1149 おじさんと母親についていけない王妃様
「あら? リーちゃん、ここは王宮じゃないの?」
おじさんが転移した先の話である。
見慣れた部屋だったことに、王妃は声をあげたのだ。
「先ほど陛下から依頼を受けまして、この際ですから三公爵家と王宮をすべて行き来できるように、と」
「……なるほど。そういうこと」
王妃も納得したのだろう。
ちなみに王城の裏側にあるのが王宮になる。
王城が王の仕事場だとすれば、王宮が日々の暮らしをする場所だ。
ふんふーんと鼻歌をうたうほどに機嫌がいい。
この辺りでよさそうですわね。
おじさんが歩いていたのは、王宮の一階である。
王宮には地下室もあるが、それは食料などの貯蔵庫だ。
さすがにそこに転移陣を設置するわけにはいかない。
おじさんが作る転移陣は一対のものである。
なので、王宮から三公爵家の本邸へと転移陣を作るのなら三ついるわけだ。
タウンハウスとも結ぶというのなら、さらに三つ増える。
つまり、それなりの広さが必要になってくるのだ。
おじさんは王宮の一階の奥、突き当たりにまで足を運ぶ。
とんとん、とつま先で地面を軽く叩く。
すると、ボコンと穴が開いた。
四方が一メートルほどの大きさの四角い穴だ。
次に、ぱちんと指を弾くと入り口部分からが階段状へと変化していく。
そのまま降りていくおじさんだ。
階段の底。
土壁になっている部分に手を触れた。
「はいやー!」
ずずずと今度は横穴ができる。
こちらは縦・横ともに二メートルほどの大きさだ。
おじさんの手から光球がいくつも飛び出す。
照らされた周囲を確認しながら、おじさんは言った。
「少し弄っておきますか」
おじさんが宝珠次元庫から素材をいくつか取り出す。
錬成魔法を発動させる。
剥きだしの土の壁だったのが、一瞬で石壁に変わった。
いや、正確にはゲーミング水晶を用いた壁だ。
あの闘技場を改変したのと同じようにしたのである。
壁も床も天井も。
自然に放出する魔力だけで、ぼんやりと光る。
「ん~思っていたより地味ですわね」
ちょっと納得がいかないおじさんだ。
いや、ここは通路なのだから。
「そうですわ!」
再びはいやーと手を突き、声をかけるおじさんだ。
通路の先に巨大な空間ができる。
「お母様、光球をお願いします!」
もはや苦笑する母親だ。
こうなったおじさんを止めることはできない。
誰にも。
王妃はと言えば、口をあんぐりと開いていた。
なんで、こんなことができるの、と。
「どんどんいきますわー!」
はいやーとさらに魔法を使うおじさんだ。
地面からちっちゃいお城が生えてくる。
尖塔とアーチが特徴的なゴシック調のお城だ。
この地下空間に合わせたサイズ感である。
ドラキュラとかが住んでそうな雰囲気のお城だ。
「トリちゃん!」
『うむ……主よ』
「木を生やしたいですわ。あと、月が欲しいのです!」
有無を言わせない、おじさんだ。
『ああ、いや……うん。まぁ良かろう。このくらいなら』
圧に押されて流されるトリスメギストスだ。
『良かろう、術式はこちらで発動する』
「いつものヤツですわね! いきますわよ!」
お城の周辺から木がにょきにょきと生えてくる。
それは一瞬で森に変わった。
「次はお月様ですわ!」
『うむ。鉱人族が使っていた人工的な太陽を作るという技術を使ってだな……』
「細かいことはいいのです。やれますの? やれませんの?」
『できる! 我に不可能などない。素材もあるからな!』
どどーんとオリハルコンをだすトリスメギストスだ。
「むふふ……いいですわね。トリちゃん!」
どうにもおじさんに引きずられるトリスメギストスだ。
そして――地下空間の天井に模造品の月が設置される。
月の明かりに照らされて、森と古城の姿があらわになった。
「良い感じですわね!」
『で、主よ。この城はなにに使うのだ?』
「転移陣を設置するためのお城です!」
『で、あるか』
もはや何かを悟ったかのような声をだすトリスメギストスであった。
「さ、行きましょう!」
鼻歌交じりで歩いていくおじさんだ。
その後ろに侍女がついていく。
「ヴィーちゃん、あの……どういうこと?」
「王宮の地下に隠された城があるなんてステキですわよ」
「う、うん……」
王妃も母親に流される。
だいたいこうなるのだ。
「リーちゃん、さっきの魔法はどうやったの?」
「どの魔法ですか?」
「こうお城がにょきにょきと生えてくるの」
「ああ――あれは土壁と錬成魔法を応用していますわね」
「ほおん。面白いわね」
魔法バカが発動するおじさんと母親である。
なにも言うことがない王妃だ。
「オーヴェ、私がおかしいのかな?」
「いいえ……あのお二人が規格外なだけでございます」
「だよねー」
お付きの侍女の言葉に安心する王妃であった。
さすがににょきと生えたお城の中は殺風景だ。
そこで、おじさんが魔道具を取りだして、侍女が灯りを取り付けていく。
「あら、いいわわね。雰囲気がでて」
「でしょう?」
エントランスがそれっぽくなった。
「この場所を転移陣設置に使いますわ」
ぱちんと指を鳴らす。
またもや床からにょきっと石柱が生えてくる。
簡易的な四阿の完成だ。
「こっちが本家の方ですわね。わかりやすく……」
サンドブラストの魔法を使って案内を入れるおじさんだ。
「で、こっちはタウンハウスの方ということで」
入り口からむかって右が本家への転移陣。
左がタウンハウスへの転移陣だ。
対になって発動するので、片方を設置しただけでは意味がない。
「今日のところはラケーリヌとだけ結んでおきましょう」
行ったりきたりをするのは後でいい。
そう判断して、おじさんは逆召喚を使う。
既にランニコールの眷族がラケーリヌの本家にとどまっているのだ。
「うはあ……本当に実家だわ」
王妃が驚いている。
ラケーリヌ本家の一角に転移したのだから。
「え? え?」
近くにいた従僕が驚愕していた。
昨日に続いての連日の訪問だったから。
「さ、参りましょうか」
「あ、アヴリル様? それにオーヴェさんも?」
理解ができない従僕だ。
とりあえず跪く。
「急ぎオース様に報せてまいります」
とだけ告げて、大急ぎでエントランスへと走る。
「昨日の四阿は残ったままですわね」
「そうね、あちらで待ちましょうか」
母親とおじさんはマイペースである。
「サイラカーヤ、お茶にしましょう」
はい、と侍女もついていく。
「王妃様! こっちですわー」
朗らかな笑みを見せるおじさんだ。
「う、うん……」
どうにもおじさんと母親のペースについていけない王妃であった。




