと思いつつもお礼を言えば、エルフさんたちが笑顔で頷いてくれた。

 悪いと思いつつも、王子の実や薬草があると嬉しいのも事実なので素直に受け取ることにして、後でお礼の回復薬(ポーション)を作ろうかなと考えた。


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