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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第3章 呪いの歌
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40. ひなみの回復薬 - 1

 私の前に跪くドラゴンが、まるでこの世界の神であるのではないかと思えるほどに神々しく感じる。

 なぜ私の前にいるのだろうかということ考える余裕がなく、頭の中がぐるぐるする。だってだって、自分の目の前にドラゴンがいるというのは衝撃以外の何者でもないわけで。



「……ひなみ、ドラゴンの頭に手を」

「え? ええと、私が?」



 どうしようと慌てていれば、レティスリール様からのフォローが入る。しかし、頭に手をのせろと言われても困る。

 撫でろということなのかなと考えるが、それ以外の可能性は思いつかない。

 大丈夫なのかとレティスリール様をちらちと見れば、力強く頷かれてしまった。もしかして、このドラゴンはレティスリール様のお友達だったりするのだろうか。



 おそるおそる手を伸ばして、そっとドラゴンの頭に触れる。

 エルフさんの息をのむような声が聞こえたけれど、ドラゴンに触れている私にそんな余裕はない。本当は、食べられたりしないかなと不安になるところだけど……なぜか恐怖はなかった。

 ドラゴンに襲いかかる意思がないからか、それとも女神であるレティスリール様がいてくれるという心強い気持ちがあるからだろうか。



『グルゥ……』

「ふふ。ひなみを主人として認めたようね」

「そうですか、よかったです……って、ええぇぇ!? どういうことですか、レティスリール様!」



 大人しいドラゴンの横で、満足げにしているレティスリール様。

 ……ではなくてですね、今。とてつもなく重大なお言葉が聞こえてきたと思うのですが気のせいでしょうかどうでしょうか。



「このドラゴンは、この世界の王……とでも言えばいいかしら。ドラゴンたちの、頂点よ。ひなみのことを、主として認めたの」

「え……でも、どうして私なんですか?」



 どちらかと言えば、レティスリール様のほうが主に相応しいのではないだろうか。だって、この世界の女神様だ。これ以上に相応しい存在なんていないと確信できる。

 そんな私の言葉を聞いて、レティスリール様はそっと首を振る。そして、私に左手の薬指にはめた宝石華を見せてくれた。



「…………宝石華?」

「そう。すべての呪を、宝石華に封じ込めたの。……私の、女神の力と引き換えに」

「「「………………え?」」」



 その場にいた、すべての声が重なった。

 私の横にいたイクルも、近くにいた墓守のエルフさんの声も。



「だから、今、この世界の頂点にいるのは……リグリス様の加護をもつひなみ、あなたよ」

「ええええぇぇぇえぇぇぇぇふえっ!?」



 私の口からは、どこから!? と言うほど、いままで以上に大きな声がでた。

 この世界の頂点が、私……? いやいやいや、なぜ、どうして、私!? 私より強いひとも、すごい人も、長生きしている人も、いっぱいいるじゃないですか。それこそ、ここにいるドラゴンだって……!

 どうしたらいいかわからない私は、金魚のように口をぱくぱくするしかない。



「…………ひなみ様」

「あ、イクル……わたし、ええと」

「いいよ、1番驚いているのがひなみ様だってことくらいわかるから。とはいえ、このドラゴンの主になったとしてひなみ様はどうなるのさ? 今まで通りでいいわけ?」

「イクルの心配ももっともね。けれど、心配することは何もないわ。ひなみはこのまま、現状維持でいいの。ただ、もし何かあったときに……助けを求めれば、ドラゴンはひなみのもとにかしずくでしょう」



 私はもう1度、目の前にいるドラゴンの姿を見る。

 輝かしいその姿は、ドラゴンの頂点というのに相応しいのだろう。私には、行き過ぎた力としか思えないけれど。

 このドラゴンに、主人として認められている? 私が、リグ様の加護を持っているという、ただそれだけの理由で……?

 レティスリール様が女神の力を失って、私にあるリグ様の加護を感知されたのだろうか。この世界で、神と戴く者、もしくは加護を持つものは……私だけ。



「で、でも……リグ様の加護があるだけで主人と認められるのは、やっぱりおかしいと思います!」



 ぎゅっと胸の前で拳を握り、どきどきと壊れそうな心臓を落ち着かせようとする。絞り出した声は緊張でかすれていて。ここまで緊張するのなんて、きっと初めてだ。

 震える足を見かねたのか、ぎゅっとレティスリール様が私の手を取る。まるで大丈夫というように包み込まれた手は、ただただ温かい。



「いいえ。ひなみには、私と同じ力がある」

「レティスリール様と同じ、ちから……?」

「そう。神のための回復薬(ポーション)を作る力よ」

「…………?」



 神様のための、回復薬(ポーション)

 それはいったい何なのか、私にはまったく予想ができなかった。だけど、不意にマーリーさんの言葉を思い出した。

 私の回復薬(ポーション)は、レティスリール様の回復薬(ポーション)だと。

 それが、神様の回復薬(ポーション)だというのだろうか。私にはよくわからないけれど、きっと私とレティスリール様の回復薬(ポーション)瓶は同じ物。それが関係しているのであろうという、予想しかできない。



「人を慈しみ、思うことができる気持ち。薬術の適正。加えて、リグリス様の加護。ひなみがその身に持つ天使の歌声(サンクチュアリ)は、神に分け与えられた力よ。この子の主人に相応しい」

「神に分け与えられた力……!」



 レティスリール様の言葉に、自分のスキルを思いだす。



 《リグリス神の加護》

 リグリスと交換日記が出来る。

 加護スキル《天使の歌声(サンクチュアリ)》を使用することが可能になる。



 《天使の歌声(サンクチュアリ)

