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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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1132 おじさんは学園長の本気を見る


 学園長対おじさん。

 この場にいる多くの者にとって、それはドリームマッチである。

 だが、ごく一部の人間からすれば、既に決まった話でもあるのだ。

 

 以前、学園で見せた戦いよりも速い。

 おじさんはそう感じていた。

 

 学園長が突きだした槍。

 その速度は今まで見た中で、もっとも速いものだった。

 

 だが、ただ速いだけであれば、どうということはない。

 軽く身体をそらして、穂先を躱す。

 

 同時に次の動きに入るおじさんだ。

 いつもと同じ、在ると思えばなく、ないと思えばある――幽玄の動き。

 

 ゆるりとした動きではある。

 だが、とめどなく流れる水のよう。


 突き、払いとおじさんはすべてを躱していく。

 

「むぅ……あれほどまでに師父の槍が当たらんか」


 国王が腕組みをしながら言う。

 自分なら最初の一撃で反応す間もなく終わっていたはずだ。

 なにせ、おじさんが躱した後で何が起こったのかを理解できたから。

 

「当たったら死ぬぞ?」


 軍務卿が平然として言う。

 だが、その拳はぎゅうと握りしめられていた。

 おじさんの動きが理解できなかったからだ。

 

「……スラン、あれも幽玄というやつか? 爺様の手の内を読んでるような」


 ふぅと軽く息を吐いて、父親は言う。

 

「だろうね。正確には私もわからない。なにせ私は初歩を学んだだけだから。ただ、学園長は……」


 父親の言葉の続きを受ける形で宰相が口を開いた。

 

「ああ――師父は様々な技をしかけているね。小手先の誘いだけじゃない、あれは幻影魔法かな?」


 宰相の言葉に頷く父親であった。

 

 一方で少し離れた場所にいる母親は毒づいていた。

 

「バカじゃない? そんな魔法が効果あるわけないじゃない」


「ん? どういうこと、ヴィーちゃん?」


 メイユェが母親に解説を求める。

 

「学園長が幻影魔法を使って、誘いをかけているのよ」


「へえ……いや、ちょっと待って。あの動きをしながら魔法を使っているの?」


 王妃が大げさに驚いていた。

 

 一般的に魔法とは集中を求められるものだ。

 もちろん術式の難易度にもよる。

 が――幻影魔法はそれなりに高度な魔法に分類されるものだ。

 

 それをあの動きの中で、と驚いたのである。

 

「だからよ、メイユェ姉さま。学園長の動きが単調でしょう?」


「確かに、いつもと比べれば幅が狭いか」


 サンドリーヌが同意した。

 

「そもリーちゃん相手に幻影魔法が効くと思う時点で間違ってるのよ。で、体術にも影響が出ているのなら悪手でしかないわ!」


 喝破する母親であった。

 

 おじさんもおかしいと思っていたところだ。

 いつもよりも精妙さを欠く。

 

 その原因は明らかである。

 魔法との併用だ。

 

「ふぅ……やはり当たらんか」


 学園長が手をとめた。

 いつもと同じように、禿頭をつるりと撫でる。

 

「リー、わかるか?」


「もちろん。ですが……なにか考えがあるのでしょう?」


 かかかと笑う学園長だ。

 

「なにゆえ魔法をありとしたのか。まさか、ただ魔法の打ち合いをするとは思っておらんのだろう?」


「ですわね」


 素直に肯定するおじさんだ。

 魔法の打ち合いとなっても分はおじさんにある。

 

 いや、勝ち目などないだろう。

 それは学園長とて理解している。

 

 地竜を狩ったときに見た魔法で十分だ。

 あれだけで自分よりも上手であると認識できたのだから。

 

「さて、ワシは長年考えておったわけだ」


「――魔法と体術の融合ですか」


 うむ、と学園長が頷く。

 

「ま、魔道具を使うというのもひとつの手じゃ」


「戦闘には向きませんわね」


「雑魚狩りには使えるやもしれんがの」


 こくんと頷くおじさんだ。

 真っ直ぐに学園長を見る。

 

