091 おじさん疲れた身体を癒やす
第二回ダンジョン講習で、おじさんは建国王の残滓と邂逅を果たした。
きっかけは聖女の欲深さだったのかもしれない。
しかしあの場におじさんが居なければ、隠し通路が起動することもなかったのである。
そういう意味では当たりを引いてしまった。
だがそのお陰で、とても疲れてしまったのである。
母親には食事をしながら、概要を伝えただけだ。
あとは父親から聞いてほしいと丸投げした。
最近は丸投げすることに、すっかり抵抗がなくなったおじさんである。
明けて翌日のことだ。
おじさんは朝っぱらから、露天風呂を満喫していた。
浴衣を身につけ、湯に身を沈めている。
しかも露天風呂の縁に身を預けるようにして、足を伸ばしていた。
「あふぅううう……」
まるで一夜限りの謝肉祭における宴のよう。
誰もいないからこそでた声であった。
実におじさん臭いのだが、中の人的にはまっとうである。
しかし少し青みがかった銀髪にアクアブルーの瞳の美少女がしていいことではない。
ただ誰もいないのだ。
おじさんはお行儀が悪いことはわかっていたが、タオルを湯につける。
ぎゅっと絞って、それを目の上にのせた。
ホッコリとしたタオルの温かさが、じんわりと目の周りに染みこんでくる。
そして、また。
「あぁあ゛あ゛ああぁぁ」
と声をだしてしまうのであった。
すっかり油断してきっているおじさんである。
そこへ“クスクス”と笑い声が聞こえてきた。
「リーちゃん、よほど疲れていたみたいね」
母親であった。
「お、お母様っ! なぜ!」
さすがに慌てるおじさんである。
「リーちゃんが朝からお風呂に入っているって聞いてね」
母親がかけ湯をしてから、おじさんの隣に腰を落ちつけた。
「あ゛あ゛ああぁぁぁ。朝からお風呂に入るのもいいものね!」
当年とって三十八歳。
しかし見た目はまだまだ二十代でもつうじる美魔女である。
おじさんの親だけに、その外見はとても美しい。
肌の張りや、身体のラインに衰えも見えないのだ。
そもそも魔力が豊富な人間は老化が遅い。
この世界での常識である。
それにしたって、アラフォーには見えない。
「これは自然と声がでちゃうわね」
と言いながら、“クスクス”と笑う母親である。
そんな母親の様子におじさんもすっかり毒を抜かれてしまう。
肩肘張ることがバカらしいと思ってしまったのだ。
親子でならんで、露天風呂につかる。
余計な言葉は要らなかった。
ただただ、のんびりとした時間が流れていく。
おじさんは久しぶりに何も考えずに、ボケッとした時間を過ごす。
こういうときにこそ、得てして変な着想を抱くものだ。
ふ、と。
おじさんは男性講師に言われたことを思い返していた。
“次回からダンジョン講習の参加はなしで”である。
確かにおじさんは女神の愛し子という称号のせいか、引きが強い。
初回では未踏破区域を発見し、二回目で建国王の隠し通路を発見した。
二度あることは三度あると言う。
では三度目の講習では何が飛びだしてくるのか。
おじさんには予想もつかない。
だが、また面倒ごとに巻きこまれるかもという予感はあった。
しかしだ。
おじさんとしては、ダンジョンに憧れがある。
三度目の正直とも言うではないか。
これまでの二度はおじさんの期待に添うものではなかった。
しかし三度目、次こそはと思うのだ。
ダンジョンの攻略を楽しみたい。
それだけなのである。
ただ王都近くにある初級ダンジョンでは楽しめないのも事実だった。
でてくる魔物は弱く、罠もほぼほぼない。
だからこそ学園長に上級ダンジョンに誘われたとき迷ったのだ。
そこでなら攻略が楽しめるかも、と。
かといって学園長とダンジョンに潜ってもなぁとおじさんは思う。
やはりどこに行くかではなく、誰と行くかなのだ。
おじさんとしては、薔薇乙女十字団の皆と楽しみたい。
さりとて薔薇乙女十字団の皆では、実力が不足しているのだ。
ではどうするのか。
おじさんは閃いた。
“薔薇乙女十字団のレベルアップを図るのだ”と。
上級のダンジョンすら攻略できるくらいに。
皆で強くなればいいのだ、と。