 旋律を奏で、力を与えることが出来る。

 効果:植物・鉱石などの成長促進、調合過程の短縮。



 スキルの中で、《天使の歌声(サンクチュアリ)》だけがリグ様にもらったスキルだ。

 普段意識することはなかったけれど、確かにこのスキルは私に与えられた“神の力”で……恐らく人間には行き過ぎた力なのだろう。



「でもね、だからといってひなみが神そのものになるわけではないのよ。そうね、神の代理と言ったほうがしっくりするかしら」

「は、はぁ……」

「私に女神の力がない今、この世界で神ゆかりの力を持つのはひなみだけ。でも、何かを気負う必要はないの。ゆっくり、深呼吸して……今のまま生活していいの。この子が主人と認めた、それだけよ」

「それだけ……」



 絶対にそれだけで済ませてはいけない気がするのですが、変にここで反論をするよりすんなり受け入れて……今後も平和に暮らすほうがいいのかもしれないぞ?

 そうは思うけれど、なかなか受け入れることが難しい現実だ。



「……あぁ、そうだ。ひなみ、ドラゴンの背中に草花が生えているでしょう?」

「え? あ、はい。すごく幻想的ですよね」



 レティスリール様に言われて再度背中に意識を集中させれば、色とりどりの花や草が生えている。ドラゴンなのに草花が生えているのも変な話ではあるけれど、しっかりと生えているのでそれすらも神々しいと感じる。

 というよりも、見たことのない植物ばかりだからそう思えるのだろう。

 その中の1つをレティスリール様が指差し、それを辿れば…………そこにあるのは黄金に輝く綺麗な花。7枚の花びらに、羽根のようにふわふわしている薄いよもぎ色の葉。



「すごい、きれいですね。あの花は?」

「あれは、回復薬(ポーション)の材料になるの。さっき、私の涙が真珠になったでしょう? その真珠と、ドラゴンの背にある黄金花。それから……魔力水と蜂蜜。それで、ひなみだけの回復薬(ポーション)ができあがる」

「…………私だけの、回復薬(ポーション)?」



 こくりと頷き、レティスリール様が視線で花を摘むように促してくる。

 いやいやいやいや。大人しいとはいえ、ドラゴンの背中に生えている花を摘むのはだいぶかなり至難の業ではないだろうか。正直今だってとてつもなく怖いというのに。



「大丈夫。今のひなみには、絶対必要なものよ。……ほら」

「…………うぅ」



 とん、と。

 軽く私の背中をレティスリール様の細い手が押す。緊張に震えていた私の身体は、簡単に1歩前へと進む。思わず怖くなって、イクルの服……袖口から出ている紐を掴んでしまう。

 摘まなければいけないのであれば、イクルについていてもらいたい。若干泣きそうになりつつも、イクルに「お願い」と頼み込めばあきれた声で「仕方がないね」と返事が返ってくる。



 まるでお化け屋敷を進むような感じで、イクルの紐をぎゅっと握ったままドラゴンの背中に回る。

 ドラゴンはといえば、私の動きに反応することなく大人しくしている。お願いだから、動かないでくださいと全力で祈りながら……そっと背中の花へ手を伸ばす。



「ドラゴンさん、お花……1本もらいます、ね?」

『グルゥ』

「ふわっ!!」

「ふふ。どうぞって言っているのよ」



 低い声で唸るドラゴンに思わず飛び上がってしまう。しかしすかさずはいるレティスリール様のフォローによれば、これはオッケーの返事らしい。

 それならばと……そっと、ゆっくりと、1本だけ花を摘み取る。痛くないのかな、なんて考えるけれどドラゴンは特に何の反応もしなかった。

 よかった、私、やりとげた……! 妙な達成感を持ちながらも、イクルと一緒にドラゴンの前へともどる。



「そう、それでいいわ。その花は、大切に育てて。絶対に、枯らせたり途絶えさせては駄目よ」

「わ、わかりました……! すごく、大切な花なんですね」



 《守護ドラゴンの黄金花》

 きらきらと輝く命の花。製薬の材料になる。



「守護ドラゴン……」

「さすが、この世界で頂点に立つドラゴンだね」

「うん。すごいね。私は……うぅん。この花は、大切に育てる」

「そうだね」



 これが、回復薬(ポーション)の材料になる。

 効果は教えてもらっていないけれど、きっとすごいものなのだろう。神のための回復薬(ポーション)なんて、私には正直荷が重い。

 けれど、効果の高い回復薬(ポーション)を作りたいと思うのも事実だ。イクルの目を治せるような、そんな回復薬(ポーション)を作れないかとこんなにも……まるで、恋いこがれていかのように。



「レティスリール様。ありがとうございます……!」

「いいえ。お礼を言うのは私。改めてひなみにお礼を。私を引っ張りだしてくれて、ありがとう」



 花の香りがしたかと思えば、ぎゅっと私を抱きしめてくれるレティスリール様。

 ずっと1人だったレティスリール様だけど、きっともう1人ではないですよね。今後のことはわからないけれど、私にできることがあるのならば協力をしようと思うのです。



「さぁ、とりあえず……エルフの村に行きましょう。ひなみの回復薬(ポーション)も作らないと行けないし、何よりエルフたちの封じられた記憶を元にもどさないといけないわ」

「……封じられた記憶?」

「そう。ごめんなさい、ひなみ。あと少しだけ力を貸してもらえるかしら?」



 可愛く首を傾げるレティスリール様を、否定する言葉を私は持っていない。快く頷けば、私の手をとりぴょんぴょんと跳ねた。もちろん、つられた私も一緒に跳ねました……!



 どうやら、まだ冒険は続くようです。

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