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第二十七話 いったい何者? 迷宮ノーム注意報



        この物語は、


     史上稀に見る高難度にして


   伝説の「クソゲー」として知られる


剣と魔法のRPG『ドラゴンファンタジスタ2』


   を舞台にした、とある探索者たちの


     迷宮をめぐる日常を描いた


       冒険活劇である。



(二十七)



「おまえさんがたはいったい……。いや、わたしが自己紹介するほうが先、かな?」


 人影はさらに一歩進み、シクヨロら探索者たちの目の前にその姿を現した。大きな荷物を背負った男性だったが、背丈は十二歳の人間(ヒューマン)、マルタンとほぼ同じくらい。恰幅(かっぷく)の良い体格だが、がっしりとした筋肉質ではないところを見ると、ドワーフではないようだ。童顔だが、その声には年季の入ったベテランの風格がにじみ出ている。そして、なによりも特徴的なのは、その大きく丸い耳。


「ノームだな、あんた」


「ほっ、その通り。名前はグルノォ。まあ、いわゆる『流れノーム』、だな」


 シクヨロの問いかけに、グルノォと名乗ったノームはのんびりとした口調で返事した。




 説明しよう(ひさしぶりだ)。


 ノームとは、『ドラゴンファンタジスタ2』に登場する種族のひとつである。大自然を愛する彼らは、古くから精霊と通じており、神々への信仰心も高いとされている。反面、その体躯の乏しさから力は弱く、荒々しい闘争心も持ち合わせていない。そのため、迷宮の探索者としてはおもに回復・支援役である僧侶(プリースト)司教(ビショップ)などの職種(キャリア)が向いているようである。

 なお、この「流れノーム」を自称したグルノォが、どの職種(キャリア)に属するのかはいまのところ不明である。


 以上、説明終わり。




「流れノーム? あなたは探索者ではないのか?」


 ようやく警戒を解いたヴェルチは、構えていた斧槍(アヴァランチ)を下ろしながらたずねた。


「あちこちの迷宮を渡り歩いとるんだ。それこそ、何十年もな。まあ探索者の端くれと言えなくもないだろうが、ギルドから正式な依頼を受けとるわけでもないし、な」


 グルノォは背中の荷物を下ろし、その上に腰掛けながらそう言った。ノームという種族特有の穏やかな物腰により、危険な雰囲気は感じられないものの、その言動や表情からはいまひとつ本心が見えにくい男だ。


「それにしても、第十三迷宮の最下層エリアで、しかも仲間も連れずに……」


「ほっ、ほっ、ほっ」


 そんなヴェルチの言葉に、また奇妙な笑い声で応えたグルノォ。


「わたしは元来、単独行動(ソロプレイ)が好きなんだよ。余計な連れ合い(パーティー)は、かえって危険を呼び寄せるということもある。そんなことよりも、だ」


 グルノォは懐から煙管(キセル)を取り出し、一服する準備をしながら話をつづけた。


「あらためて聞こう。おまえさんがたは、こんなところでいったいなにを探しておるのかね?」




「あ、私たちはですね。マカラカ……」もごご


 途中まで言いかけたアイシアの口元を、あわててシクヨロが背後から手のひらで覆った。


(素性の知れない相手に、冒険の目的をペラペラ(しゃべ)んじゃねえ)

(ふぁい)


 アイコンタクトのみで心の内を伝えたシクヨロに、こちらも上目遣いで応えたアイシア。


「いやあ、どうにも道がわからなくなっちまってな。困ってたとこなんだ」


 シクヨロは、頭をかきながら照れくさそうに言った。


「ほっ、迷ったのか、おまえさんがた」


「ああ。どうやらここは、ギルドにも明らかになっていない未踏破エリアらしくてな。とてもオレたちのレベルじゃ手に負えねえんで、とっととこんなダンジョン、脱出しちまいてえんだよ」


「そうだろうな。なにしろここは、最下層のさらに下。『地下十三階』だから、なあ」


「!」


 やはりこの男は、第十三迷宮の秘密を知っているようだ。うっかり対応を間違えると、とんでもないことになるかもしれない。シクヨロたちに、言いようのない緊張が走った(ただし、アイシアを除いて)。


 すると、グルノォは煙管から唇を離し、ゆっくりと煙を吐き出しながら言った。


「そうだ。おまえさんがたに、この階層(フロア)地図(マップ)をゆずってやってもいいが」


地図(マップ)? おじさん、ホントにそんなの持ってるの?」


 思いがけない言葉に、マルタンが驚きの声を上げた。


「ほっ、ほっ。本当だよ、少年。なにしろわたしはこの階層(フロア)で、これまでに何度もなんども、ありとあらゆる(トラップ)に引っかかってきたからな」


「……でもぉ、お高いんでしょう?」


 まるで、通販番組のアシスタントのような口調でたずねるアイシア。もっとも、彼らの所持金に余裕がないのは、まぎれもない事実ではある。


「ほっ、ほっ、ほっ。金などいらんよ」


「えっ? マジでいいのかいアンタ?」


 今度は、シクヨロが思わず聞き返した。グルノォはうなずきながら、逆にこう問いかける。


「その代わり、ひとつ正直に教えてくれ。おまえさんがたが探している、この迷宮に隠されているものは、なんだ?」


「あ、それはですね。『マカラカラムの護符(タリスマン)』っていう、超古代魔術のレアアイテムです」


(だぁーかぁーらー!)

(言うなっつーのっ!)

(駄エルフゥゥゥゥ!)


 あっさりと答えてしまったアイシアに、ほかの三人からの視線が突き刺さる。その発言からきっかり三秒後、ようやくそれに気づいたアイシアは、ペロッと舌を出した。


(言っちゃった。てへ)


「マカラカラムの護符(タリスマン)、だって?」


 だが、彼女の言葉を聞いたグルノォは、手のひらで顔を覆ったまま天を仰いだ。


「そうか……そうだったの、か……」


「グルノォさん?」


 しばらくその姿勢のまま、動かなくなってしまったグルノォ。そんな彼の様子を心配して、アイシアは思わず声をかけた。だが、やがてグルノォは、彼が腰を下ろしていた荷物の中から一枚の書き付けを探し出すと、アイシアに手渡しながら言った。


「持っていきなさい、お嬢さん。すべてのエリアではないが、道を迷わせる(トラップ)については、おおよそこれを読めば回避できるはずだ」


「いいんですか? 助かります!」


 アイシアは、手にした書き付けを広げた。それは、ところどころ不完全ではあるが、まさしくこの地下十三階の詳細な地図(マップ)だった。思いがけず降って湧いた贈り物(プレゼント)に、シクヨロやマルタン、ヴェルチまでもが驚嘆してそれを見つめた。


「ほっ、ほっ。おまえさんがたの探しているものが、きっと見つかることを祈っている、よ」


「……グルノォさん?」


 アイシアが顔を上げると、そこにグルノォと名乗ったノームの姿はなかった。




続く



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