014 おじさん野営訓練で王太子をわからせる
「リー! 聖女になにをした!」
王太子からの詰問がとぶ。
パンを片手に聖女がハグハグとムニエルを食べている。
その表情からも美味しいという感情が全力で伝わっていた。
ごくりと唾を飲む王太子と取り巻きたち。
「お食事にお誘いしただけですわ」
しれっとおじさんは答える。
聖女は食事しか目に入っていないようだ。
「む? ならば婚約者であるオレにもってこないのだ?」
「殿下。野営訓練におけるルールにございます。食事は各班で」
「ならば聖女はよいのか?」
「こちらから申し出たことですから。要求されて差しだすのとはちがいます」
「では、リーよ。オレたちを誘え」
「お断りいたしますわ。ここは殿方禁制ですもの。それとも殿下、こちらにいる令嬢たちをすべて側室とされるのですか?」
「な!?」
おじさんの言ったことは極論である。
しかし乙女の園に自分たちを招かせるという言葉の意味を王太子は考えていなかったのだ。
「おわかりいただけたのならお引き取りを。聖女様はこちらで責任をもって面倒を見させていただきますわ」
王太子たちはスゴスゴと引き下がるしかなかった。
そもそも学園における野営訓練は歴史のあるものなのだ。
なにせ建国王が貴族の子弟に対して、戒めと教育のために考案したものだからだ。
この国では建国王の言葉は重い。
王太子こそが覆せないルールだと言えるだろう。
王太子たちを退けたおじさんに令嬢たちから歓声があがった。
なぜか聖女も喜んでいたのだが、おじさん的にオールオーケーである。
その聖女はチョコレートフォンデュを前に陣取って無双中だ。
両手に果物の串を持って口へ運ぶさまは、まるで蛮族である。
食事がすんだところで、皆が満足したような顔をしている。
しかしおじさんにとっては、ここからが本番だった。
なにせ露天風呂を用意しているのだ。
空間拡張の魔法が使われた露天風呂は、広く美しく蠱惑的な魅力を放っている。
メインとなる岩風呂の他にも壺湯や打たせ湯、寝転がれる場所に四阿まであった。
さらには水分の補給ができる給水所まであるのだ。
おじさんは皆と一緒にお風呂を楽しむために浴衣まで用意していた。
外見は女神とも見まがうほどの美少女だが、中の人はおじさんなのだ。
変な目で見る気はないが、やはり気をつかうというもの。
一般的に貴人は裸を見られることに抵抗がないとされる。
それは幼少期から使用人に見られなれているからだ。
実はおじさんも心当たりがある。
実家では使用人たちが争うように、おじさんのお世話をしたがったからだ。
ただそれは使用人に対しての感情だ。
友だちとも呼べる令嬢たちの間では、肌を見せるのを嫌がるかもと考慮した。
そこで浴衣である。
水に濡れても透けないようにするために、おじさんは自重しなかったのだ。
ちなみに女性は前世の記憶にある浴衣を参考にした。
男性は短パンタイプである。
これを家族にプレゼントして、おじさんは使い心地を試したのだ。
さすがに公爵家の浴場はデカい。
そんなデカい風呂に家族が集まって、皆で入浴したのである。
特に母親や弟妹からは絶賛された。
父親も恥ずかしそうにしていたが、満更ではなかったようだ。
ちなみに領地経営にいそしんでいる祖父母からは、“近いうちにそちらに行くから是非”と請われている。
そうした努力の甲斐が今、おじさんの目の前に広がっていた。
浴衣に着替えた令嬢たち。
「いぃぃぃぃやっふうううううう!」
聖女がいちばんのりで駆けだしていた。