「そこで幻影魔法ですか? 動きを誤認させて、隙を作る」


「うむ。まぁ幻影魔法は神経を使うからの。あれが今のワシにできる精一杯じゃな」


「なら――」


 おじさんが口を開く前に学園長が笑った。

 

「――ここからが本番じゃ! リー! 行くぞ!」


 学園長の魔力が大きく膨れ上がる。

 それは先ほどのおじさんと同様に、物理的な圧をともなうレベル。

 ばちちと空気が弾ける。

 

 学園長が槍を振るった。

 遠間から横に薙いだのだ。

 

 その穂先と同じ軌跡で風の刃が飛ぶ。

 

「ほおん……大味ですわね」


 おじさんも腕を振るった。

 学園長と同様に、風の刃が飛ぶ。

 

 ふたつの風の刃がぶつかって相殺された。

 

 その瞬間、学園長は潜りこむような動きでおじさんに近づく。

 至近からの一撃。

 

 槍の切っ先から焔の魔法が放たれる。

 

 ――なるほど。

 おじさんは理解した。

 

 これは目くらましである、と。

 故に、少し大げさに跳び退った。

 

 ただし、飛行魔法を使って空中にとどまる。

 

「リー! 理解したか?」


「中級に絞ったのですか、学園長は」


「その通りじゃ! 中級までの魔法であれば体術との融合ができる!」


 空中にいるおじさんにむかって槍を突く。

 その先端から放たれるのは氷弾改・二式である。

 おじさんが教えたものだ。

 

「そうですか……やはり行き着く先は同じですわね!」


 すとん、と舞台の上に降り立つおじさんだ。

 

「いいでしょう!」


 くいくいと手招きする。

 そして――言った。

 

「存分にお相手をいたします!」


「ぬかせ!」


 学園長が放つ槍の極技。

 突きや払いといった基本的な動きの精度が段違いだ。

 

 そこに加わるありとあらゆる魔法である。

 中級といえど、槍の極技と魔法の融合。

 

 それは観客たちを圧倒していた。

 

「おおう! 師父はやはりスゴいのう」


「よもや魔法と体術を融合させるとは」


 国王と宰相が学園長の絶技を見て興奮している。

 

「……スラン、どうした?」


 軍務卿は父親を見て、不審なものを感じていた。


「ああいや……うちの子がちょっと心配でね」


「怪我ですむかどうかってことか?」


「やりすぎないかってことだよ」


 喜々とする娘の表情に、父親の胃がぎゅううと掴まれたようだ。

 

 一方で王妃は焦っていた。

 

「ちょ、ちょっと! あれ、やりすぎじゃないの!?」


「でも、当たっていませんわよ、アヴィお姉さま」


 サンドリーヌが王妃に言う。

 

 そうおじさんはすべて円環を描く歩法で躱していた。

 魔法は同じ属性のものを使って相殺している。

 

「ヴィーちゃん?」


 メイユェが母親を見る。


「まったく、あんな隠し球を持ってたのね。でも……奥の手を先に見せちゃっていいのかしらね?」


 母親の目は舞台に釘付けであった。

 学園長と同じことはできる。

 

 だが、武技が追いつかないだろう。

 そう感じていた。

 

「ど、どどど、どういうこと?」


 王妃は少し動転しているようだ。


「お姉さま、うちのリーちゃんを無礼()めないで」


 母親の言葉と、同時におじさんが宙を舞う。

 後ろにとんぼを切ったのだ。

 

「ほう……間を空けるか」


「学園長! そこまで研鑽された技、お見事です!」


「リーには一発も当たっておらんがな」


 半ば自嘲するように笑う学園長だ。

 まさかここまで当たらないとは思ってもみなかったのである。

 

「ふふ……いいですわね。実にけっこう!」


 おじさんも少しテンションが上がっているようだ。

 

「では、わたくしも見せたいと思います」


「なにをじゃ?」


「魔法と体術の融合ですわ!」


 おじさんのぬるりとした動き。

 円環が加わり、それは踊りのようにも見える。

 

「既に先ほどから準備は整えてあります!」


 いきますわよ!

 

 おじさんの姿がゆらりと揺れて、かき消える。

 同時に闘技場ダンジョンが、轟音で揺れるのであった。


誤字報告いつもありがとうございます。

助かります。

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